2021年最高傑作『すばらしき世界』の魅力をネタバレ有りで解説!

たかなし亜妖

 

役所広司さんが主演を務める映画『すばらしき世界』。人生のほとんどを刑務所で過ごし、ようやく出所となった主人公・三上。元ヤクザ、前科者ということから一般の世界へ馴染むことに苦労します。世間の世知辛さを描きつつも人の本質に触れ、全ての存在と言葉が深く私たちの心に突き刺さることでしょう。

お涙頂戴でもなく、軽快なコメディでもない。けれども観終わった後は不思議な感動に包まれているはず。2021年上半期最高傑作とも囁かれている『すばらしき世界』について解説していきます。

 

実在した男性がモデル?映画『すばらしき世界』について

すばらしき世界 西川美和
映画『すばらしき世界』公式サイト

『ゆれる』や『ディア・ドクター』、『夢売るふたり』などで知られる西川美和さんがメガホンを取り、この映画は完成しました。西川さんと言えばオリジナルの脚本が特徴的なのですが、今回は初の原作がある作品へチャレンジ。本作は小説『身分帳』を元に制作されたのです。古い作品ですので現代風にアレンジ、監督最大の魅力である人情味あふれる映画となっていますよ。

『すばらしき世界』の主人公は三上という男で、元殺人犯のヤクザです。原作『身分帳』によれば実在していた人物だそうで、田村義明さんという元受刑者だったとか。作者・佐木隆三先生へ身分帳を送り、自ら「自分の人生を小説にしてくれないか」と懇願したと言うのです!佐木先生もノンフィクション作家であったために受け入れることができたのでしょう。実際の事件を取り扱った小説を何本も執筆しています。

実話に近い物語だからこそ心に染みるものがある――、本作は様々な思いが多方面から込められているはずです。

 

10秒でわかる『すばらしき世界』のあらすじ

ワーナー・ブラザース公式YouTubeチャンネル

雪に囲まれた北海道・旭川刑務所で、一人の人間が刑期を迎えました。彼の名は三上正夫(役所広司)、人生のほとんどを刑務所で過ごした中年の男性です。元ヤクザで元殺人犯の三上は出所後東京へ向かい、身元請負人の弁護士夫婦に迎え入れられました。

身元不明で人生の大半が刑務所暮らし、若い頃から不良の道へ……。そんな彼は母親を知りません。出所後すぐに人探しの番組へ身分帳を送り、母親探しの企画案を送ります。

それと並行して新たな生活をスタートさせるのですが、仕事も見つからず、生活保護の申請も渋られる始末。挙句の果てには体調が芳しくありません。初のショバでも生活に、三上は……。

 

映画『すばらしき世界』ネタバレあらすじ

それでは早速、映画『すばらしき世界』のストーリーを解説していきます。

ネタバレも含まれていますので、まだ観ていない方はお気をつけください。

【あらすじ①】三上という男

すばらしき世界 身分帳
映画『すばらしき世界』公式Twitter

雪が降り積もる北海道、旭川刑務所。刑期を満了した三上(役所広司)は東京へ向かっていた。犯した罪は殺人罪、今までの人生のほとんどを刑務所で過ごした男だ。今回の判決には不満を持っていたものの、もうヤクザへ戻る気はない。東京へ着き、身元請負人の弁護士・庄司(橋爪功)宅へ優しく迎え入れられ、思わず涙を流してしまう。

三上は元々戸籍のない子供として生まれ、母親の顔を知らないまま施設で生きてきた。出所後、人探しのテレビ番組の製作へ、自身の身分帳を送っていたのである。母親探しを希望していたのだが、面白がったプロデューサーの吉澤(長澤まさみ)が元スタッフの津乃田へ連絡。テレビの企画として製作ができるよう、取材を依頼するのだった。

三上が前科者という事実にビビり、断ろうとする津乃田だが、生憎仕事を辞めたばかりの彼には金がない。小説家を目指しているのだが、定収入がないようだった。吉澤は生活に困っている部分をつつき、やや強引に依頼を引き受けさせる。

身分帳は受刑者の経歴、犯罪歴などが細やかに書かれた書類のことだ。三上の生い立ち、身寄りがないことから早くも暴力団と関わっていたこと、前科が10犯もあること、そして人を殺していたこと――。壮絶な過去が書き連ねてあるのだった。殺人を犯したのは今回が初めてで、当時の妻と経営していたスナックへ乗り込んできた若い衆を刺殺。これを読んで津乃田は三上に対し、恐ろしいイメージを抱いていた。

出所後の三上は体調が思わしくなく、早々に入院するハメに。病室へいる彼を恐る恐る津乃田が尋ねるのだが、早くも打ち解ける2人。この日から津乃田はカメラを回し、ドキュメンタリーとして撮影し始めるのだった。

【あらすじ②】世知辛い世の中で

すばらしき世界 免許
映画『すばらしき世界』公式Twitter

出所できたものの体調のせいで働けない三上、庄司と共に生活保護の申請をすることになった。役所の担当・井口(北村有起哉)にはかつての過去から難しい顔をされてしまう。庄司の助言によりなんとか折れてもらったものの、早速世の中の厳しさを思い知らされる。

今まで刑務所の中では様々な作業を行っており、器用な手先を活かして内職の仕事を希望する。だが現代では手作業の仕事はほとんど見つからない。働きたいのに職がなく、免許も受刑の間に失効してしまった。再度免許を取るにもお金がかかってしまうことが悩みの種、生活保護では限界があるのだ。

そんな三上に更なる問題が降りかかり、近所のスーパーでは店長の松本(六角精児)に万引きを疑われてしまう。だが松本の勘違いだったため、彼は精一杯の謝罪を重ねた。険悪な雰囲気になるかと思いきや2人は少しだけ仲良くなり、その後も友人として顔を会わせることとなる。

松本にも免許の取得を勧められたため、再度試験を受けに行く。しかし数年ぶりの運転は非常に危険で、荒々しい運転しかできない三上は即・不合格。悶々とした帰り道、吉澤と津乃田と焼肉へ行く流れに。

【ネタバレ③】本当の顔

すばらしき世界 焼肉
映画『すばらしき世界』公式Twitter

あまりドキュメンタリー制作には前向きでなく、ただ母を探してほしかっただけの三上。吉澤は説得に入り、うまい言葉で彼をその気にさせていく。まだ番組の企画こそ通っていないが、取材をここでOKするのだった。

焼肉の帰り道、未知の端っこで不良に絡まれているサラリーマンを発見。三上は見て見ぬふりをできず、不良と真っ向から対峙してしまう。吉澤はその様子をカメラに収めろと指示。津乃田はフィルムを回し続けるが、裏路地で本性をさらけ出す三上を撮り続けることができなかった。走って逃げる津乃田、追いかける吉澤、そして不良を本気で叩きのめす三上……。地獄のような光景が繰り広げられていた。

逃げ出したことに吉澤は激怒し「(カメラを)回さないならケンカを止めろ、そうじゃないなら回せ。お前みたいな半端者が一番何も救えない」と言い放ち、その場を去ってしまう。一方で三上はかつての血が目覚め、再び荒っぽさを取り戻してしまうのだった。

松本は取材の件について「食い物にされるだけだ」と諭すが、彼は聞く耳を持たない。結局三上はドキュメンタリー企画が頓挫した津乃田、そして松本とも険悪な雰囲気になり、故郷の福岡へ戻ってしまうのだった。

 

【ネタバレ④】空の下は広い

すばらしき世界 シャバ
映画『すばらしき世界』公式Twitter

福岡で向かった先はかつてお世話になった暴力団の組長。組自体は衰退しており、タイミング悪く警察のガサが入ってしまう。三上は組長の妻に逃げるように言われ「シャバは我慢の連続ですよ。つまらないもね。だけどね、シャバの人間は広いお空の下で生きられるから……」と最後の言葉を告げられた。渡されたお金を握りしめ、三上は東京へ戻ってゆく。

津乃田からの電話で過去の施設へ向かう2人。母親の情報こそ手に入らなかったが2人は和解、津乃田には“三上という人間を変えたい”といった意識が芽生えていった。企画はダメになってしまったものの、小説家志望だった彼は三上という人間についての本を書き始める。

ここから物事の進み方に変化が起き、井口も免許を取らずともできる仕事を提案。過去を分かってくれる場所、忍耐強さを買ってくれる介護の仕事を紹介し、無事に就職が決まる。

険悪な状態になっていた松本へも就職の報告をし、身内を集めたお祝いが始まった。全員から自転車のプレゼントもあり、三上は徐々に社会へ打ち解けていく。仕事も順調、運転にも慣れていき出所後とは状況が大きく変わっていた。

【ネタバレ⑤】すばらしき世界

すばらしき世界 コスモス
映画『すばらしき世界』公式Twitter

だがある日介護施設内でのイジメを発見してしまう。少し障害を持っている職員が仲間に思いきり詰められているのだ。本来の三上なら2人を叩きのめし、彼を救いたいところだが……。また問題を起こしては職を失ってしまう。グッとこらえて裏に下がるも、激しい動悸が彼を襲う。しばらくうずくまり、立てなくなっていた。

施設で内職をしていると、障害を持った職員に対しての悪口が始まってしまった。「あの子、暴力団出身らしいよ」「手袋いつもしてるけど指ないんじゃない?」など尾ひれをつけた噂が独り歩き。挙句の果てには悪意のある物まねをする人間さえもいた。三上はここでも感情を抑え、仕方がなく職員らと同調するしかなかったのだ。

帰り際、嵐が近づいて激しい風が吹いている。悪口のターゲットにされていた彼はコスモスを避難させるべく、外で仕事をしていた。「三上さんも持って帰る?」とにこやかに聞く彼、三上は涙ながらにその花を受け取った。

自転車をこいでいると元妻からの着信。再婚相手の娘を連れてご飯へ行こうと提案されたのだ。笑顔に包まれる三上、嵐の激しさが増す中、電話をしながら自宅へと帰っていく――。

荒らしが過ぎ去った翌朝、三上は昨晩息を引き取っていた。発作が激しくなり、自宅で洗濯物を取り込んでいる最中に亡くなっていたのである。手にはもらったコスモスが数束。死を知った仲間達は言葉を失い、ただただ広く青い空を見上げるだけだった。

 

映画『すばらしき世界』のキャスト

本作の魅力の1つに上がるのは、なんと言ってもキャストの演技力。主人公を演じた役所広司の演技力をはじめとし、実力派俳優たちが集まっています。

三上正夫/役所広司

すばらしき世界 役所広司
映画『すばらしき世界』公式サイト

多数の前科にアウトローな経歴、中年ながら初めての一般社会に悪戦苦闘する三上。ただの悪人ではなく、正義感が強すぎるがゆえの真っすぐさが生き辛さの証なのでしょう。彼の行動は受け入れがたい部分もありますが、決して人としての大切なことは忘れていない。正直者な面は多くの現代人が見習うべき点なのかもしれませんね。

まだまだ幸せをたくさん手に入れられる段階で息を引き取りました。三上の人生を見ていると温かな気持ちになるような、やるせない気持ちになるような……。生きることの辛さ、難しさ、優しさ全てを教えてくれる、すばらしきキャラクターです。

三上を演じるのは大ベテラン俳優の役所広司さん。観れば観るほどグイグイと引き込まれる演技力、完璧なまでに「三上正夫」を演じ切っています。シカゴ国際映画祭では本作にて最優秀演技賞を受賞されたそうですよ!

津乃田龍太郎/仲野太賀

すばらしき世界 津乃田
映画『すばらしき世界』公式サイト

小説家を目指しながら生活はギリギリ、致し方なく取材へ踏み切りますが、やがて三上の人間性に魅力を感じていきます。一度は逃げ出してしまったものの、吉澤の一言で目が覚めた津乃田。そこからは仕事や義務を捨て、自らの感情で動き始めました。

三上とは対極の位置にいる“一般人”的ポジションではないでしょうか。最初は理解に苦しみながらも、徐々に心の距離が縮まっていく様子には心温まるものがありました。津乃田は彼との出会い、そして死と向き合ったことで何を得られたのでしょうか。作中では描かれていませんが、きっと小説を完成させているはずです。

津乃田を演じるのは中野太賀さん。実力派若手俳優として知られ、『ゆとりですがなにか』や『この恋あたためますか』など有名作品に次々と出演。多くの賞を受賞する大注目の俳優さんです。更なる活躍がとても楽しみですね!

吉澤遥/長澤まさみ

すばらしき世界 長澤まさみ
映画『すばらしき世界』公式サイト

テレビプロデューサーの吉澤は送られてきた身分帳を観て、ドキュメンタリー番組の制作を思いつきます。確かに視聴率を取れそうな画期的な企画、三上をうまい言葉で説得する部分は正に「凄腕」でしたね。番組制作への熱い思いがあったゆえに津乃田と衝突しますが、最終的には和解。彼へ熱い言葉を投げるなど、非常に心を打たれてしまいました。

吉澤を演じるのは長澤まさみさん。おっとりした雰囲気がある女優さんですが、抜群の演技力で多数の作品へ出演。様々なキャラクターを演じ分け、多くの賞を受賞しています。

 

『すばらしき世界』の”すばらしい”ポイント

すばらしき世界 映画祭
映画『すばらしき世界』公式Twitter

一度観たら忘れられないほど完成度の高い『すばらしき世界』。せっかく観るなら見どころをしっかりと押さえてほしいものです。筆者が感じた魅力的なポイントをご紹介します。

すばらしいポイント①無駄なキャラクターが一人もいない

長編映画にありがちな「あのキャラいる必要あった?」が全くないのが本作の良いところ。全てのキャラクターに意味があり、それぞれが心に残る言葉をしっかりと刻んでいるのです。

長澤まさみさん演じる吉澤も物語の中盤までの登場ですが、津乃田に言い放った「回さないなら間に入って止めろよ~」は名言。「お前みたいな中途半端な奴が一番何も救えない」には、心が震えました。番組の利益だけを考えている嫌な女性かと思えば、このセリフに人間味がギュッと凝縮されていることが分かります。

それぞれのキャラクターが放つメッセージ性が強いのです。三上、津乃田だけでなく周りを囲んでいる人達にもぜひ注目してくださいね。

すばらしいポイント②三上と対極にいる人々との関わり

三上は非常に真っすぐで義理堅い人間ですが、不器用がゆえに罪を犯してしまいました。背景を知っていれば色々感じるものはあるのですが、正直なところ、表面だけを刈り取れば「元受刑者」です。そのイメージだけで最初の津乃田や松本、井口でさえ受け入れることが難しい状況でした。出所後の彼が生き辛さを覚えるには、十分すぎる描写であると思います。

人間と言うのはどうしてもイメージだけで決めつけてしまいがち。あまり良い印象を抱いていなかった彼らも、次第に三上と関わり、打ち解け始めるのに鑑賞者も妙な嬉しさを覚えてしまうはず。描き方もとてもリアルで「きっと現実でもこうなんだろうな……」と考えてしまうことでしょう。

対極の世界で生きてきた人々、そこへ適応できるように奮闘する三上。その様子を見ているだけで心が温まってきます。

すばらしいポイント③タイトルに疑問を持ってしまうほどの世界観

筆者は鑑賞する前、「ヤクザの人が外に出てきて、奮闘しながらも幸せに暮らせる話かなぁ」と思っていました(笑)ハッキリ言ってしまうと“お涙頂戴”感のあるストーリーを想像していたのですが、全く違います。泣けるシーンはあれど全てがリアルすぎて、痛いほどに突き刺さってくるのです。

『すばらしき世界』というタイトルですが、出所後の人間に冷たく、生活保護の申請も渋られ、職探しにも苦労し……。社会に溶け込めれば職場内のイジメ、理不尽なことが待っていました。一体どこが“すばらしい”のでしょうか。物語に沿ってタイトルをつけるなら『すばらしくない世界』に決まっています(苦笑)

そんなすばらしくない世界で奮闘しながらもがいて生きる、その生きざまそのものが素晴らしいのだと思いました。すばらしくもない世界でどう素晴らしく生きるのか、何が素晴らしいのか――……。観終わった後はこの世の中について色々と考えてしまうはずです。

 

果たして三上は「幸せ」だったのか?

すばらしき世界 役所広司
映画『すばらしき世界』公式Twitter

出所後は苦戦を強いられた三上も、物語が進むにつれて良い方向へ向かっていきます。特に就職が決まってからは喜ばしい出来事も続きました。そんな中で突然の死、衝撃のラストには驚いてしまった人も多いでしょう。一般の世界に慣れ始めた頃に、彼の人生は閉ざされてしまったのです。

この結末には賛否両論あるかとは思いますが、個人的な意見としては「幸せ」だったと感じます。三上は初めて広い世の中を知り、世知辛さも体験し、その中でも他人の温かみに触れることができました。裏の世界へ戻ることもなく、最後は表の世界の人間として生涯を終えたのです。ずっと刑務所の中だけで過ごしていた者にとっては、大きな前進と言えるはず。

まだまだ仲間達と共に生き抜いて欲しかった部分はありますが、ただのハッピーエンドで終わらないのがこの作品の深いところ。三上の死後、周りの人間達はどう生きたのか、彼の存在がどんな影響を与えたのか……。そんなところまでじっくりと考えてしまいますね。

 

『すばらしき世界』のまとめ

決してこの世は素晴らしいものではありません。しかしそんな中でも人の優しさや温かみに触れることで、人生に変化を起こすことは可能なのです。三上や周りを取り巻くキャラクターから大切なことを教えてもらえる、ぜひ一度は観て欲しい作品です。

ちょっぴりささくれていた心も、『すばらしき世界』を観終わった頃にはトゲがぽろりと取れるかもしれません。

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たかなし亜妖
たかなし亜妖

フリーライター&シナリオライターの映画好きサブカル女子。ライター歴は一年半くらいでまだまだひよっこ。 「感動よりも恐怖を、お涙よりもスリルを!」を基準に映画を選ぶ人。ホラー、スリラーサスペンス、鬱になりそうな作品が特に好き。でもハッピーな気分になれる海外ドラマも好き。キャラクターものもアニメも好き。要するにかなりの雑食です。