『愚行録』のネタバレあらすじ|映画に散らばる謎を解説!
衝撃的なタイトルが目を惹く映画『愚行録』。小説が元となっている作品で、タイトルの通り登場人物の愚行が次々と交差する一風変わった作品です。
ある一つの殺人事件が起きたことから、人間の本性がジワジワと炙り出されていく様は必見。謎が多数散りばめられているのですが、全てを回収できた時に本作の恐ろしさをより一層感じられることでしょう。
サスペンス、ミステリー好きだけでなくホラーやスリラー好きさんにもオススメ。「意味が分かると怖い」と言わんばかりの凍てつきがあなたを待っています。
一体“愚行”とは何なのか?考察を交えながら詳しく解説をしていきますね。
本記事はネタバレを含みますので、未鑑賞の場合は視聴後の閲覧を強くおすすめします!!
目次
映画『愚行録』について
貫井徳郎により2006年に発刊されたミステリー小説『愚行録』。第135回直木賞の候補作として挙がり、話題を呼びました。惜しくも受賞は逃してしまいましたが2017年に満を持して実写映画が公開!11年の時を経て、映像化へ漕ぎつけたのです。
優秀なサラリーマン田向とその一家が惨殺され、犯人の動向が掴めぬまま事件は迷宮入りに。近所からも評判だった田向夫婦ですが、実際は裏の顔があったとか……?記者・田中(妻夫木聡)が取材を重ねるたびに、その本性が明らかになっていくのです。
監督を務めるのは石川慶さん。長編映画デビューは本作が初で、新人映画監督に送られる新藤兼人賞で銀賞を受賞。その他2つの賞でも監督賞を勝ち取るなど、実力の高さに定評がありますよ。
その後も『蜜蜂と遠雷』で日本アカデミー賞優秀賞の成績を残すなど、活動は絶好調!2022年には映画『ある男』の公開を控えています。
10秒で分かる!映画『愚行録』の簡単なあらすじ
週刊誌の記者として働く田中(妻夫木聡)には、幼児虐待の罪で拘留中の妹・光子(満島ひかり)がいます。子供の意識が戻らないことから起訴の可能性が高く、弁護士からは妹の精神鑑定を勧められるほどでした。
そんな辛い状況にいる田中を編集長も心配し、彼が言い出した「田向一家殺人事件」の記事執筆を許可します。
この事件は未解決からすでに1年の時が経過しており、特集記事を組んでもあまり意味がないことは目に見えていました。それでも編集長は「きっと何かしていないと落ち着かないだろうから」と田中を取材へ行かせるのです。
田向一家は誰が見ても幸せそうな家庭であったものの、取材を重ねるごとに真相が明らかになっていきます。2人に隠された本性は、果たして……。
映画『愚行録』のネタバレあらすじ
【あらすじ①】妹と自分
満員バスの中、座席に座る田中(妻夫木聡)。「席を譲ってあげなさい」と注意され、老婆に譲った瞬間車内で倒れ込んでしまう。
挙句の果てに彼は足を引きずっており、「譲れ」と言った側も気まずそうな顔。そのまま下車してその場を立ち去るが、田中の足は通常通りの歩き方へと戻っていた――。
場面は変わって警察署。この日は幼児虐待の罪で拘留されている妹・光子(満島ひかり)との面会だった。彼女の娘は意識不明の状態が続き、このままでは起訴の可能性が高い。
弁護士からすれば光子は罪の意識が薄く、どこか他人事のようなフシがあると指摘。精神鑑定を勧められるほど彼女は地に足がついていない様子なのだ。
週刊誌の記者である田中はある日編集長に、未解決の「田向一家殺人事件」の特集を組ませてほしいと頼む。この事件はすでに1年が経過しており、犯人は未だに見つかっていない。
今更記事を組んでも意味がないことは分かっていたが、妹の件で彼を心配する編集長は取材を許可。「何かしていないと落ち着かないのだろう」と気遣いを見せる。
【あらすじ②】田向夫婦の知人たち
近所の評判は決して悪くなかった田向夫婦、なぜ惨殺されたのかを知る人間は周囲にいなかった。
そこで田中は田向家の大黒柱・浩樹(小出恵介)の元同僚と接触。2人で女遊びをしていた仲であり「決して悪い奴ではない。誰かから恨みを買っている様子もなく、殺される意味が分からない」と語っていた。
次に取材をしたのは宮村淳子(臼田あさ美)というカフェを経営する女性。田向家の妻・友希恵(松本若菜)と大学が同じだったという。
友希恵はお嬢様で感じも良く、彼女を好いていた人間が多いとのこと。けれども淳子曰く“計算高い”ようで、徐々に彼女の口調が刺々しくなっていくことに田中は気づく。
最終的に淳子は大学時代の彼氏・尾形(中村智也)を友希恵に取られてしまう。「あそこまで女を出してくるってスゴいと言うか」「だから誰かに恨まれても仕方ないと思います」と、話すのだった……。
けれども後日尾形を取材すると彼の言い分はこうだ。「淳子は友希恵が妬ましかったのだから悪く言うのだろう。実際の彼女は男の聞き役に回り、本当にいい子だった」と。
一方で妹の光子は精神鑑定を受けている。彼女らの家庭環境には問題が合って、いつも兄妹はお腹を空かせていたらしい。料理をいつもしてくれたのは兄で、「私は生まれ変わってもお兄ちゃんの妹でいたい」と笑顔で本音を吐露していた。
【あらすじ③】浩樹の本性
次に浩樹を知る女性から「犯人を知っている」との電話があった。田中は稲村恵美(市川由衣)と接触し、話を聞くことに成功。彼女は浩樹と同じサークルに所属し、2人は付き合っていた。
だが彼の目的は自身の就職先を探すことで、恵美に近づいたのも父が社長だったから……という理由。他の女性にも手を出しており、その子もまた父が会社を経営していたからだ。
序盤に同僚から聞いた話よりも、遥かに人間的に問題があった浩樹。だが彼女はそこまでされても執着し続け、別れた後も2人は体の関係を続けていたらしい。
田中からすればなぜそこまでこだわるのかが分からない。ただ恵美としては手段を選ばずに女を選び、開き直れるところが逆に良かったようだ。ちなみに浩樹はその後、誰の力も借りずに就職口を決めている……。
恵美は自身の赤ん坊を田中に見せ「似てませんか?」と一言。結局犯人をハッキリ言及せず「殺した人は気づいたんですよ。自分だけじゃ彼を埋められないことに」と意味深な発言を口にするのだった。
【あらすじ④】友希恵の本性
田中兄妹の母は別で再婚し、父の行方は分からない。光子は父から性的虐待を受け、耐えかねた田中らは学生の時に家を出た。
弁護士の質問に淡々と答える田中。そして光子の夫の顔さえ分からないという。
その後淳子から電話があり、2度目の取材へ。友希恵によって運命を狂わされた人物を知っているとのことで、その相手が“田中光子”だと……。
同じ大学で出会った2人は徐々に親しくなるものの、友希恵が誘う飲み会には見事に男性ばかりが揃う。
なんと彼女はルックスのいい光子を利用して、体目当ての男に次々とあてがっていたのだった。それでいて自分の評価を上げ、立ち位置を築いていたらしい。
だが光子は家庭環境が悪いため、誰も結婚相手としては選ばない。結局卒業時には誰からも相手にされなくなった光子の姿があった。
「だからこそ友希恵は恨まれても仕方がない」、「光子が最近捕まったことを聞いた。私はああはなりたくない」と淳子からの発言を聞いた田中は勢いで撲殺してしまう。もちろん彼女は、光子の兄が目の前にいることなど知る由もなかった。
【あらすじ⑤】田中兄妹のヒミツ
光子の娘が亡くなった。彼女は家庭環境の悪さから、一般的な幸せを求めていたものの、それが叶わなかったのである。
愛する人との子供が欲しかったのに、肝心の娘は笑ってくれない。夫がおらず、シングルマザーとして疲れ果てていた頃に、彼女は街中で結婚後の友希恵を見かけた。だが友希恵は目の合った光子を見てみぬふりをする……。
そのままこっそりと後をつけると、一軒家に住んでいた田向家。自分の欲しかったものを全て持っている友希恵が酷く妬ましく思え、そのまま一家を殺してしまったのだ。すでに殺人犯であった彼女からすれば、娘が死んだ事実などはそう大きなものではない。
一方で弁護士は田中兄妹の母親の元へ来ていた。光子の供述した事実とは異なり、娘の子供は父のレイプによって出来た子ではないことが明らかになる。
場面は変わって兄妹との面会。光子は相変わらず兄に対する溺愛っぷりを見せていた。「私は秘密が大好き。誰にも言えない秘密っていいよね。私の味方はお兄ちゃんだけよ。大好き」と意味深な発言を繰り返す……。
それを聞いた田中は暗い顔。彼の背中にはのしかかるものが重すぎる。再度バスに乗り、妊婦へ席を譲るが、一向に表情が晴れぬまま時間が過ぎていくのであった。
映画『愚行録』のキャスト
田中武志/妻夫木聡
出典:映画『愚行録』公式サイト
妹は拘留中であり、傍から見れば苦労人の顔をしている武志。物語の題材となっている“愚行”からほど遠そうな印象を受けますが、序盤のシーンなどを見れば彼の本性が垣間見えることでしょう。
それに加えて淳子を撲殺し、ラストの死人のような表情を見ていると非常に何とも言えない気持ちになってきます。武志もまた取材をした人々と同じく、愚かさを十分に持ち合わせた人間ということですね。
難しい役どころを演じるのは妻夫木聡さん。表面からは分からぬ愚行っぷりをうまく表現する演技には流石としか言いようがありません!有名作品の常連的で貫井徳郎の最新作『あの男』の主演に抜擢。彼を知らない日本人はいないと言っていいほど、知名度の高い俳優さんです。
コメディからシリアスまで幅広い演技!妻夫木聡出演の傑作映画7選!田中光子/満島ひかり
出典:映画『愚行録』公式サイト
どこか浮世離れした雰囲気のある光子。拘留されている身分であるのにも関わらず、焦った様子も自身の行いを反省する素振りも見せません。ひたすらに自分の話を延々と続け、多弁な点には視聴者も驚きを隠せなかったはず……。
度を過ぎたブラコンであること、母親との供述がまるで異なったこと、とにかく謎の多いキャラクターでしょう。光子の本性については後述しておりますのでご覧くださいね。
光子を演じるのは実力派女優の満島ひかりさん。ユニット「Folder」を経て女優へと転身。誰もが息を飲む演技力で話題となり、そこから一気に大ブレイク!現在も様々な作品へ出演していますよ。
田向浩樹/小出恵介
出典:映画『愚行録』公式サイト
優秀なサラリーマンとして活躍していた浩樹。周囲からの評判も悪くなかった――と思いきや、恵美の取材により徐々に怪しげな人物像が炙り出されていきます。
ただし同僚との思い出話の中でも、ツッコミどころの多い存在だったことは確かなはず(苦笑)悪びれもなく相手を利用し、開き直る性格はもう圧巻ですね。殺人事件が起きていずとも、多方面から恨みを買っていたことは確かです……。
クズっぷりを露わにした演技を披露するのは小出恵介さん。映画『パッチギ』で話題を集め、その後もドラマや映画などで活躍中。最近はYouTubeチャンネルも指導し、活動の幅を広げています。
田向(夏原)友希恵/松本若菜
出典:映画『愚行録』公式サイト
多くの学生の憧れの的だった友希恵。彼女もまた非の打ち所がない存在のように思えましたが、光子とのエピソードで非常に腹の黒い一面を持っていることが発覚します。
淳子の話だけでは「友希恵に対するただの妬み」としか感じなかったかもしれません。けれども友希恵にも立派なアリバイがあり、自分のポイントを稼ぐと同時に周囲の恨みも買い続けていたのでしょう。
その部分に気づかない“愚かさ”が、この悲劇を招いてしまったのかもしれません。
友希恵を演じるのは松本若菜さん。『仮面ライダー電王』でデビューして以来活動を続けています。本作では演技力の高さにより第39回ヨコハマ映画祭・助演女優賞を受賞。美しきルックスにも心を奪われてしまう女優さんですね。
宮村淳子/臼田あさ美
出典:映画『愚行録』公式サイト
登場時からキツ~い口調で嫌な雰囲気のあった淳子。友希恵の話を聞いている時もその語り口は非常に刺々しく、田中もつい「よほど夏原さんのことが嫌いなんですね」と漏らしてしまったほど。
視聴者からしても妬みで悪口を言っているように思えましたが、実際に友希恵の悪行を田中へ知らせた張本人。しかし何を語るにしろ棘のある言い方は変わらず、結局殺されてしまうのでした。
淳子を演じるのは臼田あさ美さん。読者モデルを経て女優へと転身。園子温監督の作品で映画デビューを果たし、『南瓜とマヨネーズ』や『恋空』などに出演しています。
尾形孝之/中村倫也
出典:映画『愚行録』公式サイト
淳子と付き合っていた尾形ですが、友希恵の登場により心を奪われてしまいます。あっさりと淳子の別れを告げ、大激怒される始末。
乗り換えた身だからこそ友希恵の本質は見えておらず、取材時にも彼女を否定することはありませんでした。
尾形を演じるのは俳優の中村倫也さん。『岸辺露伴は動かない』や実写版『アアラジン』の吹き替えを担当するなどマルチに活動しています。“カメレオン俳優”の異名を持ち、作品ごとに見せる顔が180度違うのも中村さんの魅力と言えますね。
稲村恵美/市川由衣
出典:映画『愚行録』公式サイト
週刊誌の記事を見て、直接田中とコンタクトを取り合ったのが恵美です。父の会社の倒産から東京を離れ、田舎町で結婚して暮らしているご様子。「犯人を知っている」という割には、モヤがかかったような話し方をして我々を困惑させます。
彼女もまた浩樹への執着心が酷いもので、田中はそこが理解できませんでした。そして意味深な「似てきたでしょ?」のセリフ……。何だかゾッとするものを感じますね。彼女の“愚行”については光子同様、後述していますのでぜひチェックを。
恵美を演じるのは市川由衣さん。『クロサギ』や『NANA2』のハチなど有名作品へ次々と出演。愛らしいルックスに吸い込まれそうな大きな瞳が特徴的な女優さんです。
映画『愚行録』登場キャラクターの本性を解説
出典:映画『愚行録』公式サイト
田向夫妻の真相が明かされるキーパーソンは何も1人ではありません。複数の登場人物の証言、内情が合わさってようやく見えてくる……。それが『愚行録』の面白さなのです。
とはいえ物語が進み、あちこちのシーンへ移り変わることから少し混乱してしまった人もいるのでは?各々の取材内容などを整理しながら一緒に見ていきましょう。
田向浩樹について
まず田中が最初に取材へ向かったのは浩樹をよく知る同僚。2人はとても仲が良く、女遊びでも手を組んでいたことが彼の口から語られます。
1人の女性に対して手ひどい仕打ちしていたエピソード、これは女性視聴者も観ていてイライラしたことでしょう(笑)けれども同僚の男性はあまり悪びれがなく、それでいて「浩樹はいいヤツだった。殺される意味が分からない」と嘆き始めたのです。
この時点で察しの良い方はピンときたと思いますが、田向浩樹のクズっぷりはこの時点で露呈されていたということ。いくらエリートサラリーマンでも、近所の評判が悪くなくても、平気で女性を泣かせられるような性格だったことが分かります。
それに「いいヤツだった」というのはあくまで同僚から見た感想です。他の人から見ればそう感じるとは限りません。その証拠を裏付けるのが恵美の存在にあるでしょう。
恵美は決して“いいヤツ”とは口にせず、「開き直りっぷりがすごい」「他人を利用する」と浩樹のしたたかさを告白。その口調には嫌味ったらしさがたっぷりで、心の底では彼を恨んでいることが見え隠れしているのです。
とはいえ恵美も、そんな浩樹から離れられなかった謎を持つのですが。恐らく「男からすればいいヤツ」ですが、女性の敵であることに間違いはありません。
田向友希恵について
大学では憧れの的だった友希恵。周囲の信頼も厚く、しとやかで男女から人気を集める人物でした。
実際に男性からの評判は良く、恋人を乗り換えた尾形も彼女を悪くは言いません、むしろ元々付き合っていた淳子を批判するほどで「きっと友希恵が羨ましかったのだろう」とさえ言い放つのでした。
一見敵なしの存在に思えますが、そんな友希恵には多くの人間に明かしていない裏の顔があります。淳子の供述で明らかとなったのは
- 涼しい顔で淳子に近づき、彼氏を奪った
- 光子を利用して体目当ての男たちにあてがっていた
という2つの真実。①に関しては淳子の嫉妬や逆恨みのように思えますが、実際に尾形と密会しているなど十分な証拠があったのです、
そして光子に近づいたのも、友希恵の計算高い計画がゆえのこと。男性陣からポイントを稼ぐために誰かを利用するなど相当腹黒くなければ簡単に考えつく方法ではありません。
田向友希恵という人物は「完璧で皆から好かれる女性」ではなく、“愚かさ”溢れる人間だったのでした。
田中武志に隠された狂気
兄妹は複雑な家庭の中で育ち、2人で支え合いながら生きていたようなもの。
とは言え物語が進むにつれて、頭にハテナマークが浮かんでしまうような言動がチラホラ……。田向夫妻の事件だけでなく、この登場人物らにも怪しげな雰囲気が流れ始めます。
まず武志ですが、主人公でありながらはあまり彼の心情が描かれておりません。掘り下げることなく淡々とストーリーが展開されていきますが、要所要所で彼の持つ恐ろしき本性が露わになっていきますよね。
まずそれを匂わせるのが冒頭のバスシーン。足が悪いふりをして「席を譲れ」と注意をした相手に罪悪感を植えつけさせています。
そしてに武志の狂気的な一面が確信へと変わるのが、淳子を撲殺する件です。光子のことを想うがあまり、彼女の言いっぷりが許せなかったのでしょう。顔色一つ変えず、衝動で殺人という罪を簡単に犯してしまうのでした。
光子同様、家庭環境によって心がねじ曲がったのだと思われます。。記者であり、取材をしているとまるで“中立”のような立場である武志。けれども彼もれっきとした“愚行”を重ね続けていたのです……。
映画『愚行録』に隠された謎を考察!
出典:映画『愚行録』公式サイト
田向夫妻の真実は明らかになりましたが、それぞれの登場人物に隠された謎が非常に多いと思いませんか?
意味深なセリフを初見で全て読み取るのはかなり難しいはず。本作に残された謎を徹底考察しちゃいます。分からない部分があった方はこの項目を読むと、ストンと腑に落ちるかもしれません。
恵美は犯人を誰だと言いたかったのか。子供は誰の子?
謎めいた発言を繰り返し田中を混乱させた恵美。最後の最後では「この子、似てきたでしょ?」という意味深すぎるセリフを口にし、その後は一切登場していません。結局犯人を知っていると言いながら、ハッキリと名前を挙げることはなかったのです。
あくまで推測ですが、恵美自身も結婚している立場でありながら浩樹との関係を続けていました。同僚とのエピソードにもあったように、彼は元から女性関係にだらしがなかったのです。
きっと“そのことに気づいた友希恵が殺した”と言いたかったのかもしれません。それを裏付けるのが「犯人は気づいたんだと思う、自分だけじゃ埋められない(=友希恵だけでは物足りない)ということに」という発言。
とは言え恵美も別れた相手に執着し続け、だらしがなかった点は同じでしょう。子供はもしかすると、体の関係を持っていた浩樹の子かもしれません……。田中は恵美の夫を知らないですからね。
「似てきた」という言葉をわざわざ使うのも、この真実を示唆しているのだと思います。
光子の娘の父親は……
光子のブラコンぶりが気になっていた人も多いはず。どれだけ両親を批判しても、兄に対する悪口を一言も言いません。むしろ「大好き」を繰り返し、何だかただの兄妹愛では済まなさそうな空気を醸し出しています。
更に気になるのはこれだけ兄妹愛が深いのに、武志が妹の夫を知らないと言い切りました。光子は結局のところシングルマザーで、結婚をしていないことが終盤で明かされるのです。
光子の抱いた「秘密」、武志の疲れ果てた顔――。明確な描写はないものの、きっと2人は恋愛関係にあったのでしょう。ゆえに光子の娘・千尋は近親交配によって生まれた子供。「愛する人との子供が欲しかった」のに、千尋が笑ってくれないから殺してしまったのです。
武志自身も千尋を引き取るつもりでいて、これもまた“父としての責任を取る”行為に見えます。
劣悪な家庭環境から2人はすっかり歪んでしまいました。兄も妹を守りたい、妹も助けてほしい、そんな気持ちが交差して全てがねじ曲がっていったのでしょうね。
武志は最後どうなったのか?
笑顔で話す光子を前にして、死んだような表情を浮かべる武志。ラストでは妊婦に席を譲っていて、冒頭のシーンとは180度違う行為をはたらいていました。
妹は罪人で、自分自身も淳子を殺したことから同じ土俵に立ってしまいます。そして千尋も死に、近親交配の謎を抱えたまま生きていく人生。
つまり彼の背負うものは非常に重く、全てに絶望しているからこそあんな顔になってしまったのでしょう。
光子もいつ出てこられるかは分かりません。帰る場所もなく、自分の犯行が100%バレないとも言い切れません。明日が見えない、そんな思いでいっぱいになっているラストシーンでした。
席を譲ったのも、きっと己の“愚行”に罪悪感を覚えたからではないでしょうか。彼はこの後どうなったのか……。それは本人以外に知る由もありません。
まとめ
登場人物全員の愚行を記したミステリー映画『愚行録』。後味の悪いエンディングを迎えていますが、人間の愚かさをここまで全面に映し出した作品もそうないでしょう。あまりの勢いの良さ、逆に爽快感を覚えてしまったくらいです。
初見だけでなく二度、三度楽しめる衝撃的なストーリーは必見。『愚行録』が織りなす怪しげな世界観をどうぞお楽しみください!