【ネタバレ】ラストまでゾワリとくる映画『死刑にいたる病』を徹底解説!
「そんじょそこらのホラー映画より怖い」「阿部サダヲの演技が素晴らしい」「観てて本気でキツイ」
公開後、様々な意見が飛び交った作品『死刑にいたる病』。
24件もの殺人容疑で逮捕されたシリアルキラー榛村(はいむら)が常連客だった主人公・雅也に冤罪を主張し、彼が自らの手で調査に挑むサスペンス映画です。
猟奇的な榛村の人間性に過激なシーンの連続。邦画では近年稀にみる残酷さで観客全ての心にざらりと残る、何とも言えぬ余韻が本作の魅力。
- 榛村の主張は本当なのか?
- 雅也はなぜ、容疑者となった人物に心を寄せたのか?
- ラストシーンの意味とは?
本記事では多くの人が疑問に感じた部分を解説、そして考察します。ぜひ最後までご覧くださいね。
目次
映画『死刑にいたる病』について
『死刑にいたる病』2015年に発刊された小説『チェインドッグ』が原作。
非常に爽やかなイラストの表紙が目印なものの、内容の壮絶さに「騙された!」と嘆く人々が当時はいたとか(苦笑)
2017年には『死刑にいたる病』へと改題され、2022年に映像化されたのです。
PG12指定とは思えないほどの残虐シーンに加え、重々しいストーリー、そして阿部サダヲさんの恐ろしき演技力が話題に!
評判を聞きつけた人々が映画館へ足を運び、興行収入はなんとか10億円越え!原作小説は20万部を突破するなど、素晴らしい記録を残しました。
本作を手掛けるのは『孤狼の血』シリーズでお馴染みの白石和彌(かずや)監督。アウトロー系の作品を生み出す腕はピカイチで、邦画界の中でも唯一無二の存在を誇るといっても過言ではないかも。
2013年公開の映画『凶悪』高い評価を得て以来以来、様々な賞レースで優秀な成績をおさめています。
10秒で分かる!映画『死刑にいたる病』の簡単なあらすじ
大学生の筧井雅也(水上恒司)の元に、ある一通の手紙が届きました。送り主はかつて、中学時代に通っていたパン屋の店主・榛村(阿部サダヲ)。
榛村は人当たりの良く朗らかな雰囲気を纏うものの、それは表向きだけ。24件もの殺人を犯し、極めて凶悪な犯罪者として死刑判決が下されていたのでした。
そんな人物がなぜ、今さら雅也に手紙をよこしてきたのか。
いざ面会へ行くと、「連続殺人の中でも最後の1件だけは自分がやったんじゃない、冤罪だ」だと強く主張。最後の1件は誰の仕業かを調べてほしいと言うのです。
雅也は何を思ったのか榛村の主張を疑いつつも受け入れ、独自の調査を始めると衝撃の事実が隠されており……。
映画『死刑にいたる病』のネタバレあらすじ
以下はストーリーの結末、そして過激な表現を含みますのでご注意ください。
【あらすじ①】温厚な店主の裏の顔
祖母の葬儀のために実家へ戻った筧井雅也(水上恒司)は、居心地の悪さにうんざりしていた。
父親は教育に厳しいものの、いざ息子が入った大学はFランク。父に口うるさく言われ、肩身の狭い思いをしているとある一通の手紙が目に留まった。
宛先は自分、送り主は樫村大和(阿部サダヲ)。中学時代、雅也が通っていたパン屋の店主だ。
非常に温厚で柔らかな人物だったが、彼は今塀の中にいる。なぜなら優しい町のパン屋さんは表の顔で、裏では24人の少年少女を殺した連続殺人鬼だったからだ。
同じようなやり口で、同じようなターゲットと殺し方を好んだ榛村は極めて残忍、死刑判決を言い渡された。
そんな榛村が今さら雅也に連絡をよこすなど、想像もつかなかった事態である。恐る恐る面会へいくと記憶と変わらぬままの、優し気な榛村が待っていた。
彼は口を開くと、24件の殺人のうち最後の1件は自分の仕業でないと言う。24件目の事件の真犯人を探してほしいと伝え、雅也は戸惑いながらも引き受けた。
【あらすじ②】母親と榛村の関係
面会の帰り道、ロングヘアの男に声を掛けられる雅也。何を言っているかよく理解できずただただ奇妙だったため、足早にその場を後にする。
榛村より「協力をしてくれるなら自分の弁護士の元へ向かってほしい」と言われていたため、担当の元へ。
事件の資料に目を通すと、24件目の殺人だけ今までの方法とターゲットに違いが見られた。
最後の被害者は根津かおる(佐藤玲)というOLの女性。極度の潔癖症で、事件間際までストーカー被害に悩まされていたらしい。
雅也は調査を進めつつ、実家の遺品整理を手伝うと母親・玲子(中山美穂)の古い写真に榛村が一緒に写っているではないか……。
父親から虐待を受けていた雅也は育ての親の元で暮らしていた。過去を良く知るであろう滝内(音尾琢真)に話を聞くと、母親と榛村はボランティア活動で出会っていたらしい。
玲子もまた、幼い頃虐待で苦しんでいたうちの一人。榛村には気を許していたようだが、妊娠と共に彼との関わりを絶っていたそうだ。
【あらすじ③】金山という男
父の虐待、母と榛村の関わり。そして妊娠と共に関係を絶ったこと――。様々な要素が相まって、雅也は榛村が実の父ではないかと疑い始める。
面会でその事実を確認しても曖昧な回答をする榛村。母親もあなたはお父さんの子だと主張するが、雅也はどうも納得がいかない。
冷静で落ち着いた性格の雅也だったが、徐々に刺々しく荒っぽい一面が見え隠れし出す。人となりが変わっていく様を見ていた同級生の灯里(宮崎優)は、そんな彼を心配していた。
さらに調査を進めると犯行の目撃証言をしていた人物に、金山という男が名が浮上する。
担当弁護士曰く金山は幼い頃、兄弟で榛村と接触があり、彼に心をコントロールされていた。兄弟間で刃物で切り付け合うような遊びをさせられ、トラウマが植え付けられていたのだ。
金山とは、あの面会後に出会った髪の長い男性。24件目の殺人現場へ再び出向くと、金山も登場。真実を口にする金山の話を耳にし、真犯人に確信を持った雅也は榛村の元へ向かう。
【あらすじ④】後継者の誕生
まるで金山が根津かおるを殺したかのように語る雅也の話に、榛村はじっと耳を傾ける。
だが、真犯人は金山ではなく榛村だった。根津かおるはかつて榛村に洗脳されていたものの、彼がコントロールしきれなかった唯一の人物。
金山のトラウマを利用し、榛村はずっと狙っていた彼女にトドメを刺したのだ。実際に手を掛けたわけではないが、金山は遠巻きに加担してしまったことをひどく気にしていたということ。
そして真実へとたどり着き、自身もコントロールされていた点に気づいた雅也は榛村の元を去った。
雅也は陰ながら心配をしてくれた灯里と交際をスタートさせる。だが、彼女はやたらと雅也の爪に興味を示し「爪きれいね。これ、剥がしたくなる?」と呟く。
爪を1本ずつ剥いで殺す。剥いだ爪を取っておくのは榛村のやり方……。
灯里の発言に戸惑いを隠せない雅也は部屋に榛村からの手紙があること、被害者たちの資料を見つけてしまう。
「筧井君ならわかってくれるって彼が言ってたの。受け入れてくれる?」と謎の発言をしながら笑う彼女を、ただただ見つめることしかできなかった。
映画『死刑にいたる病』の登場人物・キャスト
本作は水上恒司さんと阿部サダヲさんのW主演!豪華キャストが担当する登場人物についてご紹介します。
筧井雅也/水上恒司
雅也は至って普通の大学生。父親に虐げられ、Fランクの学校へ通うことにコンプレックスを抱いています。
家に居場所がなく、育ての親のもとで暮らした彼にとって榛村との出会いは心が救われたことでしょう。
思春期な大事な時に知り合ったというのも、雅也の中で色濃い記憶として残っている理由かもしれません。
榛村に翻弄され続け最後は犠牲者に……。雅也は「悲劇のヒロイン」ならぬ「悲劇のヒーロー」といっても過言ではないですね。
雅也を演じるのは俳優の水上恒司さん。当時は岡田健史の名義で活動し、2022年8月をもって改名されています。
イケメン俳優として人気が高く、演技力もバツグン。『そして、バトンは渡された』などあらゆる作品へ出演し2023年秋には人気漫画の実写化『OUT』で阿部要役を担当します。
榛村大和/阿部サダヲ
人の心を掌握するのに長けている榛村。子ども、大人と年齢関係なしに取り入る様はさすがとしかいいようがありません。
表と裏の顔が異なり、その点を心から楽しむ様子を見せる榛村。サイコパスの一言だけでは片づけられず、どんな連続殺人鬼よりも極めて凶悪。
そして非常に頭が良い、色々な意味で拍手喝采レベルの能力と言えましょう。
死刑判決が決定しているにも関わらず、塀の中でも人を操る。並大抵の精神力では成し遂げられないことを、榛村は軽々とやってしまうのですね……。
観客の度肝を抜いた演技で注目が集まった、榛村役の阿部サダヲさん。普段は面白キャラとしてよく知られていますから、ギャップに驚いた人も多いと思います。
バンド・グループ魂のボーカルを務め、『マルモのおきて』や『いだてん〜東京オリムピック噺〜』に出演するなどマルチに活動中です。
イマイチ理解できなかった人のために!映画『死刑にいたる病』の疑問を解消!
最初から最後まできちんと飛ばさず観ていれば理解できる作品ではあるものの、やや説明が足りない部分や謎のラストシーンということもあり
鑑賞後「あれって何だったんだ」と疑問が残りやすい点は否めません。
そこでイマイチ理解が深まらなかった人のために、ナゼ?の部分を一緒にみていけば疑問がスカッと解消するはず。
また分かりづらかったポイントもおさらいしていきましょうね。
なぜ雅也は榛村の言葉を信じ、調査を始めようと思ったのか
雅也の行動に共感できないといった意見もあるようですが、よーく彼の過去を振り返ってみてほしいもの。
父親から虐待され、自身の居場所もなく、傷ついた子どもの心には榛村のような優しい存在が深く染みたのでしょう。
実際に中学時代の雅也はパン屋でのやりとりでさめざめと涙を流していますよね。あの頃から榛村へ恩を感じていたことから、調査へと乗り切ったのです。
人によっては「過去に少し関わっただけの人が言うことなんて聞けないよ」と思うかもしれません。
しかし、「登場人物紹介」の項目でも説明しましたが思春期の雅也にとっては印象的な思い出であり、あくまで榛村の印象は“優しい町のパン屋さん”のまま。
雅也は10代のころからすでに榛村の毒牙に掛かっていたため、冤罪の証言をひどく疑うことがなかったのだと思います。
雅也の父親は榛村ではない!なぜ玲子は気まずそうにしていたのか
「雅也の父親、榛村説」が作中で浮上するものの、事実は異なりました。
玲子が息子へ問い詰められた際、気まずそうにしていたのは一人目の子どもを死産し、その遺体処理で榛村が関わっていたから。
この時の相手は現在の父ではなく別の男性。他人にはとても言えない内容であり夫にも黙っていたことだからこそ、言いづらそうにしていたのです。
金山の「遠巻きに事件へ加担」した罪悪感について
幼い頃から榛村にコントロールされていたのは、金山という男も同じでした。
彼の場合は兄弟まとめて操られており、立派なトラウマを植え付けられて苦しむうちの1人です。
まるで金山本人が根津かおるを直接手にかけたかのように思えましたが、彼は殺人をしていません。
- 榛村が金山を呼び出す(恐らく過去のトラウマが蘇りノコノコと出てきてしまったのだろと推測)
- 昔に兄弟間でやらされた「痛い遊び」をしたいと言う榛村→拒否する金山
- 気味がやらないなら誰とやればいいの?と聞かれ、金山何となく通りがかった女性を指さす
- 指をさされた女性が根津かおる(のちに死亡)
ざっとまとめるとこんな感じ。何気なく指をさしてしまった相手が24人目の被害者だったため、金山は共犯の意識が自分の中に残っていました。
まぁ、彼女はただ偶然に通りかかったのではなく、これも全て榛村が仕組んだ“流れ”なのですが……。
そこを完璧になまでに隠し、相手に余裕を作らせない榛村の狂気と金山のトラウマの強さを感じますね。
ラストシーンの意味は何?灯里と榛村はどんな関係だったのか
洗脳に気づいた雅也はもう面会へ行くことなく、元の大学生に戻るかと思いきや、恋人が他人の爪に興味を示すような発言をして物語は幕を下ろします。
しかも榛村からの手紙も、被害者たちの資料もあり……と、明らかに2人が関わっていたことが示唆されるカットが入りましたね。
そう、雅也の味方で超サブキャラと思われた彼女ですが、実は榛村との繋がりがありました。
どのような繋がり方をしたのかは描かれていないので分かりませんが、爪に興味を示す時点で榛村の支配下にあったのは間違いありません。
簡単に言うと、爪を剥がすやら何やらと言っている時点で彼女は立派な榛村の後継者です。
恐らくあのやりとりを終えたあと雅也は殺されてしまったでしょう。榛村大和という死刑囚は消えても残された後継者により、これからも悪夢は続くのです。
映画『死刑にいたる病』の素晴らしいポイント
▄▀ #阿部サダヲ 演じる
連続殺人鬼・榛村の
人物像に迫る特別映像解禁 ▄▀パン屋を営む爽やかな笑顔🍞から
犯行に及ぶまでの“表と裏”の顔…
1件の冤罪を主張する榛村。本当の犯人は…?
あなたは“真実”にたどり着けるか―?#死刑にいたる病#5月6日公開#死刑にいたる病ネタバレ禁止 pic.twitter.com/jbYxriMy19— 映画『死刑にいたる病』公式 (@SIYmovie) April 29, 2022
最後まで作品に目を通すと物語の完成度、榛村の完璧な洗脳術には驚かされるでしょう。
多くの人に強烈なインパクトを与える『死刑にいたる病』の、素晴らしいと思ったポイントを挙げたいと思います。
榛村が怖い……高い能力に最後まで絶望する
誰もが思うのは榛村が怖い!というところ(笑)阿部サダヲさんの演技力もあり、あの光のない目つきを見ているだけで背中に冷たいものが走りそうです。
表と裏の顔が180度違いますし、殺人をしている時の楽しそうな顔といったらもう……。金山を問い詰めている時の表情なんて真っすぐ見られたものではないですね。
ただサイコなだけではなく、とにかく頭が良い殺人鬼。細やかな部分まで計算され、担当している警察官までコントロールしてしまうのですから能力値は非常に高いでしょう。
実際にこんな人間が近くにいれば誰もがあっさりと騙されてしまうはず。彼の笑顔が裏がなさそうだからこそ余計に怖いですから。
死刑囚になってもまだなお誰かをコントロールし、外での悲劇を楽しむ様には絶望以外の感情が湧きません……。
洗脳の怖さを思い知る、雅也の変化にゾワッ
筧井雅也という人物はちょっと暗いですが、落ち着いていて凶暴性のある人物ではありませんでした。
それが榛村と関わることにより真実が見えなくなり、徐々に荒っぽさを増していくのが洗脳の恐ろしさ。
あんなに冷静だった雅也が通行人を殺しかける、同級生にキツイ態度を取るなど、分かりやすく人間が変わってしまっていました。
榛村に操られるとあそこまで変わってしまうとは……。いかにマインドコントロールが怖いかを、作品を通じて私たちにイヤというほど教えてくれるのです。
簡単に言えば“胸糞”、でもそれがイイ!?
すごく簡単な言葉で表すのなら、『死刑にいたる病』は“胸糞”ストーリーです。
榛村が恐ろしいだけではなく、雅也の両親もなんだかなぁといった存在ですし、味方だと思っていた灯里にも雅也はあっさりと裏切られました。
何一つとしてスカッとする要素がないので“胸糞”という表現を使いますが、ここまで八方塞がりだと逆に心地良く思えてしまいますね。
救いの要素が少しでもあると現実味に欠け、それぞれのキャラクター性も薄まってしまうので、終始重々しいことが本作の良さをより一層掻き立てている。
少なくとも筆者はそう感じています。
ちなみに原作では榛村の担当弁護士までもがマインドコントロールされているので、全てがヤツの支配下にあるという最悪の事態!
雅也の不幸度がより濃くなるので、それに比べれば映画版は少しはマシといったところでしょうか(苦笑)
淡々と進む展開が逆に心を奪われる
本作は重苦しい空気のなか淡々と物語が進んでいきます。
激しい盛り上がりの場はなく、誰かが訥々と語るかのように話が展開されていくものの、飽きが来ないので非常に不思議な感覚です。
- 榛村が何を考えているか
- 事実は一体何なのか
- 24件目の殺人は誰が?
などなど、色々なことを推測しながら鑑賞していると、あっという間に時間が過ぎ去ってしまうんですよね。
目を背けたくなるようなショッキングな表現も満載なのに、気づけば心を奪われる。今までにない中毒性が『死刑にいたる病』には秘められているでしょう。
まとめ
2022年度注目度ナンバーワンのサスペンス映画『死刑にいたる病』をご紹介しました。
なかなか衝撃的な内容で観る人を選ぶ作品でありながら高い支持を得たのは、やはり骨太なストーリーにあるでしょう。
最初から最後まで飽きさせない展開には誰もが釘付けになったかと思います。
筆者は多くの邦画を鑑賞済みですが、その中でもトップクラスの狂気を誇る榛村のキャラクター性は二度と忘れることができません。
強烈なインパクトと余韻を残す本作は映画好きなら絶対にチェックすべきです。
勇気がある方はぜひ原作も併せて楽しみましょう。映画にはない設定、描かれてはいないシーンもあり、より作品の理解度が深まりますよ。