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映画を愛する全ての人へ『ニュー・シネマ・パラダイス』のあらすじや魅力を解説

アルファ

郷愁を誘う情緒豊かな街並み、エンニオ・モリコーネの美しい音楽ラストシーンが有名な本作は、当時33歳のジュゼッペ・トルナトーレ監督によって生み出されました。しばらく停滞が続いていたイタリア映画の復活を印象付けたと言われる本作は、アカデミー賞外国語映画賞やカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞しています!

今なお、映画を愛する多くの人々を魅了する名作『ニューシネマパラダイス』。本作のあらすじや数多くの魅力についてご紹介していきます。

ニューシネマパラダイス あらすじ

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『ニューシネマパラダイス』の監督とキャストを紹介

監督はジュゼッペ・トルナトーレ

本作でメガホンをとったジュゼッペ・トルナトーレ監督は、イタリアのシチリア出身で、自身も大の映画好きであり古典映画の復興にも力を入れていることで知られています。1986年『教授と呼ばれた男』で長編映画デビューを飾り、実は本作『ニューシネマパラダイス』が、トルナトーレ監督にとって2作目の長編映画でした。そして、本作は世界中で大ヒットを記録し、アカデミー賞外国語映画賞やカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞しました。

その後も、『みんな元気』(1990)、『明日を夢見て』(1995)など数々のイタリア映画を監督。本作で映画音楽を担当したエンニオ・モリコーネとは、1999年日本公開の『海の上のピアニスト』、『マレーナ』(2000)、『題名のない子守唄』(2006)、『シチリア!シチリア!』(2009)、『鑑定士と顔のない依頼人』(2013)などでも一緒に仕事をしています。

登場人物とキャストを紹介

少年時代のトト役/サルヴァトーレ・カシオ


出典:映画『ニューシネマパラダイス』公式Facebook

時にずるがしこいけれど、映画が大好きでアルフレードと世代を超えた友情を築いていく少年時代のトトを演じるのは、当時8歳のサルヴァトーレ・カシオです。映写室に勝手に入ってきてはフィルムの切れ端をくすねたり、映画館では煙草をふかしたりするなどわんぱくな少年ですが、愛くるしく思わず目を掛けてあげたくなる存在感があります。

今作が映画初出演となったカシオは、シチリア島に住んでいた300人以上の少年の中から選ばれました。『ニューシネマパラダイス』での彼の演技は高く評価され、英国アカデミー賞助演男優賞を受賞しています。この映画で知られるようになった彼は、サッカーワールドカップで歌を謳ったり、日本ではCMに出演したこともあります。

本作でメガホンをとったジュゼッペ・トルナトーレ監督とは、1990年公開の『みんな元気』でも一緒に仕事をしています。その他に『ドッグ・イン・パラダイス』(1990)、『法王さまご用心』(1990)など、いくつかのイタリア映画に出演しました。現在は俳優業を引退しています。

アルフレード役/フィリップ・ノワレ


出典:映画『ニューシネマパラダイス』公式Facebook

少年期、青年期のトトと友情を育み、その後の彼の成功を後押しする映写技師のアルフレードを演じるのは、今は亡きフィリップ・ノワレです。登場直後は近所の頑固なおじさんといった印象でしたが、母親に叱られるトトを機転を利かせて助けてあげたり、村の様子を映画のセリフを交えて言い表したりと、ユーモアのある暖かい人物で彼なしには本作を語ることは出来ないでしょう。

フランス人俳優のノワレは、『地下鉄のザジ』(1960)、『イル・ポスティーノ』(1994)など125本以上の作品に出演しており、フランス映画界を代表する名優の一人と言われています。本作では、その演技が高く評価され英国アカデミー賞主演男優賞を受賞しています。また『追想』(1976)、『素顔の貴婦人』(1990)で2度のセザール賞主演男優賞を受賞しています。

大人になったトト役/ジャック・ペラン

ニューシネマパラダイス
出典:映画『ニューシネマパラダイス』公式Facebook

ローマで映画監督として大成し、アルフレードの訃報を受け30年ぶりに故郷に帰ってくる、中年期のトトを演じるのはフランス人俳優のジャック・ペランです。

『ロシュフォールの恋人たち』(1967)、『うたかたの日々』(1968)など俳優として活躍する一方、映画製作者としても高い評価を得ており、『WATARIDORI』(2001)、『オーシャンズ』(2009)といったドキュメンタリー作品でその手腕を発揮しています。

少年期・青年期のトトはイタリア人俳優によって演じられていますが、中年期だけフランス人俳優のペランが演じています。監督のジュゼッペ・トルナトーレはこのキャスティングを決定したとき、製作陣から「3人の顔は似ているか」と聞かれたそうです。トルナトーレ監督はそれに対して「似てません。ただ、共通するのは少年の目をしていることだ。」と答え、キャスティングが決まったそうです。

『ニューシネマパラダイス』のあらすじを紹介

【あらすじ①】シチリアの田舎町の少年トト


出典:映画『ニューシネマパラダイス』公式Facebook

ローマに住むサルヴァトーレ(ジャック・ペラン)宛てに30年以上帰ってない故郷の母親から電話が入った。それはサルヴァトーレの恩人アルフレード(フィリップ・ノワレ)の訃報だった。久しぶりに故郷に帰る決心をしたサルヴァトーレは、アルフレードと過ごした故郷シチリアでの日々を思い出す。

第二次世界大戦の終戦直後、シチリアの小さな村で生まれ育ったサルヴァトーレ少年こと、トト(サルヴァトーレ・カシオ)は母と幼い妹と3人で貧しい暮らしを送っていた。父親はロシアに出征したまま帰っていなかった。映画が大好きなトトは村で唯一の映画館へ入り浸っていた。村の教会の神父が上映前の映画の検閲をする時、トトはカーテンの陰からこっそり映画を観るのだった。

トトはよく映写室に忍び込んでは勝手にフィルムを触ったりしていたため、映写技師のアルフレードにも叱られていた。ある時、トトは検閲のためにカットされたキスシーンのフィルムをくれるようアルフレードにせがんだ。アルフレードは、「フィルムはお前にやるから、俺が管理する」と約束してトトを映写室から追い出した。

いつものように映画館が大盛況の夜、ミルクを買うためのお金で映画を観に行ってしまったトトは、映画館の前で母親にひどく叱られる。泣いているトトを庇ってくれたのは、いつも自分を邪険にしていたアルフレードだった。

トトは後日お葬式の帰りに自転車に乗るアルフレードを見つけ、悪知恵を働かせて家まで乗せてもらう。しかし、家に帰るとトトが集めていたフィルムが引火して小さな火事が起こり、母親から映画館に行くことを禁じられてしまう。

それでも、映写室に来るトトをアルフレードは追い返すが、アルフレードの奥さんからお弁当を預かったことを理由にトトはまた映写室に入ってくる。そして、引火したフィルムがアルフレードからもらったものではないとを母親に説明したことなどを、アルフレードに話した。アルフレードはその言葉を信じてトトを映写室に入れてやる。トトは、アルフレードの目を盗んで、映写機を操作した。呆れて叱りつけるアルフレードだったが、トトはアルフレードが働く様子をみて映写機の操作の仕方を少し覚えていたのだ。

【あらすじ②】小学校卒業試験と広場での一夜

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出典:映画『ニューシネマパラダイス』公式Facebook

トトが学校で試験を受けていると、同じ教室に大人4人が小学校卒業試験を受けに来た。その中にはアルフレードの姿も。ちっとも問題が分からないアルフレードは、トトにこっそり答えを教えてくれるようせがむ。トトは映写機の使い方を教えてもらうことを条件にアルフレードにカンニングペーパーを投げた。

順調に映写技師としての仕事を覚えていくトト。ある晩、満席で多くの観客が映画館から締め出されてしまい、彼らに促されたアルフレードは映写機の光を利用して野外の壁に映画を映して上映する。トトは野外上映の様子を観にいき、アルフレードもその様子を映写室から見守っていたが、目を離していた間に、フィルムは熱を上げて着火し、瞬く間に映画館は火事になった。トトは映写室で倒れていたアルフレードを助け出すが、彼は大やけどのために失明してしまい、映画館はこの火事で全焼してしまった。

村で唯一の娯楽がなくなり悲しむ村人たちだったが、そこに先日サッカーくじで大金を引き当てたナポリ人が現れ映画館を再建してくれる。こうして、開館した「ニュー・シネマ・パラダイス」だったが、映写機を操作できる大人がいなかったため、アルフレードに操作の仕方を教えてもらっていたトトが子供ながらに映写技師として働くことになった。

【あらすじ③】映写技師トト、エレナとの出会い

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出典:映画『ニューシネマパラダイス』公式Facebook

やがて青年となったトト(マルコ・レオナルディ)は、アルフレードの「学校を辞めてはいけない」という助言もあり、高校生活を送りながら、「ニュー・シネマ・パラダイス」で映写技師の仕事も続けていた。

カメラで映像を取るようになったトトは、ある時村に引っ越してきた銀行家の娘・エレナ(アニェーゼ・ナーノ)を見かける。ひと目で恋に落ちたトトは彼女に想いを告げようとするが、エレナと顔を合わせれば言葉が出てこず、電話で告白すればエレナの母親が出てしまい全く上手くいかない。

ある時、トトがアルフレードと教会に来ていると、懺悔をしに告解室の前で神父を待っているエレナを見かける。トトはアルフレードに神父の足止めを頼んで、告解室に忍び込んだ。トトは、ようやくエレナに想いを告げるが、エレナには断られてしまう。

それでもトトは「エレナが自分を愛してくれるまで待つ」と言い、「仕事が終わったら、毎晩エレナの家の下で待っているから、気持ちが変わったら窓を開けてくれ」と告げる。トトはその日から、約束通り仕事終わりにエレナの家の近くで待ち始める。

雨の日も凍えるほど寒い日も待ち続けたが、ついに新年を迎えてもエレナが窓を開けることはなかった。失意の中トトが映写室に戻ると、エレナが現れ2人は初めてキスを交わす。

【あらすじ④】エレナと、そして村との別れ

交際を始めた2人は誕生日を祝ったり、トトの車の試運転がてら一緒にドライブに出かけるなどして、幸せに過ごしていた。ある時「ニュー・シネマ・パラダイス」にテレビ映写機が採用される。上映中にトイレでエレナと密談していたトトは、エレナから夏にトスカーナへ滞在するので一緒に来ないかと誘われる。トトは野外映画祭の仕事があるので遊びに行くわけにはいかず、2人はしばらくの間離れることになった。

エレナを待ち望むトトは、仕事中も上の空だったが、雨で野外上映が中止になった時、エレナが目の前に現れる。彼女は予定より少し早く戻ってきたのだ。再会を喜ぶ2人だったが、まもなくトトはローマで兵役に就かなければならなくなる。

トトの徴兵の前日、2人は夕方5時に映画館で会う約束をするが、エレナは5時になっても映画館にやってこない。待ちきれないトトはアルフレードに留守番を頼んでエレナの家を訪ねるが、誰も彼に返事を返すものはいなかった。やがて軍隊で生活を送ることになったトトは、エレナに手紙を送り続けるが不在通知が届くばかりだった。

1年余りの軍隊生活を終えて、故郷に帰ってくるトト。しかし、映画館には別の映写技師が雇われて彼のいる場所はなかった。トトはアルフレードに再会するが、彼は家にこもりがちになっていた。そしてアルフレードは、故郷の村から離れず人生を送ろうとするトトを見かねて、ローマ行きを勧めるのだった。

ローマへの出発の日、家族に見守られながら電車を待つトト。アルフレードはトトに「しばらく故郷に帰ってくるな。自分のすることを愛せ。子供の時映写室を愛したように」と釘を刺す。こうしてローマへ向かったトトは、アルフレードの言葉を守り、その後30年間故郷に帰らなかった。

【あらすじ⑤】アルフレードの残したフィルム

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出典:映画『ニューシネマパラダイス』公式Facebook

アルフレードの訃報を受け、30年ぶりに故郷に帰ってきたトトは、今や有名な映画監督となっていた。棺桶とともに、懐かしい広場へやってくる葬式の参列者たち。葬列が足を止めると、そこにはすっかり古びてしまった「ニューシネマパラダイス」の廃墟が残っていた。葬列を振り返ったトトは懐かしい面々と再会する。思い出深い「ニュー・シネマ・パラダイス」は、テレビの普及に伴い客足がへり、6年前に閉館して建物の取り壊しも決まっていた。

それから、アルフレードの奥さんと再会したトトは、生前アルフレードがトトのために残した品を渡される。古びたブリキの丸い箱に入ったそれは、かつて少年時代のトトがアルフレードにせがんで譲り受け、今まで長い間アルフレードが管理していたあのフィルムだった。

ローマに帰ったトトは、一人映写室でアルフレードが自分に残したフィルムを鑑賞し始める。そこに映っていたのは、かつて神父の検閲でカットされたキスシーンの数々だった。トトは、アルフレードが幼き日に交わした約束を守って残してくれたことに感動し涙を流すのだった。

『ニューシネマパラダイス』の時代背景を知っておこう

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出典:映画『ニューシネマパラダイス』公式Facebook

トトとアルフレードの貴重な出会いが描かれた頃の時代背景は、第二次世界大戦直後です。そのため、陽気な村のにぎわいの陰に戦争の残したしこりが浮き彫りになります。

例えば、トトの父親はロシアに出征したまま帰っていません。このシベリア出兵では、実際に従軍した多くの人が極寒の厳しい条件下で亡くなりました。トトの母親は、当初夫の生存を頑なに信じていましたが、ロシア在留のイタリア軍の悲報で夫の死を知り、最終的には遺族年金を受け取りに行きます。

また、村の子供の一人がドイツに引っ越すことになる場面があります。クラスメートたちが別れを告げる中、一人の生徒だけ親から彼と喋ることを禁じられ、挨拶をしません。それ以前の場面で引っ越しをする子の父親が、村の人々から共産主義者となじられる場面がありました。この家族は共産主義であったことが災いして、保守的な村の人々から迫害を受けていたのです。

また当時の人々がどんな暮らしを送っていたか分かる場面も登場します。トトの同級生のボッチャが算数の授業で九九を答えられないために、先生から黒板に頭をぶつけられる場面などは、今の日本では考えられないような体罰の様子が描かれています。シラミ駆除のために子供が丸刈りにされて消毒液をかけられる場面も、今は見かけない興味深い光景です。

神父が上映前の映画を検閲し、性的なものほのめかすシーンになるとベルを鳴らして、アルフレードがその場面のフィルムをカットする場面がありますが、これは特に印象的ではないでしょうか。イタリアは敬虔なカトリック教徒の国であり、神父は村の団結を守るために、戒律に厳しく恋愛映画のキスシーンすらNGにしたのです。

『ニューシネマパラダイス』の感動の秘密は?作品の魅力を紹介


出典:映画『ニューシネマパラダイス』公式Facebook

胸を鷲掴みにされる郷愁を感じる

夢を叶えるために故郷を後にした男が、恩人の訃報を受け30年ぶりに故郷に帰還します。そこには、自分が村を去ったあの当時と同じ風景、同じ人々が待っていました。

しかし、自分を変わらずに愛してくれた母親も、かつて世話になった人々も皆老けこんでいて、かつて村人でにぎわっていた広場も今は車や看板に埋め尽くされ、実家にもどこか自分の居場所がないことを感じてしまいます。帰ってきた故郷には変わらないものもあれば、変わってしまったものもあったのです。そしてどんなに懐かしい人々と出会っても、自分が慣れ親しんだこの村で愛されて生きてきた時代は決して取り戻すことができないのです。

成功の代償に失った、故郷の愛する人々と過ごす時間と絆。こうした体験はどんな人生を送っている人にも、共感できるものではないでしょうか?成功を手に故郷へ戻っても、トトには決して取り戻せないものがあったとしみじみ感じられるからこそ、観客は彼とともに心が揺さぶられるような郷愁を感じることが出来るのです。

懐かしの名作映画に出会える

トトが少年時代から青年時代を過ごした映画館では、時代によって様々な映画が上映されてきました。

まず、初めてアルフレードが登場する、神父による上映前映画の検閲シーン。こっそりカーテンに隠れながらトトが観るのはジャン・ギャバン主演の『どん底』(1936)です。お客としてトトが鑑賞した映画の中には『ノック・アウト』(1914)などアメリカの喜劇王チャップリンの姿も。父親の死を知り、瓦礫の中母親と手をつなぐトトが見つけたのは、『風と共に去りぬ』(1939)のポスターです。

シネマ・パラダイスが火事になる直前まで上映されていたのは、『ヴィッジュの消防士たち』(1949)。主演のイタリアの喜劇王トトの名前は、本作の主人公トトの由来になったそうです。また、エレナと出会った青年トトが野外映画祭で上映するのは、カーク・ダグラス主演の『ユリシーズ』(1954)です。

この他にも多くの名作が劇中に登場します。登場した映画を追いかけて鑑賞してみるのも良いかもしれません。

モリコーネの音楽が涙を誘う

名作と知られる『ニューシネマパラダイス』ですが、その魅力の一つして巨匠エンニオ・モリコーネが手掛けた音楽の功績は大きいでしょう。

モリコーネは1960年代頃から映画音楽を手掛け始め、当初はマカロニ・ウェスタン映画の作曲をしていましたが、徐々にアメリカ映画での作曲にも進出します。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984)、『アンタッチャブル』(1987)、近年では『ヘイト・フルエイト』(2015)での劇中音楽まで手掛けています。

『ニューシネマパラダイス』の主題歌と言えば、『Cinema Paradiso(シネマ・パラディーソ)』。日本では『愛のテーマ』というタイトルで知られるこの曲は、後に様々なミュージシャンによってカバーされました。

ちょっと気になる『ニューシネマパラダイス』作中の謎を解説

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出典:映画『ニューシネマパラダイス』公式Facebook

なぜキスシーンを見ることができないの?

トトの故郷ジャンカルド村は、敬虔なキリスト教徒の村です。そして、村の人々を固い結束で一つにまとめていたのはキリスト教でした。村の結束を維持するためには、村人たちにキリスト教の権威をしっかりアピールする必要があります。

キリスト教の教えでは、原罪に基づいて禁欲を徹底します。映画館もこの村をまとめ上げる教会の管理下にあるので、この戒律に従う必要があります。それは、禁欲の徹底を村人に知らしめるために映画のキスシーンを徹底的にカットすることでした。

当然村人たちはキスシーンが観られないことをボヤきますが、観られないキスシーンを話題に村人同士でコミュニケーションを取りあう機会が生まれます。結果的にはキスシーンが観られない者同士がいることによって共同体としての意識が維持されるのです。

キリスト教の権威を行使する神父がいて、その権威の下、キスシーンを観られない者同士でつながりが強くなることによって、ジャンカルド村は共同体としての形を維持してきました。実際キスシーンが解禁された「ニューシネマパラダイス」の時代になると映画館には娼婦が現れ個人の性快楽を現す場面が多くなります。村人みんなで映画を楽しんだ時代は、そして村人みんなで連帯して生きていた時代は終わっていくのです。

なぜ男は「俺の広場!」と叫び続けるの?

ジャンカルド村はトトの幼少期には村人どうしのつながりが強い村でした。共同体としての強さは、みんなが良く集まる広場にも象徴されていますし、村人が大勢集まり一緒に一つの映画を楽しむ映画館もその広場の中にあります。村人にとって、広場もその中にある映画館もみんなのものなのです。しかし、広場には村人が集まってくるといつも「俺の広場!」と主張して追い出しにかかる変なおじさんがいます。彼の目的は一体何なのでしょうか?

みんなの広場を個人の持ち物だと主張することは個人主義です。当初はこの個人主義を唱える人はこのおじさんくらいで、村人みんなが大事にしていた映画館が燃えてつきても村の共同体としての結束が揺らぐことはありませんでした。

しかし、再建された「ニューシネマパラダイス」では、キスシーンをカットしないで映画が上映され始めます。性的なシーンが公開されることにより、個人の性快楽へ関心が向かっていき、いつの間にか映画館には娼婦が入り浸るようになります。個人の楽しみを想起させる映画の公開、テレビなどの個人で消費できるものが増え、共同体であった村は幻となり、”「俺の広場!」おじさん”の主張した個人主義の時代へ入っていくのです。

”「俺の広場!」おじさん”は「ニューシネマパラダイス」の取り壊しによって、ようやく「みんなの広場」から「俺の広場」を勝ち取ったようにに見えます。しかし、実は彼の主張する個人主義は共同体がその存在を認めてくれたからこそ初めて成立していたものでした。彼のわがままも村人がいつも笑って許してくれていたからこそまかり通っていたものだからです。個人主義の基盤であった共同体が消えるということは、彼もまた幻にならざる負えないのです。

なぜアルフレードはフィルムを残したの?

”「俺の広場!」おじさん”同様、トトも個人主義の象徴です。なぜなら、彼は時代の流れの中でやがては消えていく村の共同体を捨て、映画作りの才能を開花させることにより個人主義の時代を生き残ったからです。しかし彼はその代償に、無償で愛を注いでくれた故郷という共同体を失ってしまいました。エレナとの一生叶わない悲恋も個人主義での成功を望んだトトにとっては、自分が捨てた共同体の一部であり、個人主義を貫く限りそれは一生手に入らないものなのです。

アルフレードの残したフィルムは、個人主義を生き残る代償として愛のある関係性を失ったトトにとっては、大事な人との間に残された絆です。その中に収められているのは、共同体の絆が強かった時代に上映からカットされたキスシーンの数々。このフィルムには、まだ村が共同体として存在し、トトも共同体の一員として愛されていた頃の、今は亡き郷愁が閉じ込められているのです。

そして、アルフレード自身が未来のトトへ向けて、死んでもなおトトを想い続けていることを示す愛あるプレゼントだと考えることも出来るのではないでしょうか?

『ニューシネマパラダイス』の舞台へ行ってみよう


出典:映画『ニューシネマパラダイス』公式Facebook

トトの思い出の故郷・ジャンカルド村は実際には存在しません。撮影の舞台となったのはシチリア州パレルモ県にある村、パラッツォ・アドリアーノです。

日本からパラッツォ・アドリアーノ村へ行くには、イタリアのパレルモまで行き、一日に数本のバスで向かうことになりますが、道中シチリアの山間部を抜け、広い牧草地などのどかな景色を楽しむことが出来ます。

村には本作にまつわる博物館があります。館内では、アルフレードがトトを載せて走った自転車や劇中の場面を切り取った写真がたくさん飾られています。

特に映画でも村の人々が賑やかに過ごしていたウンバルト広場では、劇中でおなじみの街並みを発見することが出来るでしょう。映画館のセットはもう存在しませんが、のどかな自然に囲まれ歴史を刻んだ石畳みの通路や煉瓦の街並みは、訪れた人を心の故郷に帰って来た気にさせてくれるでしょう。

『ニューシネマパラダイス』は映画の時代へのオマージュ


出典:映画『ニューシネマパラダイス』公式Facebook

本作が公開された1980年代末頃は、映画の存亡が問われていた時期でした。テレビやビデオの進歩で、映画館の入場者数は減少していき、映画は人々の娯楽としての立ち位置から降ろされてしまう時代でした。

トトが小さかった時代、そしてトルナトーレ監督自身が若かった時代、かつて映画館は共同体の人々とともにありました。ところが、個人主義の台頭によって人と人をつなぐ暖かい共同体は消滅し、そんな人々が一堂に会して映画を楽しんだ時代もまた消滅する運命となったのです。

自身も大の映画好きであるトルナトーレ監督は、映画の時代の終わりを予期し、共同体の人々が映画をともに楽しんで繋がり合う古き良き時代へのオマージュを捧げたのではないしょうか?

これは単に映画館の隆盛と没落を描いただけではなく、人と人とが密接に結びついていた暖かい時代が終わったことも意味しています。個人が好きなことを始められる時代の到来は一見自由で素晴らしいことに感じられますが、時には無償で自分を受け入れてくれる故郷があることも、人間にとっては大事なのだと考えさせられます。

まとめ

小さな村の映画館を中心に、ほろ苦い人間ドラマが展開される『ニューシネマパラダイス』。映画監督として成功を手にしたトトはその代償としてかけがえのないものを失いました。しかし、死後もなお幼き日の約束を守ってくれたアルフレードのプレゼントが、彼に変わらぬ愛情を思い出させてくれるのです。苦い現実に一抹の希望があるところが、この映画を観た後爽やかな気分になれる理由ではないでしょうか。

さて今回紹介したあらすじは本作の劇場公開版の方になります。本作には故郷にしばらく残った中年期のトトがエレナと再会する場面を含めた完全版も存在しています。劇場公開版よりも2人の愛の顛末が描かれる完全版は、ドラマとして重くなった印象があるという声もあります。しかしだからこそ、成功の代償にトトが抱えてきた孤独がより強く感じられ、彼のために遺品のフィルムを介して死後もなお絆は不滅であることを示したアルフレードの友情に、心が温かくなるのではないでしょうか!

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アルファ
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滋賀県在住、高卒から映画ひとっとび専属ライターになりました。 親の影響で映画が好きになり、特にアクション系が大好き。 特にトム・クルーズとキアヌ・リーブスは私のマイヒーローです!