『勝手にふるえてろ』ネタバレ解説 | こじらせ女子の金字塔ムービー!
松岡茉優さんが究極のこじらせ女子を熱演して話題となった『勝手にふるえてろ』。原作は芥川賞作家・綿矢りささんの同名小説で、大九明子さんが監督・脚本を手掛けました。
この記事では『勝手にふるえてろ』のあらすじやタイトルに込められた意味を、ネタバレを交えて紹介していきます!!
目次
こじらせ女子の共感を掴んだ『勝手にふるえてろ』について
『勝手にふるえてろ』は2017年12月に公開された映画です。一般公開に先駆けて上映された第30回東京国際映画祭コンペティション部門では観客賞を受賞。
公開後は若い女性を中心に口コミで話題が広がり、メインの公開劇場である「新宿シネマカリテ」の興行収入が2014年公開の『グランド・ブダペスト・ホテル』を抜いて歴代1位に躍り出るほどの話題作となりました。
その後2018年公開の『君の名前で僕を呼んで』に記録を塗り替えられましたが、3ヵ月に及ぶロングラン上映となり、大きな話題を呼んだ邦画であることは間違いありません。
主演を務めたのは、若手演技派女優として注目を集める松岡茉優さん。本作が映画初主演作であり、監督・脚本を手掛けた大九明子さんとは3度目のタッグとなります。
相手役には、ともにミュージシャンとしても活躍する渡辺大知さんと北村匠海さん。脇を固める俳優陣は、片桐はいりさん、古館寛治さん、前野朋哉さん、池田鉄洋さんら個性派俳優が名を連ねています。
名だたるキャストの魅力を余すことなく堪能できる本作を、ぜひお楽しみください!
『勝手にふるえてろ』のネタバレあらすじ
24歳のOL江藤良香・通称ヨシカ(松岡茉優)は恋愛経験ゼロ。中学時代の初恋相手の一宮・通称イチ(北村匠海)に10年間片思い中で、脳内に中学時代のイチの姿を“召喚”しては妄想恋愛を楽しんでいる。
そんな中、会社の同期でヨシカがのちに”ニ”と名付ける営業部の霧島(渡辺大知)から人生初の告白を受ける。告白された事実に舞い上がるヨシカだが、ニはまったく好みのタイプではなく、頭に浮かぶのはイチのことばかり。
ある日、電気ストーブの消し忘れでボヤを起こしたヨシカは、「人はいつか死ぬのだから、今のイチに一目会ってから前向きに死にたい」と決意。海外に転校した同級生の名前を使ってSNSで同窓会の参加を呼びかけ、ようやくイチとの再会を果たすのだが――。
非リア充、中二病、こじらせ女子の自覚がある方、片思いの経験がある女性の方には、特にたくさんの共感ポイントがある作品となっています!この作品をコメディと捉えるか、シリアスと捉えるかは、見た人に委ねられるでしょう。
ここからは、『勝手にふるえてろ』のさらに詳しいあらすじを紹介していきます。ネタバレを含みますので、まだご覧になっていない方はご注意ください!
【あらすじ①】妄想女子・ヨシカの日常
主人公のヨシカは24歳のOL。これまで1度も彼氏がいたことがなく、恋愛経験はゼロ。
中学時代に同級生の一宮(イチ)に恋をしていたが、相手に気づかれないように視野の端で見るという“視野見(しやみ)”でこっそりとイチの姿を追っていた。それから10年間ずっとイチに片思い中で、当時のイチの姿を脳内に召喚しては妄想の恋愛を楽しむ日々を送っている。
同僚の月島来留美(石橋杏奈)は唯一と言える友達であり、同じアパートの住人のオカリナ(片桐はいり)とは世間話などはするものの、リアルな男性には全く興味がない。
絶滅した生物が好きで、夜な夜なWikipediaを読みふけったり、アンモナイトの化石を購入して愛でたりと、1人の生活を満喫。
そんな胸のうちを、行きつけのハンガーショップのウェイトレス(趣里)や、いつも釣りをしているおじさん(津田寛治)、利用する駅の駅員(前野朋哉)、マッサージ店の整体師(池田鉄洋)らに打ち明けてはいるのだが――。
ある日、経理部と営業部の飲み会に嫌々ながら参加したヨシカは、同期で営業部の霧島(ニ)から巧みに連絡先を聞き出されて2人で会うことになり、人生初の告白を受ける。“告られた”という事実に舞い上がるヨシカだが、結局頭に浮かぶのはイチの姿であった。
【あらすじ②】今のイチに会ってから死にたい
ニから告白された夜、ヨシカは電気ストーブを点けたまま寝てしまい、布団が燃えてボヤを起こしてしまう。
「人間はいつか死んじゃうんだ」ということを身をもって知ったヨシカは、中学時代のイチを脳内に召喚ばかりしていないで、今のイチに一目会って前のめりに死にたいと決意。海外に転校した同級生の名前を使ってSNSに登録して同窓会を主催し、参加を呼びかける。
その間もニからデートに誘われて応じるが、同窓会にイチを呼ぶことしか頭にないヨシカはまるで上の空。そして年末に地元で開催された同窓会でイチとの再会を果たしたヨシカは、「やっぱりイチが好き」という思いを募らせ、上京組で東京でも集まろうと提案。
同級生の家で新年会が行われることになり、ふだんのくたびれたペタンコの靴ではなくピカピカのヒールを履き、おしゃれをして意気揚々と出かけていくが、元々交流もなかった同級生たちとの会話に入れず、“空気が読めない人”という扱いをされて落ち込んでしまう。
そんなとき、イチが話しかけてくる。自分はいじめられていたので同窓会に参加するのも本当は嫌だった、と話すイチに妙な違和感を覚えつつ、互いに絶滅した動物が好きであることが分かり、会話は盛り上がる。
しかし、自分のことを「きみ」と呼ぶイチに、堪らず「人のこと、きみって呼ぶ人だっけ?」と尋ねると、イチははにかみながら「ごめん。名前なに?」と言うのだった。
【あらすじ③】私の名前を呼んで
イチは自分の名前を覚えていなかった。この事実にヨシカは深く傷つく。
そして、これまで親しげに会話をしていたかに見えた釣りおじさんや駅員、ハンバーガーショップの店員、コンビニ店員たちとは、実は話をしたことがなく、すべてヨシカの憧れによる妄想であり、本当は誰の名前も知らないことが判明する。
自分と世の中にはいつも距離があり、自分は誰にも見えていない、まるで透明人間のようだと、自分の存在の不確かさを嘆く。
こんな自分は子孫を残すことができない絶滅危惧種と同じであり、「絶滅すべきでしょうか」と妄想の中で歌に乗せて絶望感をぶちまけ、憔悴しきって帰宅し、号泣するのだった。
思い起こせばニはいつも自分のことを「江藤さん」と呼んでくれていた、と気付いたヨシカは、ニと付き合うことを決めるが、デート中にニにキスを迫られ、絶叫して逃げ出してしまう。
それでもニと向き合おうと決意したヨシカだが、自分が結婚願望が強いほうだということ、男性と付き合った経験がないことを、来留美がニに話していたことを知る。
さらに「そういうところもピュアでかわいい」と顔をほころばせるニに、ヨシカの態度は一変。完全に心を閉ざし、「私には彼氏が2人いて、1人はイチでもう1人があなた。でもやっぱり一番好きな1人に絞ります。だから、さよなら。」と告げてその場を立ち去る。
【あらすじ④】ふるえてもいい、孤独から抜け出そう
友達だと思っていた来留美に裏切られ、自分が恋愛経験がないことがニに知られていたと分かったヨシカは大きなショックを受け、羞恥心や怒りで混乱に陥る。
心配する来留美に対して「つわり」ととっさに嘘をつき、会社にも妊娠したと嘘をついて産休を申請するが、あっさりと却下される。妊娠を信じて優しく接してくる来留美に対してこみ上げる苛々をすべてぶちまけ、会社を後にし、自宅に引きこもる。会社ですれ違ったニは、声をかけてはこなかった。
ニも、来留美も、自分の名前を覚えていなかったイチもどうでもいい、10年思い続けていたイチが心の拠り所だと、イチを脳内に召喚しようとするが、イチは現れてくれなかった。本当の孤独とはこういうことか、とヨシカは悟る。
ニの存在をようやくきちんと意識したヨシカは彼からの連絡を待つが、着信は来留美ばかりでニからの連絡はない。覚悟を決めてニの携帯に電話をかけるも着信拒否されていたが、偽名を使って会社に連絡し、ニを自宅へ呼び寄せる。
ニを“リアル召喚”したヨシカは、ニが自分を意識するきっかけだったという赤い付箋を胸に付けて迎え入れ、妊娠は嘘だと告げる。二は「倫理観が狂ってる」と激怒するが、対するヨシカも「あんたと来留美が自分の秘密をバラしたのが許せなかった」と激怒し、大喧嘩になる。
「私のことを愛してるなら、すべて受け入れて」と要求するヨシカに、ニは「まだ愛してはない。好きレベルだけど、俺はかなりちゃんとヨシカを好き。」と宣言し、「俺との子ども作ろうぜー!!」と外に向かって絶叫する。
ニのことを「霧島くん」と初めて名前で呼んだヨシカは、ニの胸に飛び込む。ヨシカが胸に付けていた赤い付箋は、ニのシャツの上に落ちて、水でにじんで張り付いていく。ヨシカは「勝手にふるえてろ」と呟いて、2人はキスを交わした。
『勝手にふるえてろ』のキャスト
江藤良香(ヨシカ)/松岡茉優
主人公・ヨシカを演じたのは、若手演技派女優として名を馳せる松岡茉優さん。『ちはやふる』シリーズ、『blank13』『万引き家族』『蜜蜂と遠雷』など多数の話題作に出演し、今後も『ひとよ』『劇場』などの公開が控えています。
本作では、奥手で不器用だけれどとんでもなくわがままで、ひねくれもので夢見がちな“こじらせ女子”を魅力たっぷりに演じています。本作は松岡茉優さんの演技力なしでは成立しなかったと言っても過言ではないでしょう。
一宮(イチ)/北村匠海
ヨシカが10年間片思いをし続けている相手“イチ”を演じたのは、『君の膵臓をたべたい』『十二人の死にたい子どもたち』『君は月夜に光り輝く』など話題作への出演を重ねる北村匠海さん。
今後も多数の出演作の公開が控えています。ダンスロックバンド「DISH//」のボーカル・ギターを務め、ミュージシャンとしても活躍しています。
霧島(ニ)/渡辺大地
ヨシカを好きになる青年“ニ”を演じたのは、こちらもバンド「黒猫チェルシー」(現在は活動休止中)のボーカルを務め、俳優にとどまらず映画監督も手掛けるなど幅広いステージで活躍する渡辺大知さん。
本作では、大九監督からのオファーを受けて書き下ろしたという主題歌「ベイビーユー」を手掛けています。
月島来留美/石橋杏奈
ヨシカの同僚・月島来留美を演じたのは、TVドラマや映画、CMに多数出演する石橋杏奈さん。来留美はヨシカとはタイプがまったく異なり、やや恋愛体質の今どきの女の子で、素直で優しい性格です。
岡里奈(オカリナ)/片桐はいり
ヨシカと同じアパートの住人・オカリナを演じたのは、名バイプレーヤーとして名高い片桐はいりさん。いつもオカリナを吹いており、「名前に支配された人生なんです」と悟りの境地を見せます。個性豊かな顔ぶれの脇役陣の中でも、ひときわ強烈なインパクトを放っています。
『勝手にふるえてろ』注目したい3つのポイント
「名前」の重要性
『勝手にふるえてろ』において、名前というものは大変大きな意味を持っています。
作品を見進めていくと、親しげに会話を楽しんでいた多くの人たちのやり取りが妄想であったことが判明します。もしかすると、同僚の来留美や同じアパートのオカリナとの会話も妄想なのでは?という思いが一瞬頭をよぎりますが、それは現実です。
ヨシカが名前を知っている人物とは現実世界でつながっていて、名前を知らない人物との関りは妄想という区切りになります。
名前はすなわち存在証明であるということは、心理学や社会学でもよく言われています。ヨシカはイチが自分の名前を覚えておらず、名前を呼ばれなかったことで、イチの中に自分は存在していない透明人間のような存在であり、この恋は終わったと悟ったのでしょう。
見るからにユニークそうなヨシカの周囲の人たちに対しても、話しかけてみたいけれど、自分のような人間から話しかけられたら迷惑に決まっているし、嫌悪感を持たれるに違いないとヨシカは思い込んでいます。傷つくのが怖いから初めから接触自体をしないというわけです。よって、名前など知るよしもありません。
そんなヨシカに対して、最初から「江藤さん」と呼びかけてきたニは、やはり特別な存在だったのです。
松岡茉優の底知れぬ演技力
『勝手にふるえてろ』が大ヒットとなった大きな要因は、松岡茉優さんの圧倒的な演技力にあるでしょう。
本作はヨシカの独白的なシーンが多く、喜怒哀楽をむき出しにして表情をコロコロ変え、感情をのせてひたすらしゃべり倒します。
恋焦がれるイチを思ってうっとりしたり、大好きなアンモナイトの化石を愛でたり、思い通りにならない現実世界の人や出来事に対して怒りや苛立ちをぶつけて矢継ぎ早に毒を吐き、ときに落胆し、絶望の中で涙を流します。さらにそれをミュージカル仕立ての演出の中で歌って表現するのです。まるで松岡茉優さんの一人舞台を見ているかのような錯覚に陥るほどです。
大九監督の演出の妙はもちろんですが、これほどの幅広い感情を見事に表現した松岡茉優さんの演技力は圧巻です。ともすればただの面倒臭い女と烙印を押されかねないヨシカを、こんなにも愛くるしいキャラクターに仕上げたのは、松岡茉優さんの演技力と表現力があってこそでしょう。
なお、松岡さんは、バラエティ番組などで「高校時代はまったく友達がいなかった」と話しており、本作に関するインタビューでは「すべての女の子を応援する作品」「本作をコメディだとは思っていない」という趣旨の話をしています。
孤独な学生時代を送った経験がある松岡さんだからこそ、ヨシカに共感して体現し、最高級に魅力的なヨシカというキャラクターを作り上げることができたのかもしれません。
映画と原作で異なるタイトルの意味
タイトルにもなっている「勝手にふるえてろ」という台詞は、ヨシカがラストシーンで呟くものです。ニに対して発したものと考えられますが、ヨシカが自分自身に向けたメッセージも込められているように感じます。
ヨシカは現実世界で人と関わって傷つくのが怖くて、他人と距離をとっていました。ニと対峙することになった時も、やっぱり他人と関わることはとても怖くてふるえてしまうけれど、勝手にふるえていればいい、私は外界と関わっていくんだ、という決意表明のように感じられるのです。
また、ラストでヨシカとニが言い争う場面で、「ヨシカを好きになった自分はかなり冴えているから、ひるまずに頑張る」と宣言するニに対して、ヨシカは「何その上から目線?ふるえがくるわ!!」と言い放っています。
この「ふるえる」は嫌悪感を表現していますが、実はニが自分を見つけてくれた嬉しさも込められているのではないでしょうか。つまり、「喜びでふるえる」という意味も含まれているように感じます。
数通りの解釈はあるにせよ、映画での「勝手にふるえてろ」は、前を向くためのポジティブな意味で使われていると考えて間違いないでしょう。
一方で原作では、「勝手にふるえてろ」の使い方は全く違います。自分の名前を覚えていなかったイチに対して、「イチなんてしょせんヒトだ、哺乳類だ、イチなんか、勝手にふるえてろ」とヨシカが心の中で悪態をつきます。原作での意味はネガティブです。
大九監督は、この台詞の意味を180度変えて実写化しているのです。原作でも映画でもヨシカの思いは報われてハッピーエンドなのですが、大九監督の脚本は「勝手にふるえてろ」という台詞自体にも救いを与えたことになります。
まとめ
映画『勝手にふるえてろ』のあらすじ、タイトルにもなっている台詞の意味、注目ポイントをご紹介しました。
本作は見る人によって感じ方が大きく異なる作品です。自分をヨシカに重ね合わせて、いたたまれずに涙する人もいれば、こじらせ女子のラブコメディとして捉える人もいるでしょう。しかし、変わりたいと願う不器用な女の子の奮闘を描いた熱い作品であることは間違いありません。
そして松岡茉優さんの圧倒的な演技力を存分に堪能できる作品でもあります。ぜひ本作で、松岡茉優さんのパワフルな演技に触れてみてください!
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