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映画『羊の木』あらすじネタバレ | 人間心理を描いたヒューマンサスペンス

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隣り合わせの普通と狂気~交錯する人間模様を描いた映画『羊の木』。

本作で監督を務めるのは吉田大八。長編映画監督デビュー作品『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(2007年)は、第60回カンヌ国際映画祭の批評家週間部門に招待され、新人監督の登竜門とされる同部門で高い評価を受けました!

また『羊の木』は、第22回釜山国際映画祭(2017年)でキム・ジソク賞を受賞し、日本映画の素晴らしさを伝えました。

巧みな人間描写で、観る者に解釈を委ねる吉田大八監督。『羊の木』で投げかけてくるメッセージとは一体なんなのでしょうか?

ここでは、そんな『羊の木』のあらすじやみどころを解説していきます!

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映画『羊の木』ネタバレあらすじ

出典:映画『羊の木』予告編 

過疎化がすすむ富山県魚深市。市役所に勤める月末一(錦戸亮)は上司から、ある国家プロジェクトの担当を任される。ちいさな港町・魚深に移住者が6名来るという。出迎えた月末の前に現れたのは、福元宏喜(水澤紳吾)、太田理江子(優香)、栗本清美(市川実日子)、大野克美(田中泯)、杉山勝志(北村一輝)、宮腰一郎(松田龍平)だった。どこか違和感を感じる月末は、やがて驚愕の事実を知る。彼らは全員、元殺人犯だと。

ここから映画『羊の木』のあらすじを、ネタバレを含みながらご紹介していきます。




【あらすじ①】移住者たち

羊の木 ネタバレ
出典:映画『羊の木』公式Twitter

海が広がる寂れた港町・富山県魚深市。月末(錦戸亮)は市役所に勤務し平凡な日常を送っていた。その日もいつものように過ぎるはずだった――

神妙な面持ちでパソコンを見る上司・神崎(鈴木晋介)は月末を呼び、新たに魚深にやってくる6名の移住者を出迎えに行ってほしいと伝える。住居も雇用も、すべて整った受け入れだった。

駅で待っていると現れたのは小柄で挙動不審な男・福元宏喜(水澤紳吾)車中、話しかける月末に多くを語らない福元。

2人目は太田理江子(優香)、控えめな様子でパフェを口にすると軽く微笑む。「魚深はいいところ」と伝える月末。

外は雨、車中で待つ月末は電車の到着に合わせて3人目を迎えに改札へ行く。すらっとした長身の栗本清美(市川実日子)は、静かに車に乗り込む。人見知りなのかずっとうつむいている。

4人目の出迎え。車を走らせ流れる景色に不穏な空気を感じる月末。そこは高く冷たい刑務所の壁だった。左目に傷がある強面の男・大野克美(田中泯)に、月末は後ずさる。

移住した4名が受刑者であると聞いていなかった月末は、神崎に激しく詰め寄る。「知れば先入観にとらわれる」という神崎は、続けて極秘国家プロジェクトを語りだす。全く新しい仮釈放制度として受刑者は10年間定住、税金で賄われる生活は、職に就くことで削減、どんな形でも移住者が増えれば、魚深の過疎に歯止めをかけることになるというのだ。

5人目の移住者・杉山勝志(北村一輝)は、出迎えた月末に横柄な態度を取るが、月末はひるまず対応した。

海沿いを走る市役所の車。運転する月末の隣には、海を眺める6人目の移住者・宮腰一郎(松田龍平)が座る。年は月末と同じくらいだろうか。

過去を知りながら普通に接してくれる月末に、宮腰は刑務所に入った経緯を話し出す。街で因縁をつけられて喧嘩になり、気づくと相手が死んでしまった、過剰防衛だったと。

所内を歩いていると、月末は同級生・石田文(木村文乃)を見つける。千葉県の病院に勤務していたが、魚深に戻って暮らすのだという。

学生時代バンド活動をしていた文と月末、そして同級生・須藤勇雄(松尾諭)、再び揃った3人はまたバンド活動をはじめる。

羊の木 ネタバレ
出典:映画『羊の木』公式Twitter

【あらすじ②】邂逅

清掃員になった清美は仕事中、遠い崖の上に祀られた神・のろろを見つける。

のろろとは、かつて魚深市が村だった頃、人を襲い村を荒らした怪物だ。このままではいけないと、村人は力を合わせてのろろを海に返し、以降魚深の祟り神として祀っているのだ。じっと見つめる清美、いかにも不気味なのろろ像は海を見下ろしている。

ある晩、町にパトカーのサイレンが鳴り響く。港で人殺しが起きたらしい。死体は隣町の釣り客だった。変死=殺人ではないと思いたい月末に、田代は「6人のこと疑ってますか?」とささやく。後輩・田代翔太(細田善彦)は最近の月末の行動を怪しんで、移住者について調べていたのだ。そして、月末は驚愕の事実を知らされる。「6人とも人殺し」だと――

月末は父・亮介(北見敏之)と2人暮らし。亮介は右半身が不自由なため、昼は介護施設に世話になっていた。理江子も勤める施設だ。月末は亮介にフォローを頼み、「何かあったら俺に伝えて」言う

バンド練習をする3人。仕事中だった宮腰が、演奏の音が聞こえたからと覗きに来た。文と須藤に宮腰を紹介する。

雨森理髪店。福元は店主・辰夫に技術をどこで身につけたんだと聞かれ、答えに窮する。

浜辺の清掃をする清美は、不思議な絵が描かれた古い缶ふたを見つける。

羊の木 ネタバレ
出典:映画『羊の木』公式Twitter

夜、雨森理髪店。昼に辰夫が口にした言葉で、福元はまだ動揺していた。前を通りかかった月末を呼び止めて事情を話していると、買い物に出ていた辰夫が帰ってきて、月末と話したいことがあると言った。

ひとりで雨森理髪店をやってきた辰夫は、外から帰ってきて店に明かりがついているのが嬉しいと語りだした。

月末のひげを剃る福元の手元は震えている。そして、辰夫は「刑務所で免許を取ったね」と核心を突いてくる。福元の震えは激しさを増し、首元にあるカミソリに怯える月末、なんとか手を遠ざけると福元はうなだれる。受刑者の雇用がどんなに難しいことか月末は訴えると、辰夫は自分も受刑者だったと打ち明ける。福元に自分を重ねていたのだ。泣き出す福元に、前科者にとって大事なのは居場所があるってことだと、辰夫は寄り添うのだった。

文は潰れたラーメン屋を見ていた。学生時代に通った店だった。月末が通りかかって思い出話で笑っているが、月末の誘いには応えてくれなかった。

清美のアパート。清美は、ひとり静かに暮らしていた。部屋には以前、浜辺で拾った羊と木が描かれた缶ふたが飾られている。ある晩、清美は庭にスコップで穴を掘って魚を埋めるという不可解な行動をとる。

バンド練習倉庫。3人の演奏に合わせて、宮腰は見よう見まねでギターを弾くふりをする。演奏を終えると文は、1人練習する宮腰にコードを教える。笑いあう2人を、月末はそっと見ていた。

羊の木 ネタバレ
出典:映画『羊の木』公式Twitter

町では、「のろろ祭」の準備がはじまっていた。田代は港で起きた死亡事件が病死だったと残念そうに話す。少し安心する月末。そこに仕事中の宮腰が声をかける。

時折強い風が吹くなか、月末は宮腰を海に案内し、宮腰がのろろ像を見つめているので「のろろは、あまり見ちゃいけない」と教える。のろろがどんなものか説明する月末は、最後にのろろが突き落とされた崖に立ち、生け贄の話をする。祟り神となったのろろ様に2人生け贄を出し、1人が助かり、もう1人は海に沈むと。

宮腰は「ちょうど今2人だね」と言って笑った。




【あらすじ③】胸騒ぎ

怪物のろろを祀る奇祭「のろろ祭」当日。クリーニング店の店主・内藤朝子(安藤玉恵)に連れられて大野も祭へ向かう。夜に行われる祭のメイン“のろろ様の行列”とは男たちが白装束に身を包み、のろろ様を先頭に大名行列のように町中を練り歩くというものだ。

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出典:映画『羊の木』公式Twitter

のろろ様を迎え、白装束の男たちが列をなす。
暗闇の中「のろろ~のろろ~」という声だけが響いた。

亮介の家には理江子がいた。外を眺めていた2人は家の中に入ろうとするが、亮介に求められた理江子が拒み、亮介はバランスを崩し倒れてしまう。

突然強い雨が降り出し、祭は中止になる。「のろろ様怒ってるんですかね……」と宮腰は尋ねる。

亮介は骨折で入院となり、叔母の妙子(山口美也子)から理江子との関係を問われた月末は理江子のもとへ向かう。「夫を殺しました」理江子は重い口を開いた。セックス中に首を絞めてほしいと求められ、「本当に夫を好きだからこそ……」気づくと死んでいたと言う。月末は、そんなことは理解できないから、亮介とは会わないでくれと席を立つ。理江子は、もう人を好きになれないのかと悲しそうだ。

のろろ祭が全国紙に掲載されたと喜ぶ田代。だが写真には、杉山と宮腰の姿が写っていた。




 

店内を何度も掃除する大野、以前より客が減っているようだった。朝子は大野のせいだと言いつつ、彼をかばう。傷があるだけで判断するのは違うと。大野は「人が肌で感じることはたいがい正しいですと言って、朝子に自分の過去を話す。

朝子は、それでは辞めてもらうしかないと言う――

店をあとにする大野を追いかけてきた朝子は、「私はあんたが悪い人だなんてひとつも肌に感じてない!」と言うのだった。

新聞記事を見たと言って、目黒(深水三章)という男が市役所に宮腰を捜しに来る。息子が世話になったからと言うが、個人情報なのでと断られる。

港。ビールケースが倒れ、ビンが大きな音をたてて割れるが、そばで仕事をしている宮腰は反応しない。それを見ていた杉山は、宮腰は刑務所あがりだと確信する。杉山は退屈しのぎに何かしようと企みに誘うが、また相手にされなかった。宮腰は車に乗り込み、まっすぐ前を見ていた――

子供たちは死んだ亀を見て泣いている。清美は亀を埋葬し、「木が生えてまた亀に会える」と言う。

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出典:映画『羊の木』公式Twitter




【あらすじ④】絶望

宮腰を捜している目黒は町で聞き込みをするが、なかなか情報がない。

港まで足をのばし、宮腰と写真に写っていた杉山を見つける。

後日のバンド練習倉庫。文と2人きりになった月末は宮腰とつき合っているという文に「何も知らないのに!」と言うと文は「わかりたいからつき合う!」と言い返す。苛立つ月末は宮腰の過去を文に話す。知ってしまった文は動揺しているようだった。月末は後悔するが文は出て行ってしまう。

宮腰に電話をかけ文に過去を話してしまったと月末が謝ると、友達として謝るのなら許すと宮腰は言う。

電話を切った宮腰に目黒が近づき、息子のことを全然覚えていない宮腰に怒って襲いかかる。その様子を杉山のカメラが狙っていた――

市役所。移住者が来てから犯罪に興味を持った田代は、宮腰の刑期がおかしいと月末に言う。過剰防衛の初犯としては、刑が重すぎる。しかし、未成年で犯した罪があるなら妥当だと。しかも、宮腰を捜している目黒の存在も気になっている様子だ。

海では、杉山の釣り船に宮腰が乗っている。目黒とのことを知っていると笑う杉山。宮腰は目黒、そして目黒の息子を殺していた。

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出典:映画『羊の木』公式Twitter

陸へ戻ると、宮腰は猛スピードで車を走らせ杉山をひき殺した、躊躇せずに――

スナックで働く文に、話したいことがあると月末から電話が入る。あとで会う約束をして、家に帰ろうとすると宮腰が現れる。遠くではパトカーのサイレンが鳴っていた――

月末の部屋でギター練習をする宮腰はとても疲れているようだ。月末は思い切って少年院の話を切り出した、友達として。宮腰は「行った」と一言いって眠りにつく。いつの間にか月末も寝ていたようだ。目が覚めると宮腰は海へ行こうと言い出し、車を走らせた。

文が月末に電話をかけると、宮腰から岬においでと言われた。

車を降りて真っ暗な海へと歩く2人。宮腰は海に飛び込んでのろろ様に決めてもらおうと言い出す。「自分は人殺し、これからも人殺し……」

どうにもならないと宮腰は諦めているようだった。それでも止めようとする月末の首に手を回す宮腰だが、殺すことはできず、悲しい表情を浮かべるのだった。

宮腰の車が発見され、中には遺体もある。そこへ慌てた文も到着する。

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出典:映画『羊の木』公式Twitter

ひとりで海へ飛び込もうとする宮腰を、むせながらも追う月末。名前を叫びながら2人のもとへ急ぐ文。次の瞬間宮腰は月末の腕をつかみ、2人は海に落ちる。驚いた文は月末の名前を呼び続けた。

【あらすじ⑤】希望

顔を出したのは宮腰だった。その時、音を立ててのろろ像が宮腰に向かって崩れ落ちてくる。宮腰が沈むと月末が顔を出した。助かったのは月末だった。

清美のアパート。死んだ生き物を埋めたところから、小さな芽が生えてきている。

海に沈んだのろろ像を引き上げるため、港には人が集まっていた。大野は朝子と来ている。そして、2人で記念写真を撮る。大野もぎこちないが笑っている。

雨森理髪店。辰夫が福元にカットを教えている。

亮介と理江子は穏やかな時間を過ごす。

信号待ち。向かいにいる文が何か言っている、考える月末は「……ラーメン!」と、気づく。信号が青に変わり互いに向かう方向へと走り去る。文は小さく微笑んだ。

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出典:映画『羊の木』公式Twitter

映画『羊の木』キャスト紹介

月末一/錦戸亮

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出典:映画『羊の木』公式Twitter

テレビドラマを中心に活躍してきました。映画『羊の木』で本格的なサスペンス作品に挑戦し、その演技力は高く評価され今後の活躍が期待される俳優のひとりです。映画出演作は『ちょんまげぷりん』(2010年)、『県庁おもてなし課』(2013年)、『抱きしめたい ―真実の物語―』(2014年)など。

物語の舞台・魚深市の市役所職員。犯罪者の受け入れ担当者になったことをきっかけに、平凡な日常に違和感が生まれることに。学生の頃から密かに文を想っていて、宮腰と文の交際を知って憤ります。友達として宮腰と接したはずが、宮腰の狂気を目の当たりにして対峙するクライマックスは見ごたえ最高です。

石田文/木村文乃

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出典:映画『羊の木』公式Twitter

映画『アダン』(2006年)のヒロイン役で女優デビュー。以降映画、ドラマ、CMにも多数起用される人気女優です。『上京ものがたり』(2013年)、『くちびるに歌を』(2015年)、『ザ・ファブル』(2019年)などの映画に出演。30代となり役柄の幅も増え、今後が気になる女優です。

月末の同級生、都会での生活に疲れて故郷・魚深に戻り、宮腰とつき合うようになりますが、彼の過去を知って怖気づいてしまいます。どこにでもいそうな女性をナチュラルに演じています。




杉山勝志/北村一輝

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出典:映画『羊の木』公式Twitter

ストイックすぎる役作りで作品に強烈な印象を残し、映画、テレビドラマ、舞台、そして海外映画作品にも精力的に挑戦しています。バイオレンスアクションから時代劇コメディーまで演じ分ける実力派俳優です。主な映画出演作は『血と骨』(2004年)、『龍が如く 劇場版』(2007年)、『テルマエ・ロマエ』(2012年)、『猫侍』(2014年)など。男の色気が魅力な俳優で、今作でも不敵な笑みをうかべます。

傷害致死の過去があり魚深に馴染もうとせず、いつも悪だくみを考えています。

本作の中で“一番悪い人”なのかもしれません。

太田理江子/優香

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出典:映画『羊の木』公式Twitter

タレントとして“明るく元気”なイメージが強いですが、近年は女優としての活躍が目立ってきました。『体脂肪計タニタの社員食堂』(2013年)、『オーバー・フェンス』(2016年)などの映画に出演しています。

今作では月末の父・亮介と愛し合うという太田理江子役を演じ、キスシーンが衝撃的と話題になりました。どこか寂しく妖艶な姿で男性を惹きつける、今までにない役どころに注目です。

栗本清美/市川実日子

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出典:映画『羊の木』公式Twitter

モデルとして活躍後、『blue』(2003年)で初主演、さらに第24回モスクワ国際映画祭最優秀女優賞受賞(2002年)。その後も女優として着実に力をつけ多数の作品に出演、2016年公開の『シン・ゴジラ』尾頭ヒロミ役で魅せた無表情と早口長セリフが話題となりました。同作で第40回日本アカデミー賞 優秀助演女優賞受賞(2017年)。

栗本清美は不思議な行動をとり内面が読みきれない女性ですが、彼女の行動が最も『羊の木』を感じさせるかもしれません。

福元宏喜/水澤紳吾

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出典:映画『羊の木』公式Twitter

数々の映画、テレビドラマに出演する名バイプレーヤーです。個性的な佇まいは印象的で、主演はもちろん、小さな役でもインパクトを残す演技が魅力的な俳優です。

映画『SR サイタマノラッパー』(2009年)のMC TOM役や初主演作『ぼっちゃん』(2013年)では高い評価を受けました。

今作の福元役では、気弱な男が酒で豹変してしまうという二面性を持った役を見事に演じました。

大野克美/田中泯

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出典:映画『羊の木』公式Twitter

モダンダンサー、舞踏家として世界で活躍し、『たそがれ清兵衛』(2002年)で鮮烈な映画デビューを果たしました。同年同作で第48回キネマ旬報賞新人男優賞、第26回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞・新人俳優賞を受賞しました。その後も『メゾン・ド・ヒミコ』(2005年)、『るろうに剣心 京都大火編 / 伝説の最期編』(2014年)など多数の映画に出演しています。渋い佇まいが魅力的な俳優です。

今作でも元やくざの男性を哀愁たっぷりに演じて魅せてくれました。

宮腰一郎/松田龍平

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出典:映画『羊の木』公式Twitter

御法度』(1999年)でデビュー以降、映画を中心にキャリアを重ねてきました。

『舟を編む』(2013年)第37回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞をはじめ、多数の映画賞で主演男優賞を受賞しました。年齢をかさねて多彩な役を演じ、個性派俳優の地位を確立しました。『蟹工船』(2009年)、『まほろ駅前多田便利軒』(2011年)、『泣き虫しょったんの奇跡』(2018年)など多くの映画に出演し、近年はテレビドラマにも活躍の幅を広げて、今後が期待される俳優です。

この物語の闇の部分を担っている宮腰一郎の、純粋すぎるがゆえの狂気はまさにハマり役といえるでしよう。




映画『羊の木』のみどころ

【みどころ①】主演・錦戸亮の“普通”が輝くすごさ!

アクの強い個性派俳優が揃う映画『羊の木』で、ひときわ地味な役の錦戸亮さん。撮影カメラの前に立つ錦戸さんは、これまで彼が積み上げてきた本業のアイドルとしてキラキラ輝く笑顔ではなく、周囲に溶け込み一般人と変わらぬ佇まいで普通の市役所職員・月末一を見事に演じました。

錦戸さんが月末という人物をよく理解し演じたことで、そこに1人の男性が普通に生活しているというリアリティを感じます。

映画『羊の木』は、俳優・錦戸亮の今後を期待させてくれる大事な作品になったと言えるでしょう。

そんな“普通”の錦戸さんに対し、松田龍平さん演じる宮腰一郎は“これぞ松田龍平”と映画ファンならずとも、【その表情の裏に何があるんだろう、怖いけど知りたい】と本作でもきっと惹きつけられてしまうでしょう。

【みどころ②】他者と交わりたいと願う心

移住者が出会う人たちは、彼らを受け入れるという簡単にはできないことをし、彼らをしっかりと自分のこころで判断して受け入れています。

福元を受け入れた辰夫は、境遇が同じということで見守り、理江子を純粋に愛した亮介は、理江子の過去を理解したうえで共に生きていこうとします。

大野はその見た目から周囲に威圧感をあたえ、さらに朝子に自分の過去を話して店を去ろうとしますが、大野と出会った時に朝子が感じた印象はまったく別でした。朝子が大野をしっかりと見て、感じて出した答えがラストの笑顔で充分伝わってきます。

強面の田中泯さんに朝子役の安藤玉恵さんがツッコミをいれるシーンは、チャーミングな田中さんの姿にクスッとして、重い空気が流れる本編にほんの少し癒しをくれます。

宮腰が月末に「友達として?」と確認する場面が出てきます。人とのつき合い方が不器用な宮腰は、少年時代“友達”がいなかったのかもしれません。月末と“友達”になりたいという気持ちに嘘はなくても、宮腰は自分の心の奥に潜む抑えることのできない感情に苦しみ、海に身を投げたのだとしたら悲しい結末です。「月末くんは助かるよ……」と。宮腰にしかできない“友達の証”かもしれません。

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出典:映画『羊の木』公式Twitter

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まとめ

素性が知れない者が隣どうしになる……そんなよくある日常に疑いをもって生き続けるのは、とても疲れることです。

『羊の木』の登場人物は、わたしたちの生活の中に充分存在しうる人たちばかりで、それは、自分以外の誰かのこと……とも言い切れないでしょう。

本作で主演の錦戸亮さんが演じる月末は、ごく普通の公務員。偶然、移住者の担当になっただけで、それは、もしかしたら後輩の田代だったかもしれない。

時として、人間どうしの繋がりは不思議なものです。いったいどうして知り合ったのだろう。運命?……その相手を「わかっている」「信じている」と言い切れるのか。これは日常のなかにいくらでも溢れている現実です。

吉田大八監督の作品は、登場人物の繊細な心理描写に惹きつけられるものが多くあるように思われます。それは、先に書いたように誰の日常に起きてもおかしくない出来事、自分に重ねて見てしまうほど身近な物語を見せられているからかもしれません。

吉田監督は、『羊の木』という謎のタイトルにもあまり言及していません。自分なりの解釈はあるようですが、それぞれが感じたままに、観た者に解釈をまかせるのも、また“吉田大八監督作品”を観る醍醐味と言えるでしょう!

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