じっくり考察したい人向けのおすすめ哲学映画20選!
映画には様々なメッセージが込められており、私たちの知的好奇心を刺激し、時には実生活においても思考の糧となります。
この記事では、鑑賞後にしばらくそのテーマについて考えたくなるようなメッセージ性の強い「哲学」を題材にした映画を、「法・政治・戦争哲学」「倫理・道徳」「生と死」「宗教」「その他」の5つのジャンルに分けてご紹介していきます!!
法・政治・戦争がテーマの哲学映画
1. フルメタル・ジャケット
「戦争という過酷な環境下で、兵士たちが辿り着いたものとは」
あらすじ
舞台はベトナム戦争。アメリカ海兵隊に志願した青年たちは、冷酷無比な殺人マシーンになるべく、非人間的な訓練を受ける。ジョーカーのデイヴィス(マシュー・モディーン)、ほほえみデブのレナード(ビンセント・ドノフリオ)、カウボーイのエヴァンス(アーリス・ハワード)、アニマル・マザー(アダム・ボールドウィン)、エイトボール(ドレイン・ヘアウッド)達は、新兵訓練所で、鬼教官ハートマン(リー・アーメイ)の地獄の特訓を受ける。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
戦争映画といえば、主に残虐な戦争シーンが多いイメージですが、スタンリー・キューブリックはこの映画で、人間が自我を失い、兵士になる過程を描きました。
冷酷無比な鬼教官でありながら、その語彙の独特さから、もはや愛されるキャラとなったハートマン教官は、新人兵士たちを言葉の限りなじります。それは個人のアイデンティティを白紙に戻し、人を殺すための殺人マシーンに仕立て上げるためです。
難解な映画が多いことで知られるキューブリックですが、彼の作品では、悲惨な環境下でも、一筋の救いがある結末が多く描かれます。
キューブリックの言葉に、”However vast the darkness we must supply our own light.”(広大な暗闇に放り出されたとしても、私達は自分自身の光を発するべきだ)というものがあります。この映画は、兵士たちがミッキーマウスマーチを歌いながら行進するシーンで終わりますが、それは、殺人マシーンとなったはずの兵士たちの奥底にある人間的な感情を思い起こさせるような描写にも捉えることができます。
こんな人におすすめ!
- キューブリックの美しい構図が好きだ!という方
- 一味違う戦争映画が見たい方
こんな人には向かないかも…
- パワハラ描写が苦手だという方
- 暑苦しくムッとする映像が苦手な方。
2. プライベート・ライアン
「俺たちが見た戦場がそこにあった。」
あらすじ
舞台は第2次世界大戦、ノルマンディー上陸作戦という歴史上最も悲惨な戦場から始まりる。ジョン・ミラー大尉(トム・ハンクス)は、敵地で行方不明となったジェームズ・ライアン二等兵(マッドデイモン)を捜索する命を受ける。少尉は部下7人と小隊を編成し、任務へ向かう。彼らがそこで見たものとは。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
『プライベートライアン』は、残酷かつリアルな戦争描写で公開当時大きな話題になりました。飛び散るはらわたと脳漿、痛みに叫ぶ負傷兵、四散する四肢と、これでもかというくらい戦場の悲惨さをまざまざと見せつけます。第二次世界大戦を生き残った兵士達にこの作品を見せたところ、上映終了後しばらく沈黙が続き、大きな拍手が起こったそうです。彼らは「そこには俺たちが見てきた戦場がそのまま映し出されていた」と言いました。
行方不明となったライアン二等兵は、4人兄弟ですが、他の3人の兄弟はすでに戦死しています。いつ死ぬか分からない過酷な作戦を遂行する小隊たちは、作戦自体に疑問を持ちます。たった1人の新米兵士を救うのに、なぜ多くの兵士が犠牲にならなければいけないのか。過酷な現実と不確かな未来に立ち向かう彼らの勇姿は胸が打たれるものがあります。
こんな人におすすめ!
- ありのままの戦争描写がみたい方
- 戦争という過酷な環境で揺れる心理描写がみたい方
こんな人には向かないかも…
- グロテスクな描写は苦手だという方
- 理不尽な戦争映画が苦手な方
3. 帰ってきたヒトラー
「笑うな、危険」
あらすじ
リストラされたテレビマンのザバスキ(ファビアン・ブッシュ)はある日、顔も服装もヒトラーそっくりの男(オリヴァー・マスッチ)を見つける。いいネタを手に入れたと思った彼は、上司の協力を得て、その男をテレビ出演させる。すると、彼は長い沈黙の後、本物そっくりの雰囲気と演説スキルで観客の度肝を抜く。この映像は瞬く間にネット上に拡散され、ヒトラーそっくりの男は時の人となる。
しかし、皆は気づいていなかった。彼がタイムスリップしてきた「本物のヒトラー」であることを…。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
「もし現代にアドルフ・ヒトラーが蘇ったら…?」という皮肉たっぷりの内容をコメディとして描いた本作。インターネットを知ったヒトラーが、「後世のアーリア人はこのような偉大な発明をしたのか…」と涙ぐみながら感慨に浸るシーンは爆笑モノです。
しかし、あの人類史上最大の大虐殺であるホロコーストを先導したヒトラーは、元はと言えば映像や新聞といったメディアを掌握し、ナチス党を実際よりも巨大な組織に見せることによって民衆を扇動したという史実があります。その天才的な演説スキルやプロパガンダに長けたヒトラーが、人類史上最大の発明であるインターネットを使ったら…?ここまで想像すると、あまり笑えなくなりませんか?
ナチスやヒトラーについての映画は多くありますが、それらは史実を淡々と語るものがほとんどです。この作品は、独裁の風潮が強い昨今の世界的な風潮を踏まえると、時代に即したブラックコメディと言えるでしょう。
なんと、2019年には「帰ってきたムッソリーニ」というイタリアの独裁者ムッソリーニを主人公にしたリメイク作品の公開が予定されています!
こんな人におすすめ!
- ナチスに関して多少の知識がある方
- ブラックコメディが好きだという方
こんな人には向かないかも…
- 政治的な話は苦手だという方
- ヨーロッパ特有のエスプリ感のあるコメディが苦手な方
4. アメリカン・スナイパー
「観る者の心を撃ち抜く衝撃作」
あらすじ
米軍史上最多である160人を射殺したクリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)の半生を描く。1.9km先の敵を撃ち抜く圧倒的な射撃精度から、アメリカでは「伝説のスナイパー」と呼ばれる一方、イラクの反政府勢力からは「ラマディの悪魔」と恐れられた。
しかし、彼の素顔は、いかなる状況でも一人でも多くの仲間を守りたいと願った一人の男であり、良き夫であり、良き父でもあった。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
本作は、イラク侵攻という戦争映画でも比較的最近の出来事を題材にしています。戦争を題材にしている映画は、グロテスクで残酷な表現で戦争の悲惨さを見せつける作品が多い中、この作品は、そういったシーンはあまりなく、兵士たちの精神面、つまりPTSD(心的外傷後ストレス障害)に焦点を当てています。
屈強な兵士が静かに、そして確実に精神を蝕まれ、疲弊していく様を、監督であるクリント・イーストウッド特有の淡々としたテンポで描いています。戦場だけでなく、過酷な現実を生きる人々にも普遍的に刺さることでしょう。
本作でクリス・カイルを演じるにあたり、ブラッドリー・クーパーは18キロも増量したそうです。ラブコメなどで二枚目を演じた彼とは思えない、全く異なる表情や演技にも注目です。
こんな人におすすめ!
- 戦争におけるPTSDの描写が知りたい方
- 新しいタイプの戦争映画が見たい方
- 戦争映画は苦手であるという方
- いつもとは違うブラッドリー・クーパーを見たい方
こんな人には向かないかも…
- 起伏のない淡々とした作品が苦手だという方
- 迫力のある戦争描写が見たいという方
5. ハンナ・アーレント
「彼女は世界に『真実』を伝えた。」
あらすじ
高名な哲学者だったが、彼女が発表したあるレポートがきっかけで世界中に大論争を巻き起こし、激しいバッシングを浴びたハンナ・アーレントという女性がいた。逆境に立ち向かい、愛とはなにか、悪とはなにかを問い続け、哲学者として、そして一人の女性として生きた彼女の半生を描く。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
あまり馴染みのない名前かもしれませんが、ヒトラーのナチス・ドイツや、スターリンのソ連を典型とする全体主義が生まれるメカニズムを解明しようとした女性の哲学者です。ドイツ生まれのユダヤ人である彼女は、ナチスがユダヤ人迫害を続ける中、命の危険を顧みず、迫害される人々をドイツから他国へ亡命させました。
第二次世界大戦が終わり、何百人ものユダヤ人を収容所に送り込んだアドルフ・アイヒマンの裁判が行われます。アーレントはその裁判を傍聴し、『エルサレムのアイヒマン 悪の陳腐さについての報告』というレポートを発表しました。その内容は、「ナチは私たち自身のように人間である」というものでした。このレポートは世界中で大論争を巻き起こし、彼女は激しいバッシングに晒されます。
しかし、彼女が主張したかったのは、政治から公共性が失われ、その結果人々から個性が失われ、全体主義に陥ってしまうということでした。それは大衆の帰属感への警鐘だったのです。批判にさらされながらも、知性と感情を区別した彼女の思想は、現代にこそ必要な考え方ではないでしょうか。
こんな人におすすめ!
- 近代のナチス研究について学びたい方
- アーレントの思想やその半生を知りたい方
こんな人には向かないかも…
- 曖昧な終わり方が苦手な方
- 淡々と語られる伝記映画が苦手という方
「倫理」「道徳」がテーマの哲学映画
6. ブレードランナー
「知る覚悟はあるか」
出典:Amazon.com
あらすじ
近未来のロサンゼルス。地球には酸性雨が降り、残された人々は高層ビルと排気ガスがひしめき合う都市で生活していた。ある日、火星から来たレプリカントと呼ばれる人造人間の一団が人間を殺害して逃走、地球に潜伏するという事件が起こる。彼らを見つけ出すため、ロサンゼルス市警は、専任捜査官「ブレードランナー」を退職していたデッカード(ハリソン・フォード)を呼び戻す。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
SF映画を語る上では外せない本作は、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』という小説を元にしています。この作品でテーマの一つとなるのは、「唯我論」です。外面が人間そっくりのレプリカントは、人間と同じように振る舞い、コミュニケーションも取ります。しかし、内面は意識を持たない人造人間です。彼らは、人間のように生活する過程で人間性を獲得し、レプリカントと人間の狭間で苦悩します。
そんなレプリカントの中の一人であるロイ・バッティ(ルトガー・ハウアー)が、雨の中でデッカードに語りかけるラストシーンは“Tears in the rain”と呼ばれ、映画史に残るセリフであり、この映画のテーマにおける回答でもあります。
2017年には続編である『ブレード・ランナー2049』が公開され、『ブレードランナー』における唯我論や実存主義についてさらに深く掘り下げています。
こんな人におすすめ!
- 近未来ディストピア作品が見たい方
- ハードボイルドな作品が好きだという方
こんな人には向かないかも…
- SFものが苦手だという方
- あいまいな終わり方が苦手な方。
- ちぐはぐなアジア描写が嫌いという方
7. 第9地区
「これは現実でも起こっている問題だ。」
あらすじ
1982年、南アフリカ共和国のヨハネスブルク上空に突如宇宙船が出現。宇宙船からは応答がなく、人類は宇宙船の調査を行うことを決定。船内に侵入した調査隊が発見したのは、エビに似たエイリアンであった。宇宙船の故障からエイリアン達は難民となり、「第9地区」と呼ばれるスラム街で難民となる。そこへエイリアン対策課職員のヴィカス(シャルト・コプリー)は、エイリアン達に立ち退き交渉をするために訪れた彼らの住居で謎の液体を浴びてしまう…。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
フェイク・ドキュメンタリーの手法で始まるこの映画は、一見すると近未来を描いたSF映画のように見えますが、見進めるうちに、人間社会の根底にある差別意識問題に気づくことでしょう。南アフリカのヨハネスブルグが舞台ということから、「アパルトヘイト政策」を連想せずにはいられません。
「エビ」と呼ばれるように硬い外殻に覆われた肢体、よくわからない粘液もねとねと出す、お世辞にも美しいとは言えないような彼らですが、物語が進むに連れてなんだか愛らしく感じてしまいます。服を着たり、キャットフードが好きだったり、子供がいたり…。本作の魅力この視点の移動にあります。現代社会に通ずるテーマを是非確かめてください。
こんな人にオススメ!
- 自分には差別意識がないと思っている方
- メカメカしいデザインが大好物だ!という方
- ダメ男が活躍する映画が好きな方
こんな人には向かないかも…
- グロテスクな描写が苦手…という方
- ドキュメンタリー調の映画が嫌いな方
8. スーパー!
「悪は俺が叩く!」
出典:Amazon.com
あらすじ
ダイナーでコックとして働くフランクは幼馴染のサラを妻に持ち、平凡な生活を送っている。パッとしないフランクに愛想をつかしたサラは麻薬売買の元締めであるジョックと浮気をする。サラを失って意気消沈したフランクはテレビで見たアニメに影響を受け、自作のコスチュームを身にまとい、「クリムゾンボルト」として町をパトロールし、街にはびこる悪人を退治していく。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
『スリザー』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』といった人気作を手がけたジェームズ・ガン監督の一風変わったヒーロー映画です。ヒーロー映画といえば、勧善懲悪という単純なテーマが多い中、本作は、「それを現実でやるとどうなるのか」といったブラックコメディ感のある内容です。
主人公は、冒頭で「人生の中で2つだけ、最高な出来事があった」と語ります。それは人から見ればささやかなことですが、彼を支える2つの生きがいなのです。それは「愛し愛されること」と「自分が今生きていると実感していること」です。ヒトが人間らしい生活を送るための2つの要素の大切さをこの作品は教えてくれます。
こんな人におすすめ!
- ブラックコメディが好きという方
- ジェームズ・ガンの初期の作品が見たい方
- 映画『タクシードライバー』のような作品が好きな方
こんな人には向かないかも…
- グロテスクな描写が苦手な方
- 正統なヒーロー映画が見たい方
9. ダークナイト
「正義とは、何か」
あらすじ
ゴッサム・シティで大規模な銀行強盗事件が発生。犯人は仲間を全員殺し、一人で大金を奪い逃げ去った。彼の名はジョーカー(ヒースレジャー)。この街を守るバットマン(クリスチャン・ベール)は、ジム・ゴードン警部補(ゲイリー・オールドマン)と協力し、彼の逮捕を急ぐ。しかし、ジョーカーは彼らを翻弄する。そこに、新任の地方検事ハービー・デント(アーロン・エッカート)が現れる。彼は強い正義感から、ゴッサムの内部からの腐敗の撤廃を誓う。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
これまでアメコミと言えば、明るい作品が多く、どちらかというと子供向けでしたが、本作の登場はそんな常識を覆し、それ以後のアメコミ映画界を変えるほどの衝撃作でした。
本作のヴィランは、バットマンシリーズの中でも最も凶悪かつ人気なジョーカー。単純なパワーだけでは倒せない、まさに悪を具現化したような存在と対峙します。
ヒーローであるバットマンを「正義」として描かずに、悪の象徴であるジョーカー、光の戦士であるデントという対照的な存在である二人を物語に据えることにより、どちらにも転びうる両者の危うさを上手く示しました。
では、この作品にヒーローとは誰だったのでしょうか。物語の終盤、ジョーカーは世間に究極の選択を迫ります。大勢の善良な市民を救うか、それとも囚人を救うのか。ここでは国際連盟の元となった思想であるカントの「定言命法」のような問いを投げかけています。定言命法とは、「無条件にそれを『なすべし』という道徳的な基準」であり、この定言命法を実践する道徳律こそが、ヒーローがヒーローである所以なのです。
こんな人におすすめ!
- 大人向けのアメコミが見たい方
- ヒース・レジャーの怪演を見たい方
- 「ヒーローとは」という命題を問いかける作品を探している方
こんな人には向かないかも…
- スカッとしたアメコミが好きだという方
- 抽象的な表現は苦手な方
10. シティ・オブ・ゴッド
「ここは世界でいちばん陽気な地獄!」
あらすじ
舞台は1960年代のブラジルのリオデジャネイロにある貧民街。このまちに住む子どもたちのほとんどは、窃盗や麻薬売買によって日銭を稼いでいる。ストリート・チルドレンとして生きる彼らの生活や抗争をリアルに描く。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
サッカーやカーニバルで知られるブラジルですが、この作品はそんな明るいイメージをひっくり返す作品です。ブラジルワールドカップ開催の際、軍がスラム街の人々を制圧したニュースは記憶に新しい人も多いと思います。その最たる場所が「シティ・オブ・ゴッド(神の街)」と呼ばれる街「ファヴェーラ」です。
そこに住む子供たちは、窃盗や殺人といった犯罪がすぐ側にあり、倫理が崩壊しています。そのような自然状態(人が社会秩序に属さない状態)ではどのような振る舞い方をするのかをまざまざと見せつけてきます。また、衝撃的なラストに呆然とさせられることでしょう。
こんな人におすすめ!
- 忠実に再現されたスラムを見てみたい方
- ストリートチャイルドの実態を知りたい方
- テンポの良い作品が好きだという方
こんな人には向かないかも…
- 子供たちが殺人をするシーンは見ていられない方
- 後味の悪い終わり方は苦手な方
「死生観」がテーマの哲学映画
11. マトリックス
「この世界は夢か、現実か。」
あらすじ
表向きは会社員、裏の顔は凄腕ハッカーのアンダーソン(キアヌ・リーブス)は原因不明の不眠症に悩まされていた。ある日、謎の美女トリニティー(キャリー・アン・モス)に連れられ、モーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)という男と出会う。そこで彼は、この現実が作られた仮想世界であり、自分が人類を救う「救世主ネオ」だと言い渡される。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
最新の技術を駆使し、当時見たことのない映像で爆発的人気を博した『マトリックス』。仰け反りながら弾丸を避けるシーンはあまりにも有名ですよね。
そんな『マトリックス』は「水槽の中の脳」という有名な思考実験が元になっています。これは、「今生活している現実は、コンピューターが脳に電気信号を送って見せている仮想現実ではないのか?」という仮説です。なぜコンピューターはそこまでして人間を殺さずに生かしておくのでしょうか?日々発達する昨今のA.I.を見ると笑えないかもしれませんね。
マトリックスシリーズは、回を追うごとにその哲学的な思考を深めていき、とても見ごたえのあるシリーズです。キリスト教のモチーフもたくさん出てくるので、そういった見方をするのも面白いですよ!
こんな人におすすめ!
- 迫力のある特撮シーンが見たい方
- アニメ「攻殻機動隊」が好きだ!という方
こんな人には向かないかも…
- 荒唐無稽な設定は苦手だという方
- 最新のCG技術に慣れてしまい、一昔前のはダサく見えてしまう方
12. ファイト・クラブ
「ルールその1、ファイトクラブの事は公言するな」
あらすじ
不眠症に悩む若きエリートのジャック(エドワード・ノートン)は退屈な人生を送っていた。そんな彼の前に謎の男タイラー(ブラッド・ピット)が現れる。自宅が全焼し、全てを失ったジャックはタイラーの家へ居候することになる。タイラーは痩身クリニックから脂肪を盗み、石鹸を作っていた。いつしか二人は「お互いにただ殴り合う」ということにのめりこんでいく。二人の周りには実生活に不満を抱えたファイト目当ての男たちが集まるようになる。それが「ファイト・クラブ」の始まりだった。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
そのアナーキーなテーマからカルト的人気を誇る作品です。社会的地位も容貌も年齢も取っ払い、ただただ男たちが地下で殴り合う、それが「ファイトクラブ」です。作中でタイラーがこの作品の鍵となるセリフを言います。「筋トレは自慰行為だ。男なら自己破壊だ」と。
物質主義を否定するこの作品は、いい服、高級な車、センスのいい家具などを自分から引き剥がしてなお手元に残る何かを追求するべきだといったメッセージが込められています。拝金主義になりがちな昨今の風潮に今一度必要な哲学かもしれませんね。
こんな人におすすめ!
- 男臭い殴り合いがみたい!という方
- どんでん返しな結末が好きな方
こんな人には向かないかも…
- トリッキーな展開が苦手だと思う方
- スタイリッシュな映画がみたい方
13. ダラス・バイヤーズクラブ
「ただ生きようとした男の物語」
あらすじ
1985年、男らしさが自慢のロン(マシュー・マコノヒー)は、突然HIV陽性と診断され余命30日を宣告される。必死に治療しようと調べるも、アメリカでは認可された治療薬が少ないことを知る。彼は代替薬を探すためメキシコへ向かい、本国への密輸を試みる。旅の道中で出会ったゲイでエイズ患者のレイヨン(ジャレッド・レト)と共に、会費を募り国内未承認の薬を無料で配る「ダラス・バイヤーズクラブ」を設立する。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
未だに完治が困難である難病のエイズ。そんなエイズが大流行した80年代のアメリカを舞台に描いた作品です。当時、エイズという病気についてあまり分かっておらず、医者ですら「同性愛者に多い病気」という認識でした。そのため、エイズ患者は偏見の目に晒され、「触れただけで感染する」という間違った認識から遠ざけられていました。
主人公のロンはそんな世間の風評に負けずに、未承認薬を密輸し、自らに投与するだけでなく、他のエイズ患者にも幅広く投与する機会を与えました。なぜ彼は自らの治療だけにとどまらず、政府や医療業界に異議を申し立てながら、エイズと闘ったのか。その答えであるラストシーンは、なぜ人間が生きようとするのかということを示してくれます。
こんな人におすすめ!
- エイズの歴史を学びたい方
- 役者陣の徹底した役作りを見たい方
こんな人には向かないかも…
- 病気を題材にした作品は苦手な方
- 痛々しい描写が苦手…な方
「宗教」「神」がテーマの哲学映画
14. 沈黙-サイレンス-
「なぜ神は語りかけてくれないのか」
あらすじ
17世紀ポルトガル、日本でキリスト教の布教活動をしていた高名な神父フェレイラ(リーアム・ニーソン)が棄教したという知らせが届く。日本は江戸初期。幕府はキリスト教を厳しく弾圧していた。事の真相を知るためにフェレイラを追い、弟子のロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)とガルペ(アダム・ドライバー)は、マカオで出会った日本人キチジローの手引きにより、長崎に潜伏する。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
遠藤周作が手がけた同名の歴史宗教小説を基にした作品です。監督のマーティン・スコセッシは「この本を読んでから、ずっとこのテーマについて考えてた」とインタビューで答えています。
鬱蒼とした当時の長崎を再現するために、台湾をロケ地に選んだりと、原作に限りなく忠実に作られています。日本人キャストの演技もさることながら、日本映画をリスペクトしたオマージュがふんだんに盛り込まれ、ハリウッド映画とは思えない画作りです。
鎖国時代の日本という閉鎖的かつ排他的な環境において、キリスト教はどのように捉えられたのか。あまりにも過酷な状況を耐え忍ぶ術としての宗教の重要性がよく分かります。
17世紀の日本が舞台ですが、身も蓋もない根拠からくる排他主義や、エスノセントリズムは今の世界の雰囲気と重なるところがあるのではないでしょうか。
こんな人におすすめ!
- 日本のキリスト教弾圧についての歴史が知りたい方
- 日本人キャストがハリウッド映画で活躍しているところを見たい方
- キリスト教の本質を知りたい方
こんな人には向かないかも…
- 拷問シーンが苦手…な方
- メリハリのない映画が苦手な方
15. ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
「なぜ少年は、生きることができたのか」
あらすじ
動物園を経営するパイ(スラージ・シャルマ)一家はインドからカナダに移住するため太平洋上を航行していた。しかし、激しい嵐に襲われ、船は転覆、家族の中でパイだけが生き残り、救命ボートには、シマウマ、ハイエナ、オランウータン、ベンガルトラだけが取り残された。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
虎とボートで漂流するといったなんとも不思議な物語です。1人だけ助かった少年パイが、どのようにしてこの凶暴な獣と生き残っていくのかというサバイバル映画でもあります。
しかし、この映画はそのようなテーマだけではありません。本作には、ヴィシュヌ神の形をした島など、ヒンドゥー教をモチーフにしたアイコンが多く登場します。
さらに、敬虔な信者である両親と、宗教に対して疑問を持つパイとの対比もあり、物語のラストでは、なぜ人間が物語や宗教を必要とするのか、といった根本的な問いへの答えが見えてきます。それがわかった時、この作品を見返したくなるでしょう。
こんな人におすすめ!
- CGを駆使した映像美が見たい方
- ファンタジーの奥に隠れた現実を考察するのが好きな方
こんな人には向かないかも…
- メタファーが多い映画が苦手な方
- 荒唐無稽な展開が苦手な方
『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』の詳細を見る▷▷▷
16. ジーザス・キャンプ~アメリカを動かすキリスト教原理主義~
「信心か?洗脳か?」
出典:Amazon.com
あらすじ
ジョージ・W・ブッシュ政権下のアメリカで、キリスト教系の新宗教団体が主催する子供のサマーキャンプを追ったドキュメンタリー。子供たちは聖書に書いてあることこそが全て真実だと教えられ、音楽や踊りで叫びながらトランス状態になる。また、妊娠中絶反対を叫び、キリスト教原理主義を推進するブッシュを信奉するようになる。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
キリスト教には様々な教派が存在します。カトリックやプロテスタントに始まり、ルター派、改革派教会など、広く受け入れられているものもあれば、異端とされる教派も多く存在します。本作ではアメリカのキリスト教原理主義の教会が取り上げられています。彼らの教義は、「聖書に書いてあることこそが全て」という教えのもとに成り立っています。そのため、進化論、天文学、妊娠中絶にいたるまでありとあらゆる科学を否定しています。
この問題の根深さは、教育にあります。原理主義者を親に持つこどもたちは、学校では間違った知識を植え付けられることを危惧し、自宅学習で聖書に基づいた教育を受けるのです。アメリカの大統領選にまで影響を与えるこの派閥、最初こそ笑いながら見れますが、見るにつれて笑える状況でないことに気づくでしょう。
こんな人におすすめ!
- キリスト教の負の側面を見てみたい方
- 人がどのようにして洗脳されるのかに興味がある方
こんな人には向かないかも…
- 子供が洗脳される様は見ていて辛い方
- ドキュメンタリー映画が苦手だ…と思う方
『ジーザス・キャンプ~アメリカを動かすキリスト教原理主義~』の詳細を見る▷▷▷
その他の哲学的な映画
17. もののけ姫
「生きろ、そなたは美しい」
出典:Amazon.com
あらすじ
舞台は室町時代の日本。エミシの末裔のアシタカは、ある日、村を襲うタタリ神と化した猪神との戦いの末、呪いをかけられる。それを解く手がかりを得るために、猪神の体から出てきた鉄玉が作られた西の国へと向かう旅に出る。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
スタジオジブリの代表作である『もののけ姫』。この作品にも、自然哲学やアミニズムといった要素が多く盛り込まれています。冒頭で村を襲うタタリ神は不条理の象徴であり、本作は、その呪いを受けてしまったアシタカの物語となっています。
宮崎駿監督は、この作品の挿入歌である「アシタカせっ記」にて、次のような詩を書いています。「残酷な運命に翻弄されながらも、いかに深く、人々や森を愛したかを。その瞳がいかに澄んでいたかを」と。突然降りかかる不条理に直面しても、強く生きてほしいというメッセージが読み取れます。
また、日本人が古来から受け継いできた自然と人間との共存というテーマを、今一度見直した作品でもあり、民俗学といった観点からも楽しめる多義的な作品です。
こんな人におすすめ!
- 今一度、民俗学の観点からもののけ姫を見返したい方
- 深読みや考察が楽しい作品が好きという方
こんな人には向かないかも…
- 主人公に感情移入しにくい作品が苦手な方
- ファンタジーな展開をする作品が苦手という方
18. ブラック・クランズマン
「俺たちが全てを暴く」
あらすじ
1970年代、アメリカ・コロラド州の警察署で黒人のロン(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は初の黒人刑事として採用される。彼は、情報部に配属されると、新聞に掲載されていた過激な白人至上主義団体KKK(クー・クラックス・クラン)のメンバー募集に電話をかけた。自ら黒人差別を嘯きながら演技を続けた結果、入会面接まで事が進んでしまう。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
皆さんは「KKK」という組織をご存知でしょうか。白い布を被り、オバケのような格好で十字架を焼く白人至上主義団体です。彼らが十字架を焼く目的は、黒人やユダヤ人といった白人以外の人種を脅すためと言われています。
本作は、そのような過激な組織に黒人警官が潜入捜査するというトンデモナイ作品です。「黒人なんて彼ら特有のイントネーションでわかる。」と豪語する彼らを白人のイントネーションで丸め込む様は痛快です。
時代精神を反映させた差別表現が多い本作ですが、黒人差別に限らず、白人を憎む黒人の視点も取り入れており、フラットに描かれているのが特徴です。
KKKの勢力は、一時はほぼ壊滅したものの、移民を厳しく取り締まるトランプ政策により、それに賛同するKKKも現れています。本作の最後で描かれる絶望的な状況はまさに、今起こっていることなのかもしれません。
こんな人におすすめ!
- KKKがしてきた行動について興味がある方
- 黒人差別の歴史を学びたい方
- バディ物が好きだ!という方
こんな人には向かないかも…
- モヤモヤする終わり方が嫌いだという方
- 差別表現を見るのが苦手な方
19. ヤクザと憲法
「わしら、人権ないんとちゃう?」
あらすじ
大阪の指定暴力団「二代目東組二代目清勇会」にカメラが入る。東海テレビの徹底的な取材により、ヤクザと人権をめぐる問題が浮き彫りになる。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
近頃、反社会的勢力関係のニュースが世の中を賑わせています。この作品は、一つの指定暴力団に密着したドキュメンタリー作品です。「報酬は支払わない」「取材テープは事前に見せない」「モザイクなどは原則かけない」という取り決めのもと、いわゆる「ヤクザ」の事務所に取材に入ります。
取材班の緊張した空気は画面を通して伝わって来るほどですが、取材される側は飄々としており、床にある荷物を指して「マシンガンですか?」と聞く取材班に「そんなのあるわけないじゃないですか」と笑って流します。しかし、たまに違法らしきやり取りなどがあり、現実に引き戻されます。
いわゆる「暴排条例」により、保険にも入れず、裁判時には弁護士もほとんどが仕事を受けてくれず、銀行口座も作れないので子供の給食費すら払えません。一般的な交渉ですら詐欺や恐喝などで逮捕されたりと、基本的人権がないがしろにされている様が見て取れます。
最後の「なぜヤクザを続けるのか」という質問への答えを聞いて、あなたは何を思うでしょうか。
こんな人におすすめ!
- 反社会勢力の実態を見てみたい方
- 人権問題について掘り下げたい方
こんな人には向かないかも…
- ドキュメンタリー調の映画が苦手だという方
- 淡々と続く映画は退屈してしまう方
20. 桐島、部活やめるってよ
「全員、桐島に振り回される」
あらすじ
ある高校の男子バレーボール部のキャプテンである桐島が部活をやめるという噂が校内を駆け巡った。同級生5人の日常に変化が起こる。
考えさせられる!哲学映画としてのポイント
本作は、一見すると高校生の日常を描いた作品に見えます。同級生が口々に話題にする「桐島」は最後まで登場しません。果たして桐島とは誰なのか?その疑問はあまり重要な意味を持ちません。振り回される同級生こそが、この作品の本質なのです。
高校を舞台に描いた作品だから、学生でない人には関係ない映画でしょうか。社会の縮図を描いた本作は、学校だけでなく、会社や家庭など、全ての人間関係に通ずる描写があります。
また、本作は実存主義というテーマが根底にあります。主要人物の1人である宏樹は、スポーツも勉強もできる、容姿も抜群なスーパーマンですが、人生の意味を見出せないでおり、退屈な日々を過ごしています。これはサルトル作「嘔吐」の主人公のようであり、人生の意味を模索する宏樹がたどり着く命題は、まさに実存主義の始まりなのです。
こんな人におすすめ!
- 社会の縮図を描いた作品が好きだという方
- 多義的な作品が好きだという方
こんな人には向かないかも…
- 原作とは異なる実写化は苦手という方
- スクールカーストの描写を見るのが辛いと感じる方
まとめ
今回紹介した映画は一度見ただけでは理解しづらい内容も多くあります。宗教や歴史を前提とした作品であり、少し小難しい話になってしまうため前知識がないとつまらないという印象を持たれるかもしれません。
しかし映画には場面ごとに必ずメッセージが込められており、「このシーンは何を意味しているのだろう」「この登場人物のセリフはどういう意味なのだろう」と考え、作り手のメッセージを解釈することこそが、映画の楽しみ方の一つでもあります。
今回紹介した20作品は、いずれも見れば見るほど考えたくなる哲学的な作品ですので、ぜひ何度も見て自分なりの解釈、そして哲学を形成してみてくださいね!