『ジョジョ・ラビット』のあらすじネタバレ解説|タブーに切り込む戦争×コメディ映画
戦争を題材にした映画作品は数多くありますが、シリアスな内容をブラックジョーク満載のコメディ調で展開する『ジョジョ・ラビット』のような戦争作品は珍しく、モラル的にも少し不謹慎なのではないかと思ってしまいますよね。
ですが『ジョジョ・ラビット』はギャグに傾倒しきっているわけではなく、暴力や差別などの戦時中に起る悲劇を茶化す事はせずに描き、観ている側の心にしっかり刺さるよう計算して作られている非常にバランスの取れた作品です。
第二次世界大戦という人類史において最大の悲劇を題材に、ジョークとして誇張しつつも当時の人々がどのように考えて生活していたのかをしっかりと描いている『ジョジョ・ラビット』を観て戦争について少し考えてみませんか?
本記事が『ジョジョ・ラビット』の世界を堪能するためのお手伝いになればと思いますので、ぜひ最後までご覧になってください!!
目次
映画『ジョジョ・ラビット』について
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本作『ジョジョ・ラビット』はニュージーランドとベルギーの小説家・クリスティーン・ルーネンズ著作の小説「Caging Skies」を原作に、ニュージーランドの映画人・タイカ・ワイティティが監督と脚本を手掛けて映画化されたコメディ映画。
第二次世界大戦時のドイツを舞台に、ナチス、ユダヤ人、ヒトラーなど、取り巻いている世界に翻弄される少年・ジョジョの運命を、ブラックジョークを交えてテンポ良く描いている作品ですね。
少年・ジョジョの傍らにはいつも空想の友人、ドイツ総統・ヒトラーがいました。空想の友人・ヒトラーは苦難が立ちはだかる度にジョジョを激励し、その言葉を胸にジョジョは前を向いて現実に立ち向かっていきます。
ヒトラーと二人三脚で物語を進むジョジョと、ドイツ人の母・ロージーやベッツラー一家に匿われるユダヤ人の少女・エルサを待ち受ける運命をコミカルでありながら時にシリアスに描く戦争コメディ映画ですね。
テーマの重さに反してエンタメよりの軽快な作風が視聴しやすさを作り出しているので、戦争映画が苦手という人でも手を出しやすい作品なのもポイントです。
10秒で分かる!映画『ジョジョ・ラビット』の簡単なあらすじ
第二次世界大戦末期のドイツに住む少年・ジョジョはナチスドイツに忠誠を誓い、祖国のために尽くせるドイツ国民になろうとしています。少年少女で構成される部隊・ヒトラーユーゲントの合宿で自分の忠誠心と勇敢さを証明しようと気持ちを入れていました。
心の中の友人・アドルフ・ヒトラーに激励されたジョジョは友人のヨーキーと共に訓練合宿に参加しますが、忠誠心を試された時に渡されたウサギを殺せず、「ジョジョ・ラビット」という不名誉なあだ名を付けられ笑い者になってしまいました。
その後、ジョジョは自分の勇敢さを証明しようと手りゅう弾を手に取って投げようとして失敗し、爆発に巻き込まれ大怪我を負ってしまいます。母の抗議もあり戦闘部隊から外され街でのビラ貼りやゴミ集めをするジョジョでしたが、自宅の屋根裏に匿われていたユダヤ人の少女・エルサとの出会いによって運命が動き出すのでした。
ブラックジョーク戦争作品!映画『ジョジョ・ラビット』のネタバレあらすじ
ここからは映画『ジョジョ・ラビット』の物語をネタバレ込みでご紹介したいと思います。戦争の悲惨さ、怖さをコメディタッチで描いている本作独特の世界観に触れていただければ、と思いますのでチェックしてみてください!
【あらすじ①】ジョジョとヒトラー
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第二次世界大戦下のドイツ。10歳の少年・ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイヴィス)はナチスドイツに忠誠を誓いながら鏡に向かいネクタイを締めている。今日から少年少女が集まって訓練を積む「ヒトラー・ユーゲント」の合同合宿に参加するためだ。
ジョジョには空想上の友人がいる。ナチスドイツの総統・アドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)だ。ジョジョの心の中に住むヒトラーは、ジョジョが困った時にはいつも助言をしてくれる存在で、今回のユーゲント参加でも「僕には無理かも」と気弱になっているジョジョに「お前はひ弱だがナチスへの忠誠心はピカイチだ」と鼓舞してくれた。
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気を取り直したジョジョは友人であるヨーキー(アーチー・イェーツ)と一緒に合宿が行われている場所にやって来た。そこには少年少女が集められ、戦争で負傷し片目を失ったクレンツェンドルフ大尉(サム・ロックウェル)が指揮する演習が行われている。クレンツェンドルフ大尉の執り行う訓練はハードで、何とかついていく事ができたジョジョとヨーキーは初日を終え眠りについたのだった。
【あらすじ②】ジョジョとウサギ
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翌日、昨日と同じように訓練に参加したジョジョの身に災難が降りかかる。
クレンツェンドルフ大尉の側近・フィンケル(アルフィー・アレン)が少年達に向かって「ヒトラーの軍隊に臆病者はいらない。進んで人を殺せるヤツは手を挙げろ!」と忠誠心を試す問いかけをすると、その場に集まった全員が我先にと手を挙げた。しかし、ジョジョだけは一瞬ためらってしまい、周囲を見渡してから手を挙げてしまう。
その事を見逃さなかったフィンケルがジョジョに前へ出るように命令し、ウサギを一羽渡して「首の骨を折って殺してしまえ」とジョジョの忠誠心をテストしてきた。だが、心根の優しいジョジョはウサギに手をかける事ができず、地面に放して「今だ!逃げろ」と言って逃がそうとする。
フィンケルは放されたウサギをすぐに捕まえると、簡単に首の骨を折って殺し、投げ捨ててしまった。そしてジョジョに向かって「臆病者のジョジョ・ラビットだ!」と嘲笑い、少年少女達も一緒になってジョジョを笑い者にするのだった。
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皆から笑われてしまったジョジョはその場から逃げ出し、森の奥でうずくまって泣いていた。するとそこに空想上のヒトラーが現れ、「ウサギはニンジンを命懸けで取りに行くほど勇敢でずる賢く強い」と激励してくる。気合の入り直したジョジョは皆の元へ戻ると、勇敢さを証明するため手りゅう弾を手に取って投げようとするも失敗し、大怪我を負ってしまうのだった。
【あらすじ③】母の死
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訓練中に大怪我を負った息子・ジョジョを連れ、ジョジョの母・ロージー(スカーレット・ヨハンソン)は抗議のためクレンツェンドルフ大尉の事務所を訪れる。弁の立つ母のまくし立てもあり、ジョジョはしばらくはクレンツェンドルフ大尉の指揮の下、奉仕活動をする事となった。
その後、自宅へ戻ったジョジョだったが、亡き姉・インゲの部屋に隠し扉がある事に気が付く。壁にある扉をこじあけて中へ入ってみると、そこにはユダヤ人の少女・エルサ(トーマシン・マッケンジー)が隠れるように住み着いていた。
エルサの話によると母・ロージーがユダヤ人迫害から守るために匿っているようで、エルサは「通報すれば私の協力者だと言うわ」と脅しをかけ、ジョジョに口封じをしてきた。バレて死刑になる事を怖れ、怯えながらうなずくジョジョ。
そんなこんなで家に住み着いた少女・エルサと奇妙な関係となったジョジョだが、話の流れでユダヤ人の秘密をエルサに話してもらい、それをジョジョが本にするというやり取りを始める。ユダヤ人についてのレクチャーを受ける中、少しずつエルサに心惹かれていくジョジョは、エルサの婚約者の手紙を自作して励ますなど心を通わせていくのだった。
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ある日、秘密警察のディエルツ大尉(スティーブン・マーチャント)が部下を連れて家宅捜索にやって来た。突然の事に怯えるジョジョだったが、エルサが姉・インゲのフリをして現れ、上手く話を合わせる事で何とかやり過ごす事に成功する。
だが、安心したジョジョが街の広場へ向かうと、そこには絞首刑に処されて死んでいる母・ロージーの姿があった。あまりの出来事に吊るされている母の足に抱きついて泣き崩れるジョジョ。悲しみの中帰宅したジョジョはナイフを手に取り、原因を作ったであろうエルサの右肩に刃を突き立てた。しかしエルサは何事かを聞かぬままそれを受け入れ、ジョジョに寄り添うのであった。
【あらすじ④】戦争と恋の終わり
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アメリカ軍がドイツ国内へ攻めて来たため、激化する市街戦。爆音鳴り響く戦火の中、逃げまどっていたジョジョはアメリカ軍に捕まり、捕虜が集められている場へ連れていかれた。そこには先に捕まっていたクレンツェンドルフ大尉がおり、母の死で落ち込むジョジョを優しく気遣い慰めた。
そしてクレンツェンドルフ大尉は幼いジョジョを助けようと一芝居うち、「ユダヤ人め!」などとジョジョをわざと罵り、唾を吐きかけて敵意を示すフリを。ジョジョの事を迫害されていたユダヤ人だと勘違いした米兵はジョジョを解放し、クレンツェンドルフ大尉を銃殺してしまうのだった。
その後、ドイツは敗れ、戦争は終結を迎える。自宅へ戻ったジョジョだが、ユダヤ人であるエルサがドイツの敗北を知れば離れ離れになってしまうと思い、ドイツが勝ったとウソをついた。この迫害生活がまだ続く事に打ちひしがれるエルサに、婚約者・ネイサンからの手紙を読み上げ慰めるジョジョ。
しかしエルサはネイサンは既に亡くなっている言い、元気づけようと手紙を創作してくれたジョジョに感謝を伝えた。意を決したジョジョがエルサに抱いている恋心を伝えるも、エルサは「愛してるわ。弟として」とやんわりと断った。
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ジョジョとエルサが家の外へ出ると、そこには星条旗を掲げて闊歩するアメリカ軍の姿があった。ジョジョがウソをついた気づき、頬を一発叩くエルサ。
そして2人は互いを見つめ合い、戦争の終わりを噛みしめながら踊りだすのだったーー。
映画『ジョジョ・ラビット』のキャスト|癖のある個性派揃い
ヨハネス・”ジョジョ”・ベッツラー/ローマン・グリフィン・デイヴィス
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主人公の10歳の少年で、ナチスドイツに忠誠を誓っていて過激な言動を取りますが、実は気弱で争いを好まない心優しい少年。戦場から帰ってこない父を待ちながら母と2人暮らしをしています。
ジョジョを演じているのはイングランドの子役・ローマン・グリフィン・デイヴィス。映画『ジョジョ・ラビット』でデビューし、ゴールデングローブ賞などにノミネートされました。父は撮影監督、母は脚本家と映画監督をしている映画一家に生まれたサラブレットで、今後の活動にも注目できる新人子役ですね!
ロージー・ベッツラー/スカーレット・ヨハンソン
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ジョジョの母。気丈な女性で、戦死した可能性もある夫を待ちながらジョジョに愛情を注いで暮らしています。ナチスドイツのやり方に反発しており、ユダヤ人の少女・エルサを自宅の屋根裏に匿っていました。
ロージーを演じるのはアメリカの女優・スカーレット・ヨハンソン。マーベルコミックの実写映画『ブラック・ウィドウ』や、日本アニメの実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』など大型タイトルにも主演するハリウッドを代表する女優ですね。2018年、2019年には世界で最も稼いだ女優として認定されています。
エルサ・コール/トーマシン・マッケンジー
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ロージーによって匿われているユダヤ人の少女。聡明で話し上手、ジョジョにとって年上のお姉さんのような存在になり心を通わせていきます。実はネイサンという婚約者がいました。
エルサを演じるのはニュージーランド出身の女優・トーマシン・マッケンジーです。父は映画監督のスチュワート・マッケンジー、母は女優のミランダ・ハーコートという、ジョジョ役のローマンと同じく映画界のサラブレットとして生を受けました。映画『ホビット』シリーズなどに出演しています。
アドルフ・ヒトラー/タイカ・ワイティティ
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ジョジョの空想に登場するドイツ国の総統です。ことある毎にジョジョの前に現れ激励の言葉をかけてくれる存在で、ジョジョの抱いているナチスドイツのイメージがキャラクターの元となっているようですね。
ヒトラーを演じているのは何と映画『ジョジョ・ラビット』の監督・タイカ・ワイティティ。ニュージーランド出身で、映画監督、脚本家、俳優とマルチな才能を発揮している映画人です。
ヨーキー/アーチー・イェーツ
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ジョジョの親友。一緒にヒトラーユーゲントの訓練を受けるも、ジョジョは下手を打って奉仕活動に従事させられ、ヨーキーは少年部隊の兵士に昇格しました。皆がジョジョをバカにする中、ヨーキーだけはいつもジョジョを心配してくれています。
そんなヨーキーを演じるのはイギリスの子役・アーチー・イェーツ。映画『ジョジョ・ラビット』でデビューした新人ですね。人気映画『ホーム・アローン』のリブート版へのキャスティングも発表され、これからの活躍が楽しみな子役です!
クレンツェンドルフ大尉/サム・ロックウェル
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通称「キャプテンK」。戦場で右目を失い、帰還後はヒトラーユーゲントの訓練指揮官としてジョジョ達少年少女を鍛えています。米兵に捕まったジョジョを命懸けで逃がしてくれた恩人でもあり、冷淡で厳しい半面、実は同胞想いの一面も持っている男性ですね。
クレンツェンドルフ大尉を演じているのはアメリカのベテラン俳優・サム・ロックウェル。映画『グリーン・マイル』や『チャーリーズ・エンジェル』シリーズ、マーベルコミックの実写映画『アイアンマン2』などにも出演するレジェンドですね。TVドラマなどにも出演し、幅広く活動しています。
映画『ジョジョ・ラビット』に出てくるキーワード解説
ヒトラーユーゲントとは?
出典:Wikipedia
元々は1926年にドイツ・ナチス党内に設立された青少年組織でしたが、1936年に法に基づいて10歳~18歳の青少年全員に参加が義務付けられた青少年団体へと変化しました。1939年には800万人もの集団となり、1944年頃の戦局悪化時には国民突撃隊と併合されています。
映画『ジョジョ・ラビット』でも描かれているように、訓練では肉体の鍛錬や自己犠牲をもいとわない祖国愛、人種差別的な思想などが叩き込まれます。主人公・ジョジョにウサギを殺させようとするなど、まさに暴力を使った洗脳集団ですね。
ドイツ敗戦と時代背景
映画『ジョジョ・ラビット』はドイツの敗戦と共に物語が終わりを迎えますが、時代背景としてはいつ頃の事なのでしょうか?
1945年の第二次世界大戦末期、日本、ドイツ、イタリアの三国で結成された「枢軸同盟」はイギリス、アメリカ、旧ソ連主導の「連合国」によって追い込まれていました。まず最初にイタリアが1943年の時点で降伏し、その後、1945年4月30日にドイツ総統のアドルフ・ヒトラーが地下壕にて自殺、それをきっかけに紆余曲折を経て同年5月9日にドイツも完全降伏しました。単独で粘っていた日本も原子爆弾が決め手となり同年8月15日に降伏、こうして第二次世界大戦は幕を下ろします。
映画『ジョジョ・ラビット』の物語は1945年の3月あたりから5月にかけてのお話という事になりますね。雪が降っている描写が無い事から冬の時期ではないと推察できます。
映画『ジョジョ・ラビット』にまつわる2つの疑問点を解説
①亡くなったジョジョの姉・インゲについて
劇中では写真のみが登場していますが、その死因などについては語られていません。匿っていたユダヤ人の少女・エルサとは仲が良かったらしく、同級生のような間柄だったようです。
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また、エルサと見た目が似ているようで、エルサがインゲのフリをして秘密警察の捜索をやり過ごすシーンがあります。ジョジョがエルサに心惹かれたのは、姉・インゲの面影をエルサの姿に見たからかもしれませんね。
②母・ロージーが絞首刑になった理由
どうしてロージーは絞首刑になったのか、これといった原因がわからなかった人も多いと思いますが、理由は大きく2つ考えられます。
出典:IMDb
1つ目は、ロージーが行っていたらしきユダヤ人虐殺行為への反対運動です。奉仕活動をしているジョジョがロージーがベンチに何かのビラを置くのを目撃しており、このビラには「ドイツに自由を!」と書かれていました。ナチスに対する抗議活動を行っていたと思われ、このような反乱因子はナチス側にマークされていたと推察でき、どこかのタイミングでビラ配りが目撃されたか何者かによって通報されたと考えられます。
出典:IMDb
2つ目は、エルサからユダヤ人についての知識を聞いたジョジョがキャプテンKにユダヤ人の特徴を詳しく言ってしまい、それがナチス側に伝わって反乱分子として疑惑をかけられてしまった可能性です。ジョジョ自身が意図せず疑惑を作ってしまったとしたら、これ程悲しい結末はありませんね。
劇中から推察できるのは以上の2つの可能性ですが、あるいは両方なのかもしれません。何にせよ、ロージーの反乱思想がナチス側に伝わっていたという事は間違いなさそうです。
『ジョジョ・ラビット』を手掛けたタイカ・ワイティティ監督の反戦への想い
出典:IMDb
映画『ジョジョ・ラビット』の監督を務めた、タイカ・ワイティティはインタビューの中で、「一部の人たちが不謹慎と考える事は予想できた。その考えは理解できるけど同意はできない。僕らはホロコーストを軽視しているわけではなく、ナチスと戦争のバカバカしさをネタにしているんだ。この作品は愛と平和を訴えている」と語っています。
コメディに落とし込む事で戦争は人類にとって最悪のジョークであると揶揄し、こんな無意味な事で人の命を奪っていいわけがないという強烈なメッセージを世の中に示しているんですね。
まとめ
コメディテイストで描かれる変わり種の戦争映画『ジョジョ・ラビット』。誇張されたキャラクターとテンポの良いカット、随所でリアルな悲劇を描いていて戦争を感じるための作品としても触れやすいと思います。
本記事で興味を持った人はぜひ視聴してみてください。