【ネタバレ解説】映画『猫の恩返し』のあらすじ|『耳をすませば』との共通点は?
スタジオジブリ映画の中でも、長編でもなければ、雰囲気もちょっと違う。そんな不思議な立ち位置にある映画が『猫の恩返し』ではないでしょうか。絵の雰囲気にも他の映画と明らかに違っていたりと、どこかイレギュラーな雰囲気のある映画です。
果たして、その雰囲気の秘密はどこにあるのでしょうか。
改めて、ストーリーやキャラクターに関して“ネタバレあり”で追っていき、映画がより深く理解できるよう、解説していきます!!
目次
ジブリでも異端!?映画『猫の恩返し』とは
出典:スタジオジブリ公式サイト
映画『猫の恩返し』は2002年7月20日に夏休み映画として公開されたスタジオジブリ製作のアニメーション映画です。
ジブリ映画といえば、長編映画でおなじみですが、『猫の恩返し』は75分ほどの比較的中編サイズの作品でした。そのため、ジブリ映画としては珍しく同時上映短編として『ギブリーズepisode2』が併映作品として用意されていました。
映画『猫の恩返し』の監督を務めたのは、今作が初監督作品となった森田宏幸監督。本作を監督以降はTVアニメ『ぼくらの』の監督を務めたり、『シドニアの騎士』や『GODZILLA』などで知られるポリゴンピクチュアズ社で活躍している御方です。
また脚本には、『ガールズ&パンツァー劇場版』や『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』など昨今多くのアニメ映画に引っ張りだこの吉田玲子さんが参加しています。
本作以降も活躍する製作陣が揃った作品ということもあってか、映画『猫の恩返し』は非長編でありながらも興行収入64.8億円の大ヒット作となりました。
10秒で分かる映画『猫の恩返し』のあらすじ
出典:スタジオジブリ公式サイト
普通の女子高生のハル(声・池脇千鶴)は、ある日トラックに轢かれそうになった黒猫を間一髪で助けたことから不思議な体験をします。
なんとその黒猫は猫の国の王子で、猫の国の猫王(声・丹波哲郎)がそのお礼をしたいとハルの前に現れるのでした。最初は半信半疑だったハルも、次々に起こる不思議な出来事から困惑するも、ついには、ハルを猫の国の妃に迎えるという話になり焦り出します。
そこへ何者かの助言が響き渡り、ハルは助言の通り猫の事務所を探すことになります。太った白猫ムタ(声・渡辺哲)の案内で導かれたハルは、ついに猫の事務所でバロン(声・袴田吉彦)に出会うのですが、そんな矢先にハルは強引に猫の国に連れ去られてしまうのでした。
果たして、ハルは無事人間の世界に帰ることができるのでしょうかーー。
映画『猫の恩返し』のネタバレあらすじ
【あらすじ①】猫を救うハル
出典:スタジオジブリ公式サイト
ごく普通の女子高生のハルは朝寝坊をしてしまい、みんなの前で恥をかいたりと、冴えない自身に不満を抱えていた。そんな矢先、友人のひろみと下校していたところ、小さな包みを咥えた黒猫がトラックに轢かれそうになっているのを目撃する。
間一髪、黒猫をトラックから救ったハルだったが、驚いたことにその黒猫は人間のように二足の足で立ち、ハルにお礼を言って去っていくのだった。
帰宅し、母との会話の中で自身が幼い頃に猫と会話をしていたという話を思い出すハルだったが、その夜、本当に猫たちが大名行列を作ってハルの家までやってくるのだった。やってきたのは猫の国の王様・猫王で、昼間に命を救った猫は王子だったというのだ。猫たちはハルにそのお礼をする約束をして去っていくのだった。
【あらすじ②】猫の恩返しに困るハル
出典:スタジオジブリ公式サイト
翌日、部屋の庭には無数の猫じゃらしが生えたり、下駄箱にはたくさんのネズミが入れられていたりと、不自然な出来事が立て続けに起こってしまう。猫の仕業だと確信したハルは、偶然遭遇した猫王の秘書であるナトルに文句を言うのだった。
それを聞いたナトルは、ハルを猫の国に招待し、王子・ルーンの妃にしようとしていることを打ち明ける。ハルは慌てて引き止めようとするが、ナトルは話も聞かずにその晩に迎えにくることを告げて去ってしまう。
困り果てるハル。しかしその時どこからともなく声が聞こえ、白い大きな猫に案内してもらい、猫の事務所を探すようにハルに助言をするのだった。
【あらすじ③】猫の国に来てしまうハルたち
出典:スタジオジブリ公式サイト
助言を信じ、街の中で白い大きな猫・ムタを発見したハルは、ムタに導かれ不思議な雰囲気の街に迷い込む。そこは猫の事務所で、たちまち猫の男爵バロンとカラスのガーゴイルであるトトが姿を現し、ハルを迎えてくれるのだった。
事情を話し、対策を練ろうとしていたハルやバロン達。しかし、そこへナトルが率いた猫達によってハルは連れ去られてしまうのだった。慌てて追いかけるバロン達。気づくとハルやムタは猫の国に行き着いてしまうのだった。
猫の国で出会った猫王の城に仕えるユキに城に行くのを引き止められるハルだったが、ハルは呑気に挨拶だけでもしていこうと城に向かってしまう。
【あらすじ④】猫の世界からの脱出劇
出典:スタジオジブリ公式サイト
たちまち歓迎されるハルだったが、気づくと自身の体が猫になってしまっていることに気づく。慌てるハルだったが、猫王たちはすっかりハルを妃にしようと宴会を始めてしまうのだった。
そこへバロンが救出に現れ、ムタの活躍により、城からの脱出を試みる。早く元の世界に帰らないと猫になってしまうと知り、慌てるハルだったが、猫王の妨害に遭い、なかなか帰られないでいた。そこへ、猫の国の王子ルーンやユキが現れ、騒動を治め、実は二人は結婚をすることを告げる。
無事、猫の国から帰ることができたハルはカラス達の助けを借りながら人間世界へ帰るのだった。バロンと再会の挨拶を交わしたハルは、再び日常へ戻っていく。しかし今回の冒険を経て、ハルは以前よりも精神的に成長していたのだった。
映画『猫の恩返し』のキャラクター紹介
吉岡ハル / 池脇千鶴
出典:スタジオジブリ公式サイト
映画『猫の恩返し』の主人公が女子高生の吉岡ハルです。
寝坊をしたり、ゴミ箱を落としてゴミを撒き散らしたりとドジな一方で、猫を救うために命を張ったりと優しい性格の持ち主です。母親との二人暮らしをしており、家事の手伝いも率先して行なったりといった一面も持っています。
クラスメイトである町田に片思いをしていたものの、バロンとの出会いを経てその心境にも変化が生まれてきます。
そんな吉岡ハル役を務めるのは、女優の池脇千鶴さん。本作の他にも映画『ジョゼと虎と魚たち』のジョゼ役や、『ストロベリーショートケイクス』の里子役などで活躍しています。
バロン / 袴田吉彦
出典:スタジオジブリ公式サイト
猫の事務所の所長であり、助けを求めるハルを手助けしてくれた人物が猫の男爵であるバロンです。大きさは小柄で、他の猫達とも違いスーツ姿で軽快に二足歩行で歩き、その仕草は男爵の名に恥じることなく紳士的。
見た目は猫でありながらも、猫の国には訪れたことがありません。そもそもバロンは本物の猫ではなく、実は人形がベースとなっている……という事情があります。
そんなバロン役は、俳優として活躍する袴田吉彦さんが担当しています。ドラマ『あなたの版です』や、ビデオ作品『むこうぶち』シリーズなどで活躍しています。
ムタ / 渡辺哲
出典:スタジオジブリ公式サイト
バロンと仲の良い太った白猫がムタ。口が悪く普段は悪態をつく一方で、いざという時は面倒見が良く、ハルをなんども助けてくれます。実は、かつて猫の国を喰い荒らした存在として恐れられてもいました。
ムタ役を務めるのは、俳優の渡辺哲さん。映画やドラマ、オリジナルビデオと本作以外にも多岐に渡るジャンルに出演している大ベテランです。
猫王 / 丹波哲郎
出典:スタジオジブリ公式サイト
猫の国の王様であり、ハルを妃にしようと半ば強引な行動を取るのが猫王です。
多くの猫達を率いて、物事を自分の思い通りにするためだったら、ズルや後先を考えない行動も取ってしまう危険な性格を持っています。
猫王役を務めるのは、俳優の丹波哲郎さん。多くの映像作品に参加されてきた丹羽さんでしたが、本作公開から数年を経た2006年に亡くなられています。
ユキ / 前田亜季
出典:スタジオジブリ公式サイト
猫の国に住んでおり、猫王のお城に仕えている白猫がユキです。
実は、幼い頃にハルとは出会っており、その縁からハルを助けるためにバロンとの合流を促したりと、活躍してくれました。実は猫の国の王子ルーンとは恋人同士で、作中でプロポーズを受けることになりました。
ユキ役を務めるのは、女優の前田亜季さん。映画『バトル・ロワイアル』や映画『最終兵器彼女』など多くの作品でヒロインを務めてきました。
ルーン/山田孝之
出典:スタジオジブリ公式サイト
ハルが猫の恩返しを受けるきっかけにもなった黒猫がルーンです。
実は猫の国の王子であり、危うくトラックに轢かれそうになったところをハルに救われたことから、騒動に発展することになります。実は恋人のユキのためのプレゼントを運んでいたところで、作中でユキにプロポーズをすることになります。
ルーン役を務めるのは、俳優の山田孝之さん。今でこそ、多くの映画やドラマに引っ張りだこですが、当時はまだヒットドラマ『WATER BOYS』(2003)などで活躍するよりも前でした。
トト/斉藤洋介
出典:スタジオジブリ公式サイト
バロンの仲間であり、カラス型のガーゴイルがトトです。
普段は石像の姿をしていますが、本物のカラスのように変化することができ、バロンやムタと交流します。ムタとは、相性が悪いのか言い合いしてばかりです。作中では複数のカラスを引き連れて、猫の国から戻ってきたハルを助ける役を担いました。
そんなトト役を務めたのは、俳優の斉藤洋介さん。映画やドラマで活躍し、『SMAP×SMAP』といったバラエティ番組でも活躍していましたが、2020年に残念ながら亡くなられています。
【解説】映画『猫の恩返し』にまつわる3つの秘密
スタジオジブリの作品でありながらも他のジブリ作品とはどこか違う雰囲気の『猫の恩返し』。果たして、なぜ違いを感じるのか、はたまたそれは勘違いなのか、その真相を解説していきます。
【解説①】『耳をすませば』との関係性とは?
出典:スタジオジブリ公式サイト
『猫の恩返し』に登場するバロンやムタ……どこかで見覚えがあるという人も多いのではないでしょうか。そうです、この二匹はジブリ映画『耳をすませば』に登場したキャラクターです。
『耳をすませば』は中学生の雫と聖司を中心に、夢や恋に揺れる青春映画となっていましたが、二人を温かく見守る存在である聖司の祖父が大切にしている人形が猫の人形バロンであり、聖司や雫が親しくしていた太った猫がムタでした。ただし、ムタは作中ではいろんな呼び名を持っている猫として描かれており、『耳をすませば』では主にムーンという名で呼ばれていました。
そんな訳で実はこの『猫の恩返し』は『耳をすませば』のスピンオフのような立ち位置の作品となっています。
というのも、『耳をすませば』の原作者である柊あおい先生に、宮崎駿監督がバロンをモチーフにした姉妹編を描いて欲しいとリクエストを送ったことをきっかけに『バロン猫の男爵』という作品が描かれ、この作品を映画化したのが『猫の恩返し』なのです。
実は、この『バロン猫の男爵』は、『耳をすませば』の雫が書いたという設定もあったりと、この二つの映画は密接な関係にあるわけです。
【解説②】いつものジブリと雰囲気が違う理由は?
出典:スタジオジブリ公式サイト
他作品のスピンオフ的な位置付けであるといった設定の他にも、他のジブリ映画とは決定的な違いがあります。
それはキャラクターデザイン。
本作では森川聡子さんという方がキャラクターデザインを担当しており、半ばスタジオジブリのトレードマーク的なデザインとは一線を画したキャラクターとして描かれています。
森川聡子さんはのちに『アリーテ姫』や『ひるね姫〜知らないワタシの物語〜』といったアニメーション映画のキャラクターデザインを担当するのですが、ジブリ映画のキャラクターデザインは『猫の恩返し』が最初で最後となり、よりそのデザインの異質さが浮き彫りになることになりました。
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スタジオジブリ作品といえば言わずと知れた宮崎駿監督や、多くの作品で作画監督を務めた近藤善文監督などがキャラクターデザインを務めてきており、“ジブリ的なタッチ”が確立されていきました。その結果、その後のスタジオジブリ作品も基本的にはそのタッチを踏襲した作品が作られるようになっていきます。
スタジオジブリ作品でも『ホーホケキョとなりの山田くん』や『かぐや姫の物語』など従来のジブリ作品のタッチとは大きく異なる作品もあれば、スタジオジブリ作品でなくとも、新海誠監督の『星を追う子ども』やジブリ出身の米林監督の『メアリと魔女の花』などはジブリ作品を思わせるタッチで描かれています。
ジブリ映画らしいタッチも製作段階で取捨選択した上で採用されている訳で、『猫の恩返し』はその中でも、従来のジブリタッチで描いてもおかしくない作風でありながら、別のデザインに挑戦してみた意欲作だったワケです。
【解説③】注目すべき細かなこだわりは?
出典:スタジオジブリ公式サイト
いつもと違った絵柄に気を取られてしまうかもしれませんが、そんな中にも細かな演出が施されていて、見返してみるとハッとさせられる要素も多数あります。
中でも細かいと思わせられるのが猫になったハルの造形です。作中では、いつの間にか猫の姿になっておりハル自身も驚くというシーンが印象的ですが、実はその猫へ変化する度合いもシーンによって違いがあります。
ハルが猫の世界に居たいと思うかどうかで、猫化の進行速度も加速しています。中でもそれが顕著に表れているのが、塔を駆け上る際にハルがバロンに抱えられているシーン。バロンに対して照れるハルの猫化が進んでいるのが描かれており、この場面でハルが「猫の姿になっても良いかも……」と、バロンへの好意が増しているのが明らかにわかってしまうのが面白いです。
このシーンのほかにも猫の世界から人間の世界へ帰っていく過程でも、徐々にハルは猫の姿から人間の姿へと変わっていきます。猫化して以降は、シーンごとにハルがどんな姿になっているのかをぜひ注目して観て観てください。
まとめ
そのほかのスタジオジブリ映画に比べてもコンパクトな内容になっており、絵のタッチも変えてきたりと、“いつもとは違う”ことへ率先して挑戦していこうというスタジオジブリの気概が感じられる映画が『猫の恩返し』でした。
今振り返ると、製作陣もボイスキャストも現在進行形で活躍している人たちが多数本作に参加していることに驚かされるはずです。サイズ的にもあまりジブリ作品で名前が上がる映画ではなかったりするのですが、実は要注目するべき一本と言えるかもしれません!