映画『スリー・ビルボード』ネタバレ解説 ! 人間讃歌と赦しの連鎖
アメリカの田舎町を舞台にしたミステリー仕立ての人間ドラマ、それが『スリー・ビルボード』です。2017年に公開された本作品は、公開後あっという間に話題となりました。この物語は一体なぜ、こんなにも多くのファンの心を惹きつけたのでしょうか?その理由を、あらすじやみどころを含めネタバレ解説していきます!
この記事は、『スリー・ビルボード』の鑑賞後、『この作品の趣をより深く味わいたい方』や『人間のダークな部分がむき出しに描かれた映画が好きな方』、『話の内容を整理しておさらいしたい方』に特におすすめです。
『スリー・ビルボード』について
出典:映画『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』公式Facebook
「ビルボード」とは、どのような意味なのでしょうか?ビルボードは日本ではあまりなじみのない言葉ですが、アメリカでは特に屋外に設置されている巨大な広告看板のことを指します。タイトルの通り、この物語は3枚の古い看板が塗り替えられるところから始まるのです。
この映画の脚本と監督を務めたのは、『セブン・サイコパス』の監督、脚本でも知られるマーティン・マクドナーです。マクドナー監督は、以前から劇作家として一目置かれた存在でした。また本作品は、第90回アカデミー賞にて作品賞をはじめとする6部門のノミネートを受け、悲しい母親を演じたフランシス・マクドーマンドが見事主演女優賞を、サム・ロックウェルが助演男優賞を獲得しました。
『スリー・ビルボード』は同年の作品賞受賞作『シェイプ・オブ・ウォーター』と肩を並べて、作品賞を受賞するのではないか?と予想されていた作品でもあります。また第42回トロント国際映画祭では、この映画祭で最高の賞に値する観客賞を受賞しました。
映画『スリー・ビルボード』のネタバレあらすじ
ここからは、ネタバレ有でストーリーのあらすじを解説していきます。まだ鑑賞していない方はご注意ください。
【あらすじ①】突如現れた3つの立て看板
舞台はアメリカのミズーリ州。主人公のミルドレッドは人通りの少ない田舎道の3枚の看板を眺める。ミルドレッドは、この看板に怒りのメッセージを掲載しようと考えているのだ。彼女の娘アンジェラ(キャスリン・ニュートン)はこの道沿いで7か月前にレイプされた後、残酷にも焼き殺された。彼女は失意の中広告会社を訪ね、看板を作る計画を立てる。3枚の赤い看板には、それぞれの言葉が用意されていた。
1枚目は「レイプされて死亡」、2枚目は「犯人逮捕はまだ?」である。そして3枚目には「なぜ?ウィロビー署長」と書いた。この町の警察が、一向に犯人を見つけないことを非難する内容だ。
警察署長のウィロビーはミルドレッドの自宅を訪ね、捜査を進めているが一向に手がかりが見付からないことを説明した。また彼は、自身ががんであることも付け加える。しかしミルドレッドは「そんなことは知っている」と言い放ち、「あなたが死んでからでは遅い」とも言った。
しかしミルドレッドは、この看板を見た町の人々を敵に回すことになる。ウィロビー署長は、家族思いの人物で人望もあった。彼を非難してしまったがゆえに、結果多くの人の反感を買うこととなったのだ。とりわけこの警察署の保安官ディクソンは、ウィロビーを敬い慕っていた。そこでディクソンは、自分の上司や警察署に非難の声を向けたミルドレッドに対し、敵意をあらわにした。
またミルドレッドは離婚しており、元夫チャーリー(ジョン・ホークス)は若い女性ペネロープ(サマラ・ウィーヴィング)と同棲中であった。アンジェラの実の父親であるチャーリーですらも、あの赤い看板を良く思っていない。更にチャーリーは、「アンジェラが亡くなる1週間前に、“自分と一緒に住みたい”と言ってきた」とカミングアウトし、ミルドレッドを追いつめる。
実はミルドレッドはアンジェラが殺された晩、彼女が出かける前にうっかり口論となり「レイプされてしまえ」と暴言を吐いてしまったのだ。この事実は、より一層ミルドレッドを苦しめる。
【あらすじ②】ウィロビーの死
ある日ウィロビーは、妻アン(アビー・コーニッシュ)と幼い娘二人と幸せな休日を過ごした。その後彼は、自宅の馬小屋の前で自殺する。ウィロビーは病が進行していく自分を、愛する妻や子供達に見せたくなかったのだ。しかしこの知らせを知り悲しみのあまり激昂したディクソンは、ミルドレッドの赤い看板を設置した広告会社に押し入る。
そして経営者のレッド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)を2階から突き落とし、大けがをさせてしまった。このディクソンの暴行は、ウィロビーの後任でこの町にやって来た新任署長アバークロンビー(クラーク・ピーターズ)に見られていた。これによりディクソンは、警察の仕事をクビになってしまう。
ミルドレッドに対する町の人々の反応も、以前より更に風当たりのきついものとなった。あの看板がなければ、ウィロビーはもう少し長生きできたのにと言わんばかりなのである。そんな中ミルドレッドは、生前に書かれたウィロビーからの手紙を受け取った。
彼は「あの看板は名案」とミルドレッドを勇気付け、来月分の広告費5,000ドルを受け取ってくれと言い残した。しばらく前にこの看板の費用として広告会社に匿名の送り主から寄付があったが、それがウィロビーによるものだったのだと分かる。
【あらすじ③】看板に火をつけたのは一体誰?
出典:映画『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』公式Facebook
そんなある日、ミルドレッドの3枚の赤い看板に火がつけられた。ミルドレッドは息子ロビー(ルーカス・ヘッジズ)を車に乗せ運転している最中に、偶然にそれを見付けたのだ。ミルドレッドは必死で消火活動に励むが、消火器で消せる範囲は限られている。5,000ドルも支払った看板は、あっさりと消えてしまった。ミルドレッドは、怒りに震える。
その頃ディクソンは元同僚からの連絡で、生前のウィロビーからの手紙が届いていると知った。彼はその日の夕方、誰もいない警察署へ忍び込みウィロビーからの手紙を読む。手紙は「お前には警官としての素質がある、必要なのは愛だ。捜査を続けて欲しい」という内容のものであった。
出典:映画『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』公式Facebook
一方復讐心でいっぱいのミルドレッドは、何度も警察署に電話をかける。そして署内に人がいないことを確認した彼女は、火炎瓶を警察署に投げつけた。看板に火を点けたのはきっと警察の仕業で、犯人はディクソンだと睨んだからだ。ディクソンは警察署の外が燃えている内も、署長からの遺言を読むのに集中していて気が付かなかった。しかし彼はその後自分の周りが火だらけになっていることに驚き、警察署から外に飛び出る。
ミルドレッドは、ディクソンが火まみれになって出てきたため、驚いて立ちすくんだ。そして彼女は、自分がとんでもないことをしてしまったのだと悟る。そこへ彼女の友人ジェームズ(ピーター・ディンクレイジ)がたまたま通りかかり、ディクソンの救助を試みる。すぐさまたくさんのパトカーが現れ、アバークロンビーが現れた。ジェームズは火炎瓶を投げたのがミルドレッドだと気付いていたが、彼女と一緒に居たと嘘をつき庇った。
顔や体にやけどを負ったディクソンの病室は、広告屋のレッドと同室であった。レッドは先日ディクソンが窓から放り投げたため、大けがをし入院していたのだ。レッドは憎きディクソンに対して自分のオレンジジュースを差出し、飲みやすいようにストローの向きを変えてあげた。ウィロビーからの手紙、そしてこのレッドの優しさが、ディクソンの心を動かす。
【あらすじ④】犯人らしき人物の出現
後日看板はペンキ塗りの青年の好意によって、作り直された。予備のペンキや材料があったためだ。その後ミルドレッドは、ジェームズと高級レストランで食事をする。火事の件でジェームズからアリバイを作ってもらった際に、約束していたからだ。しかしそこへはチャーリーと、その彼女ペネロープも来ていた。チャーリーはジェームズがトイレで席を外している隙に、あの看板を燃やしたのは自分だと告白する。
この事実を知り怒りを抑えきれなくなったミルドレッドは、ジェームズとのデートを中断する。彼女のあまりに失礼な発言や態度にジェームズは絶望し、席を立ち去った。しかしチャーリーの若い彼女の「怒りは怒りを来たす」という言葉がミルドレッドの心に響き、彼女は二人に対する反撃を躊躇した。
その頃、退院したディクソンはバーで酒を飲んでいた。その時ディクソンはたまたま後ろに座っていたお客が、「9か月前にレイプをした」という発言を耳にする。その後ディクソンはそのお客と取っ組み合いの喧嘩になりながらも、彼のDNAを獲得した。ディクソンはミルドレッドの宅を訪ね、犯人らしきものを見つけたから希望を捨てるなと伝える。ミルドレッドは、ディクソンにお礼を言った。
だがディクソンがバーで見付けたその自称レイプ犯は、人違いであった。アバークロンビーの話では、アンジェラの事件の犯人とDNAが一致しないとのことなのだ。またその男には、事件当時国外にいたというアリバイもある。ディクソンは帰宅後、電話でそのことをミルドレッドに伝える。
彼女は悲しみのあまり、ふさぎ込んだ。しかしディクソンは「バーで見つけた人物がアンジェラの件のレイプ犯でなくとも、レイプを犯していることには違いない」と言う。またディクソンは、バーにいた男の住所や車のナンバーを知っているから、仕返しをすることも可能だとやんわりと話した。
二人は翌日その人物に対して復讐を行う約束をする。次の日アイダホに車を走らせている道中、ミルドレッドは自分が警察署に火を点けたのだと告白した。ディクソンは「あんた以外の誰がやる?」となにくわぬ顔で答える。彼は全て分かっていたのだ。ミルドレッドはとんでもない行いが許され、これまでには無かったような笑みを浮かべた。二人はやや犯人に復讐する気が失せ、殺すかどうかは道々決めれば良いという話になる――。
『スリー・ビルボード』の主要キャスト
ミルドレッド・ヘイズ/フランシス・マクドーマンド
出典:映画『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』公式Facebook
この映画の主人公であり、レイプ殺人事件の被害者アンジェラの母親。事件後、警察が一向に捜査を進めている気配が見当たらないため、業を煮やし非難の看板を自腹で立てます。気難しそうな性格の上、言葉使いも悪くストーリー序盤での印象は極めて悪いと言えるでしょう。劇中クスリとも笑わなかった彼女が、ラストの場面で見せる笑顔は印象深いものとなりました。
この素朴でタフな女性を演じているのは、フランシス・マクドーマンド。彼女は本作品で、第90回アカデミー賞の主演女優賞を獲得しました。受賞時のスピーチでは「インクルージョン・ライダー」という言葉で締めくくり、有色人種や女性など多様性の受け入れ規約をアピールする力強いメッセージを残しています。
ジェイソン・ディクソン巡査/サム・ロックウェル
出典:映画『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』公式Facebook
この映画の主要人物3人の内の1人です。気が短くカッとなると暴力を自制できない、危険人物といった印象。また、あまり賢くない上に人種差別主義者でもあります。同じく人種差別主義者の母親と暮らしをしており、彼女の悪い助言を素直に聞き入れてしまうマザコンな側面も持ち合わせていると言えるでしょう。
物語の後半では改心し、広い心でミルドレッドを許す存在となっていきます。この荒くれ者を演じているのは、『月に囚われた男』や『マッチスティック・メン』の出演で知られる、サム・ロックウェルです。本作品では、過激で人間臭い演技が評価され、第90回アカデミー賞の助演男優賞を見事獲得しました。
ビル・ウィロビー署長/ウディ・ハレルソン
出典:映画『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』公式Facebook
この映画の主要人物3人の内の1人で、町の警察署長。ストーリー序盤では、アンジェラの事件に対していい加減な対応をとっていると思われていましたが、実は真摯に向き合っていた温厚な人物です。町の人々からの信頼も厚く家族を大切に思う人格者ですが、すい臓がんを患っていた事から、仕事を引退し自殺を図りました。
ウィロビーを演じているのは、悪役や危険な男の役としての印象が強いウディ・ハレルソン。本作品ではアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされましたが、惜しくも同作品出演のディクソン役サム・ロックウェルに破れました。
ジェームズ/ピーター・ディンクレイジ
出典:映画『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』公式Facebook
ミルドレッドの友人であり、彼女に密かな恋心を抱いています。小人症であることから、差別的な発言を受けたり見下されたりすることもしばしありますが、心優しく穏やかな人物です。彼が犯した唯一の罪は、ミルドレッドの罪を隠すため嘘のアリバイを作ったことかも知れません。そんな彼も物語終盤では、ミルドレッドの言動に呆れ離れていきました。
ジェームズを演じたのは、様々な映画の名脇役として知られるピーター・ディンクレイジです。彼は『X-MEN: フューチャー&パスト』や、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』などのアメコミ作品にも出演しています。また『ピクセル』では、主人公のライバルの名ゲーマー役として、個性的なキャラクターを演じ切りました。
チャーリー/ジョン・ホークス
出典:映画『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』公式Facebook
以前は警察官であり、ミルドレッドの元夫。ミルドレッドの発言からDVが酷かった事が伺い知れます。アンジェラが殺害される以前から、若い娘と暮らし始めていた身勝手なイメージの夫です。アンジェラの件に関しては相当堪えているようですが、ミルドレッドの看板に火を着けるなど何かと他者の神経を逆なでするような人物だとも言えるでしょう。
この嫌な男チャーリーを演じたジョン・ホークスは、本作品と同じくアメリカのミズーリ州を舞台としたヒューマンドラマの傑作『ウィンターズ・ボーン』でも活躍しています。
知ればもっと面白くなる!『スリー・ビルボード』の5つのみどころ
人間のダメな部分がとことん描かれている、それが『スリー・ビルボード』とも言えるでしょう。しかし同時に、「やっぱり人が憎めない!」そんな気持ちにさせられる映画でもあります。また細かい部分をよく観れば、この映画では私達にはあまり馴染みのないアメリカの社会情勢が上手く取り上げられているのです。ここでは、そんな『スリー・ビルボード』の5つの魅力をご紹介してみましょう。
【みどころ①】観客の心を掴んで離さない秀逸なシナリオ
出典:映画『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』公式Facebook
『スリー・ビルボード』の魅力は何と言っても、緻密に計算された脚本にあります。先の読めない展開、登場人物を多面的に捉えた濃厚な人間ドラマ、これらの要素が上手く絡み合いこれまでには無かったような感動的な映画作品に仕上がったと言えるでしょう。劇中のストーリーは抗議をする側であり被害者の母親であったミルドレッドが、取り返しのつかない罪を犯してしまうなど驚きの展開の連続です。
この脚本は、同作の監督でもあるマクドナー氏によるものです。監督のマクドナーは、過去に脚本と監督を手掛けた短編映画『シックス・シューター』で、第78回アカデミー賞の短編実写映画賞を受賞しました。またマクドナー監督は、日本の北野武監督の大ファンとしても知られています。
【みどころ②】3枚の看板が意味する3つのパート
本作品では、冒頭に3枚の看板が塗り替えられるところから始まります。そしてその3枚の看板のメッセージを象徴するかのように、実は映画自体も3つのパートに分けられているのです。これは人物のスポットが主人公ミルドレッドだけでなく、他2名の人達にも当てられていることを示唆しているとも言えるでしょう。
【1枚目の看板】「レイプされて死亡」ミルドレッド
ミルドレッドの紹介パートです。冒頭からウィロビーの死のパートに移るまでの間、ミルドレッドの性格や心情、罪の意識が描写されます。この部分では町の人々とのやりとりなどを通じて、醜く歪まされたミルドレッドの心が痛々しく描かれていると言えるでしょう。
また彼女は娘がレイプされた責任を誰よりも強く感じ、その罪悪感に苦しめられていることが見てとれます。早く犯人を見つけることで、自分は悪くないと実感したいという秘めた願望も含まれているのかも知れません。
【2枚目の看板】「犯人逮捕はまだ?」ディクソン
物語の最後のパートであり、ウィロビーの死後、広告会社を襲う所からラストシーンにかけての重要な部分です。やる気がなくダメな警官だと思われていたディクソンが、ガッツを見せるパートとも言えるでしょう。署長の手紙が仄めかしているように、実は彼が正義感の強い人物であったという意外性が観客の心を惹きつけます。
【3枚目の看板】「なぜ?ウィロビー署長」ウィロビー
始めの内はいい加減な警察署長に見えましたが、実はアンジェラ殺害事件の捜査を誰よりも真剣に行っていたことが分かりました。死ぬ前にディクソンに手紙を残し、彼に捜査を引き継がせることで何とか事件を解決に導こうとするあたりも、看板から連想させられた人物とは違っていると言えるでしょう。
よって自殺をしてしまったことが、彼の唯一の罪と言えます。「なぜ?ウィロビー署長」のメッセージは、「なぜ自殺したの?」という問いかけなのかも知れません。
【みどころ③】舞台はアメリカのミズーリ州
この映画の舞台となっているのは、アメリカのミズーリ州のエビングという町です。エビングは架空の町ですが、この映画の舞台がミズーリ州であることは重要な意味を持っています。劇中のこの町に住む人々の会話のやりとりは、ギスギスした内容のものばかり……。言葉遣いは荒々しく、差別的な発言が多いのが特徴かも知れません。
アメリカに住む白人は一般的にマジョリティとして認識されていますが、実は地域によっては低所得で差別を受けている白人も存在するのです。よって『スリー・ビルボード』では、私達の知らないアメリカ人の姿が描かれており、差別問題がテーマとして含まれているとも言えるでしょう。これ以外にもミズーリ州が舞台となった映画作品は、『ゴーン・ガール』や『ウィンターズ・ボーン』などがあります。
【みどころ④】実際にあったアメリカの事件を連想させられる会話
『スリー・ビルボード』の劇中では、登場人物らの会話からアメリカで起こったさまざまな事件が暗示されています。昨今アメリカで大問題となった事件をおさらいしながら、見てみましょう。
1.神父がミルドレッドを訪ねて来るシーン
ミルドレッドは神父に対して「あなたが2階でくつろいでいる時、お仲間が下の階で少年を犯していたら、あなたも仲間の一員として罪を問われるべき。でもその少年がどんなに犯されようと、あなたは見ないふり」このようなことを言いました。
このセリフは、カトリック教会の神父が児童に対して性的虐待を行っていた実在の事件について言及しているように見えます。またこのスクープの詳しい内容は、アカデミー賞の作品賞を受賞した2015年の伝記映画『スポットライト 世紀のスクープ』で、詳しく取り上げられています。
2.「警察は黒人いじめに忙しくて、本当の犯罪を解決していない」
TVの報道で、看板についてインタビューを受けた時のミルドレッドのセリフです。このセリフからは、2014年に本作品の舞台と同じミズーリ州で起こった実際の事件を思い起こさせられます。これは白人警官が丸腰の(銃を所有していない)わずか18歳の黒人青年を白昼に公然と射殺した事件ですが、事件以降抗議が相次ぎ暴動までに発展しました。これはマイノリティに対しての、警察権力の差別が問われているのかも知れません。
【みどころ⑤】赦しをテーマとした人間讃歌
出典:映画『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』公式Facebook
『スリー・ビルボード』は、犯人探しのミステリーを匂わせながら、予想とは全く違った着地を見せる型破りな作品と言っても過言ではありません。映画を観終わったあとは清々しい気分にさせられ、誰が犯人なのか?を深く考えさせないのがこの作品のマジックではないでしょうか。
この映画の登場人物である町の人々は、皆ギスギスしています。決して豊かではない生活と、人種差別が蔓延した世界から発せられる不協和音。残酷な事件は町の人達を脅かし悲しませ、やがてそれらの思いが憎しみへと変わるのでした。
物語前半では、麻酔をかけずに治療をはじめようとする歯医者や偽善だらけの神父、日和見主義の報道者など、温かみのない人々の描写により人間の嫌な部分が次々と浮き彫りにされていきます。そしてこれらがウィロビーの死という悲しい事件をきっかけに、より一層悪い方向に転落していくのでした。
しかしその後広告会社の若者レッドの優しさや、ウィロビーの生前の配慮から、ミルドレッドやディクソンの気持ちが変化していくさまが描かれるのです。憎しみの波紋が更なる憎しみを呼び次々と事態が悪化する中盤から、1人の人間の赦しが赦しを呼ぶ終盤への展開は痛快であり、本作品の大きなみどころと言っても良いでしょう。
まとめ
『スリー・ビルボード』では許しがたい他人の罪を許すことをテーマとし、人間の醜い側面がむき出しに描かれています。ここではそんな本作品のみどころを、ネタバレでご紹介しました。細かいみどころを再度意識しながら鑑賞してみると、また違った驚きがあるかも知れません。気になる箇所があった方は、ぜひご鑑賞ください!