映画『シェルブールの雨傘』のあらすじネタバレ解説|『ラ・ラ・ランド』で再び注目されたフランス映画
映画『シェルブールの雨傘』は、カトリーヌ・ドヌーヴ主演&ジャック・ドゥミ監督によるフランスのミュージカル映画。2017年に公開された映画『ラ・ラ・ランド』に影響を与えた映画として再び注目されています。
2013年には『シェルブールの雨傘』デジタル修復完全版が作られ、第66回カンヌ国際映画祭のカンヌ・クラシックスで上映されました。
本作はフランスの港町のシェルブールで巻き起こる、美しい傘屋の娘と自動車修理工の青年との切ないラブストーリー。21歳のカトリーヌ・ドヌーヴの圧倒的な美しさと、全編に流れる主題歌「I Will Wait for You」が、心に残ります。
この記事では後世に語り継がれる名作フランス映画『シェルブールの雨傘』の世界をじっくり解説し、あらすじをネタバレで紹介していきます。
目次
映画『シェルブールの雨傘』について
出典:IMDb
『シェルブールの雨傘』は、1964年にフランスで公開され、第17回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したミュージカル映画。悲恋映画の傑作としていまなお映画史に輝く不朽の名作です。
ミシェル・ルグランによる音楽が大評判となり、特に主題曲「シェルブールの雨傘(I Will Wait for You)」は世界中で大ヒットしました。映画はのちに舞台化もされ、世界各国で上演されています。
全編音楽のみで、語りの台詞が一切ないミュージカルとなっており、映画としては画期的な形式でした。ミシェル・ルグランがジャック・ドゥミ監督の脚本を読み、これをミュージカルにすることを提案し、台詞を全て歌にした作品を作り上げたということです。
歌はすべて歌手による吹き替えで、カトリーヌ・ドヌーヴの歌はダニエル・リカーリが歌いました。
また視覚に訴える音楽映画でもあり、ドヌーヴのファッションや色とりどりの傘が印象的な映像はその後、さまざまなジャンルの作品に引用されていました。ポップな配色とアルジェリア戦争中という時代が映し出す陰鬱な雰囲気が対照的で、そのラストもフランス映画らしい哀愁が感じられるラブストーリーです。
10秒で分かる!映画『シェルブールの雨傘』の簡単なあらすじ
フランスの港町・シェルブールに暮らす17歳のジュヌヴィエーヴ(カトリーヌ・ドヌーヴ)と自動車整備工の20歳のギィ(ニーノ・カステルヌオーヴォ)は恋人同士だ。
傘店を営むジュヌヴィエーヴの母・エムリー夫人(アンヌ・ヴェルノン)には交際を快く思っていないが、二人は愛を育み、ギィが戦地アルジェリアに送られることが決まると涙ながらの抱擁を交わし再会を誓い合う。だが無情にも運命はすれ違い、二人はそれぞれの道を歩き出すのだった……。
映画『シェルブールの雨傘』のネタバレあらすじ
※これ以降のあらすじはネタバレとなっています。
【あらすじ①】旅立ち
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1957年11月、アルジェリア戦争中のノルマンディーの港町シェルブール。この街に住むジュヌヴィエーヴは恋人ギィとの結婚を夢見ていた。
しかし彼女はまだ17歳、彼は二十歳でジュヌヴィエーヴの母親は、結婚について反対していた。美しい母娘は二人で傘屋を営んでいる。
そんな中ギィに徴兵令状が配達された。2年間の兵役につくギィと、ジュヌヴィエーヴは離ればなれになってしまうことになる。ジュヌヴィエーヴは、行かないでとまるで子供のよう泣いて引き留めるのだった。
別れを惜しむギィとジュヌヴィエーヴの二人はその入営前夜、結ばれた。
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傘屋の経営は思わしくなく、税金の徴収に困り果てるジュヌヴィエーヴの母親は、その宝石を手放し金に換えようとする。 しかし宝石店はすぐには換金できないと言い、母娘は困り果てる。
その時に宝石商のローラン・カサールが現れ、二人を見てその宝石を買い取ると約束してくれた。助けられた母親はカサールに対してお金持ちだし優しいと好感を持つ。
ギィは幼馴染みのマドレーヌ(エレン・ファルナー)に、たった一人の肉親である伯母の世話を頼み、ジュヌヴィエーヴと永遠の愛を誓い合って別れを告げ、戦地へ向かうのだった。
【あらすじ②】不在
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1958年1月、その後妊娠していることが判明するジュヌヴィエーヴ。とうとう母親にもバレてしまい、彼女はギィからの連絡だけを心の拠り所に日々を過ごす。しかし、最初の頃に手紙がきたきり連絡は途絶え、彼の居場所もわからずジュヌヴィエーヴは不安になっていく。娘の妊娠を知った母親は、近所や知り合いの手前どうしよう、と慌てる。
エムリー夫人は宝石商のカサールを食事に招待した。カサールは「ジュヌヴィエーヴに出会い、失っていた人生の目標を見つけた。彼女と結婚したい」と母親の方に打ち明ける。すると母親は、ジュヌヴィエーヴの妊娠のことはカサールには秘密にし、娘には手紙もよこさないギィよりカサールを選ぶよう遠回しに伝えるのだった。
2月にやっとギィから手紙が来るが、”いつになったら帰れるかわからない、ここでは生と死が隣り合わせ”という文言に、ジュヌヴィエーヴは将来の不安を隠せなかった。
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3月、いよいよジュヌヴィエーヴのお腹も大きくなってきた。ギィからの手紙が途切れていくなか”彼がいなくなったのが遠い昔のよう。”とジュヌヴィエーヴは思う。しっかりしないと身の破滅だ、とじわじわ追い詰める母。
ジュヌヴィエーヴは悩んでいた。妊娠を知らないカサールに優しくされ「なぜ、遠くに行ったのギィ」と泣くジュヌヴィエーヴ。彼女の心はもうカサールに傾いていた。
そして妊婦の姿でカサールに会ったジュヌヴィエーヴに、彼は二人で子供を育てよう、と言う。そして二人は、6月に結婚式をあげることになる。
【あらすじ③】帰還
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1959年3月、ギィが戦地から帰還し、ジュヌヴィエーヴの傘屋を訪ねる。しかし、もうそこは人手に渡り母娘はいなくなっていた。その日も雨が降っていた。
ギィは右足を負傷して長く入院していたのだった。今も足は完全には治っていない。叔母は少し弱っていたが、ギィが帰ってきて喜ぶ。
ジュヌヴィエーヴが他の男と結婚し、母親もしばらくしてこの地を出ていった、と消息を聞いたギィは落ち込む。ギィは、失恋から心がすさみ、仕事でもふてくされ辞めてしまう。酒と女に溺れ自暴自棄になるが、自分が留守にした日に叔母が亡くなり独りぼっちになってしまうのだった。
彼は、叔母の面倒を看てくれていたマドリーヌに、そばにいてほしいと頼むが今の彼ではいやだ!と断られる。ギィは心を入れ替え、叔母が残してくれた財産でガソリンスタンドを建てる。
ギィは、マドリーヌのおかげで立ち直り「愛する人と一緒に人生を歩みたいという夢を叶えたい」と彼女に伝えるのだった。それを聞きマドリーヌは「幸せだ」と涙を流し彼を受け入れた。
【あらすじ④】結末~再会のラストシーン~
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1963年12月、ギィのガソリンスタンド。息子とクリスマスツリーを飾るマドリーヌがいる。そしてクリスマスのプレゼントを買いにマドレーヌと息子が出かける。
そこに一台のベンツがガソリンスタンドに入ってくる。乗っていたのは、ジュヌヴィエーヴとその娘。入営の日、シェルブール駅で別れて以来の再会だった。車に近寄り、彼女と気づくギィに「寒いわね」と声かけるジュヌヴィエーヴ。
事務所に入ると、偶然ではなくここに来たことを話す。「かつて彼と子供ができたらこう名付けよう、と話していた通り娘にフランサワーズと名付けた。貴方によく似ている」と言うのだった。「会うか?」とギィに聞くが彼は「いや」と答えた。
そして「あなたは幸せ?」と聞くジュヌヴィエーヴに「幸せ」とギィは答え、彼女はスタンドの事務所から出ていく。車が走り去ると、入れ替わるようにマドレーヌと息子が帰ってきた。ギィは二人を笑顔で迎え、はしゃぐ息子を抱きかかえて家に入っていった。
映画『シェルブールの雨傘』の登場人物・キャスト
ジュヌヴィエーヴ/カトリーヌ・ドヌーヴ
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シェルブールという港町で、母と二人で暮らしている17歳の美しい娘。ギィという恋人に夢中で結婚も夢見ている。彼が徴兵され、寂しくてたまらない。
カトリーヌ・ドヌーヴは、1943年10月22日生まれで、10代のころから映画に出演してきました。そしてこの『シェルブールの雨傘』で一躍世界的スターの座を掴みました。その後100本以上の映画に出演し、文字通りフランスの大女優として活躍し数々の賞を受賞しています。
ギィ・フーシェ/ニーノ・カステルヌオーヴォ
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修理工場で働く20歳の青年。病身の叔母と二人暮らし。ジュヌヴィエーヴと愛し合うが、2年の兵役につくことになり、彼女と離れ離れになってしまう。
ニーノ・カステルヌオーヴォは、イタリアの俳優でやはりこの映画の大ヒットで世に出ました。
ローラン・カサール/マルク・ミシェル
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宝石商で困窮する彼女らを助ける。
ある女性に失恋しさまよっていた頃、偶然にジュヌヴィエーヴ母娘と出会う。そして、身重のジュヌヴィエーヴにプロポーズする。
マルク・ミシェルは、ドゥミ監督の前作から続けて出演しています。
マドレーヌ/エレン・ファルナー
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マドレーヌは同じアパートに住む、身寄りの無い娘。ギィの叔母の面倒を兵役中も看てくれていた。ギィがジュヌヴィエーヴに去られてからは、彼女が支えとなった。
ジュヌヴィエーヴとは、正反対のようなしっかりした女性を演じたのは、エレン・ファルナーでした。
映画『シェルブールの雨傘』の美しさ・見どころ解説
斬新な色彩感覚で描かれる映像
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オープニングの色とりどりの傘の映像はあまりにも有名です。ドヌーブのファツションも含め、パステルカラーのポップさが、ジュヌヴィエーヴの夢みがちな恋模様にピッタリです。
また、壁紙など背景のストライプや花柄などは、悲しい恋を描きながらもどこか若すぎて落ち着きのないジュヌヴィエーヴの心情も表しているようでした。
幕が開くように、ストーリーの区切り目を大きな字幕で表すなど、新しい技法が挑戦的に使われました。
映画『ラ・ラ・ランド』との比較
第89回アカデミー賞の6部門で受賞した映画『ラ・ラ・ランド』。様々な映画をオマージュしているシーンが話題となりましたね。
そのなかでも『シェルブールの雨傘』思わせるのは、そのパステルカラーの配色。『ラ・ラ・ランド』のオープニングシーンは特に、本作『シェルブールの雨傘』へのオマージュが感じられました。
また別れたカップルが、時を経て再会するラストシーンも、同じように観る人に解釈させる秀悦な終り方であり、本作と共通していると言えるでしょう。
『ラ・ラ・ランド』に秘められたメッセージとは?そのあらすじと伏線を徹底解説!サントラ~ミシェル・ルグラン~Les Parapluies de Cherbourg
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音楽を担当したのが、作曲家・アレンジャー兼ジャズ・ピアニストのミシェル・ルグランです。ドゥミ監督とルグランのコンビによってその後いくつもの映画が作られますが、その皮切りとなったのが『シェルブールの雨傘』でした。
ルグランは本作で世界的な評価を受けて以降、『ロシュフォールの恋人たち』をはじめアカデミー歌曲賞を受賞した『華麗なる賭け』『おもいでの夏』『愛と哀しみのボレロ』(フランシス・レイとの共作)『栄光のル・マン』など数々の映画音楽を創作し、20世紀後半のフランス映画音楽界を代表する存在となりました。
また本作はミュージカルというものの、踊るシーンはなく(ダンスホールで軽くステップを踏む二人くらい)セリフを音楽に乗せて語るという斬新な手法。
テーマ曲のメロディは、何度も繰り返し流れます。ジュヌヴィエーヴとギィの恋心が燃えあがるところから、ラストの別れのシーンの要所で流れ、そのことによって変わってしまった最初の熱情が愛おしくてたまらない気持ちを駆り立てられるのです。
トリビア!前作映画『ローラ』からの伏線
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後にジュヌヴィエーヴと結婚するローラン・カサールは、母娘と出会った時「ローラという女性に失恋してから世界各地を放浪していた」と語っています。わざわざ失恋した女性の名前まで挙げた理由がありました。
『ローラ』はドゥミ監督が1961年に発表した長編デビュー映画のタイトルでした。シングルマザーの踊り子ローラを中心に繰り広げられる恋愛模様を情緒豊かに描いた名作ラブストーリーです。そのなかで、ローラを愛する幼馴染を演じた役名がローラン・カサールでした。同じくマルク・ミシェルが扮していました。
よって映画『ローラ』を観た人からすれば、この映画でやっとカサールが幸せを掴んだ、ということになるのです。
まとめ
出典:IMDb
ドゥミ監督の優れた色彩感覚の映像美、ミシェル・ルグランの胸を打つ音楽とカトリーヌ・ドヌーヴのみずみずしい美しさと、全てが揃った映画『シェルブールの雨傘』。観終わる頃には、テーマ曲が頭から離れないのではないでしょうか?
男女のすれ違いを描く王道のラブストーリーのミュージカル映画『シェルブールの雨傘』の魅力をぜひ、その目でお確かめくださいね!