映画マニアから高評価!『いつくしみふかき』の魅力をネタバレありで徹底解説! 

たかなし亜妖

 

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて、ゆうばりファンタランド大賞を受賞した『いつくしみふかき』。渡辺いっけいさん初主演となる記念すべき作品であり、映画ファンから高い評価を得ています。

決して軽快なテンポで進む物語ではありませんが、肉厚なヒューマンドラマに誰しもが心を奪われてしまうはず。本記事はネタバレを含みますので未鑑賞の方はご注意くださいませ。

映画『いつくしみふかき』について

いつくしみふかき ネタバレ
映画『いつくしみふかき』公式Twitter

ゆうばりファンタスティック国際映画祭を始め、ファンタジア国際映画祭、第5回新人監督映画祭、日本芸術センター第11回映像グランプリなど数多くの成績を残した『いつくしみふかき』。公開から約1年が経過しているものの、現在も日本全国で上映が続いており、根強い人気を誇っています。

ゆうばりファンタスティック国際映画祭は『カメラを止めるな!』が大賞を勝ち取った祭典です。本作も第二の『カメ止め』となり得る可能性が非常に高いと言えるでしょう。実在した人物をベースに物語が展開され、完成度の高さ、ストーリーの骨太さには圧倒されてしまいます。

監督は劇団チキンハートと大山劇団にて演出・脚本を務める大山晃一郎氏。助監督として様々な現場で活躍しており、長編映画のメガホンを取るのは今回が初!本作で一気に知名度を上げた実力派監督です。

 

10秒で分かる『いつくしみふかき』の簡単なあらすじ

『いつくしみチャンネル』

30年前、加代子(平栗あつみ)の出産中に夫の広志(渡辺いっけい)は、彼女の実家で窃盗を働いていた。その現場を加代子の兄が発見し、村じゅうを巻き込んでの大騒ぎに。トドメを刺そうとする兄だが、牧師の源一郎(金田明夫)が抑止。広志は“悪魔”として扱われ、村を追放されてしまうのだった。

あれから時が経ち、息子の進一(遠山雄)は父のことをよく知らないまま過保護に育てられる。1人では何もできない状態で成長する中、村ではとある窃盗事件が起こった。事件の濡れ衣を着せられる進一、そして一方では村を追放されたはずの広志が、まだ人間として更生しておらず……。

映画『いつくしみふかき』のネタバレあらすじ

【あらすじ①】悪魔と呼ばれた男

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映画『いつくしみふかき』公式Facebook

長野のとある病院で加代子は子供を出産していた。廊下で祈る両親、駆けつける兄(小林英樹)、どこを見回しても夫の広志(渡辺いっけい)は見つからない。兄が急いで広志を探すと、彼は加代子の実家にて窃盗を働いていたのだった。揉み合いになる2人、村中を巻き込んでの大騒ぎとなってしまう。

追い詰められた広志に対し、兄は銃で命を奪おうとする。しかしそこで牧師の源一郎(金田明夫)が現れ、興奮する人々を鎮めた。結果的に広志は“悪魔”と称され村を追放、そして無事に息子の進一(遠山雄)が誕生した。

月日は経過し、30年後――。進一は過保護に育てられ、仕事さえも続かない人間となっていた。加代子は世話を焼きつつも甘やかし、仕事先さえ自ら頭を下げながら探してあげる始末。無表情で感情も露わにしない、そんな進一は父親と一度も対面をしたことがなかった。

かつて“悪魔”と呼ばれた人間の息子だ、加代子の身内は彼の存在を認めることができない。特に兄(進一にとっての叔父)は広志を強く憎み、その感情を時折ぶつけてくるのだった。

【あらすじ②】憎しみが増加していく中で

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映画『いつくしみふかき』公式サイト

相変わらずの進一に、兄の魔の手が忍び寄る。常に笑顔で接するものの心の中は憎しみでいっぱいだ。近づくたびに父の話題を口にしては、「村を出ていって欲しい」と懇願する。しかし進一からすれば、そんなことを言われる筋合いがない。「おじさんが出ていけばいいじゃないですか」と言い返し、深い溝が埋まることはなかった。

その日の晩、帰宅すると家には暗い顔の母親。そして村人がズラリ……。どうやら進一は村で起きた窃盗事件の濡れ衣を着せられてしまったらしい。息子を今までか保護に育ててきた加代子は信頼と疑心の間で揺れていた。父親の件は親子間でタブーとなっており、お互いがわざわざその話題を持ち出すことはなかったからだ。

しかし加代子からすれば、広志の存在は悪魔。進一が幼き頃から、その血が流れていることに酷い嫌悪感を抱いている。村人に囲まれ、責め立てられ、自分を受け入れてくれた母親からも感情をぶつけられ――。耐え切れなくなった進一は村を飛び出してしまう。

【あらすじ③】父と息子、遂に出会ってしまう

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村を出た進一は源一郎の居る教会へ駆け込み、住み込みで世話になることとなった。しかし今までか保護に育てられたせいか、1人では何もできない。自分だけでは生きられない現実に直面しながらも、親元から離れた生活に奮闘する。

一方で父・広志はひょっこりと村にとんぼ返りし、悪事を働いていた。舎弟と行動しながら美人局小銭稼ぎに明け暮れるも、ヤクザの組合に目を着けられてしまう。結局稼いだ金を奪われて仕事もなくなり、舎弟であった浩二(榎本桜)が自首する形で広志一味はあっさりと終了。行き場所がなくなってしまったのだ。

結局広志も教会を尋ねて救いを求める。悪魔の子と呼ばれて村を飛び出した進一、悪魔と扱われ村を追い出されたしょうもない広志、その親子のことを知るのは源一郎だけ……。非常に気まずい状況だが、お互いが親子と知らぬまま一つ屋根の下で共同生活が始まってしまった。

【あらすじ④】親子、ついにバレる

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映画『いつくしみふかき』公式Facebook

源一郎は本当のことを言えないまま日々が過ぎ去っていく。怖いおじさんにビクビクする進一と、のろまな息子にイライラする広志。相いれない2人だが、教会のイベントにて協力せざるを得ない状況になってしまった。お披露目する人形劇で役を任された進一は、当日見事にセリフを飛ばしてフリーズ状態!見かねた広志は手助けに入る。最悪の事態を免れたと思いきや、観客席には心配でやって来た加代子の姿が……。

公演後、源一郎に詰め寄る加代子。その日以来ひとつ屋根の下での暮らしはたいへん気まずい状態と化していた。挙句の果てには広志の舎弟が現れ、帰りを待たず勝手な行動をした件について憤慨する。ただただ謝るしかできない広志は、戻る場所さえなくなっていたのだ。

そんな2人を見捨てない源一郎は、再度温かい言葉をかける。そして親子で礼拝の宣伝のチラシ配りをした結果、当日教会は満席に。そこから物事が好転するかと思いきや――。広志の案でかつての舎弟らと、嘘を用いて胡散臭い教えを披露。観客の同情を引き、汚い方法でお金を巻き上げてしまう。

激怒した源一郎さえも裏切り、仲間達と去っていく広志ら。しかし彼自身も一度裏切った人間だ。舎弟たちに殴られ、お金を持ち逃げされてしまう。ボロボロになった広志は1人駐車場に置き去り。そして顔を上げると進一の姿があった。

【あらすじ⑤】血のつながった2人の行く先は……

いつくしみふかき ラスト
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心の拠り所がなくなった広志は進一に「一緒に不動産でもやるか」と持ち掛ける。しかし広志からすれば自分を今まで苦しめてきたのは父の存在。「俺に父はおらん」「お前にだってこの血が流れているんだぞ。人を裏切って、裏切って……」と、親子で揉み合いとなってしまう。やるせない感情の中、進一は親子の縁を切れないでいる。不動産の言葉を信じ、そのまま時は過ぎていった。

進一は相変わらずのダメっぷりだが仕事に就き、職場で恋人ができていた。母親に彼女を紹介するなど人生が良い方向へ回ってはいたものの、父親の件だけがひっかかり続けている。そうこうしていると街で偶然広志に再会。最初は昔の話を覚えていないとシラを切られるも、進一は諦めなかった。そして再会の翌日、2人はまた会う約束を取り付ける。

しかしかつての舎弟らは相変わらずのままだった。裏切られたことを根に持つ浩二は広志を呼び出し、射殺――。親子の約束は果たされないものとなってしまったのだ。葬式では憎しみを持ったままの加代子が大暴れ。周りの人間が止める中、進一だけが冷静に「父がご迷惑をお掛けしました。申し訳ございません」と挨拶をする。

実父との短い時間を過ごし、思いを馳せながらバスに揺られる進一。道ので途中下車し、様々な想いを胸に抱きながら、彼はゆっくりと歩き出すのだった。

『いつくしみふかき』のキャスト

広志/渡辺いっけい

いつくしみふかき 渡辺いっけい
映画『いつくしみふかき』公式サイト

序盤から“しょうもない”強烈な印象を残すキャラクター、広志。妻の出産中に金を盗む、古典的な美人局で小銭を稼ぐ、牧師さえも裏切るなど、呆れてしまうレベルのクズっぷりを発揮します。彼の行動を見ると「加代子はこの人のどんな部分に惚れたんだ?」とつい思ってしまうほど(笑)

しかし息子の成長を見届け、親子の絆を紡いでいく姿には心打たれるものがありました。どんなことをしてもやはり人間、広志の不器用な生き方はどこか否定できない……。物語が終わりに近づくと共に、そう感じてしまうのです。

広志を演じるのはベテラン俳優の渡辺いっけいさん。意外にもこの映画が初主演というのには少し驚いてしまいました。複数の大河ドラマや『ストロベリーナイト』、『容疑者Xの献身』など有名作品に次々と出演。いっけいさんを知らない日本国民はいない、そう言っても過言ではありませんね。

進一/遠山雄

いつくしみふかき 遠山雄
映画『いつくしみふかき』公式サイト

悪魔の息子は悪魔……とは言えないのが息子・進一の存在。広志のような凶暴性はなく、むしろ性格はおとなしいくらいです。けれども根本のだらしなさはよ~く似ており、良い年齢でありながら1人で何もできない悩ましいキャラクター。村での出来事をきっかけに実家を飛び出し、教会へ駆け込んだあたりから人生の歯車が大きく回り始めます。

遅い成長ではあるものの、確実に階段を登っていく進一には目を惹かれることでしょう。ラストシーンの歩き出した背中には力強さを覚えました。彼の今後の人生がより明るくなるよう祈るばかりです。

進一を演じるのは遠山雄さん。「劇団チキンハート」の立ち上げを行い、俳優業を並行しながら作品の企画や演出を手掛けるマルチな人物です。舞台では一度の公園で3000人の動員に成功!本作では第五回富士湖畔の映画祭にて監督賞最優秀助演俳優賞を受賞しました。

 

ただのヒューマンドラマじゃない!映画『いつくしみふかき』の面白ポイント

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その①村の閉鎖的な空気感に、ホラー映画を上回る「ゾクッ」

この映画は進一が村を飛び出す前半部分まで、重々しい空気感のまま話が進みます。父親のことを触れないようにする加代子、強い憎しみを抱いたままの叔父、板挟みになる進一と、様々な人間の心が交差しています。叔父は執拗に進一を責めますが、彼からすれば顔の知らない父が起こした話。「出ていけ」と言われても、しっくりこないのは致し方がないことでしょう。

しかし「おじさんが出ていけばいいじゃないですか」の一言で地雷を踏んでしまいます。村の人間の感情が一気に進一へとぶつけられるシーンは、そんじょそこらのホラー映画よりも恐怖を感じるはず。鬼のお面が映るカットが彼らの憎悪を代弁しているようで、ジメジメとした空気に拍車がかかりますね。

また加代子も気持ちのやり場がないのでしょう。夫の影が見え隠れするだけで、自分自身を抑えることができないのです。村の閉鎖的な連携、追い詰められる進一を見ているだけで、落ち着かない気持ちになってきます……。

その②重々しさとコミカルさ、アンバランスな掛け合いが◎

序盤~中盤手前にかけて重々しいストーリーが展開されるものの、教会での生活が始まってからはコミカルなシーンも多々見られます。親子間のやりとりにクスリとさせられるものがあったり、牧師・源一郎の戸惑う表情にどこか面白さを覚えたり……。礼拝にて偽の宗教で金儲け、相変わらずチープなやり方をする広志には笑ってしまいました。

しかし軽快なシーンとは裏腹に、ガツンと重い描写を織り交ぜてくるのが『いつくしみふかき』の細やかな芸と言えます。このアンバランスさこそ心地よい、そう思わせてくれる不思議な魅力がたっぷりと含まれていますよ。

その③衝撃の展開やラスト、先の読めないストーリーに脱帽!

「ヒューマンドラマだから、段々お涙頂戴になる展開でしょ?」と思ったのなら、それは大きな間違いです。ダメな息子と父親が更生していく、といった点は確かに王道的かもしれませんが、一気に真人間へならない部分が非常にリアル。長年何もできないでいた進一はのろまな状態が続き、結局広志も誰かの手を噛んだまま終盤へ突っ走ってしまうのです。

もちろん彼らが全く成長していないとは言いません。けれども本当に一歩、いや半歩ずつしか前に進まずとも、もがいて生きる姿に我々は感銘を受けるのです。きっとありがちなドラマなら、広志は教会の礼拝に大成功!そして更生して進一と……の流れでしょう(笑)

全く先が読めずラストまで予想がつかないため、「この話はどうなるんだ!?」とドキドキが続きます。107分間スクリーンに目を奪われっぱなしになる、きめ細やかな物語ではないでしょうか。

映画『いつくしみふかき』の個性的なキャラクターの魅力をご紹介

いつくしみふかき ネタバレ
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この作品はストーリーだけでなく、登場するキャラクターに味があるのも魅力の一つと言えるでしょう。注目してほしいキャラの見どころや性格をご紹介致します。

主人公・広志の魅力

“悪魔”と称されるほど、どうしようもない人物・広志。全てを裏切って行く場所も失い、彼は自業自得なのかもしれません。生き方はとても不器用で、素直になれないのも人生がうまくいかなかった原因でしょう。けれども人を寄せるカリスマ性も秘めており、根っからの悪人とは言い難いのではないか……と思わせるような部分も。

どんなに誰かを裏切っても、唯一の息子だけは邪険にしなかったのです。2人で話している時だけはどこか“父の顔”が覗いた、憎み切れないキャラクターだと思います。

2人目の主人公・進一の魅力

最初見た時は「ダメすぎるなぁ」という印象しかありません!30歳を超えていて母親に膝枕してもらい、仕事も続かないまま生きてきてしまった進一。村を出てからやっと彼の成長物語が幕を開けましたね。

冒頭は感情を露わにすることがなかったものの、泣いたり、怒ったり、1人の女性に恋をしたり……。感情が出始め、人間らしい一面を徐々に見せてくれるのも◎ゆっくりと階段を登っていく様に、つい応援したくなるキャラクターでしょう。

根本がちょっぴりダメなのも広志とよく似ていて、親子だと思わせてくれるポイントかも(笑)

ちょっと怪し気!?源一郎の魅力

加代子の兄が広志を殺そうとした際、止めに入ったのが源一郎です。親子2人を受け入れて良き方向へ導く素晴らしい人物なのですが、ちょっと怪し気な雰囲気があると言いましょうか……。良い人すぎて「この人も2人を裏切ったりしないよな?」と思わせる、ちょっとしたハラハラ感があるのです。(決してそんなことはありませんでしたが)

作中には描かれていませんが、きっと進一が就職するまで面倒を見ていたのでしょう。ハードなストーリーの中でそっと救いの手を差し伸べてくれる、それが源一郎の存在です。

最後まで印象深い、浩二の魅力

チンピラの舎弟軍団、多くの場合は途中で忘れ去られるか、捕まってオシマイ……であることがほとんどだと思います。しかし『いつくしみふかき』はまさかの浩二が最後まで活躍(?)するのです。平穏が訪れたであろう頃に現れ、広志を射殺。ストーリーの意外性を際立たせる重要なポジションがまた魅力的なんですよね。

彼も厚い信頼を寄せていながら、広志に裏切られてしまった人間の1人。村人の憎しみが進一へ向けられたのと同じで、その思いや行動を強く象徴しているキャラクターであると言えるでしょう。

まとめ

家族の大切さや絆、そして裏切りは裏切りを呼ぶといった大切なことを教えてくれる作品です。広志や進一の不器用すぎる生き様、1人では生きていけない現実を目の当たりにしたとき、あなたはどう思うでしょうか?

鑑賞後「ああ、楽しかった」だけではない。今後人生を歩んでいく上で考えさせられるものを与えてくれるのが『いつくしみふかき』です。自分にとって大切な何かを忘れてしまいそうな時、ぜひ一度ご鑑賞ください。

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この記事を書いた人
たかなし亜妖
たかなし亜妖

フリーライター&シナリオライターの映画好きサブカル女子。ライター歴は一年半くらいでまだまだひよっこ。 「感動よりも恐怖を、お涙よりもスリルを!」を基準に映画を選ぶ人。ホラー、スリラーサスペンス、鬱になりそうな作品が特に好き。でもハッピーな気分になれる海外ドラマも好き。キャラクターものもアニメも好き。要するにかなりの雑食です。