アーティストとしての顔も併せ持つスティーヴ・マックイーン監督の映画特集
心の奥底を完璧に映し出すことに定評のあるスティーヴ・マックイーン監督は作品数が少ないながらも一つ一つとても評価が高く、完成度の高い映画を世に送り出しています。
今回は、そんなスティーヴ・マックイーン監督が手掛けた映画を4作品、ご紹介していきます!!
スティーヴ・マックイーン監督について
出典:Wikipedia
スティーヴ・マックイーン監督はイギリスのロンドンで1969年10月9日に生まれました。大学では美術とデザインを学び、その傍らに映画製作を始めました。
そんなマックイーン監督は映画監督としての顔があるだけでなくアーティストとしても活動しており、シカゴ美術館、パリ市立近代美術館、日本のMIMOCA(ミモカ)という美術館などの名だたる美術館に展示されるほどの才能があります。
アーティストとしても活躍するマックイーン監督ですが、2008年に抗議運動を題材とした長編映画『ハンガー』で監督デビューを果たします。初の長編映画にも関わらずカンヌ国際映画祭カメラ・ドール賞、英国アカデミー賞新人賞を受賞し、その名を轟かせました。『シェイム』で病んだ心を鮮明に描く一方で、『それでも夜は明ける』という映画では、人間性の美しさを映像で伝えることができるマックイーン監督に名俳優のブラッド・ピットは惚れ込んだそうです。
今回はそんな才能に溢れるマックイーン監督の作品を4つご紹介します!
スティーヴ・マックイーン監督の映画
1.ハンガー
出典:Amazon.co.jp
あらすじ
メイズ刑務所の囚人たちは好きな服を着て、他の囚人とも交流でき自由を謳歌していた。
しかし政変により、看守から殴られ、強制的に囚人服を着せられ、人とも思わない扱いをされ始めた。囚人たちは「5つの要求」を掲げ大規模で様々なストライキを行うのだった。囚人ボビー(マイケル・ファスベンダー)を中心としてストライキが始まり、「囚人服を着せられるなら、裸で毛布を被っていた方がましだ」と囚人服着用を拒否する”ブランケット・プロテスト”というストライキを行った。収監されていた囚人たちはみんなこのブランケット・プロテストに乗り気でいたが、看守たちは殴る蹴るなどの暴力で対応した。
その暴力に抗うため、次は”ダーティ・プロテスト”という壁に排泄物を塗りたくるストライキで看守に反抗したのだが、ボビーは看守のローハン(スチュアート・グラハム)に狙われてしまうのだった…
スティーヴ・マックイーン監督映画『ハンガー』撮影裏話!
・実在した話をモデルにしており、ボビー・サンズは実際にハンガー・ストライキで60日間の絶食をした
・そのボビー・サンズは囚人でありながらも、下院議選挙で当選していた
・そのボビーの雄姿に感動して当時11歳だったマックイーン監督は映画化を夢見て、実現したのだった
・主演マイケル・ファスベンダーは役に合わせるため、水と栄養注射で生活をし瘦せ衰えた
スティーヴ・マックイーン監督映画『ハンガー』のみどころ
『ハンガー』に対してマックイーン監督は『とりすました世界で何が起こっているかを知ってほしいだけで、サンズの行為を良いとも悪いとも言っていない」と客観的なポジションをとっています。映画を監督、脚本をする上でこういった視点を大切にしているマックイーン監督の実力を知れるのがこの映画『ハンガー』です。セリフは少なく、言葉よりも行動で示す囚人たちは誰がみても勇ましく見えます。
看守たちから殴られ、虐待を受けても立ち上がることをやめないボビー率いる囚人たちは迫力満点で、当時のイギリス政府を動かすほどの影響力を持ちました。その圧倒的なリアリティは囚人によるストライキが実在した現場をそのまま撮影したかと見間違えるほどのクオリティがあります。
基本情報
上映時間:96分 監督:スティーヴ・マックイーン 出演:マイケル・ファスベンダー、スチュアート・グラハム、リアム・カニンガム 受賞歴:第61回カンヌ国際映画祭 監督新人賞 公開日:2008年10月31日 |
2.シェイム
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出典:映画『シェイム』予告編
あらすじ
ハンサムな顔立ちながらも独り身生活を送るブランドン(マイケル・ファスベンダー)は職場で評判もあり、裕福な人生であることは他者から見れば間違いなかった。しかし、そんなブランドンは重度の性依存症で夜ごとコールガールを家に呼んでは自身の衝動をぶつけていた。性依存は夜だけでは済まず、電車内でも抑えきれなくなり女性を見つめたり、職場のパソコンにポルノ動画をため込んだりしていた。もちろん隠し通せるわけもなく、ブランドンは職場での信用を失い、悩みはやがて膨れ始めた。
その最中、家に妹のシシー(キャリー・マリガン)がいることに気付いたブランドンは仕方なくシシーのしばらくの滞在を許すのだった。そんなシシーも精神が不安定でリストカットを繰り返しており、ブランドンとは似た者同士だが、ある日の事件から関係が悪化してしまう…
スティーヴ・マックイーン監督映画『シェイム』撮影裏話!
・『シェイム』はアメリカ映画協会からNC-17というレーティングを下され18歳未満は鑑賞できなかったが、制作スタジオの社長はこの作品の深さに感銘を受け、「負の烙印ではなく、名誉の証だ」と捉えていた
・妹のシシー役のキャリー・マリガンはヌードのシーンがあることに驚いたが、アーティストの顔もあるマックイーン監督の演出に意味のないヌードシーンのような不当さは一欠けらも感じなかったと言っていた
スティーヴ・マックイーン監督映画『シェイム』みどころ
一時的な情熱に身を任せ性行為をむさぼるブランドンの心の弱さがこの映画『シェイム』のみどころです。
表の顔はハンサムで後輩からも慕われる頼れる人であるがゆえに、ブランドンの性依存は印象的に映ります。持ち前のハンサムさでもちろん女性に困りませんが、本当の好意を寄せる相手にはカッコよく振舞えないブランドンは”依存に苦しむ弱さ”が溢れかえってます。その違和感のない演技からはマックイーン監督の相棒とも言えるマイケル・ファスベンダーの実力がうかがえます。
マックイーン監督も細かい描写ひとつひとつを見逃さず依存症に抗う姿を映しきり、妹のシシーと仲たがいする時のブランドンの感情は演技とは思えないリアルな感情があります。シシーとブランドンの二人の独特の関係性は現代の家庭にも通じるテーマがあり、味わい深い作品と言えます。
基本情報
上映時間:101分 監督:スティーヴ・マックイーン 出演:マイケル・ファスベンダー、キャリー・マリガン、ニコール・ベハーリー 受賞歴:第68回ヴィネツィア国際映画祭 シネマヴェニーレ賞作品賞、他多数 公開日:2011年12月2日 |
3.それでも夜は明ける
あらすじ
バイオリニストのノーサップ(キウェテル・イジョフォー)は証明書で自由黒人を認められ、家族と幸せな生活を過ごしていた。そんな、ある日にノーサップは友人から二人組の男を紹介され、バイオリニストとしての周遊公演に参加しないかと誘われた。しかし、実は黒人奴隷にするための罠だった。薬を飲まされ昏倒したノーサップはそのまま誘拐され鎖で繋がれてしまい、収容所に収監された。
そしてノーサップは黒人奴隷として売られ、フォード(ベネディクト・カンバーバッチ)という温厚な人の下で働き始めるのだった。ノーサップの持ち前の知識でフォードに目をかけらるが、同時に農園の監督ディビッツ(ポール・ダノ)に妬まれてしまい、暴行を受けてしまう。エップスをティビッツから遠ざけるためにノーサップはエップス(マイケル・ファスベンダー)という新しい主人の下で働いたのだが…
スティーヴ・マックイーン監督映画『それでも夜は明ける』撮影裏話!
・マックイーン監督は奴隷制度がテーマの映画を作ろうとしており、マックイーン監督の妻と二人で奴隷に関する本をリサーチした
・そこで実話であり原作の「12 Years a slave」を見つけ出し、その痛ましい事実を映画にした
スティーヴ・マックイーン監督映画『それでも夜は明ける』のみどころ
『それでも夜は明ける』は奴隷をテーマにした映画ながらも、悲痛さではなく希望が感じられる”人間の強さ”を描いた作品です。
ノーサップは愛する家族から引き離され、農場主のエップス、監督のティビッツからの不当な暴力にさらされます。仲間には裏切られ、過酷な労働で心身ともにダメージを受けるが、それでもノーサップは家族の元へ戻るという希望は抱き続けました。人間の尊厳を踏みにじられても、希望をずっと手に掴んで離さないノーサップの芯の強さは誰もが見習うべき姿勢と言っていいですね。
そんなノーサップとは対照的に、コンプレックスの弱さを隠そうと奴隷を虐げるエップスや温厚でありながら葛藤に苦しむフォードたちも”人間らしく”、そのリアルな演出には驚きを隠せません。そして、ノーサップの12年間の夜(奴隷生活)が明けるラストシーンは思わず涙が出るでしょう。「あなたは何も悪くない」。
基本情報
上映時間:134分 監督:スティーヴ・マックイーン 出演:キウェテル・イジョフォー、マイケル・ファスベンダー、ポール・ダノ 受賞歴: ・第71回ゴールデングローブ賞 作品賞 ・第17回ハリウッド映画賞 ブレイクスルー監督賞 公開日:2013年10月18日に限定公開、2013年11月1日に拡大公開(アメリカ) |
4.ロスト・マネー 偽りの報酬
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あらすじ
とある男4人組は500万ドルを得ることができる強盗計画を立て、30日以内に実行しようとしていた。その完璧な強盗計画のおかげで順調に200万ドルを市議会議員から強奪した。しかし残りの300万ドルを奪い取ろうと次の計画に移るが、特殊部隊SWATに追われてしまうことになった。そしてSWATの容赦のない集中砲火によって4人の強盗たちは命を落としてしまうのだった…
お金を奪われた市議会議員は、持て余した矛先を4人組の男の妻たちに向け、未亡人4人を脅した。そんな中で、彼女らは強盗計画のノートを入手し、その計画を実行しようとするのだが…
スティーヴ・マックイーン監督映画『ロスト・マネー 偽りの報酬』撮影裏話!
・マックイーン監督は主演のヴィオラの演技力を賞賛し「ヴィオラ・デイヴィスは僕のアイコンなんだ。昔の名俳優に肩を並べる素晴らしい女性だ」と言っていた
スティーヴ・マックイーン監督映画『ロスト・マネー 偽りの報酬』のみどころ
まず驚くのは他に類を見ないほどの珍しいストーリーです。強盗計画ものの映画は存在するものの、殺された男たちの妻たちが代わりに強盗するストーリーは誰もが予測できず、奇想天外なストーリーと言っていいでしょう。さらに意外性だけでなく脚本もしっかりと作られておりハラハラドキドキといった見ごたえがあります。
強盗の経験があるはずもなく、成功させようと奮闘する過程は素直に応援したくなってしまいます。段々と強さを身に着ける妻たちは、いつの間にか頼もしくなって、見る人を楽しませてくるでしょう。「一体どうなるの?」「成功できる?」とハラハラドキドキするのがこの作品の楽しみ方と言えます。
基本情報
上映時間:130分 監督:スティーヴ・マックイーン 出演:ヴィオラ・デイヴィス、ミシェル・ロドリゲス、エリザベス・デビッキ 受賞歴:無 公開日:2018年11月6日 |
まとめ
決して諦めずにストライキを敢行する”人間の自由さ”を主張しながらも、性依存でもって束の間の安心を得る”人間の弱さ”を見せるマックイーン監督の多彩な手腕には毎度驚かされます。今回は作品4つをご紹介しましたが、一つ一つ映画の内容が濃いので、4作品ですが見応え十分ですので、見てみてください。
そして、作品を実際に見ると圧倒的なリアリティを持つ世界観に魅了されることは間違いありません。これを機にマックイーン監督の世界にぜひ浸ってみてくださいね!