【解説】映画『異端の鳥』のネタバレあらすじ結末|途中退出者が続出した問題作

たかなし亜妖

 

2019年10月、そのセンセーショナルな内容から世界に衝撃を与える問題作『異端の鳥』が公開されました。戦争という過酷な環境下に置かれた人々が行う残酷な暴力や、その裏にある人間の脆さを問いかける本作は、人間、暴力、戦争についてなど、様々なテーマを観ている者に問いかけ考えさせられる映画です。

原作となった作者の自叙伝的小説「ペインティッド・バード」が1965年に発行されて半世紀以上経ち、紆余曲折を得て映像化にこぎつけた『異端の鳥』ですが、シナリオに3年、資金調達に4年、撮影に2年など、全てを合わせると11年もの年月をかけて完成する事となりました。

その時間と労力、監督やスタッフ、キャスト達の情熱が実を結び、日の目を見た『異端の鳥』は、他の映画作品とは違ったインパクトを世界に与え、賛否両論の反響を世界各国で巻き起こしています。

主人公・「少年」を襲う目を背けたくなるような生々しい暴力や差別を映像から体験し、人々が安心安全に生活する事の重要性や人間の持つ弱さと脆さについて考えてみませんか?誰の心の内にも暴力性や差別の意識はあり、それらから目を背けて蓋をするのではなく、向き合う事で本当の平和について考える土台ができるのではないでしょうか。

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人の持つ暴力性を描いた衝撃作・映画『異端の鳥』について

異端の鳥
出典:映画『異端の鳥』公式Facebook

1965年にポーランドの作家・イェジー・コシンスキによって執筆、出版された「ペインティッド・バード」を原作に、チェコ出身のヴァーツラフ・マルホウル監督の解釈を加えてモノクロ映像化した作品です。

出品されたヴェネチア国際映画祭においては同年に発表された作品『ジョーカー』を超える注目度を獲得し、主人公・「少年」を襲った数々の暴力や迫害に途中退場者が続出するという異例のエントリー作品となります。

しかしその評価は高く、同映画祭では上映後に10分間のスタンディングオベーションが起こったほど。映画批評家の面々からも賞賛を得て映画界に強い影響と印象を残しました。

また、役者陣も個性的で渋いキャストが揃っていて、特に主人公・「少年」を演じたペトル・コトラールは全くの無名の少年で、本作で主演と俳優デビュー作となった点も印象深いですね。

彼の成長と伴うように撮影を行っていたため、序盤と終盤では彼の身体的な変化も見て取れ、リアリティを映画に与えている要素の一つです。

多様性社会の実現が問われる現代ですが、それとは真逆の所業である差別や排除を行った時代から見える人間の持つ根本的な性質を、残酷なまでに見せつけてくる『異端の鳥』は映画という枠組みに収まらない啓蒙映画として今後も語り継がれる事でしょう。

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10秒で分かる!映画『異端の鳥』の簡単なあらすじ


出典:株式会社トランスフォーマー公式YouTubeサイト

第二次世界大戦下の欧州のとある国に、ホロコーストを回避するために疎開させられた「少年」がいました。親元を離れて知人の老女・マルタと共に田舎で過ごしていた「少年」でしたが、地元民から差別的な扱いを受ける辛い日々を送ります。

やがてマルタと死別し、また別の村へと放浪する「少年」でしたが、そこでまた別の家主と出会い、仕事や家事を手伝いながら共同生活をして過ごします。

そんな出会いと別れを繰り返し放浪して生きる中で、暴力や迫害、性的な虐待などを受け過酷な日々を送っている「少年」ですが、様々な仕打ちを受けて来た影響から怒りや恨みが芽生えて心情に変化が現れてきます。

かつて純粋で優しかった「少年」の面影は消え、激情を抑えられなくなった「少年」は自身もまた時代に毒され狂気を持つ人間の1人へと変貌してゆくのでした。

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映画『異端の鳥』のネタバレあらすじ

【あらすじ①】疎開

異端の鳥
出典:映画『異端の鳥』公式Facebook

第二次世界大戦時の東欧のとある国の村に、ホロコーストの危険から逃げるため疎開してきた1人の「少年(ペトル・コトラール)」がいた。「少年」は親元を離れて知人の老女・マルタ(ニーナ・シュネヴィッチ)と共に過ごしていたが、人種の違う「少年」は周囲の住人から異端者として差別される辛い日々を送っている。

ある日、村に住む子供達によって「少年」の飼っている犬が生きたまま焼き殺されてしまう事件が起こる。ただ黙って殺される様子を見ている事しかできなかった「少年」だったが、その事をマルタに相談しても返ってくるのは「お前が悪い」という返事だけだった。

ある朝、「少年」が目を覚ますと、高齢だったマルタが椅子に腰かけたまま息を引き取っている状況に遭遇する。驚いた少年が思わずランプを落としてしまうと、引火した火はあっという間に家全体に燃え広がって棲み処を焼失してしまう。帰るあてをなくした「少年」は彷徨うように歩き出すのだった

異端の鳥
出典:映画『異端の鳥』公式Facebook

その後、しばらく歩き続けて別の村へ辿り着いた「少年」だったが、この村でも身なりや人種の違いから「悪魔」と罵られて村人から暴行を受けてしまう。そこに現れたオルガ(アーラ・ソコロワ)という占い師が「少年」を見るやいなや、「魔法の手下だ、吸血鬼だ」などと吐き捨て、自分がこの「少年」を買うと言って引き取る事となる。

オルガに引き取られた「少年」は、占い師の助手として呪術などの手伝いをされられていた。ある日、いつものようにオルガの手伝いをしていた「少年」は病気になり弱ってしまう。力無い「少年」の様子を見たオルガは、「少年」を首から上だけ出した状態で丘に埋めて放置する。カラスに狙われて苦しんでいる「少年」の姿を見て助け出したオルガだったが、そうこうしている内に「少年」は元気に回復していたのだった。

その後もオルガと生活を共にしていた「少年」。ある日川で魚を捕っている時に村人から脅かされ、びっくりした「少年」は川へ転落して流されてしまう。流木に掴まって流されていた「少年」だったが、いつの間にか意識を失ってしまっていた。

【あらすじ②】優しさの形

異端の鳥
出典:映画『異端の鳥』公式Facebook

水車小屋へ流れ着いた「少年」は、ミレル(ウド・キア)という男性に拾われて家に連れ帰られる。妻と使用人の3人暮らしをしているミレルは小麦粉を作る仕事をしていた。意識を取り戻して体力も回復した「少年」はミレル家の手伝いをして一緒に暮らし始める

ミレルは自分より若い妻が使用人と浮気をしているのではないかと疑い、毎日のように妻と使用人に暴力を振るっていた。ある日、激高したミレルはついに自分を抑えきれなくなり、使用人の眼球をスプーンでえぐり取ってしまう。ミレルの妻も顔が変形する程殴られており、この様子を見ていた「少年」は身の危険を感じ、この家から逃げようと決意するのだった。

まだ暗い内に家を出た「少年」が木にもたれている使用人を見つけると、えぐり取られた眼球を渡し、その場を離れるように歩き出す。その後再び放浪していると、森の中でレッフ(レフ・ディブリク)という男性に引き止められ、言葉に乗せられるままついて行く「少年」。

異端の鳥
出典:IMDb

その後、鳥を狩って売る仕事で生計を立てていたレッフの手伝いをしながら新たな生活を始める事となった「少年」だったが、森を歩いていると全裸の女性・ルミドラ(イトカ・チュヴァンチャロヴァー)が歩いてくる。ルミドラに恋をしたレッフは性的な関係を持つが、ルミドラはその土地で他の男性も誘惑しているふしだらな女性であった。

ある日、ルミドラに誘惑された若者の母親達がやって来て、ルミドラに酷い暴行を加える。その事が原因でルミドラは死んでしまい、ルミドラに恋心を抱いていたレッフはショックを受けて首を吊って自殺を試みる。その現場を目撃した「少年」は、足をバタつかせて苦しむレッフを見ていられなくなり、体を下へ引っ張って自殺の手伝いをする

そしてレッフの死後、「少年」はレッフが捕獲していた鳥を野生に放してやるのであった。

また住む場所を失った「少年」があてもなく森を歩いていると、足を怪我した馬に遭遇する。馬具がしっかり付いている馬を連れて近くの村に到着すると、集まってきた村人によって馬は殺されてしまう。「少年」はわけもわからぬまま、その夜行われた村の宴会に参加する事に。そこで酒を飲んでいた兵士にユダヤ人だと気づかれ、強引に拘束された後にドイツ軍へ引き渡される事になる。

こうしてドイツ軍に引き渡された「少年」。指揮を執っていた将校がユダヤ人である「少年」を処刑する志願者を募ると、老兵・ハンス(ステラン・スカルスガルド)が志願する。「少年」を線路の上で歩かせ、終着点まで来ると「少年」に向けて銃を構えたハンス。だがハンスは「少年」に「逃げろ」と言い、空へ向かって銃弾を放つのであった。

【あらすじ③】怒りと憎しみ

異端の鳥
出典:IDMb

老兵・ハンスによって逃がされた「少年」は、線路の横に横たわる脱走者の子供の遺体から靴を貰った。掴まって収容施設へ送る汽車へ乗せられた人々の一部が脱走し、見つけたドイツ兵によって殺された者達の遺体であった。母親とおぼしき遺体が持っている鞄からパンを見つけて食べていると、「少年」は何者かによって殴られて気絶してしまう。

その後、「少年」はユダヤ人の老人と共にドイツ軍へ差し出されると、反抗的な態度を取った老人は射殺され、「少年」は兵士の機嫌を取るために靴磨きをして難を逃れる。その場にたまたま居合わせた心優しい司祭(ハーヴェイ・カイテル)連れられ、「少年」は教会で司祭の手伝いをする事となる。しかし、司祭は重い病に冒されており、先の長く無い命だった。

「少年」の先々を心配した司祭の計らいにより、信者であるガルボス(ジュリアン・サンズ)が「少年」を預かる事になる。ところがガルボスは敬虔な信者などではなく、幼児性愛者という別の顔を持つ人物であった。

ガルボスに引き取られた「少年」は毎晩のように性の捌け口として利用され、折檻を怖れて司祭にこの事を言う事が出来ぬままに過ごしていたが、ある時、心身に限界が来た「少年」は、廃墟であるトーチカにあった穴へ突き落としガルボスを殺してしまうのであった。

異端の鳥
出典:IMDb

やがて、「少年」に親切にしてくれた司祭が亡くなってしまう。教会で葬儀が執り行われる中、「少年」は誤って聖書を落としてしまう。罰を受ける事になった「少年」は肥溜めへ突き落とされ、人の往来が無くなった頃に抜け出し、近くにあった川で衣服を洗っていた。

季節は流れ、冬になっても「少年」はあての無い放浪を続けていた。湖に足を滑らせて落ち、何とか上がったものの凍えて這いつくばっていた「少年」だったが、ラビーナ(ジュリア・バレントバ=ビドルナコバ)という女性に助けられ、一緒に暮らす事となる。

病気の旦那と過ごしていたラビーナだったが、すぐに旦那が亡くなってしまう。未亡人となったラビーナは、「少年」を性的な満足を得るための道具として愛し、可愛がりだす。しかし、「少年」がまだそのような行為を行いないと知ったラビーナは、「少年」を侮蔑するような言動を取るようになり、山羊の性器で自分を慰めるようになる。その事が引き金となり強い怒りと憎悪の感情を心に宿した「少年」は、山羊を殺して頭部をラビーナの部屋へ投げ込んで家を後にする。

そして深くプライドを傷つけられた「少年」の表情には憎しみによる険しさが表れ、通りすがりの老人を殴って持ち物を奪い取るという凶行へと走らせてしまうのだった

【あらすじ④】親子の再開

異端の鳥
出典:IMDb

再び放浪孤児となった「少年」だったが、辿り着いたソ連軍の駐屯地で保護される。そこに居た狙撃兵・ミートカ(バリー・ペッパー)に気に入られた「少年」は、軍服を着せられて行動を共にする事となる。

ある日、ミートカが所属する軍の兵士が地元民によって殺される事件が起きる。夜中に駐屯地を抜け出し、仲間に手を掛けた住民に復讐を果たすミートカ。現場について来てその様子を見ていた「少年」に拳銃を渡し、やられたらやり返して力強く生きろというメッセージを送って袂を分かつ事に

その後、第二次世界大戦は終わりを迎えるが、身元不明者である「少年」は行き場が無く孤児院へ入れられる。しかし、数々の虐待や酷い仕打ちを受けて心を閉ざした「少年」は、同年代の子供達を上手く接する事が出来ずに孤立してしまう。

そんなある日、町で商人に泥棒と間違えられ折檻を受ける「少年」。言いがかりと理不尽な暴力に怒りを覚えた「少年」は、ミートカの教えと貰った拳銃を使ってその商人を殺して復讐する。もはやそこに居る「少年」には、純粋で素直だった頃の面影は無くなっていた

異端の鳥
出典:映画『異端の鳥』公式Facebook

孤児院へ戻ると「少年」の父親が迎えに来ていた。「少年」を抱きしめて涙を流す父親だったが、「少年」の表情には一切の変化が無く、感情を露にする事は無い。

孤児院から父親に引き取られた「少年」は、ホテルで好きだった食べ物を与えられた。しかし「少年」はずっと無表情のままで、何かを言う事も、喜びを表現する事も無い。その様子を見た父親が、疎開は仕方なかったという想いを伝えるも、恨みを抱いていた「少年」は皿をなげて反発するのだった

翌朝、バスに乗った親子だったが、横で眠る父親の腕に彫られたユダヤ人識別番号を見た「少年」は、父親も自分と同じように大変な思いをして来たに違いないと察し、汚れた車窓を指でなぞって自分の名前を書いた。

「JOSKA(ヨスカ)」とーー。

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映画『異端の鳥』キャスト紹介|リアルな演技派揃い

「少年」(ヨスカ)/ペトル・コトラール

異端の鳥 ペトル・コトラール
出典:映画『異端の鳥』公式サイト

本作で初主演&初演技を行った少年です。9歳から12歳にかけて『異端の鳥』を撮影し、彼自身の身体的な成長も作品の時間経過にリンクさせながら物語を作り上げました。序盤と後半の彼の見た目の違いにも注目すると、より物語にリアリティを覚えると思います。

また、『異端の鳥』の撮影を追ったドキュメンタリー作品『11Colours of the Bird』にも出演していて、日本語訳されたバージョンが無いのが残念ですが、雰囲気だけでもチェックすると作品の世界観がより踏み込んで理解できるかもしれません。

今後のペトル君の俳優としての動向にも注目ですね!

ミレル/ウド・キアー

異端の鳥 ミレル
出典:映画『異端の鳥』公式サイト

小麦粉作りをしている老人で、「少年」を迎え入れる前までは妻と使用人の3人暮らしをしていました。嫉妬深い性格から妻と使用人の不貞を疑っては日頃から暴力を振るっている状態で、「少年」と暮らしている時についに一線を越えた暴行を使用人に加えます。その様子を見ていた「少年」は危険を感じて去って行きました。

演じているのはドイツ出身のベテラン俳優・ウド・キアー。古くは『死霊のはらわた』や『サスペリア』などのホラー映画や、『アルマゲドン』や『ダンサーインザダーク』などのヒット作にも出演している名優ですね。

ハンス/ステラン・スカルスガルド

異端の鳥 ハンス
出典:映画『異端の鳥』公式サイト

ドイツ軍の老兵で、軍に掴まった「少年」の処刑役として志願した人物です。しかし、実は殺す事が目的ではなく、年端もいかない「少年」を助けるために芝居を打った心優しいドイツ兵でした。

老兵・ハンスを演じるのはスウェーデン出身の俳優・ステラン・スカルスガルド。『ドッグ・ヴィル』、『ドラゴン・タトゥーの女』などのサスペンスや、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、『アベンジャーズ』シリーズなどの大型タイトルにも出演して活躍しているベテラン俳優です。

司祭/ハーヴェイ・カイテル

異端の鳥 司祭
出典:映画『異端の鳥』公式サイト

身寄りのない「少年」を哀れに思い、引き取った慈悲深い聖職者です。重度の病を患い死を待つ身でありながら周囲の人間の事を気にかけている心の広い人物で、教会に通う信者達からも慕われていました。ですが病によって亡くなってしまい、教会を上げて盛大に葬儀が執り行われて、「少年」も出席する事となります。

そんな聖人である司祭を演じたのはユダヤ系アメリカ人の俳優・ハーヴェイ・カイテル。若い頃から苦労を重ねてきた俳優で、俳優養成学校を10年間落選し続けたり、映画会社とのトラブルによって配役が偏ってしまうなど、俳優として日の目を見る事が無い時代が長く続きました。しかし90年代頃からその実力と活動が認められ、徐々に知名度を上げてきた円熟味のある役者です。

ミートカ/バリー・ペッパー

異端の鳥 ミートカ
出典:映画『異端の鳥』公式サイト

「少年」がソ連軍の駐屯地で出会った狙撃兵です。「少年」に対して何か感じる物があったのか、軍服を与えて行動を共にするようになりました。やられたらやりかえす事の重要性を実践を用いて説いた人物でもあり、後の「少年」の行いに強い影響を与えました。

ミートカを演じるのはカナダ出身の俳優・バリー・ペッパーです。『プライベート・ライアン』や『父親たちの星条旗』といった他の戦争物の作品にも出演しているベテラン俳優で、ヒット作『メイズ・ランナー』シリーズや『グリーン・マイル』などにも出演しているハリウッドを代表するバイプレーヤーですね。

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映画『異端の鳥』の考察、撮影秘話

原作小説について

異端の鳥
出典:映画『異端の鳥』公式Twitter

映画『異端の鳥』の元となった小説が1965年に出版されたイェジー・コシンスキ著「ペインテッド・バード」です。ポーランド出身の作者自身がホロコーストの生き残りであり、迫害や暴力を生々しく自叙伝的に書き記した内容が当時のヨーロッパ諸国で問題となり、地元ポーランドでは出版禁止の処置がなされる程の締め付けを受けました。

そんな曰く付きの小説を映像化するにあたり、チェコ出身のヴァーツラフ・マルホウル監督が映画化権を獲得。脚本作りや資金集めなど、映画化するための準備を含め11年もの歳月を費やして2019年に作品発表となりました。

『異端の鳥』の由来

原作小説のタイトル「ペインテッド・バード」は色を塗られた鳥という意味です。色を塗られた鳥が集団の中に入ると、他の鳥達から異端の鳥とみなされ攻撃され排除される、という動物の持つ残酷な本能を人間の世界にも当てはめるように付けられました。

作中の「少年」も行く所行く所で迫害され、酷い扱いを受けています。ユダヤ人であり見た目と身なりが周囲と違うから攻撃されているんですね。鳥の世界も人間の世界も異端者を排除するのはある意味で自然のルールという事でしょうか。

使用されているのは人工言語

映画『異端の鳥』では英語やヨーロッパ諸国の言語ではなく、スラヴィッグ・エスペランド語という人工言語が使用されています。ポーランド、チェコ、ロシアなどの東ヨーロッパ・スラブ諸国で使用されている共通言語で、それらの地域に住むスラブ民族達にとっては馴染みのある言葉との事です。

ヴァーツラフ・マルホウル監督によるとスラヴィッグ・エスペランド語が使用された理由は大きく分けて2つで、原作小説が問題視された背景を含め東ヨーロッパ・スラブ諸国の人々のアイデンティティーに配慮し、どの地域の物語であるかを特定されないようにするためと、英語での演技は真実味を損なってしまうとの判断からでした。この言語を使用した映画は史上初との事です。

撮影期間は2年以上にのぼる

異端の鳥
出典:映画『異端の鳥』公式Facebook

『異端の鳥』のクランクインに入るにあたり、主人公・「少年」を演じたペトル・コトラールの成長に合わせて2年という期間をかけて撮影が進められました。映画内の時間経過と近い状態を作り出し、3時間という枠の中で放浪する「少年」の顔つきや体格が変化してゆく様を見事に映像に収める事に成功しています。

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映画『異端の鳥』に監督が込めたメッセージとは

異端の鳥
出典:映画『異端の鳥』公式Facebook

ヴァーツラフ・マルホウル監督はインタヴューの中で、「人間のモラルについて問いかけるような作品にしたかった」と語っていて、善意や暴力といった二極化した表層的な表現だけで判断するのではなく、その裏にある人間の多種多様な繊細さを汲み取って、視聴者それぞれが考えて欲しいという想いがあるようです。

また、監督自身はバイオレンスを表現するにあたって、アメリカ映画でよくあるような銃やノコギリが出てくるポップコーンムービーを避け、観た人の心の深い部分に触れるようなバイオレンスを描くようにしたそうです。確かに『異端の鳥』に出てくる暴力は、ただ単に痛そうとかグロテスクである、のような傷みを記号としての表現しているのではなく、「なぜそんな残酷な事をするのか?」「あまりに理不尽である」など、人間への不信感や心に傷みを伴わせるようなシーンで表現されています。途中で視聴を止める人がいるのも、このような精神的な辛さが大きな要因ではないでしょうか。

戦争という貧しく理不尽な世界が人々に凶行を選択させていると考えると、平和の持つ意味がまた深く理解できるかもしれません。

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まとめ

人間のダークサイドを生々しくもモノクロの美しい映像で描いた問題作『異端の鳥』。戦争という人間が起こした災厄により、人間自身が狂っていくという暴力の本質を捉えた本作は、観ているこちらの心を強く揺さぶり、傷みを伴ったメッセージを伝えてくる作品です。

映画『異端の鳥』が発する問いかけについて1人ひとりが考えてみる事で、平和を追及する事の大切さがより深く見えてくる事でしょう。

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たかなし亜妖
たかなし亜妖

フリーライター&シナリオライターの映画好きサブカル女子。ライター歴は一年半くらいでまだまだひよっこ。 「感動よりも恐怖を、お涙よりもスリルを!」を基準に映画を選ぶ人。ホラー、スリラーサスペンス、鬱になりそうな作品が特に好き。でもハッピーな気分になれる海外ドラマも好き。キャラクターものもアニメも好き。要するにかなりの雑食です。