これを読めば理解が深まる!映画『ザ・ライトハウス』のあらすじをネタバレ解説
話題性があり、骨太な作品を数多く輩出するA24から新たなスリラー映画が誕生しました。『ライトハウス』は全編モノクロで描かれ、現代には合わない画像サイズのままストーリーが展開されていきます。
舞台が一つであること、そして登場人物の少なさにシンプルさを覚えるのですが、実はかなり前知識が必要なんだとか……?一度鑑賞しても「よく分からなかった」という声もちらほら挙がっているほどです。
少々ルーツになっている要素が複雑なため、一発で全てを理解することは難しいでしょう。しかしそれだけで「この映画はつまらない」と決めつけてしまうのは、非常にもったいないこと!
本記事では『ライトハウス』の灯台、2人の灯台守の存在が示すもの、元ネタなどの解説を行っていきますので、ぜひご覧くださいね。ストーリーのネタバレも含みますので、未鑑賞の場合はご注意を!
目次
映画『ライトハウス』について
アメリカでは2019年10月に公開され、ようやく2021年に日本へ上陸しました。フランスやカナダでもすでに公開は済んでおり、たちまち話題となった作品ですね。
現代に作られた作品ながら画面はオールモノクロ。そしてスクリーン目一杯に映し出されるのではなく、画像のサイズ感(比率)が超個性的。わざとハッキリ見せず、比率を狭めることで、視聴者は箱の中を覗いているような気分になるんです。撮影では白黒の35ミリフィルムが使用されたそうですよ!
斬新な技法と見せ方、事実を元にしたストーリーなども評価され、映画批評家からは賞賛の嵐だったとか。第72回カンヌ国際映画祭では国際映画批評家連盟賞の独立選出部門を受賞しています。
監督を務めるのはロバート・エガース。ホラー映画『ウィッチ』で長編デビューし、若手ながら実力の高さが評価を得ています。本作は兄妹のマックス・エガースと共同で脚本を執筆しているんですよ。主にホラーやスリラーを得意としており、来春には『The Northman』の公開が決定しています!
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海が荒れ狂うとある孤島へ、若者と老いた男性の2人が派遣されてきました。これから4週間、新しい灯台守としてここで過ごさねばなりません。
老いた男性はベテランなのか、海や灯台に関する知識が豊富で、それを度々披露してきます。けれども若い男性は特に興味もなく、それおろか相手の傍若無人な態度が気に入りません。自分ばかりが雑用を任され、肝心の灯台には近づかせてもらえないのでした。4週間もの時間があるにも関わらず、のっけから2人の関係は険悪になっていきます。
そうこうしているうちに、ようやく約束の期日がやってきました。けれども嵐が酷くなるばかりで、一向に視察船がやってこないのです。追い詰められた男たちは孤島にて酒浸りとなり、段々と我を失っていき……。
映画『ライトハウス』のネタバレあらすじ
【あらすじ①】2人の灯台守
荒れる海を渡り、2人の男性は孤島へ到着した。1人はまだ若く、もう1人は老いた男。これから4週間ここで灯台守としての仕事を行うこととなる。
老人(ウィレム・デフォー)は“若造”と呼ばれる男(ロバート・パティンソン)の監督のようなもの。食事中にゲップなどデリカシーのない性格で、雑用は全て彼へと押し付けるのだった。灯台守でありながら、上部の担当は老いた男が独占。早々に若者は不満を抱いてしまう。
ある時ベッドに寝転んでいると、人魚の置物を発見した。その晩は夢の中で人魚が現れるなど、若者は少々不思議な体験をする。
そして老人は夜中、灯台最上部の灯りに惹かれて向かっていく。扉を開けて、なぜか恍惚の表情を浮かべる彼がいた……。
【あらすじ②】カモメと嵐と……
老人の行いに耐え切れず、苛立ちを抑えきれない若者は島にいるカモメに八つ当たりをする。
だが老人は「カモメを殺したり、傷つけたりするな」と警告をした。どうやらこの生き物には死んだ船乗りの霊などが宿っているとのことだが、話を信じない若者は知らんぷり。
だが徐々に2人の距離は縮まっていき、遂に最終日を迎えた。この数週間お互いの名前を知らなかったので、ここでようやく自己紹介をすることとに。若者はイーフレイム・ウィンズロー、老人はトーマス・ウェイク(トム)と名乗り、最後の夜に乾杯した。
翌朝、迎えが来るまで業務をこなそうとするウィンズロー。すると水汲みから黒い液体が……。貯水槽を確認すると、カモメの死体が落ちていたのである。そこへ別のカモメが彼を威嚇しにやってきて、痺れを切らしたウィンズローは勢い余って殺害してしまう。
その後は徐々に天候が怪しくなり、海は嵐に包まれる。当然船はやってこず、2人は島へ残されることに。
【あらすじ③】2人の“トーマス”
嵐は収まることを知らず、酷くなる一方。島に閉鎖状態の2人は毎日酒に浸り、日を追うごとに狂っていった。そしてこの間も灯台へ近づくことは許されないウィンズロー。
ある日の夜、酔った勢いでウィンズローは自分の本当の名前を明かした。本名は「トーマス・ハワード」、つまり老人と同じ名ということである……。ウィンズローという人間は既に死んでいるとのことだ。
酒浸りになり、何が何だか分からなくなる2人だが、トムはその発言を聞き逃さない。翌日勝手にボートで逃げようとするハワードを殺そうとするが、なんとかその場を取り持つ。もう酒も切れ、灯油を飲むほどお互いの気は定かではなかった。
度々人魚の悪夢を見ては、彼女を想像して自慰行為に励むハワード。ボートで逃げようとする前も、島で人魚とセックスをしていたのだ。だがそれは夢なのか、現実なのかは分からない。
【あらすじ④】灯台の頂上にあったものとは?
嵐で全てがめちゃくちゃになり、とうとう小屋も水浸しになってしまった。そこでハワードはトムがずっと書いていた日誌を発見する。中身を読んだ彼は発狂、口汚くトムを罵るのだった。
今までのトムの話は全て虚偽であり、日誌も「若造が働いていない」など嘘の情報が記されていた。挙句の果てには“給料は支払わない”と……。揉み合いになった2人は半狂乱となり、若者は老人をボコボコにしてしまう。
体力の差で勝てるわけもなく、ハワードは老トムを「犬」呼ばわりした。四足歩行で歩くように命令し、まだ息が残っているのにも関わらず、彼を埋めて殺そうとする。そしてようやくあの灯台へ行くチャンスができたのだ。
しつこくトムが追いかけてくるも、斧で殺害。ずっと憧れた灯台最上部の光を浴びて、ハワードは恍惚の表情を浮かべた――。
だが光の勢いに負け、らせん階段を転がり落ちてしまう。そして目を覚ますと、カモメに内臓をつつかれながら苦しむ彼の姿があった……。
映画『ライトハウス』のキャスト
トーマス・ハワード(イーフレイム・ウィンズロー)/ロバート・パティンソン
寡黙でミステリアスな雰囲気を纏うウィンズロー。多弁な老人・トムとは真反対の性格をしているように見えました。作中でも話していたように、お金が稼げる仕事なら何でもよかったため、海に対する愛着などないのです。
けれどもそんな彼には秘密があり、ウィンズローが本名でないことを明かします。4週間以降も島への滞在を強いられたことから、序盤とは人が変わったように狂ってしまいました。面影のない顔つき、狂気に満ちた目は恐ろしささえ覚えてしまいましたね。最後はカモメに内臓をつつかれて苦しむ、といった悲惨な結末を迎えました。
難しい役どころを演じるのはロバート・パティンソン。『ハリポタ』シリーズでセドリックを演じていたのを、皆さんは覚えているでしょうか?『TENET』や『トワイライト』シリーズ、『リメンバー・ミー』など大ヒット作に次々と出演。映画好きなら誰もが知っている若手俳優と言えるでしょう!
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食事中のゲップやオナラ、凄まじいいびきに先輩風を吹かせる部分……。どう考えても今時の若者からは大ブーイングである存在のトム。雑用ばかりをウィンズローに押し付け、自分はオイシイとこ取りというのも、なかなか腹立たしいポイントでしたね(笑)
ですがウィンズローとの違いは、どんなに酒浸りになっても冷静さを失わなかったところでしょうか。彼のパワハラじみた言動は考えものですが、やけに落ち着ついているんですよね。自分を一切譲らないスタイルが仇となり命を落としますが、最後まで謎が多いキャラクターといった印象です。
トムを演じるのはウィレム・デフォー。ひげを生やしていないと、69歳には見えないほどのイケメンなんです!悪役を多く担当し、『スパイダーマン』のゴブリン役でもよく知られていますね。そして海外版『DEATH NOTE』のリュークの声優も務めていますよ。
映画『ライトハウス』を徹底解説!
物語そのものはとてもシンプルで、深く突っ込まなければ「孤島に閉じ込められた男2人が狂って死にました」の一言で済みます(笑)
けれども2人の名前がリンクする部分、灯台が意味するものなど、掘り下げれば疑問は次々と溢れてきますよね。一つ一つ解説していくので、一緒にみていきましょう!
実際に起きた事件とは?
冒頭部分でもちょこっと触れましたが、このお話は実際にあった事件が元ネタとなっています。
2人の男性が灯台守が島へ派遣されたのですが、片方が途中で病気を患ってしまいます。運悪く嵐も到来し、病はますます酷くなるばかり。遂に命を落とし、生き残った男性は腐敗した死体と何カ月もの時を過ごさねばならなかったとか……。
殺人をの疑いをかけられたくなかったために、生き残った方は死体を保存し続けようとするなど、まさに“狂った”行動を起こします。
ちなみにこの2人の名前は「トーマス・ハウエル」と「トーマス・グリフィス」。作中でもこの“名前被り”の要素が盛り込まれているんですね。
2人の「秘密」について
本作は映像で魅せる回数も多く、セリフで全てを説明するような作品ではありません。だからこそ多少分かりづらく、謎が深まってしまうといった意見もチラホラ聞こえますね。まず『ライトハウス』を攻略するには、2人の秘密について一旦整理する必要があるでしょう。
ウィンズローの秘密は以下の通り
- 本名はトーマス・ハワード
- 本物のイーフレイム・ウィンズローは木こり時代の上司の名で、とっくに死んでいる
- ハワードはウィンズローに散々こき使われたことから、彼を殺害した過去を持つ
- その後は名前を偽って、逃げるように灯台守の仕事へ就いた
そしてトムの秘密は以下の通り
- 船乗り時代の話や脚を悪くした原因など、事実がコロコロ変わることから虚言を吐いている(どこまでが本当の話かは不明)
- 口頭では親し気な素振りを見せたが、仕事の日報ではウィンズローをこきおろしていた
箇条書きにするとお互いどうしようもない感じですが(笑)、あくまで物語はウィンズローによる目線で書き上げられています。だからこそ、トムに関する真実が非常にあいまいになっているという……。
やけに落ち着いているトムに対し、後半は荒々しい言動が目立つウィンズローですからね。彼からすれば“予言者”の老人は信じられないのでしょう。
ちなみに2人は同一人物なのか?と聞かれると、少々何とも言えないところ。ですが途中でウィンズローも脚を痛め、引きずっている描写さえありましたからね。あくまで憶測にすぎませんが、1人の人間と表を裏を現わしている存在なのかもしれません。
トムを現わすプロテウスと、ウィンズローを現わすプロメテウス
メインキャラクターたちのルーツとなっているのは、ギリシャ神話のプロメテウスとプロテウスです。この2つは神話上関わることはありませんが、ウィンズローとトムを表現するにふさわしい存在となっているんですよ。
まずプロテウスとは予言の能力を持つ海神。海の支配者とされ、「海の老人」とも呼ばれていたんですね。まさにこの性質が、トムそのもののキャラクターに反映されているのです。
そしてプロメテウスについて。こちらはギリシャ神話に登場する男神で、人間そのものを創造したと言われています。
プロメテウス有名な逸話と言えば、主神・ゼウスの反対を押し切って天界の火を盗み出し、人類へ分け与えた……というもの。火を与えたことにより、人類は素晴らしい恩恵を受けましたが、それと同時に戦争など愚かな出来事が生じるようになってしまったのです。
ゼウスはこのことを予言していたため大激怒。そしてプロメテウスは、生きたまま鷲に肝臓をつつかれる苦行を強いられることとなりました。
つまりラストシーンのカモメにはらわたを突かれるシーンは、この逸話からヒントを得ているんですね。『ライトハウス』での“火”とはつまり、灯台のこと。近づきすぎてしまったウィンズローは罰されたこと容易にが分かります。
灯台の最上部には何があったのか
絶対に灯台上部を支配したいトムVS灯台に入れて欲しいウィンズロー、の地味な戦いがめいっぱい続きます(笑)何が何でもトムは自分が灯台を担当したいし、ウィンズローはもう肉体労働など飽き飽きしているのです。
作中では灯台の最上部に入ると、そこはもう楽園……のような描き方をしていますが、実際にそこには何があったのでしょうか?
結局物語上でハッキリと言及されることはありませんでしたが、『ライトハウス』では灯台を男性の象徴して表現しています。灯台=男性器と捉えてよいほど、どっしりとそそり立っている……そんなイメージでしょうか。簡単に言えば、2人の灯台守は「男としてのプライド・意地」などを延々と争っているのです。
トムの台詞に注目してほしいのですが、彼は灯台のことを「女」と呼んでいました。そしてウィンズローには“女性の仕事”を思わしき雑用ばかりをさせ、どうにか男としての威厳を保っていたことが推測できますね。
灯台を男性器として見立て、それを奪い合う2人。だからこそギリシャ神話の火に見えていたのでしょう。では「何があったのか?」と聞かれると……?ええ、欲しくてたまらない彼らにとっては“何か”が見えていたのですよ。
ココが面白い!映画『ライトハウス』の見どころ
息苦しすぎる閉鎖感が魅力的
現代人からすればフルカラー&フルスクリーンの作品は当たり前。けれども『ライトハウス』はモノクロ画像で、画像サイズは驚きの1.19:1!
古い映画でさえ画像比率は1.33:1ですからね(笑)ほぼ正方形の映像を観ているかたちとなりますが、これがまた本作のおぞましさを増長させる良いエッセンスとなっているのです。
孤島に閉じ込められた極限状態の2人を演出するには、十分すぎる閉鎖感がこの工夫によって生まれているんですね。
それにプラスして、分かりづら~いモノクロ画像。正直なところ、夜のシーンなどは何が何だか見えづらい部分もあります。血なども全て真っ黒で、余計な想像力を掻き立てさせる=コワイ、と感じるでしょう。ハッキリ見せない演出と閉鎖感たっぷりの空気には、あれよあれよという間に惹きこまれてしまうこと間違いなし!
狂気にまみれた演技にゾワッ
見知らぬ孤島で何週間も閉じ込められれば、誰だって気が狂うと思いませんか?
ましてや時代は80年代。スマホもなければ当然電話もない時代です。いつ船が迎えに来るのか、どこまで近づいたのかさえ分からない。居るのはたまたま仕事で居合わせた2人だけ……。酒の力を借りずにはいられません。
しかし彼らの狂い方は異常で、タガが外れ切った後のウィンズローはまるで別人でした。酒が切れれば灯油まで口にする始末。人間の極限状態を演じ切ったキャスト陣には、ついつい度肝を抜かれてしまいましたね。
心霊が出るホラー映画よりも、彼らの追い詰められっぷりにゾクリとさせられます。
まとめ
物語そのものがシンプルなものの、深い謎が隠されている『ライトハウス』。初見では分かりづらい部分も多いですが、前知識を頭に入れておけば、二度三度楽しめる味わい深い映画です。
見方を変えれば、様々な捉え方や考察が生まれてくるのも本作のコワイところ。「本当は島そのものに何かあるのでは?」や「2人の迎えは元から来る予定がなかったのでは?」などなど、たくさんの推測ができるからです。
謎が謎を呼ぶスルメ系作品とも言えるでしょう。スリラーやホラー、ミステリーが好きならぜひチェックしてみてくださいね!
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