映画『ヘルタースケルター』のあらすじネタバレ 解説| 蝶が象徴するものとは?
2012年に公開された映画『ヘルタースケルター』。第8回手塚治虫文化賞マンガ大賞を獲得した岡崎京子さんの漫画が原作で、全身整形をしたトップアイドル・りりこの人生を描いた作品です。驚きの物語展開や過激な濡れ場シーン、蜷川実花さんの作り上げる毒々しくも美しい世界観など、魅力に溢れた映画となっています!
今回は、そんな『ヘルタースケルター』のあらすじを徹底的に解説!また、監督のこだわりや撮影エピソードなどもご紹介します。
観れば観るほど虜になる、奥深い『ヘルタースケルター』の世界へどっぷり浸かってみませんか?
目次
波紋を呼んだ衝撃作『ヘルタースケルター』について
映画『ヘルタースケルター』は、過激な描写や濡れ場シーンがあるためR15+作品となっています。しかし、年齢制限がある映画であるにも関わらず、興行収入21.5億円を記録!観客動員数は15万人を突破するなど、驚きの大ヒットとなりました。
蜷川実花監督は今作で、期待の映画監督に送られる「新藤兼人賞」の銀賞を獲得。更に、ロサンゼルスで行われる映画祭「LA EigaFest」で上映されるなど、世界からも高く評価されました。蜷川実花さんの描く独特な世界観は、国境を越えて多くの人に支持されています!
また、女優活動をお休みしていた沢尻エリカさんの復帰作である今作。公開当時、ファンからは喜びの声が多く聞かれました。決してブランクを感じさせない素晴らしい演技をされて、沢尻エリカさんは「第36回日本アカデミー賞」で優秀主演女優賞を獲得。
更に、主人公を支えるマネージャー役を演じきった寺島しのぶさんも優秀助演女優賞を獲得し、お二人のダブル受賞が話題になりました!
10秒で分かる『ヘルタースケルター』の簡単なあらすじ
圧倒的な美しさを武器に、トップモデルとして活躍するりりこ(沢尻エリカ)。実は、りりこの美しさは全身整形をして手に入れたものでした。作り物の自分に限界を感じつつ、それでも美しさを追い求めていたりりこでしたが、少しずつ整形の後遺症が出始めます。
更に、生まれ持った美しさがある後輩モデル・吉川こずえ (水原希子)の出現で、嫉妬に狂い始めるりりこ。
そんな、美へ執着するりりこの波乱万丈な人生を描いた物語です。
今作のテーマは「美しさ」。そのため作中の至る所に美が意識されていて、服装からメイク、部屋に置かれた小物にまでこだわりが詰まっています!また、美しさだけでなく人間の狂気的な部分もしっかり描かれているのも今作の特徴です。
ぜひ女性に観て頂きたい、本当の美しさを教えてくれる作品となっております!
映画『ヘルタースケルター』のネタバレあらすじ
ここからは、映画『ヘルタースケルター』のあらすじを詳しく解説していきます。ネタバレを含みますので、まだ観ていない方はご注意ください!
【あらすじ①】全てを手に入れたトップスター
人並み外れた美貌を持ったトップスター・りりこ。雑誌の表紙を飾り、CMにも出演、更には映画の主演務めるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いで売れていた。
そんなりりこはかなり気性の荒い性格で、気に食わないことがあればマネージャーの羽田美知子(寺島しのぶ)に当たり散らす。美知子やメイクリスト・沢鍋錦二(新井浩文)は、りりこの性格に困りつつも、カリスマ性のあるりりこに憧れていた。
止める人がいないのを良いことに暴走していくりりこは、御曹司の彼氏・南部貴男(窪塚洋介)とメイク室で激しく交わるなど、自由奔放な行動をとる。
しかし仕事に対しては真面目で、プロデューサー・浜口幹男(哀川翔)と枕営業をしてまで大きな仕事を手に入れていた。それらは全て、ママと呼んでいる事務所の社長・多田寛子(桃井かおり)の指示であり、りりこは自分の将来へ不安を抱くようになる。
そんな中、自宅で鏡を見ていていたりりこは、自分の額に痣があると気づいて発狂する。実はりりこの身体は整形して作られたものであり、その後遺症で痣が出ていたのだ。
りりこの身体を整形した美容整形外科の院長・和智久子(原田美枝子)は、違法な処置を行い女性たちからお金を巻き上げていた。りりこもその一人で、痣を隠すために何度も手術を行うことに。
精神的に追い込まれていったりりこは、美知子に性行為を強制させるなど徐々に過激な行動をとるようになる。そんな様子のりりこに美知子は逆らえず、寧ろその美しさへ魅了されていった。
【あらすじ②】壊れていく美しさ
りりこの人気が爆発的に上がっていく中、検事の麻田誠(大森南朋)は和智久子のクリニックが行う違法な施術の捜査をしていた。被害者の中には後遺症に苦しみ自殺してしまった女性も。麻田はりりこが整形したことを知っており、裁判で勝つためにりりこの証言を欲しがっていたのだ。
一方、りりこの元に一通の手紙が。それは妹の比留駒千加子(住吉真理子)からであり、「東京に会いに来たが寛子に止められ会えなかった。」と書いてあった。りりこは寛子にばれないよう美知子へ頼み、千加子と再会を果たす。束の間の穏やかな時間を過ごし、また整形手術へ挑むのだった。
手術を終え仕事へ復帰したりりこ。その人気は凄まじいものだったが、事務所に新しいモデル・こずえが現れる。生まれ持った美貌で周りを魅了し、どんどんスターへ昇りつめていくこずえ。雑誌の表紙もこずえへ移り変わっていき、りりこは酷い嫉妬心を抱くように。
そこへ追い打ちをかけるように、貴男の婚約スクープが舞い込んでくる。お相手は政治家のご令嬢であり、二股をかけられていたことに怒るりりこ。しかし、貴男に悪びれた様子はなく、それでもりりことの関係を続けたがっていた。
こずえの登場、恋人からの裏切りで精神的にも肉体的にも追い詰められたりりこは、徐々に薬へ溺れるようになっていく。そして正常な心を失ってしまったりりこの行動は、更に過激なものへと変わっていった。
【あらすじ③】女王の転落
りりこは美知子の家へ上がり込み、美知子の彼氏・奥村伸一(綾野剛)に迫る。その美しさに伸一は抗うことが出来ず、美知子の目の前でりりこと身体を重ねてしまった。それ以来、りりこへ逆らえなくなった美知子と伸一。二人はりりこに言われた通り貴男の婚約者を襲い、顔へ硫酸をかける。しかし、それでも満足出来なかったりりこは、美知子と伸一をどん底へ突き落とすために二人へ性行為を強要するのだった。
そんな中、水族館での撮影に来たりりこは麻田と対峙する。麻田はりりこの全てを知った上で、「法廷で証言してほしい。」と頼み込む。実は比留駒千加子のクリニックには政治家などの後ろ盾があり、強力な一打がないと裁判で勝つことが出来なかった。そこで麻田は、りりこの証言を切り札として使いたかったのだ。
「勇気は美しい、君は美しいよ。」と優しい声をかけ、警戒心を解こうとする麻田。しかしりりこは自分の整形を認めずにその話を断る。麻田はりりこの整形を証明する写真や書類を渡し、一旦その場を去っていった。
りりこは、過去の自分の写真や書類を前に絶望する。「自分の秘密がばれるかもしれない。」という恐怖から、更に薬の量を増やしていく。
薬のせいで身体にまで支障が出始めたりりこ。仕事中に幻覚を見るようになるまで落ちぶれてしまう。りりこは、上手くいかない自分とは対称的に成功しているこずえを恨み、美知子へこずえを八つ裂きにするよう命令したのだった。
美知子は、遊園地で撮影するこずえの元へ行き、カッターを持って襲いかかろうとする。しかし、全く怖がる様子もないまま「いいよ、やれば?」と冷たく返すこずえ。その姿に唖然とした美知子は、結局こずえを傷つけることが出来なかった。
【あらすじ④】りりこの選択
まともに働けなくなったりりこは、頭痛と幻覚に悩まされるようになる。いよいよ寛子にも見放され、「あんた少し休みなさい。」と告げられてしまった。いてもたってもいられず、りりこは雨の降る中外へ飛び出す。そんな中でも、頭には輝いていた過去の記憶が流れていた。
一方、散らかったりりこの家を掃除していた美知子は、りりこの整形前の写真や書類を偶然見つけてしまう。美知子はりりこがまた注目されるようにと、その資料を公にする。驚きの真実に世間は盛り上がり、りりこはまた多くの人から求められるようになったのだった。
麻田は、自分の出した情報が漏れたため責任を問われることに。しかし、実は最初からそうなるよう仕向けていた麻田。りりこの整形が公になれば、クリニックの悪事も晒されると考えていたのだ。麻田の読みどおりクリニックは悪徳な施術を行っていたとして、日本中に報道されていた。
事態を収束させるために記者会見を開くりりこ。大勢の記者たちの前で、りりこはおもむろにナイフを取り出し、自らの片目を刺して倒れる。その間もシャッターは鳴り止まず、強烈な姿を残してりりこは世間から姿を消すのだった。
りりこが行方不明になってから時は流れ、世の中もすっかり変わっていた。しかし、未だに高い人気を集めていたこずえは、海外での撮影を終える。そして打ち上げに誘われ、過激なショーを行うクラブへ出向いた。こずえはそのお店で、美知子によく似た女を見つける。不思議に思ったこずえは、その女が入っていた扉を開け奥に進んだ。
そこで目にしたのは、クラブの女王として君臨する美しいりりこの姿だった。
映画『ヘルタースケルター』の演技派キャスト
りりこ/沢尻エリカ
主人公のりりこを演じたのは女優の沢尻エリカさんです。12歳で芸能界デビューし、モデルや女優として活躍されるようになりました。難病を抱えながら懸命に生きる少女を描いたドラマ『1リットルの涙』での熱演が印象に残っているという方も多いのではないでしょうか!
今作ではかなり体当たりな演技で、美に執着するあまり徐々に壊れていくりりこという難しい役柄を見事に演じきっています。
物語の主人公・りりこは、全身整形をして美しさを手に入れた女性。美しさこそが自分の価値だと信じている、強烈なキャラクターとなっています。徐々に狂気じみていくその姿すら美しい、不思議な魅力を持った人物です。
麻田誠/大森南朋
美容整形外科が行う悪事を暴こうとする検事・麻田を演じたのは大森南朋さん。数々の作品に出演されていて、株式売買を描いた映画『ハゲタカ』では「第33回日本アカデミー賞」で優秀主演男優賞を受賞しました。
今作では、りりこの心を動かす重要な人物を味のある繊細な演技で表現されています!
麻田は、どこかミステリアスな雰囲気のある人物で、一歩下がった所から美を求める女性達を見つめている役柄です。話す言葉が詩的なのが特徴で、「若さは美しいけれど、美しさは若さじゃないよ。」というセリフの様に、今作の核心を突く言葉も多く発します。
ぜひ、麻田のセリフに注目しながら観て頂きたいです!
羽田美知子/寺島しのぶ
りりこのマネージャー・羽田美知子を演じたのは寺島しのぶさん。演技力の高さが世界から評価されている女優さんで、映画『キャタピラー』では「ベルリン国際映画祭」の銀熊賞(最優秀女優賞)を獲得しました。
今作では、りりこに振り回され徐々に人生を狂わされていくマネージャーを、体を張った演技で表現されています!
りりこへ憧れを持つ羽田美知子は、顔に水をかけられたり彼氏を目の前で寝取られたりと散々な目にあいます。それでも盲目にりりこを信じ続ける羽田美知子。その純粋さが痛々しくも愛おしい、なぜか憎めない人物です!
奥村伸一/綾野剛
羽田美知子の彼氏・奥村伸一を演じたのは綾野剛さんです。映画やドラマに引っ張りだこの俳優さんですよね!主演を務めた映画『そこのみにて光輝く』の演技が高く評価され、「第88回キネマ旬報ベスト・テン」では主演男優賞を獲得しました。
今作では、美知子のヒモでなにかとだらしない伸一をナチュラルな演技で演じきっています。
奥村伸一は、美知子と付き合っていながらもりりこの美しさに翻弄される少し残念なキャラクターです。しかし、そんなダメンズなところが伸一の魅力なのかもしれません。
終盤のクラブでのシーンをよく見てみると、正気を失った顔で座り込んでいる伸一が映るのでぜひ注目してみてください!
吉川こずえ/水原希子
りりこが狂っていくきっかけとなったライバル・吉川こずえを演じるのはモデルや女優として活躍されている水原希子さんです。女優としてのデビュー作は村上春樹さんの小説が原作となっている映画『ノルウェイの森』。今作が2本目の映画出演ですが、人気にもお金にも興味がない不思議な女の子・こずえを堂々と演じています!
吉川こずえは、生まれ持った美貌を持ち、りりこへ大きな影響を与えていく人物。一見明るそうに見えても、裏では体型維持のために嘔吐をしているなど、どこか影もあるキャラクターです。二面性のある独特な雰囲気が魅力の女性となっております!
見返したくなる!『ヘルタースケルター』注目の5つのポイント
蜷川実花監督が7年間もの間、構想を温めていた作品『ヘルタースケルター』。一度観るだけでは分からない細かい所にまでこだわりが詰まっています。
そこで、今作をもっと楽しめる注目ポイントをご紹介!『ヘルタースケルター』の知識を更に深め、映画の虜になって頂けたらなと思います!
【注目ポイント①】ほとんど監督の私物!?
映画の中でも印象的な舞台といったら、やはりりりこの部屋ですよね!色鮮やかな家具や小物に囲まれた、不思議な世界に迷い込んだかの様な空間に仕上がっています。
実はりりこの部屋に置かれたものは、蜷川実花監督の私物が多いのだとか!後ろに並べられたクッション、椅子、机に至るまで監督が持ち込んだそうです。
【注目ポイント②】隠れて登場するぬいぐるみ
沢尻エリカさんは、私物のクマのぬいぐるみ「コスモ」をこっそりりりこの部屋に置いていたのだとか!監督が気づかないこともあったそうで、映画の中にもちょこちょこ登場しています。
もう一度見返す際にはコスモがどこに映っているか探しながら観てみると、違った楽しみ方が出来るかもしれません!
【注目ポイント③】リアル過ぎる雑誌
今作では、りりこやこずえが表紙を飾る雑誌が登場します。注目して頂きたいのは、その表紙の写真のクオリティ!実は全て蜷川実花監督が自ら撮影した写真なのです。写真家として世界で活躍する蜷川実花さんの本領が発揮された、美しい写真になっています。
また、雑誌のロゴも実在する有名ファッション雑誌のものを使わせてもらっているのだとか!ぜひ雑誌の細かい所にも注目してみてください。
【注目ポイント④】ギリギリの濡れ場シーン
今作の魅力の一つでもある過激な濡れ場シーン。R15+作品で表現出来るギリギリのラインで描かれています!特に貴男とりりこの濡れ場は「そこまで映して大丈夫!?」と心配になるほどの完成度です。沢尻エリカさんは濡れ場シーンを演じる際、「過激な原作にどこまで近づけるか、挑む様な気持ちで撮影に臨んだ」のだとか!
どの濡れ場も美しく見えるよう工夫されているので、ぜひ注目してみてください。
【注目ポイント⑤】作中に出てくる蝶
りりこが幻覚として見る綺麗な蝶。美しくも怪しげなその姿が印象に残っているという方も多いかと思います。
実はあの蝶は「美しさの寿命」の象徴。サナギからせっかく蝶になってもすぐに寿命を迎えてしまう儚い姿が、りりこと重なるようになっています。蜷川実花監督のこだわりが感じられる演出です!
まとめ
映画『ヘルタースケルター』のあらすじ、そして注目ポイントをご紹介させて頂きました。過激でインパクトのある映画ですが、女性として生きる難しさや美しさの本当の意味など、深いメッセージ性が込められていましたね!
また、出演者達の魂を削った熱演が印象的でした。監督と演者達の本気のぶつかり合いから生まれた今作には、観ている人の心を動かす大きな力があるのかもしれません。
そんな奥深い魅力に溢れた映画『ヘルタースケルター』を、ぜひご堪能ください!!