「恐怖」の天才ギレルモ・デル・トロ監督のおすすめ映画7選!『パンズ・ラビリンス他』
『ヘルボーイ』や『パンズ・ラビリンス』、最近では『パシフィック・リム』や『シェイプ・オブ・ウォーター』など多くの作品で私たちの心を掴んで離さないギレルモ・デル・トロ監督!
ギレルモ・デル・トロ監督は1964年10月9日メキシコのハリスコ州で生まれました。4歳の時に父親が宝くじを当て、本をたくさん買ってもらうことになります。名作の小説から医学百科事典、美術事典まで様々な書籍に触れたことが全てのきっかけだったそうです。多くの書籍の中でも「ホラーコミック」に夢中になります。それこそが今のギレルモ・デル・トロ監督の基礎となっているのです。監督の作品には「恐怖」が必ずあります。それはホラーという意味だけでなく、物語を通して現実の「恐怖」も移しているのです。人々を夢中にさせる要素がこの映画の中だけで終わらない「恐怖」にあるのかもしれません。
ギレルモ・デル・トロ監督はデビュー作の『クロノス』からすでに完成された残酷で美しい世界と独創的な生物たちで観る人を魅了していました。以来私たちに「恐怖」と興奮を届け続けてくれています。そんなギレルモ・デル・トロ監督の作品の中でも特に「恐怖」とクリーチャーが心に残る7作品をご紹介します。
ギレルモ・デル・テロ監督のおすすめ作品7選
1.ミミック
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あらすじ
舞台はニューヨーク。ゴキブリを媒体に感染する病気が大流行していた。子どもにばかり感染し、治療薬もないため致死率も高く、生き残ったとしても重い後遺症に悩まされることになる恐ろしい感染病だ。
そこで、アメリカ疾患予防管理センターから要請を受け、昆虫学者のスーザン(ミラ・ソルヴィノ)は遺伝子操作で、ゴキブリだけを攻撃し180日後に死亡する新種の昆虫「ユダの血統」を創り出した。そのおかげで、その感染病は急速に収縮していった。
だが事件の3年後、突然変異した「ユダの血統」の幼虫が発見される。さらに、調査の為に地下に降りたスーザンは、人間に擬態(ミミック)する「ユダの血統」に遭遇する……。
『ミミック』ギレルモ・デル・トロ監督撮影裏話
■当時公開されたものは、映画会社で再編集され他の監督が撮影されたシーンをいれられてしまった。
■ラスト、「ユダの血統」に「行け。立ち去れ」と話しかけてくる恐ろしいエンディングが考えられていた。
ギレルモ・デル・トロ作品のみどころ!
昆虫が苦手な方は注意してください。「病気の感染源がゴキブリ」「病気根絶の為に新しい昆虫を創り出した」とあるように、本作と昆虫はきってもきれない関係にあるのです……。
しかし、その新種のクリーチャーの造形は不気味で美しく完璧です。特に擬態している時の姿と襲い掛かって来る昆虫の姿のギャップがたまりません。擬態している時は遠目に見れば完璧に人間のシルエットなのです。けれど、どこか不気味で好奇心から近づきたくなってしまいます。擬態を解くと完全に昆虫です。
ただし、人より巨大で見た事もない造形をしています。昆虫なのに人間に近いそのクリーチャーを見ているとなんだか不安になってきます。心をゾワゾワさせる造形は、昆虫の感情のない残酷さを思い出させます。人間に似ているのに全く違う、このギャップが「ユダの血統」の魅力ではないでしょうか。
ストーリーは前半、得体のしれない生き物や何が起きているのか分からないじわじわとした恐怖でゆっくりと進みます。対して後半はクリーチャーとの対決で派手な展開となります。ギレルモ・デル・トロ監督の芸術的なシーンとハリウッド的な派手な爆発が対照的で面白いです。
2.ブレイド2
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あらすじ
アメリカのコミックMARVELの人気キャラクター『ブレイド』の映画化第2作目。
母親が妊娠中、ヴァンパイアに襲われた為にヴァンパイアの力を持って生まれて来てしまったブレイド(ウェズリー・スナイプス)。彼はヴァンパイアと同じ身体能力を持ちながら太陽の光の下でも行動できる。その強みを生かしヴァンパイアハンターとして闘っている。
ある時、ヴァンパイア達が休戦を申し込んできた。ヴァンパイアを襲う「リーパーズ」という新種族のヴァンパイアが出現したのだ。ヴァンパイアで満足できなくなれば、次の標的は人間になるだろう……。ブレイドは一時休戦し、ヴァンパイアとチームを組んでリーパーズを倒すことを決める。
『ブレイド2』ギレルモ・デル・トロ監督撮影裏話
■次回『ヘルボーイ』を製作させてもらう為にこの『ブレイド2』の監督を引き受けた。
■下水道のモデルはプラハの下水道。プラハの下水道は粘液まみれですごい臭いだったそう……。
■ラインハルト(ロン・パールマン)の登場時、起き上がる動作は『マッド・マックス』を参考にしている。
ギレルモ・デル・トロ作品みどころ!
ギレルモ・デル・トロ監督は『ブレイド』にぴったりの監督です。デビュー作の『クロノス』でも吸血鬼を描いた監督。しかも、クリーチャーの創作に優れている人物だからです。スキンヘッドで真っ白な肌の悪役。そのシンプルなキャラクターの口が開き、人間からかけ離れた動きとグロさを見せるのです。体内も作り込まれており、「仕かけ」もあります。こんな独創的なクリーチャーをギレルモ・デル・トロ監督以上に上手く表現できる人物はいないのではないでしょうか。
『ブレイド』と言えばヴァンパイアとブレイドとの戦闘シーンが一番の盛り上がりどころですよね。本作でも1作目同様ブレイドのキレの良い動き、ポーズ、熱い攻防が観られます。さらに、ヴァンパイアの動きがパワーアップしているのです。特に序盤、刀を持ったヴァンパイアとの戦闘は目が離せません!美しく素早い刀さばきは必見です。
3.ヘルボーイ
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あらすじ
アメリカのダークホースコミックスのキャラクター、ヘルボーイ(ロン・パールマン)。
始まりは第二次世界大戦中。ドイツ軍は冥界の門を開こうとしていた。ところが、アメリカ軍が阻止され失敗に終わった。邪神を呼び出そうとしたラスプーチン(カレル・ローデン)は冥界の入り口に吸い込まれて、後には赤いモンスターが残された。それこそがヘルボーイだ。
その60年後。ヘルボーイはアメリカの超常現象防衛局で魔物と戦っていた。そんなある日、儀式によってラスプーチンが再び戻ってきたのだ……。冥界の門を開くために。
『ヘルボーイ』ギレルモ・デル・トロ監督撮影裏話
■エイブ・サピエンのデザイン等、『ブレイド2』で考えていたアイディアを多く起用した。
■当初、エイブの口のデザインは魚の口だった。
■クロエネンのデザインは日本の仮面の影響を受けている。
■サマエルが死体を食べるシーンの案もあったが、PG13のレーティングの為に諦めた。
ギレルモ・デル・トロ作品のみどころ!
『クトゥルフ神話』などで有名な作家H・P・ラヴクラフトのファンであるギレルモ・デル・トロ監督。監督の作るクリーチャーにはラヴクラフトの影響がたびたび観られます。本作では特に『クトゥルフ神話』のオマージュが見られます。例えば、序盤に出てくる魔導書、最後の敵、サマエル、そして邪神の設定……クトゥルフを知っている人なら「これは!」と思うのではないでしょうか。
今まで様々なクリーチャーを生み出してきたギレルモ・デル・トロ監督ですが、本作では人間くささをもったモンスターが魅力的です。巨大で赤くて悪魔の見た目をしたヘルボーイは、軽い気持ちで脱走したり嫉妬したり口が悪かったり、まるで子どもです。でも、自分の力の怖さを知っているので実は理性的で、一生懸命ラブレターを書く可愛い一面もあります。この人間より人間くさいキャラクターが素敵です!彼が一人の女性に翻弄されている様はまさに王道のラブストーリーです。
4.パンズ・ラビリンス
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あらすじ
1944年。スペインの内戦で父親を失ったオフェリア(イバナ・バケロ)。母親がヴィダル大尉(セルジ・ロペス)と再婚した為、森の中の砦に移り住むことに。大尉はゲリラとの戦争の為にこんな森の中の砦にいる。母親のお腹の中には子どもがいるというのに、こんな環境に連れてきたのだ。身勝手で独裁的な新しい父親。緊迫した環境はオフェリアをより孤独にしていった。
そんなある日オフェリアは迷宮の番人パン(ダグ・ジョーンズ)と出会う。「地底の王国の姫君だ」と言われるが、地底に帰る為には3つの試練を受けなければならない……。
『パンズ・ラビリンス』ギレルモ・デル・トロ監督撮影裏話
■パン役のダグ・ジョーンズは本作出演の為に『X-MEN』『メン・イン・ブラック』の出演を断った。
■監督は『ヘルボーイ ゴールデンアーミー』の脚本も同時に執筆していた。
■実は階段の手すりやドアなどにパンの顔が彫られている。
ギレルモ・デル・トロ作品のみどころ!
日本版の明るく前向きなイメージのポスターとは裏腹に、実際は本当に「ダーク」なファンタジーです。主人公のオフェリアが妖精や地底の世界に深くハマっていくほど、現実(?)の環境も悪くなっていきます。ゲリラとの戦いが本格化し、大尉の恐ろしさもあらわになっていきます。ギレルモ・デル・トロ監督はファンタジーは現実を忘れるための手段ではなく、現実を映すためにファンタジーを使っています。
アカデミー賞の美術賞やメイクアップ賞を始めとして、様々な賞を受賞している本作。妖精たちのデザインや建物が素敵です。『不思議な国のアリス』のような服がとても可愛いく、独創的なクリーチャーが魅力的です。繊細な動きで美しくも不気味なパン、それに手の中に目があるペイルマン。ペイルマンは本当に恐ろしいです。目がない動かないモンスター、その前に置いてある皿の中には目玉。それだけで恐ろしいのに、手の中に目玉を入れて、こちらを見る。もう、動作ひとつひとつにゾッとします。
「おとぎ話」のような服、「ヤギ」に似ているパン、「目」が不気味なペイルマン、「お腹を空かせる」オフェリア。これらのキーワードはおとぎ話の『一つ目、二つ目、三つ目』を連想しませんか?この『パンズ・ラビリンス』もそのおとぎ話のようにめでたしめでたしなのか、それとも……。ラストをどう感じたのか他の人と話したくなるのも本作の魅力ではないでしょうか。
5.パシフィック・リム
あらすじ
深海に割れ目が出来た。ただの割れ目ではない。異世界へつながる割れ目だ。そこから怪獣が現れた。沿岸諸国は巨人兵器イェーガーで撃退を試みたが、次々に出現する怪獣に人類は追い込まれていった。人類は壁を作ることで怪獣からの攻撃を防ごうとするが、それすら打ち破られていく……。
『パシフィック・リム』ギレルモ・デル・トロ監督撮影裏話
■撮影開始時、脚本は130ページ(上映時間にすると2時間45分)もあった。
■怪獣3体の声は監督が当てている
■撮影の為に実際にロボットの一部が作られた。
ギレルモ・デル・トロ作品のみどころ!
本作もラヴクラフトの作品を連想させるクリーチャーと設定が詰まっています。海からやってくる彼らは、大きく鮮やかで力強いです。絶望してしまうほどの強さにはゾクゾクします!それに対する人類のイェーガーとの戦闘の迫力もたまりません。これぞ怪獣映画です。
そのイェーガーに乗る人間は2人です。動きだけでなく、心もシンクロします。人と人との信頼をストレートに表しています。普段、誰かと共有することのない感情や記憶をあらわにするというのはかなり怖いことではないでしょうか。その怖さは拒絶される「恐怖」もあるでしょう。
しかし、その恐怖を乗り越えて信頼関係を結びます。さらにその先に怪獣さえも乗り越える姿は人類の可能性すら感じます。この希望と絶望のバランスの良さはギレルモ・デル・トロ監督だからこそです。
6.クリムゾン・ピーク
あらすじ
20世紀初頭、アメリカ。イーディス(ミア・ワシコウスカ)が10歳の時に母親が亡くなった。その日の夜、幽霊となった母親が警告しに現れる。「クリムゾン・ピークに気をつけろ」
大人になったイーディスは、イギリスから来たトーマス・シャープ(トム・ヒドルストン)と出会う。父親に反対されていたが、その父の死をきっかけに結婚しイギリスに渡る。イギリスにある屋敷。土地の名前は「クリムゾン・ピーク」
『クリムゾン・ピーク』ギレルモ・デル・トロ監督撮影裏話
■『クリムゾン・ピーク』という題名はスタッフ内での呼び方で、最初は『ホーンテッド・ピーク』という題名だった。
■CGも使用しているが、基本的に亡霊はメイクをした生身の俳優だとか。
■「赤色」が重要なキーになる為、服などに赤い色を使う事を禁止された。
ギレルモ・デル・トロ作品のみどころ!
主人公のイーディスの元には恐ろしい幽霊が集まります。しかし、その幽霊たちは彼女に危害を加えません。むしろ警告し、助けようとしてくるのです。本当に恐ろしいのは……。
ホラーというよりはラブロマンスの色の方が強い作品です。ただ甘いだけのロマンスではありませんが……。ギレルモ・デル・トロ監督はヴィクトリア朝時代の影響を受けているそう。ヴィクトリア朝時代は、産業革命によって経済発展していったイギリスの絶頂期です。科学や技術も発展し、オカルトブームが起きた時代でもあります。新しいものをどんどん吸収しようとする時代と主人公は似ています。
恋愛小説よりも幽霊のでる小説を書き進出しようとする野心や、女性という型にはまった行動をとらない女性です。そんな女性だから、ヴィクトリア朝時代のイギリスから来たトーマスとマッチしたのでしょう。この自立した強いイーディスは現代を生きる女性とも重なるのではないでしょうか。
7.シェイプ・オブ・ウォーター
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あらすじ
1962年アメリカ。生まれつき話すことが出来ないイライザ(サリー・ホーキンス)は政府の研究所の清掃員としてい働いている。ある日、研究所に謎の生き物が運び込まれてきた。アマゾンの奥地で神として崇められていた生き物である。好奇心から接触をはかるイライザ。意志の疎通ができるようになり段々と心惹かれていく。
しかし、そんな平穏な日々は続かない。生体解剖の計画が進んでいたのだ。
『シェイプ・オブ・ウォーター』ギレルモ・デル・トロ監督撮影裏話
■フィッシュマンのデザインにかかった時間は過去最長。(約3年)
■フィッシュマンのお尻がセクシーかどうか、監督は妻や子どもに見せて確認した。
■冒頭の水の中の部屋のシーンはプロジェクターやスモーク、イライザ役のサリー・ホーキンスをワイヤーで吊るして撮影された。
■イライザの部屋の壁紙の柄は葛飾北斎の『神奈川沖浪裏』。
ギレルモ・デル・トロ作品のみどころ!
本作ではアクアマリンの色がキーカラーとなっています。部屋に雨に海に生き物……どれもうっとりするほど美しいです。冒頭から登場するイライザの部屋はボロボロですが、青・水色・緑色といった色で統一されています。
フィッシュマンの見た目は監督の以前の作品『ヘルボーイ』のエイブに似ています。しかし、アメコミのキャラクターに対し本作ではリアルな動物として描かれています。しかもただの動物ではなく、女性が恋するように愛着のある見た目なのです。目が大きく、人のような唇。美しく、不気味なクリーチャーではありません。これぞギレルモ・デル・トロ監督の真骨頂です。
『ヘルボーイ』でヘルボーイが変わるのではなく、リズが受け入れて自分自身を認めました。同じように本作でもフィッシュマンが変わるのではなく、イライザが受け入れて自分自身を受け入れました。『美女と野獣』の反対です。ギレルモ・デル・トロ監督の怪獣は怪獣のままでいいというメッセージが伝わってきます。野獣は野獣のままに、でも周りの人たちを少しだけ変える。そんなすてきなおとぎ話です。
まとめ
ギレルモ・デル・トロ監督の映画7作品をご紹介しました。恐ろしくも美しいクリーチャーに「恐怖」と「希望」といった対極のものをバランスよく物語の中に盛り込んだ作品ばかりです。
これからもさまざまなクリーチャーや物語を生み出すギレルモ・デル・トロ監督から目が離せませんね!