アメリカの闇を描いた映画『モーリタニアン 黒塗りの記憶』の魅力を語る
アメリカ同時多発テロより20年――。人々の心に痛ましい記憶を植え付けた出来事により、ある男が無実の罪で収容される事件が発生。
彼は無実を訴え続け、2015年には自らの体験を明かした手記を発刊。全米を震撼させる内容が話題となり、大ヒットとなりました。
真実をベースに制作された『モーリタニアン 黒塗りの記憶』は、人権問題を扱う社会派サスペンス。無実の男を救うべく奮闘する弁護士・ナンシーと、真実を闇に葬る国との戦いが繰り広げられていきます。
絶望的な状況の中でナンシーは勝利を勝ち取れるのでしょうか?そしてアメリカが隠蔽し続けた驚愕の内容とは……。10月29日公開の映画『モーリタニアン 黒塗りの記憶』の魅力を語っていきます!
目次
アメリカの闇を暴く!映画『モーリタニアン 黒塗りの記録』について
痛ましい記憶を人々の心に植え付けたアメリカ同時多発テロ。「9.11」と呼ばれた事件の首謀者として、アフリカ人のスラヒ(タハール・ラヒム)が拘束されてしまいました。
彼は無実を訴えますが、その間起訴や裁判が行われることなど一切なし。長期間グアンタナモ湾収容キャンプに閉じ込められ、絶望的な日々を送ります。
そこへ弁護士のナンシー(ジョディ・フォスター)とテリ(シェイリーン・ウッドリー)が現れ、彼の弁護につきます。だがしかし、その頃米軍はスラヒに死刑判決を下すよう動き始めていて……。
本来は全米で2020年下半期に公開予定だった本作ですが、コロナウイルスの影響で泣く泣く延期に。無事に2021年2月に公開を終え、遂に2021年10月29日、日本上陸が決定しました。
実在した話を映像化した挑戦的なストーリー
本作は、実在した人物モハメドゥ・ウルド・サラヒの手記を元に制作。2015年に彼が執筆した『グアンタナモ収容所 地獄からの手記』の衝撃的な内容に、全米が動揺を隠せない状態に!惨たらしい現実が次々と綴られ、瞬く間に話題となったのです。
さらにアメリカの検問から“不適切”だと判断された部分は全て黒塗りになっており……。そこもまた国民を震撼させた部分でしょう。2019年には黒塗りなしの完全版が登場しましたが、闇を暴くまでには相当な年数を要しました。
国と戦い続けたナンシー、そして衝撃の事実を隠すことなく執筆したスラヒ。アメリカにとってこの出来事はまさに、公にしたくない問題でしょう。国からすれば不利になることは間違いありません。
しかしそれをあえて映像化し、世界中へ人権問題を訴えています。非常にデリケートな題材を扱っていますが、実に挑戦的。映画としての娯楽だけでは終わらせたくない、そんな強い思いが込められている作品となりました。
硬派ながら遊び心も忘れない、観客を飽きさせない演出
内容がシビアですから、『モーリタニアン 黒塗りの記憶』ではつい目を覆いたくなるようなシーンもいくつか登場するものの、ドキュメンタリーではないため、作品としての遊び心も忘れないのがポイント。過去と現実を交互に進行させたり、収容所の痛々しいシーンを芸術性溢れる描写に変えたり……。
ただ「可哀想」に映すだけではないのが、ケヴィン・マクドナルド監督の腕がキラリと光っています。。
決して分かりづらい演出ではなく、観客の心や頭にスッと入ってくるような画なのも◎
ノンフィクションとして、一つの作品としても十分に見ごたえがあると思います。捻り過ぎず個性もしっかりと視聴する、エンターテイメント性も高い映画といえるでしょう。
衝撃のラスト!最後まで気の抜けない展開に目が釘付け!
無実の罪を訴えるスラヒ、彼を救いたいナンシー、そして軍から死刑判決を下すように言われているスチュアート中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)。3人の想いがそれぞれ交差しながら物語は進んでいきます。
どう考えてもスラヒとナンシーらの立場は圧倒的に不利。なんせ軍の司令なら、アメリカ合衆国そのものと戦っているのですから……。スケールの大きすぎる戦いに、「負け戦では?」と誰しもが思ってしまうのです。
一つ進めば後退し、の繰り返しにとてもハラハラさせられることでしょう。序盤から弁護側は不利であるため、マイナスからのスタートのようなもの。そこからどう状況をひっくり返すのか?まさにそこが見どころなのです。
スラヒ本人も焦り、動揺を隠せませんがナンシーだけは至って冷静。どんなに追い詰められても、次を打つ手を考えるのに難航しても、真っ向から立ち向かう姿勢がとにかくカッコ良すぎます!
ほぼ八方ふさがりと言える状況のまま話が進み、ラスト30分の加速っぷりは必見。最後まで一切気が抜けぬ戦いに目が釘付けです。
ちなみにエンドロールまでしっかりと演出がありますから、話が終わってもすぐに席を立たないようにしてくださいね!
弁護士VS国、静かなバトルが火花を散らす
法廷サスペンスと言えど、お互いがぶつかり合って怒鳴り散らすような戦いではありません。決して弁護士と軍が直接対峙することはなく、遠くからバチバチと火花を散らしてぶつかっているイメージです。
物語同様、両者の攻防が静かに進んでいきます。視覚的な激しさはないものの、この淡々とした感じが逆にゾクリとするんですよね。どう相手の裏をかくか、計算し尽くされた戦いっぷりは要注目ですよ。
お互いが知恵を絞り、頭を捻り、自らの勝利へ導こうとする様子が緊張感たっぷり。ラストまで緊張の糸が一切緩みませんので、観賞している我々まで息が詰まるような感覚となってくるのです。
国という大きすぎる存在に立ち向かっていく弁護士チームの勇敢さも、見どころの一つ。特にナンシーの存在は興味深く、「戦う女性は素晴らしい」――。そんなフレーズがぴったりな登場人物です。彼女の活躍にも目が離せません。
スケールの大きな勝負でありながら、あくまで冷静さを欠かないのが『モーリタニアン 黒塗りの記憶』の魅力と言えるでしょう。人権と国際問題を賭けた本気の争いをその目に焼き付けてください!
有名俳優勢揃い!豪華キャストにも要注目
主人公のナンシーを務めるのはジョディ・フォスター、対する軍で中佐を務めるスチュアートはベネディクト・カンバーバッチ。豪華二大キャストの名前を聴くだけで作品への興味がさらに増してしまいますね!
抜群の演技力で緊迫感溢れる空気を作り出す2人。それぞれの心情やキャラクター性もよく現れており、観客にとっても感情移入がしやすいでしょう。
またサラヒ役はタハール・ラヒム、テリ役はシェイリーン・ウッドリーとこちらもまた豪華。実力派である2人は賞レースの受賞経験もあります。特にシェイリーンは若手ながらキャリアも長く、今大注目の女優さんなんですよ。
メインキャストに有名キャストを配置することで、より作品の完成度も高まっているのです。
監督はドキュメンタリー映画で定評のあるケヴィン・マクドナルド。本作も実話を基にした作品を手掛けました。他にもサスペンスやスリラーを得意としているため、『モーリタニアン 黒塗りの記憶』にハラハラする要素が盛り込まれているのも納得がいくことでしょう。
まとめ
隠されたアメリカ合衆国の闇を暴き、国だけではなく世界へ訴えかける『モーリタニアン 黒塗りの記憶』。
黒塗りであった部分全てを曝け出し、我々の喉元へ突き付けてくる姿勢には脱帽。人権問題について真剣に考えさせられる映画です。
この世には無実の罪をきせられ、同様に収容されている人間が多数いると言われています。たとえそれが遠い国で行われていたとしても、他人事ではありません。平和と言われる日本に住んでいるからこそ、惨たらしい現実から目を背けてはならないのです。
ノンフィクション映画としてだけでなく、一つの法廷サスペンス映画として楽しむのも良いでしょう!社会派ドラマ好きにも納得のいく出来栄えとなっています。
公開を今から楽しみに待っていてくださいね。予習として『グアンタナモ収容所 地獄からの手記』を事前にチェックしておくのも良いと思いますよ!