『ゲド戦記』のあらすじネタバレ|今だから伝えたい、若者へのメッセージを解説
スタジオジブリが2006年公開にしたアニメーション映画『ゲド戦記』。本作は2020年にコロナ禍においてリバイバル上映が行われたり、監督の宮崎吾朗監督は2020年に新作の『アーヤと魔女』の放送が控えていたりと、今もなお注目の一本です。
この記事では、本作がどんな作品になのかを追っていきます!!
映画『ゲド戦記』について
『ゲド戦記』は2006年7月29日に公開されたスタジオジブリ制作のアニメーション映画です。監督は宮崎駿監督の息子である宮崎吾朗監督。本作は宮崎吾朗の初監督作品です。
原作は、アーシュラ・K・ル=グウィンの同名小説。長編における第3巻に当たる「さいはての島」のエピソードをピックアップして映画しています。
そしてもう一つ、本作には原作とは別の原案が存在します。それは父・宮崎駿が手がけた絵物語『シュナの旅』です。小説『ゲド戦記』、そして絵物語『シュナの旅』の二つの物語からアニメ映画『ゲド戦記』は生まれました。
本作は公開以来、話題作となり興行収入は76.9億円を記録しました。この数字は2006年の邦画興行収入としては1位の記録であり、2020年時点でスタジオジブリ作品においても7番目に高い記録となっています!
スタジオジブリ作品ということで、現在国内ではオンライン配信などがされていません。鑑賞するとなると、ディスクリリースされているものを購入するか、レンタルする必要があります。
10秒で分かる『ゲド戦記』
魔法使いが存在する世界。竜とは世界を住み分けたはずが、その竜が人間の世界へ現れ共食いを始めたり、魔法使いが力を失ってしまったりと、何者かによって世界の均衡が失われ始めていました。
そんな中、エンラッド王国の王子、アレンは精神を病んでおり、衝動的に国王である父を刺してしまいます。そして国を逃げ出したアレンは、途中で狼たちに襲われてしまうのです。
そこへ、世界の異変の原因を探るべく旅をしていた男・ハイタカが現れアレンを救います。これも何かの縁と、ハイタカはアレンと行動を共にし、腐敗が進む街ホート・タウンへやってきます。
こうして出会った二人は、世界の不均衡の原因へと迫っていくのでしたーー。
『ゲド戦記』のネタバレあらすじ
【あらすじ①】ハイタカとアレンの出会い
世界を住み分けたはずの竜が人間界に現れ、魔法使いは力を失い始めたりと、何者かによって人間の世界に異変が起こり始めていた。危機感を抱いたエンラッドの国王は原因の究明に急いでいた。そんな矢先、息子であるアレンによって突如国王は刺されてしまう。
そのまま逃げ出したアレンは、その途中で狼の群れに襲われてしまう。もはやここまでかと思われたその時、大賢人ハイタカが現れ、アレンを救う。
これも何かの縁と、ハイタカはアレンに旅の付き添いに誘う。アレンはそれに応じ、二人の旅が始まった。
こうして二人は、かつては栄華を誇っていたホート・タウンを訪れる。かつては美しい街も今では偽物の商品が横行していたり、人身売買が横行して荒んだ有様となっていた。
【あらすじ②】テナーの家での生活
ホート・タウンの街で、アレンは人狩りのウサギに追われるテルーに遭遇する。とっさに彼女の救出には成功するも、逆にアレンがウサギに捕まってしまう。奴隷として売られそうになっていた矢先、ハイタカが現れアレンを救出する。
朦朧としたアレンを連れ、ハイタカはテナーの家を訪問する。昔ながらの知人であるテナーは二人を受け入れるのだった。
そんなテナーの家には実はテルーが一緒に住んでいた。命を大切にせず、生きることから背いているアレンに対して、テルーは初めは嫌悪感を示す。しかし、共に畑を耕し、家畜の世話をしていく上で、アレンも生への喜びが増し、次第にテルーもアレンのことを受け入れ始めていく。
こうして親しくなったアレンはテルーに、自分が父親を刺したこと、そして自分の影に追われて不安に駆られていることを打ち明ける。
【あらすじ③】クモに狙われるアレンとハイタカ
ハイタカは情報を探っていくうちに、世界の均衡を崩しているのが魔法使いのクモであることを察する。そのクモもハイタカが街へ現れたことを知る。クモとハイタカは過去に因縁があり、お互い恨みを持っていたのだ。
クモはアレンの影を使い、アレンを自分の城へと連れ去ってしまう。クモはアレンを誘導し、真の名を聞きだす。真の名を知られてしまったアレンはクモによって操作されてしまうのだった。
その頃、ウサギはテナーの家に押し入っていた。そのままテナーを連れ去るウサギはテルーに、ハイタカにこの事を伝えるよう言い残し去っていく。
テルーから事情を聞いたハイタカは、魔法を駆使し見事クモの城への侵入に成功する。しかし、それはクモの罠だった。アレンと対峙することになるハイタカだったが、魔法がうまく使えなくなり、テナーと共に幽閉されてしまう。
【あらすじ④】クモとの戦い
一人残されたテルーは、ハイタカから預かった剣を手に一人でクモの城へ乗り込んでいった。アレンの影によって導かれたテルーは、無事アレンの元に辿り着く。テルーの言葉によって心を動かされたアレンは、闇から抜け出すことに成功する。
まさにハイタカの処刑が執行されようとしたその時、アレンとテルーが救出に現れた。ウサギたちを蹴散らし、クモを追い詰めたかと思われたものの、強力な魔法によって逆転されテルーはクモに捕まり殺されてしまうのだった。
ショックを受けるアレン。しかしその時、テルーは蘇り竜へと姿を変えて現れた。圧倒的な力でテルーはクモを倒すのだった。
戦いに勝利したアレンたち。アレンはテルーに、自分の犯した罪を償うために国に帰ることを伝える。しばらく畑の手伝いをし、同じ時間を過ごしたハイタカとアレンは、テルーとテナーに別れを告げ旅立っていくのだったーー。
ゲド戦記のキャスト
スタジオジブリ作品の王道入り声優から、初参加の声優まで揃っている本作。有名な役者さんが沢山登場しています。
アレン / 岡田准一
『ゲド戦記』の主人公がアレンです。エンラッド国の王子ですが、王である父を刺してしまったことで、エンラッドから逃げ出してくるのです。基本的には真面目な青年なのですが、自分の分身である“影”に追われており、情緒不安定な状態になっています。
そんなアレンを演じているのが、V6所属の岡田准一さん。アイドルグループ所属でありながら、役者としても評価が高く『永遠の0』『散り椿』『SP』シリーズなど、ドラマに映画に大活躍中です!
テルー / 手嶌葵
『ゲド戦記』のヒロインであり、映画のキーキャラクターとなるのがテルーです。
両親に虐待された末に捨てられた過去を持ち、顔に大きな火傷があります。なかなか人を受け入れることがない彼女には実は大きな秘密もあるのです!
テルーを演じるのは、当時はまだ無名の新人だった手嶌葵さん。主題歌である『テルーの唄』も歌い、ヒットソングとなりました。この主題歌は、作中の見せ場としても印象深いですよね。
ハイタカ / 菅原文太
アレンを導く重要なキャラクターとして登場するのがハイタカです。大賢人なので、魔法を使って自分の姿を変えたり、物を動かしたりと様々な能力を持っています。世界の均衡が崩れているために、その原因を探って旅をしています。本当の名前はゲドであり、原作『ゲド戦記』は彼が主人公の物語として描かれています。
そんなハイタカを演じるのは、日本の名俳優である菅原文太さん。『仁義なき戦い』シリーズや『トラック野郎』シリーズなど多くの邦画に出演してきました。
残念ながら2014年に亡くなられており、『ゲド戦記』は晩年の貴重な吹き替え出演作品となりました。
クモ / 田中裕子
『ゲド戦記』における宿敵として登場するのがクモです。永遠の命を求める魔法使いで、過去の因縁から、ゲドへの復讐を企んでいる人物。手下のウサギを使い、アレンやハイタカを捕らえようとします。
そんなクモを演じるのは、ベテラン女優である田中裕子さん。これまでの代表作として『おしん』や『天城越え』、最近では『はじまりのみち』、『深夜食堂』、『ひとよ』などに出演しています。
キャラクターのビジュアルや、田中裕子さんが演じていることから女性のキャラクターと思われるかもしれませんが、実はクモは男性なんですよ!
テナー / 風吹ジュン
ハイタカの良き理解者として宿を貸して上げてくれる女性がテナーです。親に捨てられたテルーを女手一つで育てたり、住人にほぼ無償で薬を作ってあげるなど、心優しい人物です。ハイタカとは、昔馴染みの間柄で、かつては巫女であったことも作中で語られます。
テナーを演じるのは、こちらもベテラン女優である風吹ジュンさん。『風林火山』や『家族はつらいよ』シリーズ、『そして父になる』などテレビドラマに映画にと、現在進行形で多くの作品に参加しています。
ウサギ / 香川照之
クモの手下として登場するのがウサギです。普段は人狩りをしており、街で人を連れ去って奴隷として売り飛ばす悪党です。クモには真の名を知られているのか、クモの命令には従順に従います。
そんなウサギを演じるのは、こちらもドラマに映画に大活躍のベテラン俳優の香川照之さん。『半沢直樹』や『るろうに剣心』、『カイジ』など数多くの作品に出演し、その個性的な演技で人気となっています。『ゲド戦記』においても脇役でありながらコミカルな言動で印象に残る演技を見せてくれていますよね。
『ゲド戦記』に関して知っておきたい5つの秘密
『ゲド戦記』には原作が映画の内容よりも長い長編小説ということもあり、映画の中では語られていない様々な秘密が隠されています。今回はその秘密を5つ紹介します!
【秘密①】なぜハイタカには傷がある?
『ゲド戦記』のキーキャラクターであるハイタカ。彼の顔には大きな痣のような傷が残っています。劇中ではその傷について語られませんが、なぜあの痕が残っているのでしょうか。
実はこのハイタカの傷が生まれるエピソードは、原作小説『ゲド戦記』の第1巻である「影の戦い」で描かれているんです!
まだ若い頃のハイタカは、自分の魔法の才能に自惚れてしまい、魔法の暴走を起こしてしまいます。その際に禁断の魔法を使い、死者の魂と「影」と呼ばれるものを呼び出してしまうのです。第1巻ではまさにその影との戦いが描かれるわけですが、その影によってハイタカは顔に大きな怪我を負ってしまいました。
作中では達観して立派な人物として描かれるハイタカですが、その顔の傷には彼にも紆余曲折があったことを示しています。自身の至らない時期があったからこそ、アレンにも根気強く優しく接することができたのかもしれませんね。
【秘密②】テルーの傷は誰がつけたもの?
『ゲド戦記にはもう一人、顔に大きな傷を持っているキャラクターが居ます。それがヒロインのテルーです。彼女の傷については、テナーによって語られている通り、子供の頃から虐待を受けた時のものであることが明かされています。
作中では大きく残った痣として描かれていますが、原作小説ではよりひどい傷であることが描かれており、片目は失っていて、その火傷痕は顔だけでなく右半身を覆っているというより悲惨な姿で登場します。
『命を大切にしないヤツなんて、大嫌いだ!』と訴えるテルー。壮絶な過去を持っているからこそ、強い説得力がありますが、原作の傷のことを思うとよりその言葉の重みが増しますよね。
【秘密③】街で売られているハジアの正体は?
荒廃したホートタウンを描いたシーンでも印象的なものの一つに、怪しい男の商人がアレンに“ハジア”と呼ばれる薬のようなものを渡すシーンがありました。「苦しさも、不安も全て忘れて幸せになりますよ」と勧誘する男。そして、その側ではハジアを使って、ぐったりと倒れる人たちが描かれていました。このハジアとはなんだったのでしょうか。
服用した者たちの症状から、ハジアとは麻薬であることが分かります。ハイタカが口にすることを厳しく禁ずるように、麻薬は一度使ってしまうと、一時的に高揚感は得られるものも、一度効果が切れると依存してしまうという危険な性質を持っています。
商人は無料でアレンにハジアを渡そうとしていましたが、おそらく依存症にさせて、それなしではいれられない身体になってから対価を請求するつもりだったのでしょう。麻薬自体は決してファンタジーではないので、同じような手口に捕まらないように気をつけてくださいね。
【秘密④】なぜこの世界の人たちは偽名を使っているのか?
『ゲド戦記』のなかで詳しく語られない設定のうち、それぞれが偽名を使っているということが挙げられます。
アレンの本当の名前はレバンネン、テルーの本当の名前はテハヌー、そしてハイタカの本当の名前はゲドです。これらは彼らの真(まこと)の名であり、作中の多くで呼び合っている名前は偽名なんですね。
これは、人に真の名を知られてしまうと、己の魂を委ねることと同義であり、もし真の名を知られてしまうと支配権を掌握されてしまうからなのです。
作中でもアレンがクモによって操られてしまうのは、この真の名を知られてしまったから。よほどの信頼関係がない限り、真の名は相手には教えないものなのです。
この設定は、現実世界にも似たような考えとして存在します。キリスト教に存在する“洗礼名”もその一つ。本名である真名を敵や悪魔に知られてしまうことを避けたり、呪いの対象となるのを避けるために、この洗礼名を用います。
ちなみに映画ではテナーのみ、名前が二つ登場しません。実はこのテナーという名前こそ、原作小説の第2巻「こわれた腕環」でテナーが手に入れる真の名です。名前を失う運命を持っていた彼女をゲドが救い、真の名を手に入れたことで自由と未来を獲得しました。
【秘密⑤】なぜクモはハイタカを恨んでいるのか?
ハイタカとクモの間には因縁があるのですが、映画『ゲド戦記』ではセリフで語られているのみ。改めてハイタカとクモの間にどんな因縁があるのかを紹介します。
もともと、クモは魔法で黄泉の扉を開いて、強大な力を手に入れようとしていました。そのクモを途中で捕まえて阻止したのがハイタカです。その際にクモは心を入れ替えるので許して欲しいと約束をした上で、ハイタカの手を逃れました。
そんな過去があってからのエピソードが描かれるのがこの映画『ゲド戦記』です。再び悪事を働くクモと再会したということで、ハイタカは激怒するわけですね。
映画『ゲド戦記』が伝えようとしていたメッセージ
結局映画『ゲド戦記』は何を描いた映画だったのでしょうか。上記の制作背景や、原作の設定などを抑えて、映画『ゲド戦記』が伝えようとしていたメッセージを紐解いてみましょう。
父親殺しは若い世代が持つ衝動性
アニメ映画『ゲド戦記』では冒頭でアレンが父親を刺してしまうという事件が発生します。実はこの事件はアニメ映画のオリジナルの設定で、原作の『ゲド戦記』では一切登場しません。
『ゲド戦記』の監督である宮崎吾朗は、宮崎駿の息子。そのため、公開当時は吾朗監督の父親に対する反抗心や時代の変革などを表しているのでは?という声も上がりました。
しかし実際は、アレンが父親を刺すという設定を提案したのはスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサー。鈴木プロデューサーの思惑として、駿監督と吾朗監督の関係性が前提にあったことは明らかなようですが、吾朗監督が個人的な父親に対する敵意を描いたつもりでないことは監督自身の口から語られています。
アレンの父殺しは、若者たちが感じる不安や閉塞感、心の闇のメタファーであり、アレンが刺すという行動を、若い時に胸の内から湧き上がってくる衝動を表しています。映画『ゲド戦記』がまさに、主人公のアレンと同じぐらいの若い年代に向けて作られたことが分かりますね!
誰もが”光”と”闇”を持つ
映画『ゲド戦記』の物語のきっかけであり、何度となく登場する不思議な存在がアレンの影です。アレンはもともと影を悪いものと見なし、恐れていました。しかしその影も、後々テルーを導く存在として登場します。最後にはアレン自身も、自分が恐れていた影こそが、自分の善き心であったことに気づきます。アレンの闇の部分だと思っていた影こそ、実は光の部分だったわけですね。
映画『ゲド戦記』では、アレンのように自分の闇の部分を受け入れることで、光の部分と同化し、前進していける、ということを描いていると言えます。
親や友人、先生など、アレンと同年代のティーンズにとっては、人間関係から自分の負の部分を自覚することが多くなっていくことでしょう。つい自分を責めてしまったり、自暴自棄になってしまうなんてこともあると思いますが、そんな時こそ『ゲド戦記』のアレンを思い出しましょう!『ゲド戦記』はそう言った衝動も認めながら、自分を受け入れていくことが大事だと語ってくれています。
テルーはアレンに対して「怖がっているのは、死ぬことじゃないわ!生きることを怖がっているのよ!!」と語ってくれています。そんなテルーの言葉は、スクリーンの前のあなたに向けられた言葉でもあります。時には生きることが辛くなったり、挫けそうになることもありますがそんな時にこの言葉を思い出していきましょう。
世界平和からは程遠いエンディング
映画『ゲド戦記』はもともと、均衡が崩れた世界をどうにかしなければいけない、という世界観の中で物語が始まりました。映画はクモを倒したので一件落着したかのように描かれていますが、実は崩れ始めた世界の均衡が元に戻ったとは描かれていませんし、言及されていません。世界には平和が訪れたのでしょうか?
その答えはNOと言っても良いかもしれません!
かつては栄えていたホートタウンの人々は、クモの悪事だけで荒んだわけではないでしょう。偽物の商品も、他責にして販売を推し進めていたり、人を堕落させる薬にも、安易に手を出して正気では居られなくなっていたり。
それぞれが課題を抱えており、その改善に努めていかないと真の平和は訪れないでしょう。だからこそ映画の最後にも、アレンには国に帰り罪を償うという課題を残しています。
未だ人類は戦争や経済、さらには疫病など多くの課題を抱えています。そんな課題を解いていく手引きとして、『ゲド戦記』のエンドロールが用意されていると言っても良いでしょう。例え血が繋がっていない仲でも、生活を共にし、談笑し合う。そんな地道な行動を一人一人が努めていくことこそ、平和な世界への足がかりとなることを示してくれているのです。
まとめ
映画『ゲド戦記』のあらすじ、登場人物から、映画が描こうとしたメッセージや描かれていない秘密までも一挙に紹介しました。
制作背景が特殊なこともあり、いろんな切り口で楽しめる映画が『ゲド戦記』です!原作や原案の視点からや、制作背景の視点からなどこの記事で紹介した内容を抑えて鑑賞すると深みが増してくるかもしれませんよ!
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