韓国映画の怪作『哭声(コクソン)』ネタバレあらすじ | 謎の多さが作品の醍醐味!
韓国映画好きなら外せないナ・ホンジン監督。2008年『チェイサー』、2010年『哀しき獣』は強烈なバイオレンス描写と先が読めない上質なサスペンスとして人気の作品です!
その二作に続き、2016年に公開された『哭声』は韓国で観客動員約700万人の大ヒットを記録!日本の実力派俳優、國村隼の怪演も話題になり、社会現象を巻き起こしました。
キャッチコピーは「疑え。惑わされるな。」まさに観客の心理を手玉に取った見事なストーリーに、観終わった後だれかと話したくなること間違いなし。
ホラーなのか?オカルトなのか?その魅力と謎に迫ります。
目次
映画『哭声』を手掛けたナ・ホンジン監督とは?
1974年生まれの45歳。韓国芸術総合学校を卒業後、2003年に短編映画の『5minutes』、2005年に短編『完璧な鯛料理』、2007年に短編『汗』を発表。
そして初の長編『チェイサー』を2008年に発表して大鐘賞主要六部門受賞し観客動員数500万越えのヒットを記録しました。実際に起きた猟奇殺人事件を扱った映画で、スリリングな展開と泥臭い攻防戦が見どころです。2010年の『哀しき獣』では借金返済の為に殺人請負人になった男の逃走劇を描いています。斧や出刃包丁を使ったバイオレンス描写が印象的な作品。
そして今作『哭声』で見せた才能に、ふたたび注目が集まる韓国を代表する映画監督の一人といえます。
映画『哭声(コクソン)』ネタバレあらすじ
出典:映画『哭声』予告編
観れば観るほど、謎が深まる。観る人によって解釈が変わるのが面白い映画です。観た後に誰かと話したくなるでしょう。一人で思い返してあれってこういうこと?など推理をするのも楽しいでしょう。
ここからは、ネタバレ有であらすじを解説していきます。
【あらすじ①】事件発生
韓国の谷城(コクソン)という村で近親者間の猟奇殺人事件が発生。事件現場には悪魔払いのためと思われる祭壇や動物の死骸が置かれていた。加えて、加害者はみな放心状態で体に湿疹ができていた。その様子から、きのこによる感染症だと報道されるが、村では、事件と同時期に現れた日本人の男があやしいという噂が立ちはじめる。
事件を担当していたジョングが同僚と警察署でその話をしている最中、停電がおこる。暗闇の中雷鳴に照らされて裸の女が警察署の前に佇んでいた。怯えるジョングと同僚。
明かりがつくと女は消えてしまっていたが、翌日またしても近親者間の殺人事件が起きる。その事件の加害者で、現場で首つり自殺していたのは昨夜署の前に現れた裸の女だった。
【あらすじ②】怪しい日本人の男
ジョングが事件現場で捜査をしているところに謎の女が現れ、事件には日本人の男が関わっていて、「彼に関わった者は最後には殺されてしまう」と語る。彼女の有力な証言を同僚にも聞かせようと電話をしに行って戻るとそこには女はおらず、日本人の男がふんどし一丁で鹿に食らいついていた。
血で染まった真っ赤な顔で襲い掛かられたジョングは必死で逃げ惑う。気を失ったと思った直後、目を覚ますとそこはジョングの自宅であった。
その晩から、今度は娘がうなされるようになり、体には湿疹が出はじめる。ジョングは日本人の仕業だと思い、男の家を訪れる。日本人男の家の中には儀式のためと思われる道具などが溢れかえり、おどろおどろしい様子。奥の部屋には一連の事件の被害者の写真が壁一面に貼られていた。
一同はいったん引き上げたものの、男の家で同僚がジョングの娘の靴を見つけたことと、娘の容態が悪化の一途を辿っていることで焦りを感じたジョングはもう一度日本人男の家を訪れる。日本人男に村から出ていくよう話すが聞く耳を持たず、証拠になる写真や祭壇は片付けられていた。ジョングは大暴れして日本人男の家を破壊し、出ていくよう迫ったのだった。
【あらすじ③】祈祷師にお祓いを頼む
娘の容態は良くなるどころか、人格すら変貌して乱暴になってしまい、ジョングの妻と母の願いもあって祈祷師にお祓いを頼むことになる。祈祷師によるお祓いは仰々しいもので、ヒートアップしていくにつれて、娘は苦しみ始める。
同時に、自宅にいた日本人男も儀式を行うが、苦しんでいた。あまりにも苦しむ娘の様子を見るに見かねたジョングは、お祓いを中断させてしまう。一方で日本人男は山中にあった車を確認しに行く。
お祓いもうまくいかず、憔悴しきった娘を病院へ運んだあと、ジョングは日本人男を殺すために友人たちと共に日本人の家へ車で向かう。しかし家の近くでゾンビのような様子のおかしな男に襲われてしまう。鍬で頭を突き刺しても死なず、仲間の神父見習いの頬を食いちぎるほど凶暴な男をどうにか倒した一同。日本人男の姿を発見して崖まで追いやるも見失ってしまう。
崖からの帰り道、ジョングたちが乗った車は、突然前に現れた日本人男をひき殺してしまう。ジョングたちは谷の下に日本人男を放ってその場を去る。ジョングは娘がいる病院へ駆ける。正気を取り戻した娘を抱きしめ、脅威は去ったと安堵する。
【あらすじ④】謎の女と祈祷師
自分の助言を無視して日本人に近づいたジョングに警告しようと、家の前まで来た祈祷師は謎の女に遭遇する。彼女と話を始めるや否や、祈祷師は嘔吐と吐血が止まらなくなる。謎の女から帰るよう脅されそのまま車を走らせるも、虫の大群に襲われて動揺する。ジョングに電話で「女を信じるな」と告げる。
一方ジョングは家の前で謎の女と出会い、言い合いになる。守るために来たと話す女を信じるべきか悩むジョングは、女の着ている服が一連の事件の加害者と同じ物だと気付き、女が犯人だと決めつけ、家の中へ駆け戻っていく。
【あらすじ⑤】ジョング一家の結末と日本人男の正体
ジョングの家では、娘が一家を惨殺した後だった。悲しみにくれるジョングは娘と目が合う。一方で、神父見習いの男は日本人男に会いに行くが、話をしているうちに悪魔の姿へ変貌した日本人男に、生きて返さないと言われてしまうのだった。
日本人男の家にあった物と思われる大量の写真を車に積んだ祈祷師が、ジョングの家へ現れ写真を撮り始める。息も絶え絶えになったジョングは娘と楽しく過ごした記憶か夢のような情景を思い浮かべるのだった。
映画『哭声(コクソン)』のキャスト
ジョング/クァク・ドウォン
ナ・ホンジン監督の前作『哀しき獣』に出演していたことがきっかけで、本作の主演に抜擢されました。今作が初主演ながら、娘の為に奔走する父親の鬼気迫る熱演ぶりは見事!
他出演作 『アシュラ』『弁護人』『悪いやつら』などです。
日本人の男/國村隼
大阪出身で、主に舞台で活躍したのち1981年の井筒和幸監督『ガキ帝国』で映画デビューしました。1989年リドリー・スコット監督『ブラックレイン』や、1992年ジョン・ウー監督『ハードボイルド新・男たちの挽歌』、2003年クエンティン・タランティーノ監督『キル・ビル』など海外での活躍も豊富です。日本国内でも言わずと知れた、映画ドラマ問わない実力派俳優の一人です。
祈祷師イルグァン/ファン・ジョンミン
韓国で権威のある映画祭青龍映画祭で主演男優賞を二度受賞。(『ユアマイサンシャイン(2005年)』、『新しき世界(2013年)』)他数々の賞を受賞し、主演男優としてその実力は折り紙付きです。
その他出演作 『傷だらけのふたり』『国際市場で逢いましょう』『工作 黒金星と呼ばれた男』など多数。
謎の女/チョン・ウヒ
2004年『恋する神父』で女優デビュー。日本でリメイクされた韓国映画『サニー永遠の仲間たち』(2011)で注目を集めました。『ハンゴンジュ17歳の涙』で主演を務め、マラケシ国際映画祭では審査委員大賞を受賞。他映画祭でも彼女の演技は高評価を得て、青龍映画祭主演女優賞を受賞しました。映画を中心に活躍している演技派女優のひとりです。
映画『哭声(コクソン)』ネタバレ | 残された3つの謎を考察
【『哭声』考察①】神出鬼没な女の正体は?
はじめの事件現場に現れ、ジョングと友人らが日本人男をひき殺した時にも姿を見せた女です。
クライマックスでジョンウの前に現れ、家に罠を仕掛けて来たと話すところからなんらかの魔術を使えることは確かでしょう。彼女が一連の事件の加害者たちの衣類を着ていたことから、ジョングは犯人だと決めつけますが、祈祷師を家から遠ざけようとしていたことから見て、純粋にジョング一家を守りたかったと解釈することができるでしょう。
村人たちを守るために陰ながら動いていた魔術師もしくは祈祷師のような存在だったのではないでしょうか。
【『哭声』考察②】祈祷師の正体は?
ジョング一家が死んでしまってから現れた祈祷師が大量の写真を持っていたことから、日本人男とグルだった。もしくは利用し合っている関係なのではないかと推測できます。日本人男が狙いを定めたターゲットは祈祷師にお祓いを頼むことになるので、祈祷師のビジネスにもなるからです。日本人男の家に殺害前と後の写真があったことがキーといえます。
謎の女は祈祷師を懲らしめようと嘔吐させたり、走る車の前に蛾の大群を向かわせたのだと推測できます。
【『哭声』考察③】人?悪魔?日本人男の正体は?
祈祷師が「術をかける相手を間違えた。日本人は祈祷師だ」と電話でジョングに話すところで騙されそうになりますが、車で轢かれた上崖から落とされたのに生きているということから考えて人間ではないといえるのではないでしょうか。
洞窟に現れた神父見習いに対して「誰がお前を何もせず行かせると?」と告げたのは、「生きて帰すわけがない」という意味。最後に見せた姿で一目瞭然「悪魔」のような存在だと推測できます。
ただ、今作は「人は見たいものを見る」ということをメッセージとして含んでいるので、最後の悪魔の姿は神父見習いの思う日本人の姿だともいえるでしょう。
つまり、これまで述べてきた内容も、解釈のひとつでしかないので「あなたはどう考えるか?」というのを投げかけている映画として、今作を楽しむと良いのではないでしょうか。
『哭声(コクソン)』のここに注目!
【その①】キリスト教との関連
クライマックスで國村隼が神父見習いに言うセリフです。「わたしに触れてみろ。幽霊には肉と骨がないが、お前が見る通りわたしには肉も骨もある。なぜ人は心に疑いを持つのか。私の手や足を見なさい。まさに私だ」
キリストの復活における、人々の猜疑心や先入観からくる偏見に言及したと読み取ることができるのではないでしょうか。洞窟のシーンで、男の手のひらに聖痕があったのもイエスを象徴しているといえます。
村に現れた異端者である日本人の男をイエスに見立て、善悪の境界線の曖昧さや人間の先入観、思い込みによる弊害を描きたかったと捉えることもできるのではないでしょうか。
【その②】國村隼の怪演が偉業達成
韓国の代表的映画祭、青龍映画祭で外国人初の男優助演賞と人気スター賞をダブル受賞しました。外国人として初ノミネート。そして初受賞という快挙!
スター賞はアイドルが受賞することが多いそうですが、社会現象になった今作の一番の立役者が國村隼がだといえる結果ではないでしょうか。
ふんどし姿に血まみれの顔で、悪魔か妖怪のような姿は夢に出てきそうなほど怖い!一方で見方によっては無実の人間のようで、哀れにも見えます。素晴らしい演技を見せつけてくれる日本映画界の誇りだといえるでしょう。
【その③】観た人によって解釈が変わる!ジャンル不明な衝撃作!
初見で「よくわからない」「難解だ」という感想があがる今作。観終わった後、「あれってつまり…?」と誰かに話したくなるし、ネットでひたすら考察記事を漁りたくなるのではないでしょうか。
そう。これぞまさに映画の醍醐味!映画『哭声(コクソン)』は、今作のテーマである「混乱」を世に巻き起こした傑作といえるでしょう。
そして、この映画の魅力のひとつはジャンルを絞れないところにもあります。
夜の闇の中で警察署の前に裸の女が浮かび上がるシーンではホラーのような怖さがあり、そこに恐れおののく主人公や、結託して日本人男に奇襲をしかける男たちの姿は少し笑いを誘うコミカルさもあります。祈祷師のお祓いシーン、國村隼のふんどし一丁の血まみれ姿から、オカルト映画のような異様さも感じさせるでしょう。
展開が進むごとに「自分は何を観ているんだろう」と観る者に戸惑いを抱かせるのではないでしょうか。そして最後は、救われない父親の娘への想いが切なく残る、ヒューマンドラマでもあったんだ…としんみりする人もいるはず。
まさに、「何を信じるか」というテーマをこれ以上ない程観客に問いかける衝撃的な映画といえるでしょう。
まとめ
何度観ても違った発見があったり、細かな伏線や仕掛けに驚かされるだろう一作。ホラーの怖さもあり、オカルトの狂気じみた部分もあるものの、観た人が自由に想像を膨らませて、解釈を楽しむことができる貴重な映画です。
自分が見ているものが真実なのか?疑いながらもう一度観てみるのも良いのではないでしょうか!