【新旧比較!】恐るべき「物体」の物語はどう繋がるのか !? 『遊星からの物体X』&『遊星からの物体X ファーストコンタクト』 ネタバレ解説 !
1982年の公開以降、今なお作中に散りばめられた様々な謎について議論されるSFホラーの金字塔『遊星からの物体X』。
進化した視覚効果を導入して、2011年には82年版のプレストーリーを描いた映画も公開されました。
1982年の南極大陸で地球外からやってきた「物体」に遭遇してしまったノルウェー、アメリカ双方の観測隊員たち。
彼らが辿る数奇な運命とともに82年版、11年版『…ファーストコンタクト』の物語が、どのように繋がっていくのかを紹介していきたいと思います。
目次
80年以上愛される作品『遊星からの物体X』とは
アメリカのSF作家ジョン・W・キャンベルの短編『影が行く』を元に、1951年初の映像化が試みられた3作品です。1951年公開の 『遊星よりの物体X』、1982年公開の『遊星からの物体X』、そして2011年公開の『遊星からの物体X ファーストコンタクト』があります。
中でも有名なのは、ジョン・カーペンター監督がメガホンをとった1982年の『遊星からの物体X』。
この作品は1951年版以上に、原作『影が行く』の内容を忠実に映像化しています。
孤立無援の南極基地を舞台に、地球外生命体のために誰が本物の人間か信じられず疑心暗鬼に陥っていく隊員たちの様子を緊張感をもって描きだし、効果的なSFXによって、隊員たちを恐怖に陥れる地球外からの「物体」を出現させました。
作中に散りばめられた数々の謎や意味深なエンディングをめぐっては、今なお映画ファンによって語り続けられています。
2011年には82年版の謎の多くを回収するプレストーリー 『遊星からの物体X ファーストコンタクト』が公開されました。
『遊星よりの物体X』(1951)
出典:Amazon.co.jp
『遊星からの物体X ファーストコンタクト』(2011)
出典:Amazon.co.jp
『遊星からの物体X』ネタバレあらすじ
ノルウェー観測隊のヘリコプターが、1匹の犬を追ってアメリカ南極観測隊第4基地へやってくる。銃を乱射した隊員は射殺され、犬は第4基地内に保護された。
異常事態を察したヘリ操縦士のマクレディ(カート・ラッセル)たちは、ノルウェー観測隊の基地へ向かう。そこで待っていたのは、自ら首を搔き切った死体、未知の建造物を捉えた記録、巨大な氷塊、そして異様な焼死体であった。
焼死体を第4基地へ持ち帰ったその夜、保護した犬が化け物に姿を変える。
ノルウェー観測隊の記録と化け物の死体から、生物学者のブレア(A・ウィルフォード・ブリムリー)は、大昔に地球に降りた生命体がノルウェー観測隊によって冬眠状態から目覚めたこと、その生命体は血液を媒介に他の生物に寄生し擬態するということ、そしてひとたび「物体」が南極の外に出れば、瞬く間に人間社会に同化する可能性に気づく。
ブレアの仮説通り、焼死体の血液に隊員の1人が寄生され、変身する光景を目にする隊員たち。
目の前の仲間は自分たちの知らない別の何かかもかもしれない、隊員たちが疑心暗鬼に陥る中、ブレアは発狂し観測隊唯一のヘリを壊したため、道具小屋に監禁される。
寄生された隊員を明らかにするため、血液テストを行おうとするが、何者かに先回りされ保存血液は流されてしまった。
血液保存庫の鍵は隊長のギャリー(ドナルド・モファット)が持っていたため、彼は疑われ、隊員たちの間で上下関係さえも壊れていく。
人知れず誰かが寄生され、仲間内で殺し合いに発展する中、マクレディはある出来事をきっかけに、物体が血液中に個々の生命を持ち、特に熱を恐れていることに気づく。
新たに熱を応用した血液テストを行い、隊員たちは寄生された人間、そうでない人間を判別できた。
しかし、テストを行うために隔離されていたブレアの元を訪れると、すでにブレアに寄生した「物体」は小屋に宇宙船のようなものを残して失踪していた。
基地内は発電機が切られ、冷気がたち込めていた。
「物体」の目的が隊員たちを凍死させ、自分は春に救助隊が来るまで冬眠することだと考えたマクレディは、一矢報いるために「物体」が眠れないよう基地を燃やすことを決意する。
爆薬を設置する最中、ブレアの姿をした「物体」によって次々と命を落とす隊員たち。
マクレディは間一髪で、「物体」を基地とともに爆破した。
呆然と座り込む彼の前に、ブレアを追って姿を消していた隊員が現れた。
「物体」は本当に殲滅されたのかは判然としない。
いつかは消える炎を見つめながら、2人は救出の望みもなく、氷原に取り残された。
『遊星からの物体X ファーストコンタクト』ネタバレあらすじ
ノルウェー観測隊は南極で未知の生命体が眠る氷塊を発掘する
出典:映画 ”The Thing” 公式Facebook
1982年ノルウェー観測隊が、南極大陸に埋まった巨大建造物と未確認生命体を発見する。
生物学者のハルヴァーソン(ウルリク・トムセン)は調査のため、南極のトゥーレ観測基地にアメリカ・ノルウェー双方の研究者を招集した。
観測隊は生命体が埋まった氷塊を持ち帰り、サンプルを入手した結果、その「物体」は地球のものではないことが判明した。
歴史的発見に喜ぶ隊員たちだったが、突如覚醒した「物体」に、隊員の1人が殺害されてしまう。
解剖された「物体」の体内には死亡した隊員の肉体があった。
古生物学者のサラ(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)は、「物体」が寄生した生物の細胞を同化し、体内で元の生物の擬態を生成してなり代わっているのではないかと考える。
隊員になりすました「物体」によってヘリが墜落し、すでに基地内の誰かが「物体」に寄生されているというサラの話も、当初隊員たちは信じない。
しかし、隊員の姿をした「物体」が仲間を殺害する光景を目にすると、皆事態を確信する。
寄生の有無を判別する血液テストは妨害され、墜落事故から生還したヘリ操縦士のカーター(ジョエル・エドガートン)たちも、疑われて倉庫に隔離されてしまう。
サラは洗面所に落ちていた銀歯、骨折用の金属プレートが最初の犠牲者の体外にあったことから、「物体」が無機物は同化できず排出することに気づき、銀歯の有無によって人間かそうでないかの区別をつける。
隊員たちは疑心暗鬼の末、ついに殺し合いに発展してしまう。
逃げ出したカーターたちと基地の隊員たちとの間で内紛が起き、隊員にとり替わっていた「物体」が正体を明かし始めた。殺戮の末1人の隊員を生きたまま同化し、2つの顔になった「物体」はケイトに焼却されるが、ハルヴァーソンに寄生した別の個体は逃げ出し、ケイトとカーターが後を追う。
「物体」は巨大建造物と思われていた宇宙船へ帰ろうとしていた。
サラは宇宙船の機内でハルヴァーソンの顔を持つ「物体」に襲われるが、間一髪ダイナマイトを投げつけて「物体」を破壊する。
はぐれていたカーターと合流し、雪上車に乗り込もうとする2人。
しかし、サラは目の前のカーターがいつも左耳にしているはずのピアスをしていないのに気づき、彼を「物体」と判断し焼き払う。
サラはひとり生還するも、絶望的な面持ちで座りこんだ。
しばらく経って、トゥーレ基地にヘリがやってくる。
唯一生き残った隊員がヘリの操縦士に発見されるが、その直後1匹の犬が基地を逃げ出す。
その犬が「物体」だと察した隊員は、犬を追ってヘリに乗り込む。
南極の氷原の中、ヘリコプターは執拗に1匹の犬を追いかけた。
出典:映画 『遊星からの物体X ファーストコンタクト』予告編
作品別『遊星からの物体X』みどころ解説!
『遊星からの物体X』みどころ
荒廃した基地で、アメリカ観測隊は惨劇の跡に遭遇する……!
出典:映画 ”The Thing” 公式Facebook
疑心暗鬼になる心理描写が丁寧
敵は人間を取り込み仲間の姿になり代わるエイリアン。そのため、誰が本物の人間で、誰がなり代わられてしまっているか観客の目にもわからないのが、この作品の怖いところのひとつ。それは主人公とみられていたマクレディにさえ同様で、彼の視点を外れて描かれる描写やある場面で見つかる証拠から、私たちには彼も「物体」なのではないかと疑われてくるのです。主人公も含めて確実に人間だと言える人物がいないことが、この作品独特の不安感を醸し出しています。
また、「物体」に狙われる恐怖だけでなく、仲間同士で疑い合い、いつの間にか自分が疑われ、信じていた仲間に命を狙われるという殺気だった雰囲気が、痛々しいほど画面から伝わってきます。
ひとりひとりに見せ場があり、感情移入しやすい
劇中では、「物体」の恐怖に怯える隊員たちの姿だけでなく、まだ事件が起こる前の日常風景も描かれます。仲間とカードゲームに興じたり、冗談を言ったり、ひとり酒を飲みながらコンピュータ相手にチェスをしたり、故郷から遠く離れて集団生活を送る男だらけの隊員たち。
氷に閉ざされた南極で唯一安全の約束された基地内が、ある時突然、見たこともない化け物に侵入され、自分たちを閉じ込める檻に姿を変える絶望感。
しかし、そんな地獄絵図の中でこそ、各キャラクターの個性が生きてくるのも面白いところです。
粗野だけれど緊急時には率先して動き、「物体」の弱点や寄生されているか否かの判別方法を思いつくマクレディ。
血の気の多い性格が災いし彼との折り合いが悪く、「物体」の出現後は対立を深めていくチャイルズ(キース・デイヴィッド)。
犬に愛情を注ぐ飼育係のクラーク(リチャード・メイサー)は犬に化けた「物体」と接触していたため、寄生されているのではと疑われ、射的の腕前を持つ隊長のギャリーは、未曾有の事態に適切な判断が下せないために信頼を失っていく優柔不断な人物であることがわかります。
観測隊として生活していたごく普通の隊員たちが、ある時突然人間社会を脅かす「物体」に遭遇してしまったら……。
「もし、自分がこの状態に置かれたら……」
極限状態に置かれた人々それぞれの生々しい反応が、このSF作品にリアリティと緊張感をもたらしています。
30年以上たった今でも見劣りしない技術
VFXが主流となった今見ても、見劣りしない特撮技術の数々。
特定の形状を持たず、ヌラリした質感が絶対に触りたくない肉感的なクリーチャーは、アニマトロニクスによって表現されています。
ピラピラと体内から高速で動きまわる触手、それと対照的にぐっちょりと緩慢な動きで分裂する本体が、見たこともない、それでいて妙に生々しい物体の造形を作り出しています。
最初に正体を現す通称「ドッグ・モンスター」は、『ターミネーター』、『エイリアン2』等で知られるスタン・ウィンストン率いるチームによって作成されました。
強烈な特殊メイクを担当したのは、当時22歳のロブ・ボッティン。監督のジョン・カーペンターとは 1979年の『ザ・フォッグ』に続いてのコラボレーションとなります。
彼は後に、『ロボ・コップ』(1987)アーノルド・シュワルツネッガー主演の『トータル・リコール』(1990)でも、印象的なSFXを担当しています。
『遊星からの物体X ファーストコンタクト』みどころ
前作同様、火炎放射器が大活躍する!
出典:映画 ”The Thing” 公式Facebook
登場人物の描写よりも82年のオマージュ、伏線回収が主になっている
一方、『…ファーストコンタクト』では、前作ほど各キャラクターたちについてスポットが当てられません。代わりに前作でアメリカ観測隊がノルウェー観測基地で目にしたアイテムの数々が登場し、それがどんな経緯で前作に登場することとなったのかが明らかになるなど、82年版のオマージュや伏線回収が主になっています。
前作のマクレディたちが見つけた巨大な氷塊はもちろんのこと、トゥーレ観測基地の壁に突き刺さっていた斧は、誰が何のために振り下ろしたものなのか?
自ら首を搔き切った後凍結した死体は、いったい誰だったのか?
前作で強烈な印象を残した2つの顔が融合した「物体」は、どのように出現し、なぜ死んだのか?
それらの謎が解き明かされます。
そして今作のエピローグでは、82年版のアメリカ南極観測隊員たちの物語に繋がる重要な場面が描かれます。
馴染みのあるヘリコプターの登場に加え、前作冒頭で犬に化けた「物体」を追いかけていた人物が誰なのかも明らかになります。
前作のファンなら思わずニヤリとしてしまうことでしょう。
前作ではできなかったようなクリーチャーの描写
『…ファーストコンタクト』に登場するクリーチャーはアニマトロニクスや着ぐるみなどを用いて実際に撮影した後に、CGI等VFXを利用して補完されました。
それによって、前作よりも表現が多彩でスピーディーなクリーチャーの動きが可能になっています。
今作の「物体」は、前作のグロテスクで斬新なデザインコンセプトは踏襲しつつも、寄生した人間の足で自立し走って獲物を追いまわすこともできます。さらに、太い触手を武器に、部屋の反対側にいる獲物を貫き通すこともできる、凶暴なモンスターとしての進化を遂げました。
耳を塞ぎたくなるような独特な咆哮は、前作で登場した音響を加工して多用しています。
さらに今作では前作ではあまり登場しなかった小型の「物体」も登場し、突然分離して顔面に襲いかかったかと思えば、一時姿を消してから壁を這いずりまわったりなど、トリッキーな動きで人間を翻弄します。
まさか、あの人物の、あれが、ああして、あんな「物体」になるなんて……。
中盤で登場する小型の「物体」は、前作のある人物の頭が歩き出す「スパイダー・ヘッド」を思い出すかもしれません。
残された謎
南極観測隊はしだいに未知の「物体」の恐ろしさに気づいていくが……。
出典:映画 ”The Thing” 公式Facebook
宇宙船の中の謎の物体
クライマックスで、サラが宇宙船内で目にする謎の物体の正体はいったい何だったのでしょうか?
残念ながら、本編中ではその謎は明かされないまま終わります。
ピクセルのような発光体が集合したあの巨大な物体は何のために存在していたのでしょう。
最後にサラとハルヴァーソンの顔をした「物体」が対峙する場所にあり、この場所が宇宙船の中央であると考えれば、動力源のようにも見えます。
それとも、「物体」が地球に降り立つ前、訪れた様々な惑星で取り込んできた生物の遺伝子情報を保管しているのでしょうか。
宇宙人の目的
87年版冒頭で宇宙船が大気圏に飛来する(もしくは不時着しているようにも見えますが)描写があります。
87年版のブレア博士や『…ファーストコンタクト』のサラ・ロイド博士は、劇中で「物体」によって人間社会が同化される危険性を指摘しましたが、宇宙船の持ち主は果たして地球を征服するために来たのでしょうか。
しかし、あの巨大な宇宙船に対して、観測隊が発見したのはたった1体の宇宙人だけ。その後トゥーレ観測基地に運ばれた宇宙人は氷塊の中から蘇生しますが、紆余曲折を経て、地球に来た当時の肉体を捨てて人間たちを襲います。
そう考えると、氷塊にとじこめられていた宇宙人さえも、「物体」に寄生されて地球に不時着した犠牲者のひとりであったとも考えられるのではないでしょうか。
82年と11年でクリーチャーの強さが違う
82年版の「物体」は狡猾に隊員たちになり代わり、恐怖を与える存在でしたが、その一方で正体を明かした瞬間、人間に火炎放射器であぶられれば抵抗できずに殺されてしまう存在でもありました。
そのうえ、攻撃を受ければ早々と分離し逃げて生き永らえようとする、どこかひ弱な存在にも見えます。
一方『…ファーストコンタクト』では、異形の状態で人間を追い回したり、小さな個体を分裂させて人間を襲ったり、広範囲に触手をしならせて人間を串刺しにしたりと戦闘能力の高さが強調され、82年版とは違った恐怖を植えつけます。
少し意地悪な考え方をすると、大人の事情で、クリーチャーの造形の多くがアニマトロニクスからCGに置き換えられたことにより、スピード感が出たのではとも考えられますが。
『…ファーストコンタクト』で人間と初めて交戦した物体は、多くの細胞を失って命からがら犬に寄生し、アメリカ観測隊基地に辿り着きました。
つまり、82年版に登場する「物体」は、ノルウェー観測隊との戦闘ですでに疲弊していたとも考えられます。
一方で、『…ファーストコンタクト』では研究室を燃やすといういかにも荒っぽい手段で血液テストを妨害していましたが、82年版では血液保存庫の鍵を盗み出して中身を流すという、さも仲間のうちの誰かが鍵を取り出してそうしたように見せかけています。
状況の違いがあるとはいえ、人間の考えを先回りして、なるべくスマートにテストを妨害したことを考えると、明らかに行動が知的になっていることが窺えます。
『…ファーストコンタクト』での戦いを経て、肉体的に衰えた「物体」は、その代わりに、より知能を発達させて生存し、さらなる獲物を吸収することで元の強靭な肉体を復活させようとしていたのかもしれません。
まとめ
アメリカ観測隊が未知の「物体」に遭遇する82年版、彼らがその惨状を目の当たりにしたノルウェー観測基地にスポットを当て、アメリカ観測隊が来る前に何が起こったのかを描き出す『…ファーストコンタクト』。
続けて観てみると、解き明かされた謎もあれば、今なお残された謎もあるようです。
太古の昔、宇宙船が地球に飛来した理由は何だったのでしょう?
「物体」から生き延びた生存者たちはその後どうなったのでしょう?
そもそも彼ら生存者は、本当に「人間」だと確信できるのでしょうか?
答えの出ない謎に答えを見出すためか、それとも劇中の登場人物が不運にも遭遇した人間が人間でなくなる異次元を追体験したくなるためか、何度でも観返したくなる作品です。