監督作品2本のみ、それでも神話!長谷川和彦監督おすすめ映画7選!
長谷川和彦監督が正式に監督した作品は『青春の殺人者』『太陽を盗んだ男』のたった2本だけです。でも1970年代に制作されたこの2本の映画は、映画ファンに世の中がひっくり返るほどの衝撃を与えただけでなく、後の日本映画を担う若い映画監督たちにとっても大きなインパクトでした!
長谷川和彦監督の登場は、日本映画史上ひとつの「事件」だったと言ってもいいでしょう。ここでは長谷川監督が、監督・脚本・製作した「事件な話題作」7選をご紹介します!
目次
長谷川和彦監督ってどんな人?
映画監督・長谷川和彦(はせがわかずひこ)のプロフィールをご紹介しましょう。長谷川和彦、別名「ゴジ」。その由来は「ゴジラのように目をギョロギョロさせているから」とも「酔っ払うとゴジラのように破壊するから」とも言われます。その風貌(ふうぼう)通り?日本映画を変えた革新的な監督の一人であることは、間違いありません。
長谷川監督は、1946年1月5日、広島県生まれ。学生運動真っ盛りの東大文学部に入学します。卒業間近の大学4年生の時、今村昌平監督の助監督採用試験に合格し、大学を中退。助監督として、映画監督としてのキャリアをスタートさせます。
その後、ロマンポルノ最盛期の日活に助監督として入社後、間も無く退社、フリーの助監督時代を経て、1976年『青春の殺人者』で監督デビューを飾ります。配給は斬新な作品の配給で知られたATG(アート・シアター・ギルド)。いきなりその年のキネマ旬報・ベストワンに選ばれるという鮮烈なデビューでした。
そして、いよいよ監督最大の話題作『太陽を盗んだ男』が発表されます。「20世紀を代表する日本映画」とも言われるこの作品を撮って以降、「日本で『次回作』がいちばん待たれる監督」と言われながら、なかなか作品を発表するには至りませんでした。しかし、長谷川監督には「監督という役割を越える」野望があったのです。
長谷川和彦監督の「事件な」おすすめ映画!
長谷川和彦監督には、監督作品以外にも、助監督時代に脚本で参加した名作、監督を卒業してから製作した話題作があります。ここではそんな「長谷川和彦監督由来」の名作・話題作を厳選してご紹介します。「日本映画を『動かした』」(相米慎二監督)と称される長谷川和彦監督の「事件な」7選、どうぞご覧ください!
1.濡れた荒野を走れ【脚本】
出典:Amazon.com
あらすじ
長谷川監督が脚本を担当。
「警察官の犯罪」という衝撃の設定。主人公・原田五郎(地井武男)は、表の顔は警察官だが、裏の顔は強盗グループのメンバー。
現金を強奪しては警察官に早変わりし、現場に急行して証拠隠滅を図ることの繰り返し。そんなどうしようもない警察官が、署長から精神病院を脱走した元上司の逮捕を命じられ、驚愕(きょうがく)の追走劇が始まる。
どうしようもないやつが、どうしようもないやつを追いつめる。権力の本質は暴力であることを告発する、反権力映画のレジェンド!
脚本・長谷川和彦「濡れた荒野を走れ」事件な裏話はこれだ!
・当時の風俗をリアルに盛り込むのが長谷川流。ベトナム戦争・アングラ演劇・深夜放送のラジオ。70年代の風俗をリアルに体験するために観るのもありでしょう。
・権力に対してあまりに挑発的な内容のため、ながらく「ソフト化不可能」とされてきた作品。2006年にようやくDVD化されました。
・音楽はモップスの「たどりついたらいつも雨降り」(吉田拓郎作)。長谷川監督と吉田拓郎さんは、同じ広島県出身ということで、なにかと縁があるのです。
『濡れた荒野を走れ』日本映画を動かした見どころはここだ!
反権力であることを隠そうともしない、映画人・長谷川和彦の原点となる作品です。映画のジャンルとしては「日活ロマンポルノ」。
確かにポルノ要素はふんだんに登場するのですが、長谷川監督にとっては、自由になんでもやれるフィールドのひとつでしかありません。ロマンポルノという自由の翼を得て、長谷川監督の事件を起こさないではいられない「ゴジ・エネルギー」が暴走しっぱなしです!
2.青春の蹉跌【脚本】
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あらすじ
長谷川監督が脚本を担当。実際に起きた殺人事件「天山事件」がモデル。蹉跌(さてつ)とは失敗・挫折・つまづきのこと。原作は石川達三の小説。
主人公の江藤賢一郎(萩原健一)はアメリカンフットボール部のエースで、弁護士を目指す大学生。順調にエリートへの階段を上りつめていくように見えた賢一郎だが、やがて裕福な伯父の娘・康子(壇ふみ)と家庭教師先の娘・登美子(桃井かおり)と三角関係になってしまう。
康子との結婚が、賢一郎の野心の完成だ。しかしそんな時、登美子の妊娠が判明する。そして賢一郎が取った行動とは?長谷川監督が、青春の情熱・焦燥・虚無・挫折を描いた出世作。
脚本・長谷川和彦「青春の蹉跌」事件な撮影裏話はこれだ!
・長谷川監督は東大時代、アメリカンフットボールの選手でした。その時の経験を主人公・賢一郎に重ねたとも言われており、アメリカンフットボールのシーンは、全部長谷川監督が撮ったとの裏話もあります。
・音楽はグループサウンズ時代に人気だった「スパイダース」の井上堯之(いのうえたかゆき)さん。ちなみにショーケンがボーカルやっていたのは「テンプターズ」。2人はグループサウンズ以来の盟友なのですね。長谷川監督の作品には、縁のあるミュージシャンがよく起用されています。それも現場のノリをつくる長谷川流なのでしょう。
「青春の蹉跌」日本映画を動かした見どころはここだ!
この作品のエネルギーになったのは、ロマンポルノの鬼才・神代辰巳監督+「濡れた荒野を走れ」脚本・長谷川和彦+主演・ショーケン+ヒロイン・桃井かおりのコラボレーション。日本映画が動かないわけがありません!
さらに2019年、惜しまれながら亡くなったショーケンこと萩原健一さんの、俳優としての人気絶頂期の作品でもあります。この時の萩原健一さんは24歳。映画「約束」(72年)・「股旅」(73年)・「青春の蹉跌」(74年)と、役者として目覚ましい活躍をしていた時期にあたります。火花の散るような役者魂をご覧ください。
3.宵待草(よいまちぐさ)【脚本】
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あらすじ
長谷川監督が脚本を担当。無政府主義者(アナキスト集団)が暗躍する大正時代が舞台。
アナキスト集団「ダムダム団」のメンバーである大学生・国彦(高岡健二)と偶然知り合った華族令嬢・しの(高橋洋子)、ダムダム団のサブリーダー・玄二(夏八木勲)が交番襲撃に失敗し、軍の憲兵隊と警察の追跡から逃亡を図る。
やがて彼らの逃避行は、救いのない絶望的な局面を迎える。大陸を夢見た2人の男性と自由を求める1人の女性の、一瞬の夏の物語。
脚本・長谷川和彦「宵待草」事件な撮影裏話はこれだ!
・アナキストというと無政府主義者と翻訳されて、なんだか権力に抵抗するイメージが強いですね。大正時代のアナキストは犯罪行為もありましたが、むしろ満州での飛躍を夢見る青年のイメージもありました。同時に現代よりも格差が大きかった時代、アナキストも華族令嬢も「自由」を求める パッションが青春と重なります。
・音楽は、あの細野晴臣(ほそのはるおみ)さんが、ティン・パン・アレーのメンバーとして提供しています。絶望的な逃避行でも、どこか楽観的で、アメリカのニューシネマのような、モダンでロマンチックな雰囲気が漂うのは、細野晴臣さんの音楽によるところが大きいと評価されています。
「宵待草」日本映画を動かした見どころはここだ!
監督・神代辰巳+脚本・長谷川和彦+音楽・細野晴臣という究極のトライアングル!絶望的な逃避行の中でも、一瞬、夏のにおいが漂う作品。
「俺たちに明日はない」や「明日に向かって撃て!」にも重ね合わされるロマンチックな青春逃亡劇です。
4.悪魔のようなあいつ【脚本】
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あらすじ
正確には「映画」ではなく、長谷川監督が29歳の時に脚本を務めたテレビドラマです。しかし、後の『太陽を盗んだ男』で主演を務めるジュリー・沢田研二の初主演作品であり、テーマも長谷川監督らしさ全開の「三億円事件。長谷川監督を語る上で重要な作品のひとつなので取り上げます。
横浜のバーで働く可門良(沢田研二)は、三億円事件の犯人で男娼というスキャンダラスな存在。そんな良に惹かれて、今晩も女たち、金目当ての男たち、良を疑う刑事たちがバーに集う。しかし、良は不治の病に侵されていた。
脚本・長谷川和彦「青春の蹉跌」事件な撮影裏話はこれだ!
・企画を思いついたのは、当時敏腕テレビプロデューサーとして知られた久世光彦(くせみつひこ)氏がジュリーのファンで、「ジュリーで三億円事件をやろう!」と思いついたから。長谷川監督は自称「新宿のジュリー」。沢田研二さんの歌を歌ってたりしたので「上等だ!」と即決したそう。
・同じグループ・サウンズ世代のショーケンと『青春の蹉跌』を撮っていた長谷川監督は、お茶の間に流れるテレビドラマであることが「相当不安」でもあったが、久世プロデューサーの熱意に押される格好で引き受けたそうです。結果として、テレビの久世プロデューサーと映画の長谷川監督のコラボレーションが、今までにない斬新な世界観のテレビドラマを作り上げています。
「悪魔のようなあいつ」日本映画を動かした見どころはここだ!
この時代、お茶の間に流れるテレビドラマで、売春を扱うこと自体が驚愕の展開でした!ダーティな主人公・沢田研二を中心に、これまたくせの強い助演たち、荒木一郎・藤竜也・篠ひろ子・三木聖子・若山富三郎らが固めます。
昭和のど真ん中に、昭和のエッセンスを、遠慮なしに投げ出したようなテレビドラマです。
ながらく再放送もされず、限定DVDでしか見れなかったこの作品も、ようやくDVDが発売され、誰でも手軽に見れるようになりました。必見です。
5.青春の殺人者【監督】
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あらすじ
長谷川和彦監督衝撃のデビュー作。千葉県で実際に起きた親殺し事件がモデル。原作は中上健次『蛇淫(じゃいん)』。
千葉でスナックを営む主人公・斉木順(水谷豊)は、恋人のケイ子(原田美枝子)との交際をとがめられたはずみで父親を、悲観して心中しようとした母親を、ともに殺害してしまう。
最初は両親殺害を黙っていた順だが、死体遺棄(いき)の現場をケイ子に目撃されてしまい、共犯となる。
絶望的な逃避行の果て、スナックにもう少しで戻るという時、成田空港反対のデモに巻き込まれ、順とケイ子は機動隊の検問で拘束される。
監督・長谷川和彦「青春の蹉跌」事件な撮影裏話はこれだ!
・長谷川監督は主演の水谷豊さんに「日本のジェームス・ディーンやらないか?」と口説いたそうです。『青春の蹉跌』で主演だった萩原健一さんのプッシュもあったそう。ゴジ+ショーケンに口説かれたら、その迫力で水谷豊さんもOKせざるを得ないですね!
・撮影当時、ヒロイン・原田美枝子さんは17歳の高校生。「高校から帰ると電車で成田に行って、また帰ってきて朝起きて高校に行っての繰り返しだった」と当時を振り返っています。相当ハードな撮影だったのですね。
・ちなみに、ラストシーンで燃え盛るスナックの映像は、無許可でゲリラ的に撮影されたそう。後にご紹介する『太陽を盗んだ男』でも、皇居にバスで突っ込むシーンは無許可で決行されていますし、想像以上に無許可が多い長谷川組です!
「青春の殺人者」日本映画を動かした見どころはここだ!
真正面から1人の青年による両親殺しを描き、恋人同士の逃避行、そしていきなり将来の夢が絶たれてしまう人生を描いた作品。凄惨(せいさん)な現実のリアルと、どこまでもポジティブな青春のリアルが、画面からあふれ出ているような作品です。
ちなみにDVDには、長谷川監督のロングインタビューが付いていますよ。こちらも、もうひとつの見どころです!
6.太陽を盗んだ男【監督】
あらすじ
カルト的人気を誇る長谷川監督の代表作。ぼんやりした中学の化学の教師・城戸誠(沢田研二)がふと自分で原爆つくれるじゃん!と気づきます。
作ってはみたものの、どう使っていいかわからない城戸先生、以前巻き込まれたバスジャック事件で知り合った、警視庁のエース・山下警部に絡むことを思いつきます。
城戸先生は、実は仕事ができて男らしい山下警部に憧れています。そんな山下警部に、自分が原爆を持ち、力を持ったことを認めさせたいのです。身近にいる城戸先生が犯人であることに、最後まで気づかなかった山下警部はつぶやきます「俺はばかだ!」。
監督・長谷川和彦「太陽を盗んだ男」事件な撮影裏話はこれだ!
・主人公を乗せたバスがバスジャックされ、猛スピードで皇居に突っ込むハイライトシーン。『青春の蹉跌』のところでもご紹介しましたが、実際は撮影許可が降りず、ゲリラ的に撮影を敢行することになります。ロケ隊は逮捕も覚悟だったようですが、実際はそれ程のスピードも出せず、皇居警察から「はい。団体バスの入り口は向こうね」と軽くあしらわれて終わったそうです。
・長谷川監督と俳優・菅原文太さんは、新宿ゴールデン街の飲み仲間。長谷川監督の申し出に、「面白いじゃない。やろうよ!」と即決で応じてくれたそうです。主役に「ジュリーなんかどう?」と提案してくれたのは菅原文太さんという裏話もあります。
「太陽を盗んだ男」日本映画を動かした見どころはここだ!
中学の化学の教師が、身近かな材料を使って(プルトニウムだけは別ですが)原爆を作ってしまうというという設定のこの作品は、その斬新なアイデアが大きな話題になりました。
そして作ってはみたもののどう使っていいかわからないというリアルな現実感と、政府や警察を巻き込んだスケールの大きなアクションで、エンタテイメント作品として高い評価を受けました。
シリアスで重いテーマを、エネルギッシュなアクションで、エンタテイメントな作品に仕上げる、長谷川監督の代表作です。
7.逆噴射家族【製作】
出典:Amazon.com
あらすじ
長谷川監督が設立した「監督が経営する監督のための映画製作会社」ディレクターズ・カンパニーの作品です。製作・同社代表長谷川和彦、監督:同社メンバー石井聰亙。原案・小林よしのり。
都心の団地住まいから、やっとのことで郊外に戸建の我が家を建て、引っ越してきた小林家の家族たち。主人・勝国(小林克也)は20年ローンを組んだ我が家に感動もひとしお。そんな小林家に、郷里の実家から出てきた父・寿国(植木等)が乱入するところから、家族の歯車が狂い始める。
いつまでも家に居座り続ける寿国。家族は次第に狂気をはらむようになり、壮絶な家庭内バトルが繰り広げられる。そしてラスト。小林家の家族たちは、家族を狂わせたのは他ならぬ「我が家」であることに気づく。
製作・長谷川和彦「逆噴射家族」事件な撮影裏話はこれだ!
・ディレクターズカンパニー代表・長谷川和彦、ADG代表・佐々木史朗、漫画家・小林よしのり、監督・石井聰亙の4人で相談の上、企画が決定しています。同社の製作作品としては、池田敏春監「人魚伝説」に次ぐ第二作です。女優・工藤夕貴のデビュー作でもあります。
・登場人物は家族5人だけ。舞台はほぼ一軒家だけ。都心のマンションから戸建てに移り住む家族の象徴的なエリアとして、ロケ地に浦安市が選ばれています。
「逆噴射家族」日本映画を動かした見どころはここだ!
見どころは何といっても、石井監督お得意の壮絶・凄惨なバトルです。
どんな人間にも、少し位はどこか変わったところがあるものです。ところがこの作品では、家族一人ひとりの「少し変わったところ」が「狂気」へと変貌し、最終局面では家族同士の凄絶な「バトル」にまで至ります。
「普段」がいつの間にか「狂気」をはらみ、そして「暴力」へと突き進んでしまう。そんな迫真の画面づくりが、長谷川監督が石井監督を起用したポイントなのでしょう。
まとめ
まとめとして、長谷川監督のもうひとつのエピソードをご紹介します。「逆噴射家族」でもご紹介したように、長谷川監督は「ディレクターズ・カンパニー」という映画製作会社を1982年に立ち上げます。
この会社は、映画監督自身がプロデューサーとなり、独立して作品を製作していける会社を目指していました。新しい才能を求めて、日本の映画界自体を革新しようとしたのです。
そして、長谷川監督の志しに共感して、そうそうたるメンバーが集まります。長谷川監督を代表として、石井聰亙・井筒和幸・池田敏春・大森一樹・黒沢清・相米慎二・高橋伴明・根岸吉太郎らの監督たちです。
残念ながらこの会社は10年後に破産してしまいますが、「映画監督のための新しい場」を作ろうとした長谷川監督の革新的なチャレンジとして、日本映画史にその名前を残しています。
監督である以上に「映画人」であろうとし、映画界のために新しいことに挑戦し続ける長谷川監督。
「日本映画を『動かす』」アグレッシブな姿勢は、今も変わりません。中身は「ゴジ」のままなのですね。感服です……!