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ゾッとする問題作『帰ってきたヒトラー』ネタバレ解説!原作比較で読み解くヒトラーの恐ろしさ

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2015年に製作された映画『帰ってきたヒトラー』。原作の同名小説も含め全世界で話題となります。社会を風刺する内容に絶賛の声もある一方、ヒトラーが魅力的に見えることから批判もありました。しかし、魅力的だからこそ意味があります!!

ドイツをはじめヨーロッパでは、ヒトラーやナチスに関する、あるいは連想させるものにかなり敏感です。ドイツではナチス式の敬礼をすると民衆扇動罪で逮捕されることもあります。なぜ、そのタブーであるヒトラーを魅力的に描いたのか?なぜ「問題作」であったのにここまで評価されたのか?本作の面白くてゾッとする魅力を、原作との比較を含めてご紹介していきましょう。

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ドイツ発の問題作!?『帰ってきたヒトラー』とは

出典:映画『帰ってきたヒトラー』予告編

原作の小説が2012年に発売されると、ドイツ国内だけで250万部のベストセラーになりました。また25か国語に翻訳され、小説『帰ってきたヒトラー』は世界中で注目されるようになりました。そんな話題作を映画化したのがドイツのデヴィッド・ヴェンド監督です。

小説の「本物のヒトラーがタイムスリップして現代に蘇る」という内容を映画にするために、デヴィッド・ヴェンド監督は本作をフィクション作品の枠を超えて、「現実」を撮影しました。ただの夢物語ではなく、現実に起こり得ると警鐘を鳴らします。結果、デヴィット・ヴェンド監督は「フィクションとしての面白さ」「史実のヒトラー」、そして「現在の私たち」、この3つを融合させることに成功しました。

2015年10月18日本作がドイツで公開されると、ドイツの歴史ある映画賞であるバンビアワードの映画賞を受賞。ヨーロッパのメディア賞CIVIS Media Prizeでも映画賞を受賞するなど、多くの人に受け入れられました。受け入れられた理由は原作に忠実に作った部分と、映像だからこそ原作を改変した部分があったからです。

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『帰ってきたヒトラー』ネタバレあらすじ

以下、ネタバレも含めて内容をご紹介していきます。まだ観ていない方はご注意ください。

【あらすじ①】「彼」は死んでいなかった!?

帰ってきたヒトラー ネタバレ
出典:映画『帰ってきたヒトラー』公式Facebook

ヒトラー(オリヴァー・マスッチ)はドイツのベルリンの公園で目を覚ました。なぜこんなところに倒れているのか理解できないヒトラーは、街の中を歩くことに。道が分からず通行人に尋ねようとするが、誰にも相手にされない。観光客につかまって写真を撮られる。誰も彼に敬意を払わないどころか、笑いさえする。混乱するヒトラーは、キオスクで新聞を見つけた。しかし、そこにあった新聞の日付は2014年!あまりのことにヒトラーは倒れてしまった。

キオスクの主人はそんなヒトラーを店の中で看病することに。それはヒトラーによって都合が良かった。店の奥で新聞を読み、現代の情報を得ることができたのだ。そして、ヒトラーはある運命の出会いをする。フリーディレクターのザヴァツキ(ファビアン・ブッシュ)だ。ザヴァツキはヒトラーを「ヒトラーのモノマネ芸人」と勘違いし、「ヒトラーとドイツを巡る」企画を思いついた。「ヒトラーがドイツ中の人と話し、現在の社会を切る」番組だ。

撮影後、ザヴァツキは動画をテレビ局に売り込んだ。テレビ局の幹部たちは「ヒトラー」という過激な題材に難色を示したが、ベリーニ局長(カッチャ・リーマン)は「これこそが視聴者が求めているものだ」と採用。あのヒトラーをテレビに出すことは賭けだったが、このヒトラーは多くの視聴者をとりこにする。ヒトラーのスピーチは社会風刺の「ジョーク」として受け入れられたのだ。テレビでもネットでもヒトラーを見ない日はないほどの人気となった。ところが、あるスキャンダルでその人気は終わりを迎える。ザヴァツキとドイツを巡った時、ヒトラーは噛みついてきた犬を撃ち殺していた。その映像が流出したのだ。ヒトラーは番組を降板、ヒトラーを採用したベリーニ局長も解雇されてしまった。

【あらすじ②】誰もこの波を止められない

帰ってきたヒトラー ネタバレ
出典:映画『帰ってきたヒトラー』公式サイト

番組を降板してもヒトラーは折れなかった。自分が現代に来てからのことを、本として出版するのだ。本はベストセラーを記録し、ザヴァツキが監督となり映画化まで決定した。そんなある日、ザヴァツキは恋人のクレマイヤー(フランツィスカ・ウルフ)の家にヒトラーを招待する。クレマイヤーの祖母(グドルーン・リッター)は現れたヒトラーを見て動転してしまった。「あの頃と言うこともまるっきり同じ。昔もみんな笑ってた。正体を知ってるわ。全部覚えてる」とヒトラーを追い出した。それでもヒトラーは動揺せず、「酷い。クレマイヤー嬢がユダヤ人だったとは」と言う。この時、やっとザヴァツキは気付く。もしかして本物のヒトラーなのではないか?と。

映画の撮影も順調に進んでいたある日、ヒトラーはナチスを信奉しているネオナチに襲撃されて入院した。そして、ネオナチに襲撃されたことから「民主主義の擁護者」として英雄的扱いを受けるようになる。誰も彼もがヒトラーを信頼しているが、ザヴァツキは違った。彼は本物のヒトラーだと確信している。もう彼を止められるのは自分しかいない、とヒトラーの元に急ぐ。だが、彼は過去からきた本物のヒトラーだ」と言っていったい誰が信じるだろうか。ザヴァツキは精神的におかしくなったと思われ、精神病院に入れられてしまった。ザヴァツキの言うことを信じてくれる人はいない。

ザヴァツキの代わりに監督を務めたベリーニがインタビューに答えた。「もしヒトラーが現代に蘇っても大丈夫。私たちは戦後70年歴史をみてきたのだから」と。ヒトラーの横で

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『帰ってきたヒトラー』原作比較!

【その①】原作との違い

帰ってきたヒトラー ネタバレ
出典:映画『帰ってきたヒトラー』公式サイト

ここからは、映画と小説との違いについて触れていきます。ヒトラーの影響がどんどん大きくなっていく点や、ストーリーの大まかなところは同じです。しかし、原作の小説ではヒトラーの心情や政治的思考が事細かに書かれています。映画ではどうしても映像化できない部分です。その、映像化できない違いについてご紹介します。

映画では、ヒトラーは早々にザヴァツキと出会ってドイツを巡る旅に出ます。しかし、小説ではこんなにも早く出会いませんでした。キオスクの主人に助けてもらい、しばらくキオスクで働いていました!あのヒトラーが小さいお店で働くことになんの意味が……?と思われるかもしれませんが、実は小説ではこれが重要だったのです。ひとりの市民として街で暮らすことで、トルコ人など外国人がクリーニング店に多いことや、人々の不満、現代において解決すべきことを知りました。

映画は「地方を回ってどんどんヒトラー熱が上がる」のに対して、小説は「突然現れたヒトラーに国中が盛り上がる」という差もあります。小説ではキオスクで働いたのち、キオスクの主人にテレビ関係者を紹介してもらいます。それがゼンゼンブリンクとその部下ザヴァツキでした。そして、そのまま番組への出演が決まってしまいます。映画でのゼンゼンブリンク(クリストフ・マリア・ヘルプスト)を見てから小説を読むと、驚かれるかもしれません。小説のゼンゼンブリンクは、映画のように出世のために何でもするような男ではないのです。そして小説のザヴァツキはヒトラーを疑わず、心の底から信頼しています。小説では映画のようにヒトラーに盾つく人がいないのも、読者を怖がらせる要因になりました。

映画で一番のキーとなるのは、クレマイヤーの祖母が「本物のヒトラーだ」と言う場面です。これをきっかけにザヴァツキに疑念が生まれます。小説では小さなエピソードのひとつでした。ある日クレマイヤーが「祖母があなたを本物のヒトラーだと言うから、祖母のために仕事(ヒトラーの秘書)を辞める」と言うと、ヒトラーは「では、私が説得しよう」とクレマイヤーを引き留めました。小説ではこれだけです。ヒトラーが祖母を説得するシーンもありません。しかし、次の章以降もクレマイヤーは秘書を続けます。どうやったのかは分かりません。それでも「ヒトラーがユダヤ人の女性を説得した」ことは確かです。ヒトラーに絶対心を開かないであろう人でさえも心を開いたのはなぜなのか、いったいどうやったのか、何を言ったのか。説明がない分、小説では「想像できない何かが起こっている」という恐怖をかきたてられます。

結末も、映画と小説では違います。ザヴァツキの役割の違いによって結末が変わっているのです。映画では、ザヴァツキとヒトラーは対等な関係ですザヴァツキはヒトラーを売り込んで就職したいヒトラーはテレビに売り込んでもらって、発言を放送したい。利害の一致から始まった対等な関係です。だからこそ、ザヴァツキはヒトラーに疑念を抱いて止めようとしました。一方、小説では上下関係ができています。ヒトラーのトークに魅了されて信じ切っています。このヒトラーを「悪い人」とも思っていないでしょう。小説では、ヒトラーがネオナチに襲撃され入院した後、選挙の準備に入るところで終わります。ヒトラーを邪魔する人はいません……

【その②】原作と共通するヒトラー像

帰ってきたヒトラー ネタバレ
出典:映画『帰ってきたヒトラー』公式サイト

映画と小説が共通しているのは「ヒトラー」の人物像ですどちらのヒトラーもカリスマ性があります。社会学で「カリスマ的支配」の代表としてヒトラーの名前が挙げられるように、この映画・小説でもヒトラーのカリスマ性が強調して描かれていました。社会学における「カリスマ的支配」は、個人の魅力で大衆を先導します。理性ではなく感情で賛同を集めるので、熱狂的なファンを獲得しやすいことが特徴です。しかし、「カリスマ的支配」は不安定で、一時的な支配でもあります。なので、日常的に支配するために変化します。例えば、選挙によって大統領になったり官僚になったりし、感情ではなく「合法的支配」によって日常的に支配するようになるのです。

本作のヒトラーの場合はどうでしょう。彼のスピーチには説得力があり、周りの人たちを魅了する空気がありました。それに加え、ネオナチに襲撃される事件も起こります。これらの出来事によって、彼は英雄視されるようになりました。そして最後に「選挙に挑む」と言って、物語は終わります。このように、本作はヒトラーの「カリスマ的支配」をわかりやすく表現している作品なのです。しかし、史実のヒトラーのように選挙による「合法的支配」で日常的に実権を握れたかどうかは、語られていません。もし彼が選挙で勝てなければ、周りの人々もおかしいと気付くかもしれません。しかし、もし勝ってしまったら……。希望的にも絶望的にもとれるラストは、原作にも小説にも共通しています。

ヒトラーは恐ろしいことをした人物ですが、「現在のナチス式敬礼の禁止やヒトラー自体をタブー視することは解決にならない」という考えも、映画と小説に共通している部分です。「ヒトラー」自体をタブーとするのは、まるで「ヒトラーが悪魔だったからあんなことが起きた」と言っているようです。しかし実際は、「人々が選挙でヒトラーを選んだ」から起きました。「選挙で選んでしまうほどの魅力がヒトラーにはあった、ということを知らなければ歴史は繰り返す」これが映画と原作に共通しているテーマです。だから、本作でヒトラーは愛嬌のあるキャラクターになっています。さらに、観客が彼に好感を持てるように、映画ではデヴィッド・ヴェンド監督がある工夫をしています。その工夫について、デヴィッド・ヴェンド監督のプロフィールとともにご紹介します。

【その③】デヴィッド・ヴェンド監督の手法

帰ってきたヒトラー
出典:映画『帰ってきたヒトラー』公式Facebook

デヴィッド・ヴェンド監督は、政治や経済の題材を得意としています。2011年には映画『Kriegerin』で過激な右翼活動を題材にし、ドイツ映画賞作品賞を受けました。だからこそ、本作の監督にデヴィッド・ヴェンド監督が選ばれたのです。映画化が成功したのは、デヴィッド・ヴェンド監督の工夫によるところが大きいと言えます。

小説ではヒトラーの視点で物語が進むため、なぜそう考えるのかが詳しく書かれていました。だからこそ、ヒトラーの勘違いに読者は笑い、好感を持ちました。映画でもヒトラーを主人公に物語は進みますが、心の中まで描くことは難しいです。だから、デヴィット・ヴェンド監督はヒトラーだけの目線にこだわりませんでした。デヴィッド・ヴェンド監督の工夫とは、ドイツに住む「市民の目線」を取り入れたことです。

「市民の目線」は台本やアドリブのない、本当に街中にいる人たちです。ドイツの広場のシーンや地方を回るシーンに、一部モザイクがかかっています。実は本当にオリヴァー・マスッチ演じるヒトラーを街中に出して撮影しているのです!そんなことをすると役者が危険なのでは?と心配していまいますが、実際はどうでしょう。暴言を吐く人もいますが、ほとんどの人は笑いながら話しかけたり写真を撮ったりしています。誰も彼を本物のヒトラーだとは思っていません(当然と言えば当然ですが)。ヒトラーは快く人々の撮影に応じ、握手をし、一人一人の声に耳を傾けます。そして、その言葉に「その通りだ、こうすべきだ」と同意していました。そのヒトラーの姿には好感を覚えずにはいられません。

ヒトラーの姿でドイツ中を回ったオリヴァー・マスッチはインタビューで「真剣に話しかけてきた彼らの会話から、彼らがいかに騙されやすいか、いかに歴史から学んでいないかがわかった」と話しました。本作中でも、ヒトラーを本物だと思っているように、政治への不満を語る人がいます。演出なのかと思いきや、実際そのように話しかける人は少なくなかったようです。

ヒトラーを悪魔だと思っていたけど、この人はちゃんと聞いてくれている、この人なら大丈夫じゃないのか、と思ってしまいます。デヴィッド・ヴェンド監督はインタビューでこう答えています。「ヒトラーを一人の人間として描くことでナチスを台頭させた原因を映し出すことができる文章では表しにくい「ヒトラーを選んだ民衆の責任」の部分をデヴィッド・ヴェンド監督は映像化することに成功したのです。

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まとめ

帰ってきたヒトラー ネタバレ
出典:映画『帰ってきたヒトラー』公式サイト

問題作の小説を映画化した『帰ってきたヒトラー』についてご紹介しました。ヒトラーをただの悪者として表現するだけでなく、民衆の責任にも言及した作品です。政治的なメッセージが強い本作ですが、コメディ要素も強いので気軽に観られます。もちろん、ドイツの予備知識なしでも充分楽しめますよ。

ぜひ、本作を観て笑ってください!あなたはヒトラーを笑っていますか?それともヒトラーと笑っていますか?

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