『シン・ゴジラ』考察 ! ゴジラ誕生のきっかけは「春と修羅」!?政府への復讐説は本当?
東宝ゴジラが12年ぶりに帰ってきた!2004年の『ゴジラFAINAL WARS』を最後にゴジラシリーズは終了を宣言したが、2014年のハリウッド版『GODZILLA』が大ヒット。それを受け本家ジャパニーズゴジラは黙っていられない!
「え?これってゴジラなの?」「新ゴジラ?」「真ゴジラ?」そんなジャパニーズゴジラの疑問を考察して行きましょう。
目次
映画『シン・ゴジラ』について
『シン・ゴジラ』は、往年のファミリー向け路線から一転し、政治色を前面に出した群像劇になっています。過去シリーズ作の世界観はリセットされ、日本国政府が初めて「巨大不明生物」出現に直面するという設定になります。
2016年8月1日に発表された公開1週目の映画観客動員ランキングでは、約41万人の動員で第1位を獲得し、興行収入は約6億2500万円を記録しました。その後も破竹の勢いで、ハリウッド版『GODZILLA』の最終興行収入約32億円を大きく上回り、最終興行収入は82.5億円を突破し、怪獣映画ならぬ怪獣級作品へとなっていきました。
上映時間:119分 監督:庵野秀明(総監督)樋口真嗣(監督・特技監督) 出演者:長谷川博己・竹野内豊・石原さとみ 配給元:東宝 公開日:2016年7月29日 |
あらすじ
東京湾の羽田沖で突然、膨大な水蒸気が噴出し、東京湾アクアラインでトンネル崩落事故が発生してしまう。日本政府の見解は、海底火山か熱水噴出孔が今回の事故の原因と判断し、対応を進める。しかし、内閣官房副長官矢口蘭堂(長谷川博己)は、ネット情報より一般人の目撃情報やSNS動画などから、いち早く事故の原因は未確認の巨大生物である可能性を提言する。
内閣総理大臣補佐官の赤坂秀樹(竹野内豊)をはじめ、その場にいた政府関係者は矢口の意見を一笑に付す。しかしその直後、海上に現れた巨大不明生物の尻尾部分が官邸内のテレビに映し出され、政府関係者は唖然とする。
不測の事態に対し、政府関係者が情報収集に奔走。その間にも謎の巨大不明生物は多摩川の河口から進入し、呑川を這いずりながら進んで行く。濁流のように遡上した巨大生物は蒲田に上陸してしまう。何事もなく日常生活を送っていた人々の前に巨大生物が突如現れ、次々と街を破壊し、なすすべもなくも無く北進して行くのだった。
政府は巨大生物に対し、捕獲か駆除を悩んだ結果、対処方針として駆除を選択する。しかし不明要素の多い相手に対して、中途半端な攻撃では効果がないと判断する。そこで緊急対策本部を設置し、自衛隊に防衛出動命令を発動。時を同じくして米国国務省より、女性エージェントのカヨコ・アン・パタースン(石原さとみ)が派遣される。この未曽有の脅威に対して、日本だけではなく世界もその行方を注視し始めるーー。
そして、川崎市街にて、更なる進化を遂げ人智を遥かに超越した超生物「ゴジラ」と、自衛隊との一大決戦の火蓋がついに切られるのであった……。
『シン・ゴジラ』の5つの謎【考察・疑問】(ネタバレあり)
ハリウッドよ、これがジャパニーズ怪獣映画だ!そんな『シン・ゴジラ』を観て気になった点があった方。ゴジラの正体について気になった方も数多くいらっしゃるのではないでしょうか?
今回のゴジラはどういった経緯で生み出されたのか。本作品で初めて名前の頭に付いた「シン」はどういった意味なのか。なぜあんなに形態変化したのか。
最後まで数々の疑問を残した映画『シン・ゴジラ』をここからはネタバレありで考察していきましょう!
【『シン・ゴジラ』の謎①】作品と東日本大震災の関係は?
2011年3月11日、数多くの犠牲者を出した「東日本大震災」が本作品のコンセプトとされているようです。
劇中では災害を想像させるような生々しいシーンや、官僚達が右往左往するなど政府のリアルな動きが見られました。そのシーンは当時の壮絶さを思い起こさせる事もあり、大災害の恐怖と戦う人々や、その裏で対策に奔走する人々をリアルに描写されています。
このような共通点があることから、「ゴジラという大災害を乗り越えた人々」=「東日本大震災を乗り越えた人々」、というテーマをモチーフに考察していきたいと思います。
かつて、ゴジラというものは放射能の影響で生まれた生物で、核分裂を動力源にしている事から、いわば「核兵器=戦争」みたいなものと隠喩する側面がありました。
ところが今回の映画『シン・ゴジラ』はそういったコンセプトではなく、「東日本大震災を経た日本」というものが庵野総監督の根底にあったようです。
劇中の描写では崩れ去る建物、津波のように押し寄せるゴジラ第2形態、放射能の恐怖、政府・自衛隊のリアルな動きなどがありました。正に東日本大震災に日本で起きた出来事を彷彿とさせます。
そんな描写が過去のどのゴジラ映画より色濃く描写されており、「東日本大震災=ゴジラ」が本作品のコンセプトなのでしょう。
【『シン・ゴジラ』の謎②】「シン」の意味は?
『ヱヴァンゲリオン』シリーズを手掛けた庵野秀明氏が総監督を務めた『シン・ゴジラ』。
そして間もなく庵野秀明氏が監督を務める、2020年に公開予定の『シンヱヴァンゲリヲン劇場版』。
両作品とも頭文字に「シン」が付けられており、どのような意味があるのでしょうか。巷では「新」しいゴジラ、「真(本当の)」のゴジラ、「神」のようなゴジラ(劇中で米国はGODZILLAと名前にGODが入っている表現をしている)など色々な憶測が出ていました。中には「sin」(宗教上の罪を意味する。)などの考察合戦となっていました。
劇中でその真意は語られていませんでしたが、本作品のエグゼクティブプロデューサーを務めた山内章弘氏によると、「もちろん新しいゴジラでもあり、真のゴジラでもあるし、神のようなゴジラであります。それに庵野秀明総監督が命名したこのタイトルには、様々な意味と思いが込められています。」と語っています。
【『シン・ゴジラ』の謎③】ゴジラは何形態まで進化できる?
本作のシン・ゴジラは複数回に渡り進化していきます。
まずはゴジラの一番始まりとなっている生物(第0形態)は次のように考えられます。海中に放置された放射性廃棄物に影響された魚類や微生物、もしくは両生類などの生物です。その幼体(第0形態)を発見した牧教授がなんらかの作用を与えた事で、本格的にゴジラの進化(第1形態)が始まったと考えられます。
シン・ゴジラ(第1形態)
その後、陸上に上がり川に沿って進撃した第2形態は、大きな目・発達していない手・大きなエラが特徴的です。デザインベースと言われている第2形態の容姿は、深海ザメ(魚類)の一種「ラブカ」で、庵野総監督からデザインは「ラブカに似せてくれ」と指示があったとのことです。
深海ザメ「ラブカ」
シン・ゴジラ(第2形態)
その後、前足が少し生え、二足歩行ができるまでに進化した姿が第3形態です。よりゴジラらしくなっており、よちよち歩きをしながら街を蹂躙していきます。
シン・ゴジラ(第3形態)
そこからもどんどん進化していき、最終的には第8形態にまで進化すると言われています。
本編のゴジラは第4段階
シン・ゴジラ(第4形態)
ゴジラは第3形態時、皮膚は熱エネルギーを帯びており赤熱化しています。しかし冷却システムが未発達で、自身の熱エネルギーで皮膚が溶けてしまうほど皮膚が弱い為、一旦東京湾から海に戻ります。そして冷却システムを進化させた状態で帰ってきたのが第4形態です。
劇中のほとんどがこの第4形態で、街中を崩壊寸前まで暴れ周り蹂躙します。柔らかかった皮膚も強化され、自衛隊のあらゆる武器が効かなくなる程のパワーアップをします。米軍の強力な武器で一時負傷させるも決定打にはなりませんでした。
そこで「巨大不明生物特設災害対策本部」、通称「巨災対」が開発した血液凝固剤を投与する作戦(ヤシオリ作戦)を計画します。各国軍隊の波状攻撃でゴジラを怯ませ、その隙に大量投与する事に成功しました。
ゴジラは凍結状態になり活動を停止しました。しかし、凍結されていく中、ゴジラはまたも進化する準備を進めていたのです。
第5形態が人型!?
ゴジラの進化は「弱点を克服していく」進化方法だと考えられます。ヤシオリ作戦では、巨対災と軍隊の連携攻撃により、人間同士が一丸となってゴジラを凍結まで追い込みました。そこでゴジラは凍結しながら一考します。「人間の数に任せた波状攻撃は強力。こちらも数に対抗しなければ」と…
そこでゴジラは更なる進化、「第5形態」へと進化し始めていたのです。進化過程で完全凍結になってしまった為、「第5形態」がどのように活動するのかは映像化されていませんでした。
しかし既に尻尾の先端より「無数の人型」が生み出され始めていたのです。その見た目は、庵野秀明総監督が公開した特撮短編映画、『巨神兵東京に現わる』のまさしく「巨神兵」にそっくりでした。
第8形態まである!?
公式のムック本などでは、第4形態はあくまで始まりにすぎず、さらなる進化適応を行うとされており、以下の進化と結果が記載されています。
【第6形態の特徴】
- 不老不死の身体を持つようになる。
- 地球を征服する為に無限分裂を繰り返す。(第5形態の人型?)
- バラバラになった細胞レベルでも、無限に完全体まで復活する。
- 体内で永久機関が確立され、自己エネルギーだけで活動できる。
- ヤシオリ作戦の免疫対策として、口と牙の退化、最終的には消滅する。
- 痛覚と感情の喪失。
- 完全なる飛行能力の獲得、最終的には大気圏を突破して宇宙へ。
- 別の惑星などに到達するだけでなく、いずれはそれらの困難極まる環境へも適応。
【第7形態の特徴】
- 体内に宇宙を宿す。
【第8形態の特徴】
- 宇宙の外に出ることができる。
ここまで来ると、まさしく「神(シン)」・ゴジラになるのではないでしょうか。絶命させるには、細胞レベルでの完全殲滅ができないとゴジラを止める手段はないとしています。
【『シン・ゴジラ』の謎④】最後の尻尾は何を意味する?
ラストシーンで衝撃的だった、最後の尻尾の意味するものは何だったのでしょうか。それに対して様々な説が浮上しています。ゴジラが人間を取り込んで養分にしているというものや、環境を汚染した人間への当てつけで、ゴジラは人間が作り出した害獣といったものなどがあります。
そして、その人型の正体については「映画の冒頭で牧教授が乗っていた、クルーザー(グローリー丸)を発見した海上保安庁の人達」である事を、本作品で監督と特技監督を務めた樋口真嗣氏はTwitterで語っておられます。
やはり、今までの超スピード進化をするゴジラを考察すると、最も有力なのはゴジラに取り込まれた人間が尻尾から現れ、多数の人型ゴジラ「第5形態」として増殖していくのではないでしょうか。
【『シン・ゴジラ』の謎⑤】牧教授の目的は…!?
劇中で幾度となく名前が出てくる「牧教授」。果たして牧教授という人物の正体は一体何者だったのか。彼は一体何が目的で、何をしようとしたのか?まだまだ謎多き人物なのです。
一体どのような謎なのか劇中のシーンを振り返ってみると、冒頭シーンのグローリー丸の机上に置かれた、「私は好きなようにした、君たちも好きなようにしろ」のメッセージ。それと共に一羽の「折り紙の折鶴」、同じくグローリー丸の机上に置かれていた詩集『春と修羅』、牧教授自身ではないかと言われている「ラストシーンに映し出された尻尾の骨」など、随所にあったヒントを元に牧教授の思惑を2つの説として考察していきましょう。
政府への復讐説
作中でも「政府に対して恨みを持っている」と述べられています。
牧教授の妻が放射能汚染により重病に至り、なんとしても妻の病状を回復させたいという願望の強さがありました。しかし、平和の象徴でもあり、病状の回復などを祈った「折り鶴」を置く事で、それが叶わなかった絶望の強さを表しています。
また、詩集『春と修羅』では題名にある「修羅」(修羅とは、周りの状況になかなか馴染む事が出来ず、激しい感情が現れ、つねに醜い争いや闘うことを意味しています)に注目すると、愛する妻の病状を回復させられず、そのこみ上げる怒りと苦しみから修羅道に堕ちてしまいます。それをきかっけに、妻を助けてくれなかった政府へ恨みを晴らすという決意が読み取れます。
世界を幸せにする説
『春と修羅』の著者でもある「宮沢賢治」は、自身の著書『農民芸術概論』の序論でも述べられているように、愛する妹の死の絶望から「世界全体が幸福にならないうちは、個人の幸福はあり得ない。」という独自の世界観を持っていたようです。
この思想を牧教授が共感したと考察してみると、彼は愛していた妻を放射能の汚染による病気が原因で亡くしています。そこで牧教授は「助ける事が出来なかった(個人の幸福が叶わなかった)のは、世界全体が幸福でないからだ。」と考えます。
そして、自国の為に他を差し置いてでも利益を追求する米国や、世界の仕組み全体が悪いから世界が幸福にならないと判断し、ゴジラを使い「悪い世界の人類そのものをこの世から消す事」こそ世界を幸せにする最適解と考えたのではないでしょうか。
『シン・ゴジラ』の見どころ!
演技のこだわりがすごい!
本作品はストーリーの素晴らしさや、庵野総監督をはじめとするスタッフ、キャストの力も絶賛されていました。しかし、この作品の完成度を支えたのはボランティアのエキストラたちと「演技心構え」として彼らに配られたテキスト(通称・蒲田文書)でした。
心構えとして、本作に於ける撮影の狙いを次のように説明しています。まず、観客に対し巨大生物の恐怖を如何に感じさせれば最も効率的なのかを説明。「逃げ惑う人々がまるで本当に襲われているように見えること」。
だだ、単に芝居上での表情で恐怖を演じたり、叫び声を大きくあげたりすれば良いという訳ではないと、記載されていました。
続けて「もしあなた達に対して巨大不明生物が襲ってきた場合、人はその人の個性によって独特の反応をするのではないでしょうか。死に物狂いで逃げる人、ゆっくりと逃げる人、恐怖で体が固まってしまい動けない人、興味の方が勝ってしまい写真を撮る人、恐怖で巨大生物から目が逸らせないまま体だけが逃げる人、自身より我が子を必死に守ろうとする人、知人とはぐれてしまい人波の中で大声で探し続ける人……それら個人個人の集合体が、画面にリアリティさを生み、観ている者に本物の恐怖を与えてくれると、我々は考えています」と記載されていました。
参加したエキストラ各人に「自分が巨大不明生物に遭遇したらどうなってしまうか。」の想像をさせることを要求し、「お一方お一方にしか出来ないリアリティのあるお芝居をしてください」と要望しています。
そして「決して無理はしないこと。全員が本気で逃げると、周りが見えず本当に危険です。まずは、自分の身の安全を第一に考えること」とエキストラたちを気遣いながらも、最後には「この映画を1ミリでも質の良い映画にするのが目標です。今後、何十年、何百年と語り継がれる映画にするために、皆様の力をお貸しください」という熱い想いで締めくくられていたのです。
総勢328人のキャスト!
総勢328名という豪華キャストが出演している本作品。メインキャストとして、長谷川博己さん、竹野内豊さん、石原さとみさんらの他、高良健吾さん、大杉漣さん、柄本明さんら、今をときめく若手俳優から大御所に至るまでの豪華キャスト陣で構成されていました。
他にも随所に短いシーンではありましたが「あ、こんな人も出てる。お、この人まで!」と思える贅沢なキャスト陣の数々でした。
プロデューサーの山内章弘氏は「間違いなく日本映画史上最大規模の出演者数」とコメントしています。あまりの集結ぶりに、撮影時期は「ゴジラの現場以外、日本から俳優が消えた」と言われたほどでした。全員そろっての撮影時は他のドラマや映画の現場に人が集まらず、その撮影が止まったというエピソードもあります。
そんな規格外の映画のエンドロールでは、主要キャスト以外は50音順で並ぶ異例の事態となりました。
ゴジラのスケールは歴代最大!
昔のゴジラを現在のゴジラと比較すると小さいものでした。1954年(昭和29年)に公開された、第1作目の『初代ゴジラ』は、体長50メートルほどです。
観る者に恐怖を与えるには、ビルなどの街並みより頭一つ抜けた巨大さが表現できれば良かったのです。そこで当時の東京で一番高いビルが丸ビルの31.2メートルだったので、ゴジラの体長は50メートル程度で十分だったようです。
その後も、時代とともに高層化していくビルに対抗すべく、80メートル、100メートル、108メートルとゴジラもスケールアップを図っていました。そして今回の『シン・ゴジラ』では、過去最高の118.5メートルとなりました。
また今回、ゴジラのモーションキャプチャーとして、狂言師の野村萬斎さんがゴジラの動きを演じる事で、色んな意味で歴代最大級のゴジラになったのではないでしょうか。
本日のレッドカーペットは、シン・ゴジラの体長と同じ118.5mでした!
ちなみにこの写真はシン・ゴジラとほぼ同じ高さの目線なんです!
デカすぎる!!!!#ゴジラ #シンゴジラ #ワールドプレミア pic.twitter.com/Prb31xGqzv— ゴジラ (@godzilla_jp) 25 юли 2016 г.
こうして見ると、改めて感じますが「ゴジラって、本当にデカい!!!」
まとめ
ここまでご紹介したとおり『シン・ゴジラ』は色々な面から歴代最大といえるものになっていました。2019年にはゴジラ65周年記念作品として、『シン・ゴジラ』の次作にあたる、ハリウッド版のゴジラ、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が、さらに2021年には『ゴジラvsコング』が公開されました。
こちらはジャパニーズゴジラとの関連性はありませんが、負けず劣らずの作品になっているようです。でもやっぱり「ジャパニーズゴジラ」に勝って欲しいものですね。