劇場アニメ映画『漁港の肉子ちゃん』渡辺歩監督への単独インタビュー&映画の魅力を徹底解説!
明石家さんまの企画・プロデュースで製作されたということでも話題の『漁港の肉子ちゃん』が絶賛公開中です。
本作はさんまさんの参加もさることながら、実力派役者陣や一流クリエイターたちが集結している映画であることもおさえておきたい注目作となっています。そこで、これから映画を観ようとしている人や、「実際この映画ってどうなの?」と内容が気になる人のためにも、いち早く『漁港の肉子ちゃん』についてその魅力を紹介していきます!
目次
映画『漁港の肉子ちゃん』について
そもそも『漁港の肉子ちゃん』は原作が存在する作品。『きいろいゾウ』や『サラバ!』などの小説を書いてきた直木賞作家・西加奈子さんが2011年に発表した累計発行部数35万部超えのベストセラー小説を原作にしています。
そしてこの原作本に惚れ込んで、映像化のオファーをしたというのが外でもない、今回企画・プロデュースに名を連ねる明石家さんまさん。原作に感動し、映像として残したいという気持ちから、この企画が動き出したことが語られています。
そして、いざそのアニメーション化に挑むことになったのが、国際的にも注目を浴びているアニメーション制作スタジオのSTUDIO4℃。『鉄コン筋クリート』や『えんとつ町のプペル』、そして国内外でも高い評価を得ている『海獣の子供』などのアニメーション映画を制作してきているスタジオです。
特異な原作でも見事に映像化してしまう器用なスタジオなのですが、今回監督を務めるのは、その『海獣の子供』で監督を務め、さらに過去にも『おばあちゃんの思い出』、『ドラえもん のび太の恐竜2006』といった名作を手掛けるなど、キャラクターの感情表現が高く評価されている名匠・渡辺歩監督です。
キャラクターデザインと総合作画監督には、スタジオジブリ一期生で、これまで『東京ゴッドファーザーズ』などの今敏監督作品や、ジブリ映画『かぐや姫の物語』などの制作にも携わった小西賢一さんが名を連ねていたりと“マチガイナイ”布陣が揃っています。
声優陣も豪華!意外なあの人も
一方でこちらも話題になっているのが、作中のキャラクターに命を与える役を担う声優陣!
タイトルにもなっている重要なキャラクター・肉子ちゃん役には、なんと女優の大竹しのぶさんが抜擢。さんまさんプロデュースだからと「話題づくりに選出したのでは?」なんて思った人もぜひ、大竹しのぶさんが肉子ちゃんに“化ける”その演技を体験して欲しいです。事前情報なしでは演者を当てられないほど、見事に肉子ちゃんを演じきっています。
そして、もう一人の主役・キクコ役には、2021年に二十歳になったばかりのCocomiさんが抜擢!フルート奏者やモデルとしても活躍しているCocomiさんですが、お芝居に挑戦するのは本作が初めて。初々しさ溢れる透き通った声で思春期にいる多感でピュアな少女・キクコを見事に表現しています。
そのほか、『鬼滅の刃』でも活躍した花江夏樹さんや下野紘さん、女優の吉岡里帆さん、タレントのマツコ・デラックスさんといった豪華キャスト陣が多数出演しています。
注目してほしい、『漁港の肉子ちゃん』の魅力
新しいけど懐かしい!最近では珍しい世界観
本作は人々のふれあいを描いた心温まるハートフルストーリー…..と言ってしまえば間違いはないのだけど、その直球な人間ドラマに挑んでいるところがむしろ珍しい映画でしょう。
人間ドラマを描いたアニメーション映画となると、登場人物に何か不思議な出来事が起きたり、妖怪や精霊が出てきたりといったどこかファンタジー要素が盛り込まれたりすることが多いのですが、『漁港の肉子ちゃん』はそういった要素はありません。ストレートに、肉子ちゃんとキクコを中心に起こる人間模様が描かれます。
見事なのがしっかり見入るようなストーリーと、惹かれるような見せ方で物語を描いているところ。どこか懐かしいのだけど、明らかに未知な映像体験として楽しめる実に器用な映画と言えるのではないでしょうか。
懐かしいといえば、作中では『となりのトトロ』に言及するシーンも登場。『となりのトトロ』をオマージュした場面も用意されているのですが、見終えてみると素朴な雰囲気なども実は『漁港の肉子ちゃん』と近い作品だと思えます。
ぐにぐに動く肉子ちゃん!キャラクターたちの躍動感
人間ドラマを飽きさせず見せられている要因の一つが、キャラクターたちの躍動感。
わかりやすい例では、やはりマスコットキャラクターのような可愛さを持った肉子ちゃんです。そのキャラクターデザインは明らかに周りの人間たちに比べて浮いているのですが、その見た目からは想像がつかないほどにパワフルに動く、動く……。
時には、キクコちゃん目線で肉子ちゃんが肉塊で表現されたりと、なかなかむちゃくちゃな表現がされていたりと驚かされます。そんな肉子ちゃんが動いている姿は、軽快でアニメーションが動く気持ち良さが詰まっています。
実は躍動感の魅力は肉子ちゃんだけに限らず、キクコや、キクコにとって重要なキャラクターとなる二宮においても言えます。二人がとっさに表情を変えるシーンも登場するのが、これがまた面白いぐらいにぐにぐに変わる。渡辺歩監督の『ドラえもんのび太の恐竜2006』に登場したドラえもんの肉質に近く、これまた独特な魅力となっていました。
笑えて泣ける、一風変わったストーリー
ハートフルストーリーといっても、その中にはハッとさせられるような事件も起これば、笑えたり、泣けたりと、作中にいくつも心を揺さぶる瞬間が用意されています。見終わって、妙な満足感が得られるのも、本作がそんなたくさん気持ちを動かしてくれるものになっていて、肉子ちゃんの人の良さに取りつかれているのかもしれません。
絶妙なのが、そんな「笑い」と「泣き」の緩急のつけ方。ただひたすら笑わせるだけでもなければ、あからさまに泣かせようという様でもないバランス感が見事で、ただのお涙頂戴作品になっていないところがまたうまいのです。
映画のストーリーにおける重要なシーンが来ても、相変わらず肉子ちゃんはギャグっぽい顔になったり、過剰なぐらいディフォルメされた表情を見せて、緊張感も解けてしまうわけですが、むしろそこに妙な安心感があって、不思議と自然に涙がボロボロ溢れさせる……そんな優しい物語となっていました。
明石家さんまさんのプロデュース力、侮りがたし
この絶妙なバランスの映画が生まれたのも、もしかすると明石家さんまさんあってのことだったのかもしれないと、渡辺歩監督のコメントで感じました。
“強く覚えているのは、脚本の大島里美さんと一緒に、さんまさんと初めて打ち合わせをしたときのこと。まわりの誰かがコンセプトやマーケティングの話をしたんですね。そうしたら、さんまさんが「いや、そういうのはええねん。」って「作り手がおもしろいと思うことが大切だと思う。いい話だと思うから、そこを大事にして作ったらいい」”とおっしゃられたのです。
商品として売り出していくには…..といったところがどうしても絡んできてしまう映画において、そういった部分を一回別のところにおいて、作家たちにのびのびと映画製作をさせる環境を設けることができたのは、この映画の特異なバランス感を踏まえると、大きな意味を持っていたのではないでしょうか。
かつて『君の名は。』のプロデュースで川村元気さんが注目を浴びましたが、もしかすると『漁港の肉子ちゃん』を機に、明石家さんまさんのプロデュース力が映画界で注目を浴びる事になる……なんてこともあるかもしれません。
『漁港の肉子ちゃん』渡辺歩監督インタビュー
以下は、本作を手掛けた渡辺歩監督にインタビューをしました。
制作のエピソードや、本作へのこだわりをたっぷりお伺いしたので、最後までご覧ください。
アニメだからこそ生かせた、個々のキャラクター像
ーー試写を拝見させていただきましたが、一人一人のキャラクターの個性が際立っている非常に素敵なストーリーだと感じました。渡辺監督が初めて原作を読まれた時のご感想はいかがでしたか?
渡辺歩監督:初めて読んだときの感想は、「なかなかすごいお話だな」と(笑)
読んでいるうちに、肉子ちゃんという存在そのものにファンタジーを感じるようになったんですよね。「こんな人おるわけないやろ。」というところから「でも、もしかしたらおるかもしれへんな。」というのを通り越して、「いてほしい。」というような感じで。
西さんの小説はいくつか読んでいましたが、「漁港の肉子ちゃん」は今回が初めてだったので、いかに映画1本にまとめるかを考えながら読み進めていました。
ーー実写ではなく、アニメだからこそ実現できたことはありましたか?
さんまさんも同じようなことをおっしゃっていましたが、実写だとキャスティングが難しいんですよね。
実写だとやはりキャストさんの”色”がついてしまうのですが、アニメはそこへの自由度が高いので、逆に「託されてるな」と感じました。
なので僕が最初にお話しをもらったときに、一番重要なのはキャラクターの造形だろうなと感じてはいたんですよ。実写だと難しい点が、今回は総じてメリットになったと思っています。
ーー逆にアニメ化が一番難しかったキャラクターは誰でしたか?
キクコが一番難しかったですね…。美しさの描写は小説にもあったので、何か一つでも美しさを表す特徴があればいいと試行錯誤していました。
結局、キクコの素材を活かすようにしてあのショートカットの髪型が最初に決まったんです。手入れも簡単ですし、経済的な事情もあるということで。
映画のシーンにはないですが、もしかしたら肉子ちゃんが切っているのかもしれないなと連想できますしね(笑)
ーー確かにかなりのショートカットでしたが、彼女の素朴な美しさが表れていましたね。
そうなんですよ。かなり振り切った選択でしたが、彼女が持つ元々の素材の良さを活かすには意外とピッタリだったと思います。
Cocomiが持つ、10代前半の声の響き
ーーキクコといえば、ナレーション担当したCocomiさんは本作は声優初挑戦でした。最初にCocomiさんが候補と聞いたときはどう思われましたか?
さんまさんから最初にCocomiさんが候補と聞いたときは、驚かないと言ったら嘘になりますね(笑)ただ、お親しいからという理由だけでさんまさんがCocomiさんのキャスティングを提案したわけではないことはわかっていたので、なんでCocomiさんのお名前が出たのかが気になっていました。
どこかに魅力があるんだなと思っていたので、そこを見極めたいなと思ったんです。
ーーテストで最初に声を聞いた時の印象は?
テスト前の会話をしている段階で、声のトーンに惹かれるところがありました。Cocomiさんは20歳ですが、まだわずかに10代前半独特の響きを感じたんですよね。
なので僕の中では、実はさんまさんが決める前にもう「この子をキクコにしたい」と思っていました。
ーーナレーションが多かったですが、芯が通っていながらもどこか少女らしい声が印象的でした。
映画の構想上ナレーションが多かったので、演じ分けがポイントかなと思っていたんです。そしてさんまさんもその演じ分けが難しいとおっしゃっていましたが、これほどハマるとは、と驚くようなクオリティでした。
さんまのプロデュース力
ーー本作はメインキャストだけでなく、小さな役までが非常に豪華でした。
そうですね、皆さんやはりさんまさんが好きなんですよ。まさに映画版「We Are The World」のような感じで、さんまさんがいるからこそ集まるというか。
そしてさんまさんもその個性を活かすのが上手なので、ストーリー意外にも愛情が詰まった映画ができたと思います。
ーー確かに本作は直球の人間ドラマでしたが、さんまさんならではの”笑い”と”泣き”の緩急の付け方だったのでしょうか?
さんまさんは”隙あらば”の人なので、「作品上そこは、音がないほうが良さそうなのに」というシーンでも果敢に埋めてこられるというか(笑)その分勉強になったところもたくさんありました。
あとはやっぱり、ウケをしっかり作る間合いが非常に上手くて。「人を楽しませたい」と基本的に思っている方なので、それありきの「泣き」と考えていらっしゃるんですよね。
結果的に緩急としてまとまっているといいなと思います。
STUDIO4℃だからこそ
ーートトロへのオマージュが印象的で、クスッと笑える場面でもありました。やはりSTUDIO4℃だからこそのアイデアだったのでしょうか?
確かにどこかで、STUDIO4℃の田中社長が「となりのトトロ」のラインプロデューサーだったことと縁があるかもしれませんが、やはり肉子ちゃんのイメージングにピッタリだったことが大きいですね。
もちろん見た目もありますが(笑)、トトロと同じように肉子ちゃんの存在自体にファンタジーっぽさがあるので、そこを隠語として表現できるかなと思ったのがきっかけです。
ーーバス停に並んでいるシーンは「まさに」でしたね(笑)
そうなんですよ、たまたまな条件があっていたという部分もあって(笑)そのバス停のシーンは特にさんまさんが「一番有名なアングルやん!」と。
本当はほのめかすくらいが良いと思ったのですが、思い切ってキクコにも「トトロやん」と言わせることにしたんです。結局、いいエッセンスになっていれば良いなと思っています。
アニメーションへのこだわり
ーー食事シーンが本当に美味しそうでした。特にこだわりはあったのでしょうか?
そうですね、食べ物もそうですが、今作は生活描写をしっかり描きたかったんです。起きて、食べて、トイレ行って、寝て、のように大したことない動きですが、むしろそこに重点を置いていました。
ある種そこもジブリの宮崎さんに韻を踏んでいるかもしれないですね。
ーー「普通が一番」という肉子ちゃんのセリフにも繋がってきますね。
そうですね。むしろ、普通しかなかったのかなと思います(笑)
ーー最後に、今後挑戦してみたいことを教えてください。
自分のものと言いますか、オリジナルを作りたいというのはずっと思っていますので、機会があれば挑戦してみたいですね。
世の中に「自分のもの」を出すことを今は目標としています。
基本情報
企画・プロデュース:明石家さんま
出演:大竹しのぶ、Cocomi、花江夏樹、中村育二、石井いづみ、山西惇、八十田勇一、下野紘、マツコ・デラックス、吉岡里帆 原作:西加奈子「漁港の肉子ちゃん」(幻冬舎文庫) 監督:渡辺歩 アニメーション制作:STUDIO4°C 配給:アスミック・エース 製作:吉本興業株式会社©2021「漁港の肉子ちゃん」製作委員会 公開:6月11日(金)全国ロードショー |