一度観たら忘れられないホラー映画『聖なる鹿殺し』の怖さをネタバレ解説!
奇妙なカメラワーク、不穏なBGM、洗礼された脚本、インパクトの強いタイトル……。一度観たら心から離れないサイコスリラー『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』。心霊が飛び出すホラーとは違い、終始じっとりとした恐ろしさに包まれている作品です!
ホラー/スリラー好きにはたまらない胸のざわめきがあなたを襲います。究極の選択に迫られた時、人間は一体どうなってしまうのかがこの映画の見どころ。本記事はネタバレを含みますので、未鑑賞の方はご注意くださいね!
目次
『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』について
第70回カンヌ国際映画祭でプレミア上映後、パルムドール部門にノーミネート。惜しくも受賞は逃してしまいましたが、脚本賞を見事に勝ち取っています。その後もヨーロッパ映画賞やシッチェス・カタロニア国際映画祭など数々の映画祭でノーミネート、あるいは受賞を果たしました。多くのところでは監督のヨルゴス・ランティモスへの評価が高く、彼の持つ独特の世界観が高い評価を得ています。
実際に監督は近頃のギリシャの中で「最も実力がある映画監督」として知られています。2009年に公開された『籠の中の乙女』ではアカデミー外国語映画賞を、2016年の『ロブスター』では脚本賞を、そして2018年の『女王陛下のお気に入り』では作品賞と監督賞のW受賞をしているのです!
手掛けている作品こそ多くはありませんが、そのほとんどが様々な場所で賞を獲得しているのは実力がある証拠。独自の雰囲気と観客を引き込むストーリーは一度観ただけで強い印象を残しますよ。
10秒で分かる『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』のあらすじ
出典:finefilmsmovie公式YouTubeチャンネル
心臓外科医のスティーブン(コリン・ファレル)は美しい妻、可愛い子供2人に囲まれ、素晴らしき豪邸で暮らしていた。何一つとして不自由のない生活を送っているが、家族に隠してマーティン(バリー・コーガン)という1人の青年と密会を続けている。実はこの青年の父親の手術を担当しており、過去の出来事からスティーブンはとある罪悪感を持っているのだ。
マーティンとの関係が良好だったために、豪邸へ彼を招き、家族へ紹介することに。すぐに家族と打ち解けるものの、それ以来一家には奇妙な現象が次々と起き始め……。
『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』のネタバレあらすじ
【あらすじ①】青年との密会
出典:映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』公式Facebook
心臓外科医であるスティーブン(コリン・ファレル)には眼科医の妻・アナ(ニコール・キッドマン)、歌の得意な娘のキム(ラフィー・キャシディ)、思春期真っ盛りのボブ(サニー・スリッチ)と大切な家族がいた。4人は豪邸で幸せに暮らし、傍から見れば何一つ不自由のない生活に見える。
そんな彼には秘密があった。それは16歳の青年・マーティン(バリー・コーガン)と親しくしていることだった。2人で食事をしたり、時計をプレゼントしたりと、距離感はかなり近い。マーティンがクリニックへ尋ねてくる回数も多いのだが、会う時は必ず院外を指定しているのだ。
スティーブンはかつてマーティンの父のオペを担当しており、生憎死亡してしまっている。その件が気になり続け、未だ16歳の青年と会い続けている……というもの。ただお互いの関係は良好であり、マーティンも非常になついていた。
密会が続く中、スティーブンは遂にマーティンを家族へ紹介することとなる。好青年である彼を一家は受け入れ、子供同士はすぐに打ち解けていった。そして娘のキムもボブ同様、思春期真っ只中。早々に恋心を抱いてしまう。
【あらすじ②】急変する青年と息子
出典:映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』公式Facebook
「してくれたら、その分返す」、マーティンは非常に義理堅い一面を持っていた。家に招待してもらったことから、今度はスティーブンを自宅へ招きたいと言うのだ。彼の母と3人で食事を囲み、まるで家族かのように映画を楽しむ。
夜も更け、マーティンが床に伏せた頃のことだ。母親がいきなりスティーブンを誘惑し始め、驚きのあまり帰路についた。突然のことに戸惑いを隠せないまま翌朝を迎える。するとクリニックにはマーティンの姿があり、胸の痛みを訴えるのだった。しかし検査をしても正常な数値しか出てこない。それ以来彼の様子は極めておかしく、まるでストーカーかのようにスティーブンにしつこく接するようになっていた。
青年の行動に悩まされている頃、ボブが何の前触れもなく歩けなくなってしまう。こちらも検査には異常がなく、仮病を疑う夫婦。だが明らかに容態が悪化していく……。
キムは両親に秘密でマーティンと密会しており、ボブの件も話してしまっていた。急に病室へ現れるマーティン、そしてスティーブンを連れてラウンジで話をすることとなる。
【あらすじ③】マーティンの予言
出典:映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』公式Facebook
「先生は僕の家族の1人を殺した」と言うマーティン。「してくれたら、その分返す」の流儀は単に義理堅いだけではなく、別の方向でも発揮されていたのだ。つまり父親を殺したのなら、自分の家族を1人殺せと言うもの。
「先生は家族の誰かを殺さなければ、3人全員が死ぬことになるよ。先生が死ぬことはないから大丈夫」と、プレゼントにサバイバルナイフを渡すのだった。時間がないと早口で説明する彼は、死の予言を三段階にして語っていく。
- 手足がマヒしていく
- 食欲がなくなる
- 目から血が出る
- 死ぬ
この予言を気味悪く思うも、ボブの食欲不振が始まっていた。遂にキムまでもが同じ症状に陥り、子供達2人は同時入院を強いられていく。検査をしても原因は不明のままなのであった。
マーティンを怪しく思うアナは、夫の同僚である麻酔科医・マシュー(ビル・キャンプ)に代償を支払って真実を聞き出す。なんとスティーブンには更なる秘密があり、父の手術前にお酒を2杯ほど引っ掛けていたと言う。医療ミスによる過失ではあるものの、決して明るみになってはいない。
アナは真実を知ったこと。子供や自分は巻き込まれていることを本人へ伝えても、相手は頑なには認めようとしない。遂に夫婦関係は破綻してしまい、「幸せな4人家族」は崩れていく……。
【あらすじ④】犠牲になったのは……
出典:映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』公式Facebook
気が狂ったスティーブはマーティンを自宅の地下室に監禁、暴力を振るうのだった。難病から子供を救うために尋問を繰り返すも、誰か1人を殺さねば他が助からないのは変わらなかった。マーティンを殺せば全員が死ぬ、スティーブンが死んでも全員が死ぬ、何も行動しなくても全員が死ぬ……。どうすることもできないまま、彼を地下室に閉じ込める日が続いていく。その間にも子供2人の状態は良くならず、強制退院となってしまうのだった。
それぞれが命の危険を感じ始め、ボブは急に父の言うことを聞くようになる。キムは自分がいかに“良い子”をアピールし、殺害を逃れようとする。そして母親であるアナまでもがスティーブンに媚び、「私たちはまだ子供を作れる。殺すならキムかボブにしましょう」と恐ろしき案を告げるのだ。
家族が各々命乞いをする中、遂にボブの目からは大量の血が流れだす。マーティンの予言を信じ切ったスティーブンは家族3人を拘束し、誰か1人を殺害することに決めた。だが勇気が出ずに、ロシアンルーレットのような方式で銃を撃っていく――。何発か外したものの、最終的に銃はボブの心臓に命中していた。
後日3人家族となりカフェ入って行くとマーティンの姿が。一家とマーティンの間に奇妙な空気が流れる中、病気を克服したキム、夫婦は素知らぬ顔でお店を後にする。その切ない背中をマーティンはじっと見つめていた。
『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』のキャスト
スティーブン/コリン・ファレル
出典:映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』公式サイト
医者として優秀、更には幸せな家族に囲まれて、人々の欲しいものを全て持っている“ように見える”スティーブン。子供や妻を大切に想う気持ちは確かなのですが、プライドが高い・自分を過信しすぎている点が今回の事件を引き起こす要因となってしまいました。
もしあの時お酒を飲んでいなかったら、マーティン一家へ素直に頭を下げることができたのなら……。一家の崩壊は防げていたかもしれません。観客をかなりモヤつかせてくれる、ある意味素晴らしいキャラクターです(笑)
スティーブンを演じるのはアイルランド人俳優のコリン・ファレル。キャリアの長いベテラン俳優で『マイノリティ・リポート』や『マイアミ・バイス』、『ダンボ』で見かけたことがある人も多いのでは?今後も続々と出演が決まっているので、どんな役を演じるのか楽しみですね!
マーティン/バリー・コーガン
出典:映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』公式サイト
物語冒頭から突然登場する青年、マーティン。好青年ではあるものの瞳の奥が沈んでおり、何を考えているか分からないところが怖いですよね。一家に分かりやすく手を下すことはなかったものの、それが逆に恐怖をそそります……。一体どんな能力を持っているのかは明らかにならないのですが、彼の前では運命にひれ伏すしかありません。
ラストシーンの3人を見つめる眼差し、あれは何を考えていたのでしょうか?それはきっとマーティン本人にしか分からないのでしょう。
マーティンを演じるのはバリー・コーガン。18歳でデビューして以来、その多くが悪役を担当!彼の表情の使い方、醸し出すオーラが悪役には本当にピッタリなんですよね(笑)一度見れば強い印象に残る俳優だと思います。
アナ/ニコール・キッドマン
出典:映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』公式Facebook
スティーブン自慢の美しき妻であり、眼科医のアナ。子供と夫を愛し、スティーブンよりも凛々しい一面を見せてくれるのですが、最後の最後でとんでもない発言が飛び出します。「私たちはまだ若いし子供を作れるわ。だから殺すなら子供達よね」というセリフには、視聴者全員が度肝を抜かれたことでしょう……。
身の保身へ走った結果アナは助かったのですが、ラストの眼差しが何とも言えない感情を物語っています。きっとあの後、家族はうまくいかなかったことが予想されますね。
アナを演じるのはニコール・キッドマン。いつ見てもあまりの美しさに惚れ惚れしてしまいますね。誰もが知る超有名女優で、ゴールデングローブ賞には16回ノーミネート、そのうちの5回が受賞に至っています。実は女優だけでなく、監督としての活動も行っているんですよ。
キム/ラフィー・キャシディ
出典:映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』公式Facebook
思春期真っ只中のキムはマーティンに出会った日から恋心を抱いてしまいます。一家の中で強く彼に惹かれてしまい、その様は“恋”と言うよりも、“信者”に近いような……。淡い恋心には見えず、どこか宗教チックな雰囲気がしていたように思えました。
生き残ったおかげで病気は治りましたが、彼への気持ちは相変わらずのままのご様子。これもまた、一家が更に崩壊していく引き金となることでしょう。
キムを演じるのは若き女優のラフィー・キャシディ。素晴らしきスタイルと可愛らしいルックスには、筆者もつい目が釘付けになってしまいました!2009年にデビューして以来、様々な作品へ出演しています。
ボブ/サニー・スリッチ
出典:映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』公式サイト
ちょっぴり反抗期に入ってきたボブ。長い髪の毛を切りたがらなかったり、父親に強く出てみたり、子供らしい反抗が可愛く思えますね。唯一マーティンへ心を奪われなかった人物ですが、最終的には犠牲になってしまいました。父に遠回しな命乞いをしたのにも関わらず、残念な結末を迎えてしまった悲しきキャラクターでしょう。
ボブを演じるのはアメリカの子役であり、スケートボーダーのサニー・スリッチ。公式Instagramではスケボーの写真や動画がズラリと並んでいます!子役とスケートボーダーの両立、今後の活躍がとっても楽しみですね。
『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』の考察
出典:映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』公式Facebook
タイトルの意味
映画を観ただけでタイトルの意味合いを理解できる人はそう多くないでしょう。監督がギリシャ出身ということもあり、作品名はギリシャ悲劇『アウリスのイピゲネイア』に基づいているものなのです。
トロイ戦争の大将であり英雄のアガメムノンが女神・アルテミスの鹿を弓で殺してしまいました。謝罪するおろかアガメムノンは自身の腕を過信、相手の逆鱗に触れる言葉を吐き捨てます。
よってアルテミスは激怒、生贄に娘のイピゲネイアを捧げねば彼女の怒りが収まらない事態へ陥っていき……。最終的には娘を差し出してしまうのです。イピゲネイアも父と国のためを思って、自分が生贄になる決心をするのでした。祭壇で跳ねられた首は、鹿と入れ替わっていたなんて話もあります。
この話を知ると、タイトルの意味が少しでも分かるのではないでしょうか。つまり父のアガメムノンはスティーブンを、激怒したアルテミスはマーティンを指しているかのようですね。まるで作中のマーティンは神のような存在ですから、辻褄が合うと思います。
なぜスティーブンはマーティンを気にかけていたのか
映画冒頭から登場すマーティン。序盤ではお互いの関係が一切明かされず、ただただつるんでいる様子が描かれています。明らかに親子くらい歳の離れた2人、傍から見ればちょっぴり不思議な感じですよね。
ただ食事を共にするだけでなくプレゼントをあげる、お金を援助するなど随分と“やり過ぎ”な気がするのは否めません。スティーブンはきっと飲酒による過失で手術失敗したことが分かっていたのでしょう。頑なにアナへは非を認めませんでしたが、心のどこかで罪悪感があるからこその行為だと推測できます。
また自信たっぷりでプライドの高い人物ですから、マーティンを気に掛ける自分にも酔いしれていた可能性大。自分を慕う人間が家族以外にもでき、良い気分を味わっていたのかもしれません。いずれにせよ純粋な気持ちからではなく、償いや自己陶酔から行っていたことは確かでしょう。
明るみに出た家族の“本音”
どこからどう見ても幸せいっぱいで、誰しもや羨むであろう4人家族。足りないものなど何一つとしてないように思えますが、崩壊は一瞬でした。3人がスティーブンを慕っているように思えたものの、キムとアナはあっさりとマーティン側に付いたり、命乞いのためにまた寝返ったりと変わり身の早さがとんでもない(苦笑)全員が自分の保身へ走り、お互いを助け合おうなんて姿勢がまるでないのです。
マーティンの登場によりそれぞれの本音が全面に出始めるのでした。元から本当の幸せなど、そこにはなかったのかもしれませんね。
『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』のココが怖い!
出典:映画『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』公式Facebook
その①妙な違和感を覚えるカメラワーク
本作の奇妙な違和感と言えば、やっぱりカメラワーク。ズームイン/アウトの多用が非常に目立っており、OPからこの技法が使われています。言葉でうまく現すのが難しいのですが、とにかく観ていて落ち着かない画が満載(笑)
特にボブがエスカレーターで転倒し、アナが助けを求めるシーン。まるで上から“誰かが覗き込んでいる”ように映すところはもはや天才レベル。マーティンが「いつも見ているよ」といわんばかりの不穏なアングルなのです。
その②不安になるBGM
お化けが出てくるわけでもないのに、BGMが心霊ホラー並み!耳障りなサウンドが物語にはぴったりで、視聴者の不安をガンガン掻き立ててきます。姉のキムは歌がとても上手なのですが、怪し気な音楽のせいで全部が怖く聞こえてくる……なんてことも。
ただしストーリーを盛り上げるには最高のスパイスとなっていますので、BGMも併せて楽しめることでしょう。ラストに近づくにつれて「音楽とシーンが合ってるわ~」と、妙にしっくりきてしまうはずですから……!
その③淡々と発される恐ろし発言にゾクリ
『ゲット・アウト』や『ヘレディタリー/継承』など、心霊が登場せず、人間の恐ろしさにフォーカスしたホラーが最近の流行りです。『聖なる鹿殺し』もその一つで、怖いのは人間だということを嫌というほど突き付けてきますよね。窮地に追い詰められてこそ本性が出る、その様子がリアルに描かれているのも特徴的でしょう。
血が繋がっている家族なのに、キムはボブに向かって「あんたが死んだらミュージックプレーヤーをちょうだいよ」と言っていました。アナは「殺すなら子供よね」と残酷な発言をアッサリ。みんな淡々と恐ろしきセリフを吐くので、衝撃と共に頭が追い付かなくなります。登場キャラクターを観ていれば、心霊なんかよりも100倍ゾッとするはずです……。
まとめ
“ただのホラー”では片づけられない、それが『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』です。生贄を1人差し出してもまだ恐怖は終わらないことを、ラストシーンの悲しき背中が物語っていますね。一家が再び幸福を取り戻す日は来ないのでしょう。きっとマーティンはそのことに気づきながら、去っていく3人を見つめていたのかもしれません。
120分息が詰まるような重々しさ、緊迫した空気には他にない面白さを覚えるはず。少々人を選ぶ作品ではあるものの、きめ細かく完成度の高い作品です。骨のある力強い映画を観たい時には、ぜひご覧ください。
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