映画『ドライヴ』ネタバレ解説 ! こんなにかっこいいバイオレンス映画ってあり ?
謎めいた寡黙な男が大切な人を守るために犯罪に手を染める姿を時に過激なバイオレンスに、時にロマンチックに描いた映画『ドライヴ』。メガホンを取ったニコラス・ウィンディング・レフン監督は本作でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞しました!
登場人物は多くなく、一見シンプルなストーリーですが、随所にカッコイイ場面がちりばめられ不思議な魅力にあふれた映画です。そんな映画『ドライヴ』のあらすじを、カッコイイ魅力に触れつつ紹介していきます
映画『ドライヴ』ネタバレあらすじ
【ネタバレあらすじ①】裏の職業をもつ彼は恋心をいだいて
L.Aの自動車整備工場で働く寡黙なドライバー(ライアン・ゴズリング)は、整備工場のオーナー・シャノン(ブライアン・クランストン)の頼みでカー・スタントのバイトもこなすかたわら、裏ではそのドライビング・テクニックを活かし、強盗の逃がし屋をしていた。
日頃から気になっていた隣人、アイリーン(キャリー・マリガン)の車がスーパーで故障し、マンションまで送っていったことがきっかけで、ドライバーはアイリーンと息子のベニシオ(カーデン・レオシュ)と仲良くなる。
シャノンは、あまり金にならない車の修理事業からカーレース業への鞍替えを考え、裏社会の権力者であるバーニー・ローズ(アルバート・ブルックス)に資本の出資と、ドライバーをレースに出場させるよう頼み込む。ドライバーはアイリーンとデートを繰り返し、ベニシオもすっかり彼になついていた。そんな時、服役していたアイリーンの夫スタンダード・カブリエル(オスカー・アイザック)が出所する。
ある時、ドライバーはスタンダードが血だらけで倒れている現場に遭遇する。刑務所で借金を作った彼は、出所後も質屋を狙った強盗に誘われていたのだ。家族が狙われることを恐れた彼は断れず、自分がゆすられて暴行されたこともアイリーンには黙っていた。ドライバーは、アイリーンとベニシオを守るため、スタンダードの犯罪に逃がし屋として協力する。
【ネタバレあらすじ②】スタンダードを逃すはずが事件が起きる
強盗実行の日、金は奪えたものの、スタンダードはドライバーの目の前で射殺されたる。モーテルに逃げ込んだドライバーがニュースを見ると、先ほどの強盗事件がスタンダードの単独犯で、実害はなかったと報道されていた。スタンダードがはめられたと気付いたドライバーは、共犯のブランチ(クリスティーナ・ヘンドリックス)を問いただすが、その直後何者かに襲撃され彼女は殺される。
敵を返り討ちにしたドライバーはシャノンのもとに転がり込み、クック(ジェームズ・ビベリー)という男がスタンダードを犯罪に巻き込んではめたことを話した。ドライバーはクックの居所を突き止めトンカチで彼を痛めるつけるが、クックはそこで強盗がバーニーの相棒ニーノ(ロン・パールマン)の指示だったことを白状する。ドライバーは、ニーノに電話し、金を返すと提案する。
ドライバ-はアイリーンに、スタンダードが刑務所で借金をしたため家族を弱みに強盗計画に巻き込まれたこと、自分がそれに協力したこと、そして自分がアイリーンとベニシオを守るから奪った金で別の土地で暮らそうと伝える。しかしアイリーンは、ドライバーの話を受け入れることが出来ない。そうしている内にエレベーターで、二人はニーノの手下に襲撃される。
【ネタバレあらすじ③】愛する人を守るため突き進む
ニーノの手下の頭を容赦なく蹴りつぶしたドライバー。凄まじい暴力性を見せた彼に、アイリーンは怯える。ドライバーは、シャノンの元へ向かい自分たちの居所がバレたことを彼に問いただす。
シャノンはクックの居所を聞くために、ドライバーがアイリーンのためニーノの強盗計画に加担したことをバーニーに話していた。しかしそれが原因でドライバーとアイリーンの居所がバレてしまったのだ。実は、強盗で奪い取った金はニーノのではなく、マフィアから横取りしたものだった。強盗の黒幕がニーノだと知られれば、ニーノもその相棒のバーニーもマフィアに消されてしまう。バーニーたちは強盗の首謀者がニーノだと知っている人物全員の口封じをすることに決めたのだ。
バーニーは手始めにクックを殺害し、L.Aから逃げようとしていたシャノンも殺害する。ドライバーは、修理屋でシャノンが殺害されているのを目にし、静かに涙を流す。ニーノが経営するピザ屋で待ち伏せするドライバー。尾行の末、ニーノの乗っている車に自分の車を体当たりさせ、海岸に転落させた。それでも生き延びていたニーノを、ドライバーは海に沈ませた。
バーニーからこの件にケリを付けるため中華レストランに来いと電話を受けるドライバー。バーニーは、強盗した金を返せば、アイリーン親子には今後一切手を出さない、ただし、ドライバー自身には一生付きまとうと警告する。
ドライバーが車のトランクの金を見せた直後、バーニーにナイフで腹を刺される。ドライバーは力づくで刃物を取り上げ、バーニーを返り討ちにする。運転席で力尽きたかに見えたドライバーだったが、やがて起き上がり車で走り去っていく。アイリーンはドライバーの部屋を訪ねるが、彼はまだ帰っていない。
ドライバーは夜の街で車を走らせるのだった……。
映画『ドライヴ』ネタバレ | 見逃せない4つのみどころシーン
【『ドライヴ』みどころ①】オープニングシーン
夜のL.Aで逃がし屋の仕事をするドライバー。その危険な稼業と彼のドライバーとしての優秀さ、無頼さ、危険さをうかがい知れるのがオープニングの犯罪シーンです。
警察の無線を傍受し、上手くパトカーを回避して犯行現場から遠ざかるスマートさ。警察のヘリコプターに見つかれば、素早く橋の陰に滑り込み、パトカーが遠ざかるまでエンジンを切る静かな豪胆さ。そして、いざ交差点でパトカーに気付かれれば、スピードを上げて追跡を振り切るドライバーテクニック。
そのあとは、試合の興奮にわくスタジアムの駐車場で車から降り、流れる手つきでキャップをかぶり、ジャケットを脱いで、人ごみに紛れながら警察の目の前を通り抜けていきます。実践的で無駄の無い静かな逃走劇が、ネオンの輝くL.Aの夜をバックに映されるスタイリッシュなシーンです。この後にタイトルが入り、冒頭から映画の雰囲気を盛り上げます。
【『ドライヴ』みどころ②】キスシーン
映画序盤から既に仲睦まじかったドライバーとアイリーンが劇中一度だけキスを交わします。それは、2人の最初で最後のキスシーンであり、劇中最もバイオレンスなシーンの前に起こるのです。
ドライバーがアイリーンに、彼女の夫がなぜ死んだのかを打ち明けた後、エレベータに乗り込んだ2人。ドライバーはエレベーターに居合せた男が自分たちの命を狙っていることに気付きます。アイリーンと息子のベニシオを守り、どこか別の場所で2人と暮らす夢が叶わないと悟ったドライバーは、例え自分の本性を知り彼女が自分の元から離れたとしても、彼女を守りきることを誓います。そしてアイリーンが受けいれないであろう本当の自分を見せる直前に、彼女に最初で最後のキスをするのです。
自分の横にいる彼女をそっと男から引き離すように自分の後ろに動かし、振り向きざまにキスをするドライバー。その瞬間、ドライバーとアイリーンだけが光に包まれるように照明が暗くなり、つかの間2人だけの世界が誕生します。キスを終えた後の穏やかな青年の顔から一転、顔に青筋を立て恐ろしい表情を見せます。男に振り返ったドライバーは、彼女の目の前で激しい暴力性をむき出しにして敵を粉砕するのです。
男の顔を踏みつぶしたドライバーを怯えた様子で見つめエレベーターの外に出たアイリーン。髪を乱しながらどこか悲痛な面持ちで無言のドライバー。自分の凶暴な姿を観た今、もう二度と彼女は自分を受け入れないだろう、そうドライバーが悟ったかのようにエレベーターの扉が閉まります。もう後戻りは出来ないのです。
【『ドライヴ』みどころ③】バーニーとのクライマックスシーン
強盗した金をドライバーがバーニーに返そうとしたにもかかわらず、バーニーはドライバーを刺します。しかし、ナイフを引き抜いたドライバ-がバーニーにやり返す場面、カメラは血みどろになる二人ではなくアスファルトに映った二人の影を映します。
アイリーンとの生活に憧れながら、良かれと思ってとった行動がすべて裏目に出て、最後には自分の暴力性をさらけ出すドライバー。そして、全うな商売で成功する事を望みながら、結局は裏社会で生き残るために手を汚さずにはいられなかったバーニー。お互いの性を変えられなかった二人の影が溶け合うようなシルエットは、結局二人とも寓話のサソリ同士であったことを意味しているのかも知れません。
【『ドライヴ』みどころ④】「明」と「暗」ドライバーとアイリーンの対比シーン
日差しに包まれるアイリーンと壁に日差しを遮られ日陰を背景に立つドライバー。
明暗が使われた、ドライバーが初めてアイリーンの部屋に招かれて身の上話をする場面。二人が同じフレーム内に映ることは少なく、お互いが1人ずつ映るシーンでは、異なった色味の背景に立たされています。2人が同じフレーム内に映るシーンでも、アイリーンは日が当たる明るい場所に立っているのに対し、ドライバーは壁に光が遮られた日陰に立っています。
これらの演出は、犯罪や暴力から逃れられない裏の世界に生きるドライバーと、表の世界に生きるアイリーンとでは住む世界が違うことを意味しています。そう考えると、ドライバーが親子と一緒に過ごす陽光溢れるドライブシーンや、エレベーターでのアイリーンとのロマンティックなキスシーンは、とても切ないシーンだと思いませんか。
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挿入歌『A Real Hero』
College & Electric Youthが歌うこの曲はドライバーがアイリーンとベニシオを車に乗せて川沿いをドライヴする場面で流れます。まだ10代にも満たない息子を抱え、夫が不在の中、犯罪者の家族として形見の狭いを思いを抱えながら生活していたであろうアイリーンにとって、ドライバーは不安定ない生活に安らぎを与えてくれる存在だったのかもしれません。
また、息子のベニシオにとっても、ドライバーは父であり兄であり友達の代わりだったのではないでしょうか。そんな二人にとって自分たちの事を深く尋ねず親切にしてくれるドライバーは、ヒーローのように映ったのです。そして他人に過去を語らず夜の闇に溶け込むように生活していたドライバーにとっても、アイリーン親子は表の世界でまっとうな生活を送る夢を見せてくれた特別な存在だったのではないでしょうか。
ジャケットの背中にあるサソリの刺繍
ドライバーが着ているジャケットの背中に刺繍された印象的なサソリのモチーフ。これは彼が、サソリとカエルの寓話のサソリに値することを物語っています。その寓話とは、このようなものです。
一匹のサソリが川岸を歩いていました。彼は向こう岸に渡りたいので、一匹のカエルに自分を背中に乗せて川を渡ってくれるよう頼みます。カエルははじめ、サソリの頼みを断りました。そんなことをしたらサソリの毒針で自分が刺されてしまうからです。
しかし、サソリはカエルにこう言いました。「君を毒針で刺したら、背中に乗っている僕もおぼれ死んでしまうだろ。そんなことするわけないじゃないか。」そう言われて納得したカエルは、サソリを自分の背中に乗せて川を渡り始めました。
ところが、川の真ん中あたりに来て体が痛み出します。サソリの毒針がカエルの体に刺さったのです。カエルは毒で動けなくなり、水の中に沈みながらサソリに問いました。「僕を刺したら君までおぼれ死んでしまうのに、どうして僕を刺したんだ?」サソリはカエルとともに沈みながら答えました。「すまない。これが僕の性なんだ。」
愛する女性を見つけ努力したけれど、裏社会から抜け出せなったドライバーも、家族のために足を洗いたかったけれど、犯罪に加担させられるスタンダードも、堅気の仕事で成功する夢を見つつも、自ら部下を手にかけなければならなくなったバーニーも皆、寓話のサソリのように、自分の性を変えることは出来なかったのです。
劇中に登場する2台の車
シボレー・シェベル・マリブSS
本作でのドライバーの愛車がこの車、シボレー・シェベル・マリブSS。車を整備工場に預けたアイリーン親子を乗せて寄り道するシーンでは、美しい白の車体を陽光にきらめかせて走ります。川面の近くをさわやかに走り抜ける様子は、劇中でドライバーが最も幸せな瞬間を描いているようです。ドライバーはこの車と夜の闇に溶け込むことがシーンが多いですが、日の光が照らすこのシーンではつかの間、アイリーンたちが暮らしている表の世界に浸ることが出来たのでしょうか。
しかし、二―ノ殺害のシーンで彼を夜の海岸線に突き落とすのもこの車です。彼を乗せてドライバーが体験する裏と表の世界を走るこの車は、背中のサソリと同じくドライバーを象徴するアイテムと言えるかもしれません。
そして、質屋の強盗用にドライバーが運転するのがフォードマスタングGT。スタンダードが目の前で殺される最悪の展開を迎えた後、襲撃現場に到着したもう一台の車から逃れるカーチェイスが始まります。カーブの激しいL.Aの道路をドライバーのテクニックで走行し、他の車を上手く追い抜きながら追手から逃れます。黒くつややかなラインが美しい車ですが、いざとなれば相手と正面からぶつかって、スピンターンで相手の車をクラッシュさせるなど派手な活躍も見せます。
他にも、このフォードマスタングGTを追跡する敵の車にクライスラー300が使われていたり、オープニングで大活躍するシボレー・インパラなど、印象的な活躍を見せる車が何台も登場します。
まとめ
孤独な男が愛した人を守るために自分の身を危険にさらして敵に立ちむかうという物語はいくつも語られてきましたが、この映画は特にかっこよく鮮烈な印象を与えます。それは、このシンプルな物語の中に、別の世界に行きたくても自分の住んでいる場所から逃れられない人の性が、キャラクターたちの行動やサソリのシンボルなどで象徴的に描かれていたり、住む世界の違いや多くを語らない主人公の心情が無駄なセリフを排したお洒落な演出で描かれているからです。加えて、主人公ドライバーを言葉よりも表情やたたずまいで演じきったライアン・ゴズリングの存在感もこの映画をかっこよくみせる大きな要因でしょう。
「さすらいの主人公が弱き人々を救う物語が好き!」「セリフは少なくお洒落な映像と音楽で雰囲気を醸し出す映画が好き!」な方はぜひ観てみてくださいね。