難解映画『シャッターアイランド』を考察してみた|ネタバレあらすじ結末まで解説!
2010年に公開されたサスペンス映画『シャッターアイランド』。孤島には精神病院が存在し、入院患者は全員犯罪者という恐ろしき地に足を踏み入れる保安官たち。終始緊張が走ったまま進むストーリーに、目が釘付けになる一作です。
舞台設定の斬新さから衝撃のラストまでハラハラする展開と「あれ…?」と思わせる違和感、そして張り巡らされた伏線の数々は、サスペンス好きの心を躍らせるのに十分すぎる内容。
この記事では、映画『シャッター・アイランド』における疑問や伏線、ストーリー解説などを紹介していきます。ネタバレを読んでから観るには非常に惜しい映画ですので、必ず鑑賞後にこのページを訪れて下さい!
【この記事を執筆・監修したのは…】
もぐ
目次
映画『シャッター・アイランド』について
『シャッターアイランド(Shater Island)』は、同名の原作小説を元に映画化したサスペンス/ミステリー映画。舞台は1954年のアメリカ・ボストンハーバーにある孤島「シャッター・アイランド」。そこにあるアッシュクリフ精神病院の患者が脱走した事件を受け、連邦捜査官(FBI)のテディと相棒のチャーリーが捜査に向かうところから事件は始まります。
捜査を続けていくごとに、精神病院の怪しい陰謀と残酷な手術の存在に気付き始めるチャーリーですが、ラストは”まさか”の結末が待ち構えていてーー。
名匠スコセッシ&ディカプリオのコンビ4作目
出典:Amazon.com
本作の監督を務めるのはマーティン・スコセッシ。アメリカを代表する映画監督であり、『タクシードライバー』『ハスラー2』『ギャング・オブ・ニューヨーク』など日本人にも知名度の高い作品を次々と輩出しています。カンヌ国際映画祭でのパルムドール賞を受賞、そしてアカデミー賞には幾度となくノーミネートされ、作品賞や監督賞を手にしていますね。
大の映画好きで、その矛先は日本映画にも向けられたそう。黒澤明の映画に興味・関心を持ち熱心に研究を重ねたのだとか。また『沈黙-サイレンス-』では日本の小説が原作となっています。
そんな有名監督と何度もタッグを組んでいるのは、主演のレオナルド・ディカプリオ。『ギャング・オブ・ニューヨーク』で起用してから本作でコンビを組むのは4回目だそうですが、彼を監督に紹介したのはなんとロバート・デ・ニーロ!「良い役者がいる」との紹介を受け、それ以来映画界を代表するコンビとなりました。
ディカプリオの相棒役・チャックを演じたのは、アベンジャーズのハルクでお馴染みのマーク・ラファロ。彼はスコセッシの大ファンであり、今回はスコセッシに手紙を送ったことがきっかけでこの役を手にしたとインタビューで話していましたよ。
マーティン・スコセッシの挑戦
数々の傑作映画を世に排出してきたスコセッシですが、本格的なサスペンス映画を手掛けたのは本作が初めて。研究に研究を重ね、この映画に挑みました。サスペンスというジャンルは名作映画が多いですから、気負いするのも無理はありません。失敗することでこれまでの彼の経歴が一気に消されてしまう可能性がありますものね。
映画全体の雰囲気を伝えるため、彼が特に好きだという『キャット・ピープル』(1942)と『ヴードリアン』(1943)、そしてヒッチコック作を参考にし、時には俳優陣と上映会も行ったんだとか。実際に映画を観るとわかる通り、異様なまでの影の付け方や壮大な音楽のスケールをはじめとした、古典的なハリウッド特有の演出が多くみられます。
『シャッターアイランド』のネタバレあらすじ
それでは早速映画『シャッターアイランド』のストーリーをネタバレありで紹介していきます。
【ネタバレ①】島から消えた患者と医師
アメリカにある孤島には、犯罪者が集まる精神病院があった。出入りするにはフェリーしか手段がなく、一日の便も限られている。「シャッターアイランド」という名前の通り、孤立した雰囲気の強い島にアメリカ連邦の保安官二人が足を踏み入れることとなった。
どうやら孤島では精神病院からレイチェル(ネリー・サイウット)という女性が逃げ出したらしい。主人公のテディ(レオナルド・ディカプリオ)と相棒のチャック(マーク・ラファロ)はその知らせを受けて孤島を訪れるも、厳重な警備に少し驚く二人。病院は男性専用のA棟、女性専用のB棟、危険患者を収容したC棟と分かれており、C棟は許可と立ち合いがなければ入れないそうだ。
B棟から逃げ出したレイチェルという人物は子供を3人殺した過去を持っており、この島にいる現実が未だに把握できていない、いわば精神に不安を抱えているような女性。頑丈に警備された部屋に加え、彼女は裸足で逃亡したために、ますます謎は深まるばかりであった。
捜査に入ると彼女の部屋からは「4の法則 67番目は誰?」という理解のできないメモが発見される。医師のコーリー(ベン・キングスレー)でさえ解読は不可能らしい。テディは謎多きレイチェルにやや困惑するも、絶対に島のどこかには居るはずと推測する。そして彼女の主治医であるシーアン医師を確認しようとすると、彼はなぜかこの時に限って不在。疑いを二方向にかけながら捜査をすすめることに。
【ネタバレ②】捜索や聞き込みの末に嵐の到来
シーアン医師と連絡を取ろうと試みるも、島には激しい嵐がきていて電話線がうまく機能しない。到着早々、早速身動きがとりづらい状態となってしまう。どうにかレイチェルの事件を解決すべく、院内スタッフに聞き込みを始めるも良い反応は返ってこなかった。
あまりの協力姿勢のなさ、何かを隠蔽するような気味の悪い雰囲気にテディは激怒し孤島を離れようとするもフェリーは遂に欠航。仕方なく島に滞在し、捜査を再開し始める。テディには元々島に来るための目的を持っていた。妻・ドロレス(ミシェル・ウィリアムズ)が亡くなった理由には放火魔・レディスという存在があり、奴はこのシャッターアイランドのどこかの棟に収容されていると言う。捜査も勿論だが、放火の真実を突き詰めるべく、彼はこの島を訪れたのだ。
今度は患者たちに聞き込みをするもめぼしい情報はなし。しかしある婦人を聞き込みしていると、チャックが席を外した瞬間「逃げて」とメモに書き記し、テディに意味深な言葉を残して去って行った。
そしてやっと情報を手にし、院内では「ロボトミー手術」という脳に作用する手術が行われている疑惑が浮上。これは持っている凶暴性を抑える手術で、狂気が穏やかになる代わりに人格や記憶を手放すもの。病院は患者を使っていわば実験のようなものを行い、良い方向へ作用すれば世に発表する考えを持っていた。
一方テディはどんどん疑心暗鬼に陥り、嵐が酷くなるにつれて頭痛も強まっていた。島に着いてからやたらと頭痛が酷いのである。またも薬を服用するも、「この中に何か入っているのでは?」という疑いさえ持ち始めていた。
外の様子は悪化する一方で、停電するとC棟の警備が外れてしまう恐れがある。疑念を拭いされないチャックとテディは停電と共に、行ったことのないC棟へ足を踏み入れてしまった。
【ネタバレ③】閉ざされたC棟へ、そして灯台で知る真実
足を踏み入れると早速患者に襲われてしまう。警官とチャックに男性を任せると、テディはどんどん奥へ進んでしまい、ジョージ・ノイス(ジャッキー・アール・ヘイリー)という傷だらけの男性と出会う。彼はこの施設を一度出たにも関わらず、再度犯罪を犯して再び収容されてしまったそうだ。
レディスの居場所を尋ねると「レディスはお前だろう」という言葉が返ってくる。ジョージ曰くこれは仕組まれたゲームだそうで、テディに勝ち目はないと言う。騒ぎになる前にC棟を抜け出すテディだが、この時点では何もかもが信用できなくなっていた。そして島にある謎の灯台の存在が、気がかりで仕方がない。
チャックにさえ疑いをかけるテディは、彼の抑止を振り切って一人で灯台へ向かってしまう。するとネズミが大量に溢れる洞窟の中には女性がおり、なんと彼女が本物のレイチェル(エミリー・モーティマー)だと言うのだ!ロボトミー手術に反対し病院を抜け出し、島のあちこちで逃げ回っているとのこと。
彼女の話を聞いて島を出ていく決意を固めたテディ、それをコーリー医師に伝える頃にはチャックの姿が見当たらなくなっていた。島には一人で訪れたのだと言い放たれ、更には別の医師に鎮静剤を投与されそうになる。怪しんだチャックは真実を確かめるべく灯台へ向かう。
灯台の中にはデスクに向かうコーリー医師が。テディが執着心を示すレディス、その人物はテディ本人のことだと主張。テディの本名はアンドリュー・レディス。そして妻の名前はレイチェル・ソランド。つまり追い求めている相手はこれらの名前のアナグラムだったことが発覚する。テディではなくアンドリューはC棟の患者であり、メモ書きの67番目の人物なのだ。
【ネタバレ④】過去と病気に向き合い、結末へ
アンドリューは戦争に駆り出されていた過去を持ち、帰ってきた頃には精神が耐えられず酒浸りの生活を送っていた。それを見た妻のレイチェルはうつ病となってしまう。鬱をこじらせた彼女は三人の子供を湖で溺死させ、終いには「私を殺してくれ」とアンドリューに頼み込むのであった。
妻を殺したことによって彼の精神は崩壊。そしてこの孤島へ辿り着いたのだ。浮き沈みが激しく、一向に回復の傾向が見られなければ、何度も同じことを繰り返して話しているような状態。時折頭痛が激しく起こるなどの体調不良は、抗精神薬を長期間使用したことによる禁断症状だったのだ。
そして相棒のチャックなど存在しておらず、彼の正体はアンドリューの主治医・シーアン医師だった。つまりアンドリューの保安官などは全て思い込み、妄想も激しく医師もスタッフもお手上げ状態だったということ。しかしこの妄想を現実にして再現すれば、正気に戻るのではないか?と病院側は判断を下す。これがダメだったのなら、彼にロボトミー手術を施す運びとなっていた。
実際にテストは失敗し、アンドリューの妄想も止まないためロボトミー手術を行うことになった。翌日もシーアンは彼と会話をしていると「回復の見込みはない」と判断する。しかしアンドリューは手術へ行く前に「モンスターのまま生きるか、人として死ぬか」という言葉をシーアンに投げかける。
彼の言葉にハッとするシーアンだが、アンドリューはコーリー医師たちに連れられて歩き出す。灯台へ向かっていく姿を、ただただシーアンは見つめることしかできなかった。
『シャッターアイランド』の登場人物・キャスト紹介
スコセッシ監督は本作をキャスティングする上で、いつも以上に演技力を重視しました。脇役にまで有名役者を存分に起用しているのがなんとも贅沢で、この作品の魅力を倍増させています。
それでは、本作の登場人物と演じたキャストを紹介していきます!
テディ・ダニエルス(アンドリュー・レディス)/レオナルド・ディカプリオ
問題が起きる孤島に足を踏み入れた保安官、テディ。相棒のチャックを連れて謎を暴くと同時に、彼は自分の目的を果たすべくこの仕事を引き受けたのでした。頼れる保安官というイメージを序盤は抱くのですが、終盤にて彼は精神病院の患者であったことが発覚します。
一度観ただけでは分かりづらいのですが、物語が進むにつれて彼の言動に「あれ?」と思うことでしょう。放火魔と言われていたレディスへの異様な執着心、しかしその人物のデータが見当たらないなど、注意深く推理すればおかしな点がたくさん散りばめられているのです。
本名はテディではなくアンドリューであったことも、コーリー医師の説明にて露わになります。最期は意識が正常に戻っていたアンドリュー、彼はどんな思いでロボトミー手術を受けに行ったのでしょうか……。ラストシーンの遠くなっていく背中を追っているだけで、胸が苦しくなっていくような気もしますね。
そんなテディを演じたのは、知らない人はいないレベルに有名なハリウッド俳優、レオナルド・ディカプリオ。上記で述べたように、スコセッシとのタッグはこれで4作目です。障がいのある18歳の子役を演じた『ギルバード・グレイプ』(1993)でアカデミー助演男優賞に初ノミネート。その後は『タイタニック』や『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』などでさらに名を広めた演技派俳優です。
チャック・オール(シーアン医師)/マーク・ラファロ
テディ保安官の相棒として孤島にやってきたチャック。テディを「ボス」と呼び頼れる相棒のような雰囲気を出していますが、正体は精神が崩壊したアンドリューの主治医・シーアンだったのです。確かに彼を裏切るような素振りこそ見せませんでしたが、終始「アヤしい感じ」がするキャラクターでしたよね。聞き込みの際も捜査を進める際にも、やたらと落ち着いている印象がありました。
シーアンはアンドリューに回復の兆しが見られないと判断し、ロボトミー手術の決行を促します。しかし最後の最後で、彼は正気に戻っていたという……。ずっと主治医だったからこその衝撃とやるせなさ、黙ってアンドリューの背中を見送るしかありませんでした。
チャーリーを演じたのは、インクレディブル・ハルクでお馴染みの俳優マーク・ラファロ。下積み生活は長かったですが、『ユー・キャン・カウント・オン・ミー』(2000)で注目されはじめ、『フォックス・キャッチャー』(2014)や『スポットライト』(2015)でアカデミー助演男優賞にノミネートされています。スコセッシの大ファンだと公言しており、本作が初タッグとなりました。
ドロレス・シャナル/ミシェル・ウィリアムズ
テディの愛する妻・ドロレスは放火魔のせいで命を落としていた、という衝撃の告白が作中ではありました。ふとテディに同情してしまいたくなりますが、実際のドロレスは夫の姿を見てうつ病に。そして大切な子供三人を溺死させていたのです。
ドロレスは自らの命を夫に奪わせるべく「殺して」と懇願し、テディならぬアンドリューが射殺。この一件により、彼は精神崩壊を起こしてしまいました。
ドロレスを演じたのは、映画『ブルーバレンタイン』(2010)でアカデミー主演女優賞ノミネート、そしてマリリン・モンロー役を演じた『マリリン 七日間の恋』でアカデミー主演女優賞を獲得しているミシェル・ウィリアムズ。美しい外見はもちろんのこと、高い演技力で評価されている女優です。
レイチェル・ソランドー/エミリー・モーティマー
精神病棟に謎のメモを残し、裸足で姿を消したレイチェル。子供を殺害した経歴のある恐ろしき女性で、未だに自分が孤島にいることを理解していません。物語が進むにつれて彼女は存在しないことが分かります。子供を殺しているなどドロレスとの共通点があるために、アンドリューが現実逃避をするために創り上げた架空の人物なんだとか。
病室の中に戻ってきたレイチェル、窟の中で出会う”ホンモノ”のレイチェル、現実にはどちらも存在していなかったのです。
ジョン・コーリー院長/ベン・キングスレー
まるで精神病院の黒幕かのようなコーリー院長。彼は妄想上の人物でもなく、むしろ黒幕でもありませんでした。ロボトミー手術に対してはあまり良く思っておらず、新たな治療法を生むべくアンドリューを使って実験していたそう。彼の本心は作中で明かされていませんが、本当にロボトミー手術に否定的な考えだったのなら、良い医師だと思えますよね。
そんな院長を演じたのは、イギリス出身のベン・キングスレー。映画『ガンジー』でガンジー役を演じ、アカデミー主演男優賞を受賞している、こちらも実力派俳優です。
ジョージ・ノイス/ジャッキー・アール・ヘイリー
C棟に収容されている患者であり、全身傷だらけの男です。作中ではアンドリューに情報をリークしている謎の人物ですが、実はそれ自体が彼の妄想!二人のやりとりから、傷はテディがつけたものと推測できます。彼は「放火魔のレディス」ということを口にしていましたからね。
散りばめられた10の謎を解説!
『シャッター・アイランド』にはいくつもの謎と伏線が散らばっています。ここでは特に気になる10点を取り上げました。
①水と炎の演出が象徴するものとは?
作中に度々登場する「水」と「炎」一体これが何を示しているのでしょうか?
簡単に述べるなら水は現実を、炎はテディの妄想を現わしているのです。冒頭部分の船酔いシーン、そして彼の過去である子供の溺死。これらを考察するとテディは水に対してなんらかのトラウマを抱えていたことでしょう。水が関わることによって、彼の現実を表現しているのだとか。
反して炎は妄想部分。よく考えてみればドロレスの死因も放火、つまり炎が関与しています。ですが実際は彼の射殺によって命を落としましたよね。またジョージと出会うシーンでは何度も何度もマッチを灯していましたが、火が消えても辺り一面が真っ暗になることもありませんでした。
思い返せばコーリー医師の車を爆破させるシーンでも、ドロレスと子供が現れて火に囲まれていましたよね。火=現実逃避を現わすもの、と考えて頂ければと思います。
②主人公テディの正体を示唆するヒントとは?
正直なところ、初見ではなかなか分かりづらい作品である『シャッターアイランド』。序盤からこの病院の人間はおかしい!と思うことが多々起きるのですが、じっくりと読み解いていくとテディ側にも「?」と思ってしまうポイントは多数ちりばめられているのです。
コーリー医師と出会い、患者に対する件のセリフで疑問に思うことはありませんでしたか?
テディが部屋の絵を見た時に「意識を失うまで冷水に浸けて――溺死さえも」という、かつての患者に酷い仕打ちをしていたことを説明するセリフです。なんだかコーリーがテディの様子を伺うように話していることが分かりますね。「溺死」というワードをわざと出して、様子を観察していたのでしょう。
また、島に到着した瞬間も注目ポイントの一つです。アメリカ連邦保安官であるのにも関わらず、島の人々は彼に対してとてもよそよそしい態度を取っていました。これはテディの正体がC棟に収容される、重度の患者であるから!本当に患者が逃亡し、急を要した事態なら院内スタッフや医師は藁にもすがる思いで助けを求めるでしょう。
実はこのように、序盤の序盤から、正体を示唆するヒントがたくさん存在しているんです。
③相棒チャックの正体を示唆するヒントとは?
シーアン医師の態度も疑問に思う部分がありますね!見ていると「本当に相棒?」「何考えてるのか分からないな」という印象を抱きがちですが、彼はテディが体調を崩すときは特に心配そうな顔を浮かべています。捜査に協力している時はやや呆れ顔であることが多いのに、彼が頭痛を訴えた時などは対応が非常に迅速でした。これもテディの主治医だったからですよね。
そして冒頭部分、島に到着して銃を没収されるシーンも注目です。本来保安官であるなら拳銃の扱いには慣れているはずですが、取り外すのに手間取りテディに睨まれていました。本物の保安官ではありませんから、手慣れていなくて当然ということになります。
④レイチェルのメモ「4の法則 67番目は誰?」の意味は?
レイチェルという人物が存在しており、本当に事件が起きていたのならこのメモ書きは捜査の手がかりとなったことでしょう。ですが、作中の出来事は全てアンドリューの妄想ということを忘れてはなりません。妄想にとりつかれた彼は何度も何度も病院の人間に、レイチェルの話をしては呆れられているのです。
「4の法則」とは4人の名前がアナグラム(文字の入れ替え)となっているという意味。この場合の4人とはテディ、アンドリュー、ドロレス、レイチェルにあたります。彼らのスペルをそれぞれ英語で書きだしてみると
- アンドリュー・レディス=ANDREW LAEDDIS
- テディ・ダニエルス=EDWARD DANIELS
- ドロレス・シャナル=DOLORES CHANAL
- レイチェル・ソランドー=RACHEL SOLANDO
となります。
そして「67番目は誰?」とのことですが、全ての棟を合わせた人数が66人と言われていたものの実は67人目が存在するのです。その肝心な人物がアンドリュー、ということでした。
⑤失踪患者レイチェル・ソランドーとは?
謎の疾走を遂げるレイチェル。壮絶な過去を持っていながら裸足で抜け出したにも関わらず、傷一つ負わずに生還している奇妙な人物でした。物語の中盤では「ホンモノのレイチェル」と洞窟で出会い、彼女はロボトミー手術を否定しながら島のあちこちで生活をしているのだとか……。実際彼女は実在しておらず、アンドリューが妄想の中で創り上げた存在なのです。
ただし終盤ではレイチェルのお顔そっくりのナースが姿を現します。そう、確かに存在していなかったのですが、病院側が実験をするべくナースが「レイチェル」という女性を演じ切っていたことが推測されます。ドロレスと同じく子供を溺死させているなど、どこかテディを刺激するような設定になっていましたよね。
⑥テディの夢はどう解釈できる?
度々登場するテディの夢シーン。妻のドロレスは放火で死んだはずなのに、彼の夢の中では腹部から血が流れていることに疑問を抱いたことでしょう。本当に放火で命を落としたのなら、焼死がまず初めに考えられますよね。
ここも伏線の一つであり、現実世界でドロレスはテディの手によって射殺されました。恐らく腹部を撃たれて死亡したのでしょう。彼女の全身が濡れているのも、湖で子供を溺死させたシーンを思い出せば一目瞭然です。つまり彼が妻を撃った時のことがしっかりとここで描写されていることが分かります。
次に、夢には放火魔と言われたレディスの姿かたちまで登場します。少し言い合いになっていたナーリング医師の席に座っていますが、あのシーンにも暖炉、つまり炎があったのです。炎は非現実を現わしていますから、彼の顔もまた架空のもの。決してレディスという放火魔は存在していません。
最後にレイチェルの足元に子供が3人倒れている、ショッキングな夢も見ていました。確かにテディの子供は3人死んでいるのですが、溺死のため流血はしていません。ですが夢の中では血にまみれ異様な光景となっています。
精神を崩壊したテディ、戦争のトラウマや妻を殺した後悔、子供への気持ちなどが全て相まって夢に現れたシーンなのでしょう。彼の気持ちの全てが詰まっている部分とも解釈できます。
⑦洞窟の女性は一体誰?
洞窟の女性は「ホンモノ」のレイチェルだと語っていましたが、そもそも彼女自体がテディの妄想なのでしょう。あの島を転々としながら生き延びるのは到底不可能ですし、いずれは誰かに見つかってしまうはずです。激しい嵐もきていることですから、外でやり過ごすにはあまりに危険な場所と言えますよね。
ナースがレイチェルを演じたように、これまた病院側が仕込んだトリックの一つかもしれませんが、その可能性は低いと思われます。なぜならあんな場所に仕込むには危険が大きいですし、序盤で崖の下には毒性の植物があると警官も口にしていたからです。
⑧ジョージ・ノイスとは結局何者?
C棟に収容されていたジョージ・ノイス。テディの妄想の中では元患者で一度施設を抜け出しており~という設定になっていますが、現実では彼もまた患者の一人。テディ自身もC棟の患者なのですから、同じ立場の人間であることが分かりますね。
ジョージはテディが本名ではない、彼が「レディス」であることを知っています。それを本人に告げたところ、受け入れることの出来ないテディはジョージに暴行を加えてしまったのです。正直たまったもんではありませんが、ジョージは最後に「あの女のことは忘れろ」と助言をしています。
二人のやりとりから推測すると決して犬猿の仲でもなく、いがみ合いもなく、もしかすると彼らは棟内で気の合う相手だったのかもしれません。彼はきちんと実在しておりレディスの名を出す、発言におかしな部分が見られないことから架空の人物でないことが明らかになります。
ただしマッチが消えたのに辺り一面が明るくなっているシーンだけは、テディの妄想なのでしょう。
⑨ミセス・カーンズのコップはなぜ消えた?
夫をオノで殴り殺してしまったというミセス・カーンズ。保安官二人にも冷静に応じ、一見患者とは思えないほどの落ち着きを見せていました。ただ彼女の行動は少々不思議で、チャックに「お水をいただけるかしら」と言った後、口にするのですが……なぜかコップが消えているのです。
このシーン、「え?コップ消えてたっけ?」と思う人も案外いるのではないでしょうか?実はあれ、そもそもコップを持っていないんです。ですがその後のカットで空になったコップがコン、と置かれるので我々は「ん?」と疑問を抱くのです。
謎まみれの本作ですが、このシーンに限っては監督の遊び心なんだそう(笑)鑑賞者が気づくか?という点に着目して制作したとメイキングで語っています。
⑩ラスト「モンスターのまま生きるか、善人として死ぬか」のセリフの意味とは?
ずっと精神が崩壊したままで回復の見込み無し、と判断されてテディですがラストでは「モンスターのまま生きるか、善人として死ぬか」という印象的な言葉を残し、シーアン医師をハッとさせています。このセリフからテディが正気であったことが分かるでしょう。精神崩壊した自分をモンスターと比喩し、ロボトミー手術を受けて感情を無くした自分を善人と表しているのです。
恐らくモンスターというのは精神がぐらついた状態だけを指すのではなく、様々な思いを抱えている(妻や子供の過去など)、薬の禁断症状が出ているなど、正常ではない部分も含めているのだと思います。きっとテディはそんな自分が辛く苦しく、このまま生き続けることさえ希望が見えなかったのでしょう。
例え精神が安定しても、過去は消えません。妻も子供も戻ってきませんし、薬を投与し続けた後遺症さえ引きずる可能性だってあります。それを考えただけで彼は「記憶も感情もなくしてしまったほうがラク」と判断し、ロボトミー手術を受け入れたのかも……。せめてモンスターから人間に戻りたい、そんな悲痛な思いが込められている一言です。
【考察①】映画『シャッターアイランド』に潜む社会的メッセージ
物語の舞台は1954年、テディは戦争帰りです。ドイツのナチス制圧部隊に属していたため、あまりその地に良いイメージを抱いていません。そのため、ナーリング医師がドイツ人だということをすぐに察すると、良い反応を返してはいなかったのです。
彼は戦時中、無抵抗だった敵兵を束になって大量虐殺した過去を持っています。恐らくあの事件がきっかけで、酒浸りとなってしまったのでしょう。殺された人々ももちろんですが、テディも立派な戦争の被害者であるのです。この争いがいかに人を傷つけ、大きな傷を残してしまったと言っても過言ではありません。
戦争の爪痕は作中のセリフにも登場していて、C棟に侵入した際、テディに襲い掛かってきた男性が「シャバでは水爆実験を行っている」「水爆は中に向かって爆発する」など意味深な言葉を残していましたよね。
内側に爆発するということですから、これはテディのトラウマや精神状態を現わしているということではないでしょうか?内に爆発してしまったか=精神が崩壊してしまったと言い換えることができます。「シャバの水爆実験」とは、病院側が彼にロールプレイングをしている、という意味に繋がりますね。
テディは根っからの殺人鬼でも、精神が弱かったわけでもありません。全ての物事は戦争から引き起こされた悲劇でしかないのです。
【考察②】病院側の陰謀?ドロレスは生きていた?2つの仮説
怪しげだった病院には何の悪意もなく、テディの精神も回復していた。そして彼は頭のおかしいふりをしてロボトミー手術を行うよう自ら促した……というラストで物語を終えています。
謎の多い作品であるため、「もしかすると別の角度でもラストの意味を予想できるのでは?」と、様々な議論が交わされています。
①全ては病院側の陰謀だった説
テディは本当に保安官で、病院側にハメられたという可能性も考えらます。孤島であるのを良いことに保安官である彼を洗脳、そして精神異常者へ仕立て上げた……などなど。「病院側が悪だった」説も多数噂されているのです。
もしこの説が本当なら、わざわざテディをターゲットにする理由も分かりません。シーアン医師やコーリー医師の態度を見ているとあまり悪人のようには思えませんので、もう一つの解釈はやや決定打に欠ける気もします。ただテディをターゲットにしたのにはある理由があって……という物語なら、また別の楽しみ方がありそうな予感がしますよね。
②実はドロレスは生きていた説
テディの妻であるドロレス、「実は生きていたのでは?」という説を考えました。彼女は銃殺されましたが、完全に息の根が止まっている証拠がどこにもないのです。
映画を通して、亡くなった子供の写真は出てきますが、ドロレスの写真は出てきません。さらに、テディ以外の誰からも「ドロレスは死んでいる」というセリフがないのです。妙だと思いませんか?
じゃあ、ドロレスはどこへーー?
個人的には、テディが警備員に連れられて初めて病院にきた時に出会った(8分50秒〜)、痩せ細った女性がドロレスなのでは、と考えました。ホラー映画のようなやつれた風貌で、首に縄のような痕が残っている女性です。
ドロレスが子供たちを殺したのは確かなので、もし彼女が生きていたら、妻に発砲したテッドと同じようにアッシュクリフ精神病院に入れられているはず。そのことを考えると、序盤の女性がなぜテディに向けて「シーッ」と言っていたのかが、なんとなく想像つきますよね…テディは仕事中なのですから、ドロレスは「自分気付いても今は仕事中だから何も言わないでね」と言っているかのようです。
まとめ
一度観ただけでは完全な理解の難しい映画『シャッターアイランド』。伏線が序盤からあちこちに散りばめられているため、重ねて鑑賞することで理解がより深まる味わい深い作品だと言えるでしょう。一度だけではなく、二度三度繰り返して観ることを強くお勧めします。
また様々な推測ができる作品ですので、友達や恋人と観て意見交換をするのも楽しめるかと思います。テディの妄想や病院側の思惑、あなたはどう考えますか。