【ネタバレ】これは愛?それとも毒?映画『母性』のネタバレ考察!
「母性」という言葉を聞いて、みなさんはどのようなイメージを抱くでしょうか。
この世に生まれ落ちた女性全員に備わっているもの?母親として当たり前の性質?人間としての本能?
……様々な意見が出ると思います。でも、ハッキリとこれだ!と回答できる人ってなかなかいないはず。
映画『母性』はそんな難しいテーマを掲げながら物語が展開していく、サスペンス作品。
観方によってはホラーのようにも感じ、多数のメッセージが隠されていることから受け取る側によって大きく印象が異なる映画なのです。
物事の本質である“母性”とは何なのでしょうか。母と娘の証言が異なる点や、ラストシーンの意味などについても触れていきますので、どうぞ最後までお付き合いください。
目次
映画『母性』について
本映画は湊かなえ氏による小説を基に制作。第26回山本周五郎賞候補作品へノーミネートされ、ベストセラーとなりました。
2012年に発刊されて、約10年の時を経て映像化。
近年、「毒親」という単語がネットを中心に広がり、親子・家族関係の考え方がが見直される現代において『母性』は強い衝撃を与えた作品と言えましょう。
公開直後から多くの観客が来場し、公開初週の週末ランキング1位を獲得。たった5日間で興行収入は2億円を突破し、最終着地は6.2億円です。
作品を手掛けるのはピンク映画出身の名監督、廣木隆一さん。『ストロボ・エッジ』や『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、『ノイズ』など数々のヒット作を輩出する人物です。
10秒で分かる!映画『母性』の簡単なあらすじ
ある日女子高生による飛び降り自殺のニュースが報道されました。
とても自殺をするような人物ではなかったそうですが、「母親との関係性に悩んでいたらしい」と彼女にはほんのり“陰”が見えるご様子。
実の母親は愛情をたっぷり注いで育てたと主張するのに、娘は命を絶ったのですから意見が食い違っています。
報道を知り、母性について考え始める教師の清佳(永野芽郁)。彼女はこの女子高生の件を他人事と思えません。
そう、清佳も母・ルミ子(戸田恵梨香)のことで、酷く頭を悩ませた経験があるからです。
母と娘、の証言により2人の過去が暴かれますが、各々の主張が見事に異なっていて……?
映画『母性』のネタバレあらすじ
以下はネタバレを含みますので未鑑賞の方はご注意ください。
【あらすじ①】“愛あたう限り”
大阪市内で女子高生が飛び降り自殺した事件が報道された。彼女は自殺を図るような人物ではなかったそうだが、母親との関係に悩んでいたなんて噂も聞こえる。
第一発見者は実の母親で娘の自殺にひどくショックを受けているとのこと。「愛あたう限り育ててきた娘が自殺など考えられない」と供述するが、警察は他殺の可能性も考えて捜査を進めている。
このニュースを知った男性教諭は亡くなった女子生徒の存在を知っており、「愛あたう」なんて母親の表現をうさんくさいと非難した。
教員らのやり取りを目の当たりにし、ふんふんと話を聞く教師の清佳(永野芽郁)。
一方で、教会にて神父へ心の内を吐露する女性ルミ子(戸田恵梨香)。彼女は娘を“愛あたう限り”大切に育ててきたと語る。
だが神父に愛を溢れんばかりに注いだのか?と再確認されると、ルミ子は圧倒されて口を閉ざしてしまう……。
【あらすじ②】母の喜びは自分の喜び
ルミ子は24歳で田所哲史(三浦誠己)と絵画教室で出会い結婚する。
当初、ルミ子は彼の描く絵が嫌いで避けていたのだが母・華恵(大地真央)が田所の絵を大絶賛したことから意識して彼へ大接近。2人は付き合うことになった。
華恵はルミ子を溺愛し、ルミ子もまた母の愛に応える日々。
遂に田所からプロポーズを受けるも、親友の仁美(中村ゆり)からは猛反対を受ける。どうやら田所の家の両親はとても気難しいそうなのだ。
実際に顔合わせに行ってもいい対応を受けられず、自分が好かれていないことをひどく気にするルミ子。結婚を迷うが母曰く、哲史はお日様のようなルミ子を求めているはずだと主張。
いざ相手へ「私とどんな家庭を築きたいのか」と尋ねると、田所は「日の当たるような美しい家庭」と回答する。
ルミ子は母の考えが何一つ外していなかったことに歓喜し、ほどなくして2人は結婚。森の中に“美しい家”を建て新たな生活が幕を開けた。
【あらすじ③】母の証言
花嫁修業もせず結婚をしたルミ子。田所がいない時間に華恵から家事を教わり、より親子の時間は濃厚なものとなっていた。
どんなに家事を頑張っても夫は誉め言葉一つくれない。
でも実母がその気持ちを埋めてくれるため、ルミ子自身は深く気にせず暮らしを続ける。そして彼女の中に命が宿り妊娠が発覚。体調不良の際に助けを求める相手も、やはり夫ではなく華恵だった。
出産当日、分娩室に入れるのは夫だけと聞いて落胆するルミ子だが、特別に母の入室が許可されることに。彼女は生まれた子どもよりも母の顔を見て安堵する。
娘の清佳には思いやりのある子に育つようしつけ、気難しい義母も納得がいくほど上品な子どもに育っていく。
しかし、ルミ子は清佳が実母の作った小鳥の刺繍ではなく、既製品のキティちゃんを欲しがったことが許せなくなる。心を込めて作った母のものより、市販品を欲しがるのかが理解できないのだ。
子どもに圧をかけて説得するが、清佳は何となく自分に好いているような気がしない。
納得がいかないある夜、田所は夜勤で不在。ルミ子、華恵、清佳の3人で過ごしていた日は強い嵐が近づいていた。
夜中嵐の勢いはピークに達し、華恵と清佳が寝ていた部屋に木が窓を突き破って転倒。タンスの下敷きとなった2人を見て、ルミ子は母を先に助け出そうとした。
だが華恵は娘を叱り「あなたは母親でしょう、この子を先に助けなさい」と2人の言い合いが始まる。
そうこうしているうちにろうそくが倒れ、火事が発生。ルミ子はその当時のことをハッキリと覚えていないが、娘を助け出して2人きりへ外へ逃げたそうだ……。
【あらすじ④】娘の証言
清佳は5歳ころから母との記憶があり、祖母(華恵)からは無償の愛を注がれていたが実母からは別のものを感じたと証言している。
常に母は自分が意見を言う前に決めてしまっていて、3人で出掛けた際も母が祖母と手を繋ぐ姿をよく覚えていた。
決して自分は祖母の手作りの品が嫌だったわけではない。
「キティちゃんの既製品」ではなくキティちゃんの刺繍」を施したピアノ用バッグがほしかったのに、あの環境では本音を言えないまま。
嵐の夜の火事に関しては記憶があいまいで、祖母と母が言い合いをしていたことだけは覚えている。
回想が終わり、現代。清佳は例の男性教諭と居酒屋で飲んでいた。
その際に彼女は隣の席に座った男性2人の振る舞いに納得がいかず、注意してしまう。清佳は“まぁいいか”と流せない性分らしい。
そして再び過去を振り返り、時は火事の後。行き場のない家族3人は田所の実家で世話になるが、あの気難しい義母はルミ子を徹底的にいじめ抜く。
清佳まで散々に言われる毎日だが哲史は知らんぷり。哲史の妹律子(山下リオ)ばかりが可愛がられ、親子2人は完璧なまでに虐げられていた。
ルミ子は自分自身に余裕がなくなり、清佳との関係がさらに悪化していく。清佳は母が心配で自分を見てほしい気持ちが強まるも、ルミ子の対応は相変わらず冷たいまま。
居心地の悪い生活を送っていると、猫かわいがりされていた律子に好きな男ができた。けれども相手の男は金がなく、律子は完全に貢いでいる状態。
誰もが「あれはダメだ」と思っても恋心に歯止めがきかず、家出状態で田所の家を去っていった。
それ以来義母に元気がなくなり、今度は律子がいなくなった件で親子2人を責めるのである……。
【あらすじ⑤】二種類の女性
義母は認知症が進み、清佳は老人ホームへの入居を提案した。だがルミ子は「家に住まわせてもらっている恩があるのに、ホームへ入れるなど何事だ」と怒る。
窮屈な生活が続くなか、さらに悩ましい問題が発生。なんと哲史は仁美と不倫していたのだ。そこで清佳は華恵が焼死したのではなく自殺をしたことを聞かされる。
そう、あれは嵐の夜の火事のこと。
ルミ子は子どもなんてまた産めると言い、娘よりも母を助ける方に必死だった。でも華恵はそれを止め「命が繋がったことが嬉しい」と言い残し、ハサミで首を刺してこの世を去った。
12年後、事実確認をされたルミ子は清佳に愛してると言いつつも首を絞めてしまう。(だがルミ子は“抱きしめた”と証言)
そのまま清佳は庭で首つり自殺を図るが失敗。朦朧とした意識の中で初めて母から名を呼ばれ、生きていてようやく親の愛を知った。
成人後の清佳は男性教諭へ女性には2種類あるのだと言う。それは「母」と「娘」とのこと。実際自分がどちらなのかは答えられないが、中にはいつまでも娘でいたがる女性も存在するそうだ。
現在、彼女は妊娠している最中。ルミ子へ電話を掛けると「命を未来に繋げてくれてありがとう」と言われる。
自分自身は母なのか、娘なのかどっちなのだろうと、清佳はお腹に手を当てながら考えるのだった。
映画『母性』の登場人物・キャスト
本作には様々なかたちの“母性”を持った人物が登場しますが、主要となるのはルミ子と清佳の2名。
他の登場人物については別の項目で解説しますので、まずは母と子のキャラクター性とキャストについて見ていきましょう。
田所ルミ子/戸田恵梨香
育ちの良いお嬢様であるルミ子は母親のことが大好き。見ていると「母の娘であり、母を喜ばせる自分のことが大好き」なようにも思えますが。
自分を否定されずに育ったからか清佳に考えを押し付け、それがまた娘の心を苦しめます。
ただルミ子にも相当な苦労があり、彼女の人生は決して楽なものではありません。
悪気がなく、彼女なりの考えを持ってやっている行為全ての度が過ぎてしまった結果、行き場のない痛みと苦しさを生み出しているのでしょう。
ルミ子を完璧なまでに演じたのは女優の戸田恵梨香さん。美しく落ち着いたお嬢様から、疲れ果てて表情の強張った“母親”への変貌ぶりには思わずゾクリ。
テレビドラマ『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』や映画『あの日のオルガン』など、数多くの作品で主演を務めています。
田所清佳/永野芽郁
物心ついた時から母親の関心が自分にないことを察していた清佳。
親に愛されたいと願うのは誰にでも備わっている感情ですから、母親のために頑張るのですがことごとく思い通りになりません。
ここで腐らなかったのは清佳の素晴らしいところですが、その代わりに真っすぐすぎて自分の正義を曲げられない性格に。
歪んだ愛を注がれたのが原因で状態を客観視し、分析する能力に長けてしまったのでしょう。成人後の彼女は妙な落ち着きに包まれているからです。
果たして清佳自身が母になった時はどうなることやら。その考察を後ほど執筆していますので、そちらもぜひご覧くださいね。
清佳を演じるのは女優の永野芽郁さん。映画『俺物語!!』にヒロインに抜擢されて以来、数多くの作品へ出演中。
ドラマ『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』では戸田恵梨香さんと共演し、全くテイストの異なったコンビ(親子)で本作を盛り上げました。
映画『母性』の考察!愛と母性とは一体何なのか
母性や愛とは一体何か、その答えを視聴者に委ねる本作は鑑賞し終えると複雑な感情に襲われるかもしれません。
幸せな親子関係、正しい家族の形など何がいいのか、悪いのかさえ意見が大きく異なる部分でしょう。
果たしてそれぞれが抱く母性とは?愛とは本当に人を真っすぐな道へ導くのか……。映画『母性』の筆者なりの考察をご覧ください。
女性キャラクターが抱く母性の異なる形
華恵からルミ子へ、ルミ子から清佳へ……とついこの3人ばかりに注目しがちですが、実は他の女性キャラクターも異なった母性の形が描かれています。
例えば、ルミ子の義母。非常に強く当たり散らすイヤ~な姑の王道的キャラですが、決して母性も愛も持たない寂しい人間ではありません。
なぜなら我が子2人への態度が全く違いますからね!律子が出ていったあと悲しみに暮れて認知症が進んだのも、彼女が子どもを愛しく思う気持ちが強かったからでしょう。
そんな律子もはたから見ればとても薄情な娘に思えますが(笑)、ダメ男に引っかかって見捨てられない……という悩ましい形の“母性”を持ち合わせていました。
哲史の不倫相手だった仁美も律子に近いものを感じます。家庭を捨てる気はないけれど、もう家にいたくない彼を受け止めてしまったのですから。
親から子へ、そして多方面に向けられるだけが母性とは限らないのです。
女性たちの動きや考えを見ていると本当に事情が様々で、向ける方向性や懐の大きさでさえ違うのですからね。
行き過ぎた愛は時に毒を孕むという現実
早くに夫を亡くした華恵は一人娘のルミ子を溺愛します。心の底から娘を肯定し、他人から「ルミ子は愛情をたくさん注がれた人だ」と褒められれば全力で喜びます。
ルミ子も母親が大好きですから一見美しき親子愛にも思えるものの、冷静に2人を見ればかなり行き過ぎているんですよね。
よく考えてみてください。成人後して24歳にもなる娘が家事もたどたどしく、何かあれば全て母頼み……非常に違和感のある光景ではないでしょうか。
華恵の溺愛っぷりも遠回しに娘をコントロールしているように感じます。
本人もそのつもりはないかもしれませんが、現にルミ子は母を喜ばせるために嫌だった田所へ接近し結婚までしているのですから。
「親の幸せや喜びは自分の幸せと喜びでもある」
無意識のうちにシンクロしたがり、受け入れ、褒めてもらう気持ちばかりが先行しているため自分の意見なんてそっちのけ状態。これは清佳にも同じことが言えました。
行き過ぎた愛は時に毒を孕み、人を支配してその先の人生にまで影響を与えてしまうのです。華恵とルミ子の関係はその点をよく表現していると言えましょう。
映画『母性』のギモンを解決
視聴者に考えが委ねられる『母性』。親子の証言で異なる部分がいくつも出てくる、どうとでも受け取れるような表現など疑問に思う点が必ず出てくるかと思います。
こちらもあくまで筆者の視点による意見ですが、あなたの感想や考えとぜひ比べてみてほしいものです。
母と娘の証言が異なるのはなぜ?どちらがウソでホントなの?
本作はルミ子と清佳の証言を交互に繰り返しながら物語が展開されます。
真実へ近づいてくると徐々に2人の言い分に差が出てくることに気づきますが、果たしてどちらがウソで本当なのでしょうか?
……と、あたかもどちらがウソをついているかのように書いていますが、実際はウソをつこうと思っていないんですよね。
ルミ子からするとそう見えた/思えただけであり、清佳もそう感じたから証言を続けるのです。
とは言ってもルミ子は「火事の一部を覚えていない」などの発言もありますから、彼女の中では記憶がかなり書き換えられているのも事実。
また“そうしたつもり”であっても異なる現実が多いため、清佳の証言が最も真実に近いと考えていいと思います。
首を絞めた件もそうですね。ルミ子は抱きしめるつもりだったのに、様々な想いがあって無意識に首へ手が伸びてしまったのかもしれません。
「女性には2種類いる」この意味とは
ラストシーンで清佳は「女性には母と娘の2種類いる」と語っていましたが、この意味は彼女が口にするままです。
詳しく言うのであれば
- 子どもから母親に変われた女性が「母」
- 母親にはなれず、ずっと誰かの子どもでいたがるのが「娘」
ということです。
決してどちらがいい・悪いの話ではないのですが、一般論として“母性”がある人物は前者、そうでない人物は後者といったところでしょうか。
世の中の女性全員に母性が備わっているのではない、中には芽生えない人間だっている――。作品のメッセージがよく伺える清佳のセリフ、あなたはどう感じますか?
清佳は今後どのような人間になるのか
母と娘、私はどっちになるのだろう……と彼女が考えるところで物語は終了します。
清佳は物事を客観視できてとても冷静な人物ですから、「ルミ子のようにはならないんじゃ?」「反面教師で色々と頑張っていくだろう」と考える人も多いでしょう。
しかし筆者は彼女の行く先があまり明るいものに思えないのです。
未だに親子の縁はそのままですし、「未来を繋いでくれてありがとう」と言われてまんざらでもない清佳がいるので、似たようなことを繰り返す可能性が高そうな予感が……。
曲がったことが許せず遊び心がないと本人は自称していましたが、その欠点が全面に出る恐れさえあるでしょう。
律子のように自分の意見を押し通すこともなく、ずっといい子で真面目な清佳はルミ子と同じ道を辿ってしまうような気がしてなりません。
まとめ
愛や母性、そして親子や家族について今一度考えさせられる映画『母性』。
今の時代は毒親といった言葉で片づけられがちですが、“毒”にも様々な経緯や要因があるでしょう。
言い現わすのが難しい部分を物語に乗せ、強いメッセージとして視聴者へ伝える本作は非常に素晴らしい映画だと思います。
首を絞め上げるような苦しさを覚えるシーンも多いですが、家族や親子の在り方が変わってきているからこそ『母性』は広くの人に届いてほしい。視聴後はそう願わざるを得ませんでした。