映画『万引き家族』の名言が深い!!一緒に生きることの意味とは
是枝裕和監督が描く、また新たな姿をした人と人との絆の物語です!
この映画を観ると、自分の概念が混乱するかもしれません。それだけ多角的な視点から描き出されているので深さを感じる作品でもあり、わざと曖昧さが残されていて、観る側の感性を促す作品でもあります。
『万引き家族』というインパクトのあるタイトルでも有名ですが、第71回カンヌ国際映画祭を受賞し世界に誇れる映画です。そして新たに今年(2019年)、第42回日本アカデミー賞を受賞しました。
「盗んだのは、絆でした」のキャッチコピーにもあるように、絆とは何なのかを考えさせられる作品です。そんな『万引き家族』からの名言をご紹介していきます。
あらすじ
出典:映画『万引き家族』予告編
スーパーで慣れた手つきで万引きをする父・柴田治(リリー・フランキー)と息子の祥太(城桧吏)は、帰り道にコロッケを買って歩いていた。そして、寒い冬空の下、団地の外廊下に締め出されている小さな女の子(佐々木みゆ)を発見し、母・初枝(樹木希林)、妻・信代(安藤サクラ)、信代の妹・亜紀(松岡茉優)がいる自宅へ連れて帰るのであった。
すると、信代は「もう少し金の匂いのするもん拾ってきなよ」とぼやく。名前を聞くと「ゆり」とか細い声でいう女の子。初枝は、ゆりの身体にたくさんの傷跡を見つける。しかし、そのままだと誘拐になってしまうため、その夜、治と信代はゆりを団地まで送ろうとする。団地に近づくと、ゆりの両親の激しく言い争う声が外まで聞こえる。「産みたくて産んだんじゃない」という母親の言葉を聞き、信代と治はゆりをそのまま家に連れ帰ってしまうのだった――。
犯罪でしかつながれなかった疑似家族の物語。そして、あることをキッカケにその家族の秘密が明らかになる――。
『万引き家族』が届ける心に突き刺さる名言
是枝監督の作品では、その関係性や立場だからこそ意味を持つセリフが多く、言葉自体というよりその背景によってその言葉の重みが増します。
『万引き家族』は、家族の物語のようでもありながら、人と人との繋がり方や、人の立場による視点の違いなどを深く考えさせられる映画です。
そんな『万引き家族』のセリフから抜粋したものを、解説を踏まえてご紹介していきます!
(解説ではどうしてもネタバレが含まれてしまいますので、ご注意ください)
【名言①】「『りん』の方がいい」
「ゆり」の両親は、捜索願を出さないままだったが世間に露呈し、行方不明になってから2か月以上も経っていた事からニュースになります。そこで「ゆり」の本名が「じゅり」だと分かるのです。
そして彼らはバレないように偽名を考え、初枝は「はな」信代は「りん」が良いと話しながら変装のためにゆりの髪を切ります。新しい髪型を皆に褒められ嬉しそうにするゆりに、亜紀が「お姉ちゃんもさぁ、もう一個名前あるよ。さやか」と言うと、じゅりは「『りん』の方がいい」とハッキリと言うのでした。
虐待を受けていた「ゆり」は、「りん」として自分の意思で親の元に戻らず、何の関係性もない今一緒にいる人たちと暮らすことを決めるのです。
幼い子どもでも自分の意思があることが分かるシーンになっています。
【名言②】「自分で選んだ方が強いんじゃない?」
祥太とりんを連れて買い物に行く道で、信代が初枝に言うセリフです。
初枝はりんが親の元に戻ると思ったと話しますが、信代は「自分で選んだ方が強いんじゃない?」と、初枝「何が」と問うと、「何がって……絆」と信代は照れながら嬉しそうに話すのです。
信代が、血の繋がり以外にも絆ができると思っていることが顕著になるセリフでもあり、絆の強さとは何かという、この映画の重要なテーマを考えさせられます。
【名言③】「お金……普通は」「俺たち普通じゃねぇからな」
亜紀と治の会話です。亜紀が治に「信代さんとさ。いつしてるの?」と聞くと治は胸をトントン叩きながら「ここで繋がってんだよ。ここで」と言います。そして「どこで繋がってると思ってんだよ」という治に対して亜紀が言ったのが「お金……普通は」というセリフです。
亜紀の人との繋がりに対する疑心暗鬼が出ているセリフです。
また、それに対して治の「俺たち普通じゃねぇからな」というセリフによって、亜紀がこの疑似家族に心の繋がりがあることを期待するシーンです。
また、この作品には「普通は」というセリフがよく出てきます。普段、普通の人が見えていないモノが描かれている作品だということが分かるセリフでもあります。
【名言④】「『スイミーは教えた、決して離れ離れにならないこと。皆が持ち場を守ること』」
祥太が『スイミー』を朗読しているセリフですが、これは、この疑似家族の暗黙のルールを表現しているかのようです。
更に、生きるために小さい魚が集まって大きな魚に見せかける『スイミー』の話は、普通から見たら、なんの関係性も持たない彼らが一緒にいるのは、生きていくため、自分たちの安全な場所を守るためだと示唆しているようにも考えられます。
【名言⑤】「好きだったらね。好きだったらね、こうやってやるの」
「ゆり」を拾った時に着ていた服を燃やしながら、信代が「りん」に語りかけます。「叩かれるのはね。りんが悪いからじゃないんだよ」と。そして「好きだから叩くんだよなんて言うのはね。嘘なの」と話し、「好きだったらね。好きだったらね、こうやってやるの」とりんを抱きしめます。
信代が実の親以上にりんに愛情を注ぐシーンでのセリフです。そして、りんは信代の頬を伝う涙を拭い、その愛情を受け入れるのです。
更に、服を燃やしていることによって、「りん」は虐待をしていた家族と決別し、この疑似家族の一員になることを感じさせます。
【名言⑥】「妹にはさせんなよ?」
これはお店の主人(柄本明)が祥太に言ったセリフです。
祥太がりんに万引きをさせた時、お店の主人が「おい」と声を掛けます。万引きがバレたと思って固まる祥太にお店の主人は「おい、これやる」と言ってチューブジュースを2本差し出すのです。バレてない、けれど後ろめたい祥太にお店の主人は「妹にはさせんなよ?」と言うのです。
これによって祥太は衝撃を受けます。自分はいけない事をしていたと痛感するのです。
また、このお店の主人の存在とある出来事がキッカケで、のちに祥太にある変化が訪れます。万引きについて、そして一緒に暮らしている治と信代に対して疑念が心の中で波紋のように広がっていくのです。
【名言⑦】「その代わり、しゃべったら殺す」
信代が務めるクリーニング店で、信代と同僚がリストラ候補になります。そして二人の内どちらが辞めるかを自分たちで決めなければならないシーンでのセリフです。
二人で話していると、同僚は「もし譲ってくれたら、黙っとくから」「ニュース。見ちゃったんだ。あんたがあの女の子と一緒にいるところ」と言って、信代を脅してきます。言葉に詰まった信代は、何度も頷き「その代わり、しゃべったら殺す」と言うのです。
このセリフに、信代の今の家族を守りたい気持ちが強く感じられます。
また、それと同時に犯罪で繋がる脆さという負の一面を表しているシーンでもあるのではないでしょうか。
【名言⑧】「血が繋がってない方がいいって事もあるじゃん」「余計な期待しないだけね」
海で楽しそうに遊ぶ「りん」の姿を見ながら、浜辺にいる信代が初枝に「私が言った通りだったでしょ」と言います。すると初枝は「こんなの長続きしないよ」と。すると信代の「血が繋がってない方がいいって事もあるじゃん」というセリフに、初枝は「余計な期待しないだけね」と返すのでした。
皆で海で遊ぶ姿は、家族そのものに見える彼らは、実の家族ではないのです。お互いがそのことが分かっていながら共に暮らし、笑いあって過ごしています。他人だから、相手に期待しすぎず、だからこそ上手くいっている部分があるのです。
血が繋がっている家族では、相手に過度に期待したり甘えたり、我が子を自分の所有物のように扱ってしまうことがある現実を考えると、突き刺さるセリフではないでしょうか。
【名言⑨】「捨てたんじゃないです。拾ったんです。誰かが捨てたのを拾ったんです」
初枝が亡くなり、遺体を家の中に埋めてやり過ごそうとしましたが、発覚します。
それによって疑似家族の秘密が暴かれ、家族がバラバラになってしまいます。
そして、信代が取り調べで「死体遺棄っていうのは重い罪ですよ」と言われた時に返したのがこのセリフです。
更に信代が続けます「捨てた人っていうのは他にいるんじゃないですか?」
これは、初枝が孤独な老人であり、その老人を捨てたのは実の家族だと示唆しているのです。そして、自分たちは、孤独な老人を拾ったのだと。
罪に問われる側が、罪を問う側に一瞬にして逆転する名シーンです。
【名言⑩】「何だろうね。……。……。何だろうね」
信代が、警察から事情聴取されている時に「子ども二人は、あなたのこと何て呼んでました? ママ? お母さん?」と聞かれた時のセリフです。
絆は確かにあったのに、その関係性を言い表す言葉が存在しないことを感じさせられます。
また、このシーンでの安藤サクラさんの演技が素晴らしく、「何だろうね」という言葉は、人によって様々な解釈ができることでしょう。
まとめ
映画『万引き家族』の名セリフ・名言を10個ご紹介いたしました。
この映画は、曖昧さや矛盾を残したことによってリアリティが増しています。また、それによって観客に自由な解釈の余地が与えられています。ですから、ご紹介した解釈は一例にすぎません。
曖昧な部分を考えることによって、ただ観るだけでなく、自分の概念がどういうものかを気づかされます。
多角的な視点が交差する秀逸な映画なので、自分が名言と感じるものを発見してみてはいかがでしょうか!
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