映画『この世界の片隅に』のあらすじ解説|リアルな戦争体験を描いた感動作
2016年に劇場公開を果たし、同年には『君の名は。』という強力なライバルが居ながら見事第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞した映画『この世界の片隅に』。今や終戦記念日などの度にこの作品を見返す人も多く、熱烈な支持を受けている作品です。
ただ戦争物ということで、観るのにはハードルが高く感じてしまう人も多いのではないでしょうか。今回はそんな『この世界の片隅に』がどんな物語なのか、そのあらすじから登場人物、制作背景まで紹介していきます!!
目次
『この世界の片隅に』について
2016年11月12日に劇場公開されたアニメーション映画が『この世界の片隅に』です。ミニシアター系での小規模公開でのスタートにも関わらず、口コミや熱心なファンの応援もあり、異例のロングランヒット。公開から2年後の2018年には興行収入が27億円に到達し話題になりました!
『この世界の片隅に』はもともと2007年に「漫画アクション」にて連載されていた同名漫画を原作に、『アリーテ姫』や『マイマイ新子と千年の魔法』などの監督として知られる片渕須直さんが長編アニメーション映画化した作品です。
戦争まっただ中の1940年代の広島県呉市を舞台に、18歳で嫁いだ主人公すずの物語が描かれます。戦争ものということで、悲しく辛い作品なのではないかと尻込みしてしまう人も多いかもしれませんが、素朴で意外と笑いにも溢れたバランスの良い物語となっています。一般的な戦争もの映画をイメージすると、ちょっとその違いに驚くかもしれません。
2019年12月20日には、『この世界の片隅に』におよそ40分の新規場面を追加した、別バージョンの映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が公開されています!
10秒で分かる『この世界の片隅に』の簡単なあらすじ
広島江波で育った少女・広瀬すずは、18歳になり突然縁談が持ち上がります。たちまち話は進み、1944年すずは呉の北条周作のところへお嫁に行くことになりました。
当時は戦争の真っ只中。軍港の街として栄える呉での慣れない生活や、北条家に嫁いだことをきっかけに知り合うことになった人々との出会いを経て、すずは時に懸命に、時に気ままに暮らしていきます。
そんな日々を送る最中、戦争はどんどん激しくなりはじめ、たちまち空襲が盛んになっていきます。終戦へと向かっていく広島の片隅で、一人の女性がどんな生活を歩んでいたのかが、笑いを交えながら描かれます。
『この世界の片隅に』のネタバレあらすじ
【あらすじ①】子供時代の北条すず
主人公・浦野すずは、広島の海苔梳きの家の三人兄弟の長女として生まれる。おっとりした性格で天真爛漫な彼女は、叔母の家で座敷わらしに出くわしたり、街では危うく化け物に攫われそうになったりと幼少期から不思議な体験をしていた。
そんなすずの特技は絵を描くこと。中学生の時には幼馴染の同級生の水原哲の代わりに描いた風景画が、絵画コンクールで受賞を果たしてしまうほどだった。
【あらすじ②】北条家に嫁ぐすず
そんなすずも18歳になった頃、突如、呉に住む北条家の長男・北条周作から嫁入りの話が飛び込んでくる。突然の話に戸惑うすずであったが、断る理由も見つからず、そのまま北条家へ嫁ぐことになる。ろくに周作と会話もせぬまま結婚式を迎えるすず。北条家の妻として迎え入れられ、結婚式の夜にやっと周作と言葉を交わすほどであった。
しかし、気ままなすずはたちまち北条家の人々と打ち解け、周作の妻として家事をマイペースにこなしていくのだった。
そんな最中、周作の姉である経子が北条家に出戻りで現れる。当初はすずに強く当たる経子だったが、経子の子供である晴美もすずに懐き、経子もすずのあまりのマイペースぶりに呆れていく。こうして、小言を言われながらも経子とも親しくなっていき、すずは北条家の一員として迎え入れられていく。
【あらすじ③】激しくなっていく空襲
次第に戦争も激化し始め、呉にも激しい空襲が頻発するようになっていく。航空機エンジニアとして働く周作の父も空襲で大怪我をして病院に入院したり、周作も実家を3ヶ月から離れることになったりと、北条家の生活にも大きな変化が生まれていく。
激化していく戦争に、経子は晴美を連れて疎開することになる。すずもそれを見送るために行動を共にするが、経子が汽車の切符を買う待ち時間に、すずは晴美を連れて周作の父の見舞いに出かける。その帰り道、突如空襲に遭遇してしまう。
とっさに防空壕へ逃げ込み、難を逃れた二人。しかし、防空壕を出て帰る途中、近くにあった時限爆弾が突如爆発してしまうのだった。
気がつくと、布団の上に横たわっていたすず。共に手を繋いでいた晴美は死に、すずも右手を失っていた。すずを責める経子に、すずはただ謝るしかなかった。
【あらすじ④】原爆投下、そして終戦へ
戦争はさらに激しくなり、北条家にも焼夷弾が落ちたりと被害も大きくなってくる。そんな中、晴美を失ったすずは自責の念に堪えきれず、ついに周作に広島へ帰りたいと訴えるのだった。
すずの旅立ちが決まった日。経子はすずの髪をときながら、すずを責めたことを謝罪する。それをきっかけに経子と和解するのだが、その直後、これまでに体験したことのない衝撃が走り、遠くにはキノコ雲が立ち昇っていた。広島に原爆が落とされたのだ。
終戦を迎え、やるせなさを感じる北条家の面々。原爆によってすずは両親を失い、唯一生き延びたのは妹だけだった。
焼け野原となった地元のベンチに座り、食事をするすずと周作。そこへ原爆により親を失い一人となった少女が近寄ってくる。すずはその子供に食べ物を与え、それをきっかけに二人は少女を北条家に連れて帰ることにする。こうして北条家は新たな家族を迎え入れるのだった。
『この世界の片隅に』のキャスト
北條 すず / のん
『この世界の片隅に』の主人公が広島市江波出身の北條すず。もともとは浦野家の長女として生まれるのですが、呉に住む北條家に嫁いでくることになります。心優しく、おっとりしているものの、いざという時には思い切った行動にも出ることができる芯の強い性格!絵を描くことが得意で、この特技が物語にも重要な意味を持ってきます。
そんな北條すずを演じるのは、女優やタレントとしても活躍するのん(旧芸名:能年玲奈)。旧芸名時代にはドラマ『あまちゃん』や映画『ホットロード』などで活躍しましたが、事務所から独立し、改名を行なって以降はあまり目立った活躍がなく、本作への声の出演が満を持しての大抜擢となりました。
北條 周作 / 細谷 桂正
北條すずさんの夫として、登場するのが北條家の長男・北條周作です。基本的には物静かでおとなしく、まじめな青年。幼いころにすずに出会ったことをきっかけに、すずとの結婚を求めます。呉鎮守府の書記官を務めており、戦争に入ってからもしばらくは、しっかりと家へ帰宅できる立場にありました。
そんな周作役を務めるのは、声優の細谷佳正。代表作には『機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ」のオルガ・イツカ役や『デジモンアドベンチャーtri.』シリーズの石田ヤマト役などがあります。優しさと力強さを兼ね備えた声が、周作役にぴったりですよね。
黒村 経子 / 尾身 美詞
北条家の長女であり、物語の途中から北条家ですずと一緒に生活を始めるのが黒村経子です。黒村キンヤという時計屋の夫が居たものの、病死してしまいます。北条すずを疎ましく思い、強く当たることも多いのですが、二人の子供のうち長男の久男を黒村家の跡取りとして取られてしまい、離れて暮らすことになってしまうなど、辛い境遇にある人物でもあります。
そんな経子を演じるのは女優の尾身美詞。テレビのバラエティ番組への出演や、舞台などに多く参加している彼女は、元キャンディーズの藤村美樹さんの娘さんです。近年は『無限の住人-IMMORTAL』にも参加するなど、吹き替えの仕事にも注目です。
黒村 晴美 / 稲葉 菜月
黒村経子の娘で、物語の途中から経子と一緒に北条家ですずと一緒に生活をし始めるのが黒村晴美です。母親の経子とは違い、すずに懐いており一緒に遊んだり、行動を共にしたりすることも多いです。兄の久夫に教えてもらったということもあり、海に浮かぶ軍艦の名前がわかるなど幼いながらも軍艦に関する知識は豊富です。
そんな晴美を演じるのは女優や声優として活躍する稲葉菜月。2005年生まれのまだまだ若い彼女ですが、『アナと雪の女王』では子供時代のアナ役や『ズートピア』では子供時代のジュディ役などを務めるなど、すでにディズニーアニメーションで大役に抜擢されています。
水原 哲 / 小野大輔
すずの小学校時代の同級生であり、すずとは密かに想い合う間柄であった人物が水原晢です。兄を転覆事故で亡くしているという過去を持っています。成長後、海軍に入隊し、重巡洋艦・青葉の乗組員となります。入湯上陸の際には、すでに人妻となっているすずに会いに来るという大胆な行動に出るような人物でもあります。
そんな水原哲役を演じるのは、現在も声優や歌手として活発に活動をしている小野大輔。『涼宮ハルヒの憂鬱』の古泉一樹役役や、『おそ松さん』の松野十四松役など、多くの代表作を持っています。
白木 リン / 岩井七世
呉の遊郭で遊女として働いている女性として登場するのが白木リンです。すずが闇市で道に迷った際に出会い、仲良くなります。実は周作とも知り合いであり、かつては周作が結婚を考えていた相手でもあります。そういった過去を巡ったエピソードは『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』で、より濃く描かれています!
白木リン役を演じるのは、子役から活動し、モデル業や女優として活躍している岩井七世。映画「傷だらけの悪魔」や「HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話」などに出演しており、最近は舞台などでも活発に活躍されています。
『この世界の片隅に』の驚異的な時代考証!
戦争映画ということで、年代や出来事が非常に正確な本作。本当にあった話なのか?すずは実在した人物なのか?それともフィクションか、いろいろな憶測が飛んでいます。
それでは、そんな『この世界の片隅に』を詳しく解説していきます!
『この世界の片隅に』は実話なのか?
戦時中の物語が描かれるということで、『この世界の片隅に』は誰かの実話ではないのかと思う人も多いのではないでしょうか。実際のところ、主人公のすずさんを始めとしたキャラクターに、特定の誰かというモデルなどはいないようです。
しかし、それでも本当にすずさんが居たのではないかと思わされてしまうのも無理はないでしょう。すずさんが体験する出来事の数々は、実際に戦時中に起こった出来事をベースに制作されており、その細かさが物語にリアリティを持たせていると言っても良いでしょう!
ガチで徹底して調べ尽くす生みの親たち
そもそも『この世界の片隅に』は原作の漫画からして、調査の量が半端ないんです!原作漫画の作者であるこうの史代さんは、徹底的な時代考証のもと、漫画を制作されました。実際に漫画を読んでみると分かるのですが、昭和何年の何月何日に何が起こったのかを克明に調べた上で、その時系列に合わせて、すずさんの物語を描いています。漫画の隅に書かれた注釈の量や、単行本に記された参考文献の量に誰もが驚くのではないでしょうか。
そしてさらに、アニメーション映画を手がけた片渕須直監督も調べに調べて制作を行う人物。今回の映画の制作のために、監督自身も何度も広島に通い、当時の様子について調べ、すずさんが生きた呉の再現に努めたようです。こういった徹底したクリエイターたちによって作られた作品ですから、『この世界の片隅に』が実話のように思えてしまうのも無理はありませんね!
それだけ、辛くて残酷なこの出来事をリアルに伝えるかにこだわっていることが伝わる一作です。
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』との違いは?
2019年に別バージョンとして公開された『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』。一口に別バージョンといっても、正直どんな違いがあるのかわかりませんよね。『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』とはどんな作品なのでしょうか。
『この世界の片隅に』は原作のあるエピソードを大きくカットしていた?
アニメ映画『この世界の片隅に』では、原作漫画の多くのエピソードを網羅しているのですが、その中でも唯一カットされているエピソードがあります。それが、遊郭の前で出会う遊女・白木リンとのエピソードです。すずと周作、そして白木リンの三角関係を巡るお話が、原作では描かれていたのですが、映画の尺の問題もあり、映画では泣く泣くカットとなりました。
しかし、『この世界の片隅に』が公開後たちまちロングランの大ヒットし、ファンの支持もあったことで、追加カットを加えて『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が制作されることになりました。
長尺版ではなく別バージョンとされる理由は?
本来追加シーンがある程度であれば、ディレクターズカット版として公開されることが多いですよね。しかし、『この世界の片隅に』では、わざわざ『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』という新たなタイトルを設けて、新作映画として公開しています。何故なのでしょうか!?
その理由は、白木リンを始めとしたキャラクターのエピソードをより深く掘り下げたことによって、『この世界の片隅に』とはまったく異なる印象の作品としての仕上がったからだそうです。
公式サイトにも監督からの以下のメッセージが寄せられていました。
戦争しおってもセミは鳴く。ちょうちょも飛ぶ。
そして、人には人生がある。それが戦争中であっても。
明るくぼーっとした人のように見えるすずさんが
自分以外の「世界の片隅」と巡り会うとき、すずさんの中にはどんな変化が生まれるのでしょうか。
すずさんの中にあった本当のものを見つけてください。
追加シーンも250カットあり、主題歌を歌っていたコトリンゴさんの書き下ろし新曲なども用意されています。製作陣の気持ちとしても、作品の物量としてもまったく新たな体験ができる一本となっているのです!
まとめ
アニメーション映画『この世界の片隅に』は実際の戦争の様子を徹底的に調べており、もちろん悲しい出来事も描かれます。しかし、悲しいこともあれば楽しいこともあった、当時のよりリアルな喜怒哀楽が描かれているので、当時の様子が身近に感じられるのではないでしょうか。
まだ本編を観ていなかったり、別バージョンの『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は観ていないという人も、この記事をきっかけに手をとっていただけると幸いです!
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