映画『スイス・アーミー・マン』あらすじネタバレ解説|メニーの正体を考察
無人島で今にも死のうとしている男が不思議な死体に出会い、希望を見出すコメディ映画『スイス・アーミー・マン』。
ダニエル・ラドクリフ演じる死体が飲み水を出したり、おならで海を脱出したり……と斬新すぎる設定に混乱しつつも、つい笑ってしまう不思議な作品です。不謹慎ネタで笑いを取りにくるので好みは別れそうですがコメディとしての完成度は高く、多くの観客を魅了しました。
本記事では『スイス・アーミー・マン』のネタバレあらすじ・キャストについて紹介!
メニーはなぜ動いたのか?などのストーリー考察も記事後半で行っているので、ぜひ参考にしてください。
※一部核心的なネタバレが含まれるので、未視聴の方は注意してくださいね。
目次
映画『スイス・アーミー・マン』について
2016年にアメリカで公開された『スイス・アーミー・マン』。ダニエル・ラドクリフが万能な死体役を演じることで注目を集め、かなり話題になりました。
シュールでブラックなコメディを基本としながら、人類にとっての永遠のテーマである生きるってなんだろう?という謎を問いかけている本作。
内容が内容なので賛否両論ありますが、バカバカしいのに泣いてしまったとの感動の声も多数寄せられている映画で、サンダンス映画祭で「米国ドラマ映画部門最優秀監督賞」、第49回シッチェス・カタロニア国際映画祭で「主演男優賞・作品賞」、さらにヌーシャテル国際ファンタスティック映画祭では「観客賞」を獲得しました。
監督・脚本を担当したのはダニエル・シャイナートとダニエル・クワン。
どちらも現段階ではあまり有名ではありませんが、ダニエル・シャイナートは2019年に公開された『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』の監督として名前を知っている方もいるのではないでしょうか。
2人は主に「ダニエルズ」の名称でタッグを組んで活動しており、監督、編集、VFX、時にダンス、演技、スタントなど幅広く活躍。映画監督を務めたのは『スイスアーミーマン』が初めてですが、ミュージック・ビデオ制作で何度も賞を獲得していたりと、才能あふれる方々です。
奇抜なアイディアで注目を集めた彼らの次回作も楽しみですね!
10秒でわかる!映画『スイス・アーミー・マン』の簡単なあらすじ
無人島に漂流し、脱出も救出も不可能だと諦めて命を絶とうとしていたハンク(ポール・ダノ)は、波打ち際に倒れている男を発見する。
必死に駆け寄るも男は既に死んでいて、尻から腐乱ガスを発していた。再び絶望したハンクは今度こそ死のうとするが、今度は男の身体が海に浮かんでいるのを目撃。
もしや…と思ったハンクが男に跨ると、男はジェットスキーのように海を進んでいって……?
映画『スイス・アーミー・マン』のネタバレあらすじ
【あらすじ①】孤独なハンクが見つけた万能死体
無人島に漂流したハンク(ポール・ダノ)は孤独に朽ちていくことを恐れ、首吊り自殺を試みる。
だが台から足を踏み外した瞬間、ハンクの目に飛び込んできたのは波打ち際に倒れた一人の男(ダニエル・ラドクリフ)の姿だった。
首に食いこむ縄を暴れて切ったハンクはさっそく男に駆け寄るが、それは死後数日は経っているであろう死体だった。
絶望したハンクは男のベルトを拝借し、二度目の自殺を実行しようとする。だが実行の一歩手前で、男が尻からガスを放出して海に浮かんだことに気づいた。ハンクが男に跨りロープをかけると、男はジェットスキーのようにぐんぐん海を進んでいく。
とうとう島を脱出し喜ぶハンク。しかし興奮のあまり途中でロープを離してしまい、波の中へと沈んでしまう。
【あらすじ②】メニーとの友情
砂浜で目覚めたハンクは、懐かしいお菓子が未開封の状態で打ち上げられているのを発見。それを必死にむさぼり食いながら、故郷に近づいたと狂喜する。
だがスマホに電波は入らないため、依然助けを呼ぶことも叶わずひとりのまま。ハンクは恩人である男を運び出し、一緒に近くの洞窟で夜を明かすことに。
翌朝、目を覚ましたハンクは飢餓状態のハンクはイラつきから、つい男に「お前は横になってるだけの役立たず」と八つ当たり。そのまま男を置いて先に進もうとした瞬間、男の口から水が溢れ出ていることに気づいて目を見張る。
水は真水だった。たらふく水を飲んで喉を潤したハンクは男が「メニー」と口ずさんでいることに気づき、彼をメニーと呼ぶことに。
【あらすじ③】いざ故郷へ
メニーはまるでスイス・アーミー(十徳ナイフ)のようだった。
オナラは浮遊力があるし、口に物を詰めて押すと矢のように勢いよく飛んでいく。手をパチンと鳴らすと電流が走り、火をつけるのに役立った。
おまけにメニーが勃起すると、故郷を示すコンパス代わりになることも判明。
死体なのでハンクがおぶって移動させる必要があったが、少しずつ言葉が堪能になったメニーはハンクの良き話し相手の役を担っていた。
ある日ハンクのスマホ画面に設定されている綺麗な女性を見たメニーは、その女性を自分の大切な人だと思い込む。実際そんなことはないのだが、言い出せないハンクは話を合わせて過ごしていた。
メニーは女性に会いたい一心で勃起し、ハンクはそれを目印に故郷への道をたどる。
【あらすじ④】妄想か、現実か
メニーと過ごすうちに、ハンクは故郷に戻らずここで2人楽しく生きるのもいいかも、と考えはじめていた。
しかし排泄できる場所を探している途中で車道を見つけたハンクは、いつの間にか故郷に戻っていたことに気づく。試しにスマホを起動したハンクはSNSを開き、ロック画面の女性の投稿をチェックする。そこには幸せそうな彼女が自分でも、メニーでもない男と笑い合う写真がたくさん載っていた。
疎遠の父からのバースデーメールも届いており、帰りたいと思ったハンクはメニーに真実を告げる。
騙されたと知ったメニーは怒るが、結局最後はハンクを許して一緒に森を抜ける。辿り着いたのはサラの自宅で、庭で2人を見つけたサラの娘は泣き出してしまった。
様子を見に来たサラは2人にギョッとするが、遭難していたと話すハンクに一杯の水を渡し、助けを呼ぶ。
ハンクは駆けつけた救急隊、警察、マスコミ、疎遠になっていた父親に保護された。しかしメニーが死体置き場に連れていかれるのを拒絶し、メニーを担いで再び森へ戻ってしまう。
あとを追った警察は森で何日も過ごした痕跡を見つけ、ハンクが殺人を犯した異常者だと思い手錠をかける。そのとき水辺に横たわったメニーからガスの音が聞こえ、下半身が激しく動き出した。そしてメニーはジェットスキーのように海をかきわけ、去っていく。
現場を目撃した人々は唖然とし、父親は思わず笑ってしまうのだった。
ハンクはだんだん小さくなっていくメニーの姿を、愛おしそうに見つめていた。
映画『スイス・アーミー・マン』のキャスト
ハンク/ポール・ダノ
人知れず無人島に遭難した孤独な青年。自殺を試みる直前で超万能な死体・メニーを見つけ、ともに脱出を目指すことに。
美しい女性・サラを待ち受け画像に設定していますが……?
ハンク役を演じたのは、『リトル・ミス・サンシャイン』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』などに出演しているポール・ダノ。
後者では「英国アカデミー賞 助演男優賞」にノミネートされるなど、今注目の俳優さんです。
メニー/ダニエル・ラドクリフ
ハンクが浜辺で見つけた超多機能な死体。最初はただの腐乱死体だったものの、口から真水を出すようになったり話すようになったり……と進化を続ける。サラを自分のパートナーだと信じこみ、ともに故郷を目指す。
メニー役を演じたのは『ハリー・ポッター』シリーズでお馴染みのダニエル・ラドクリフ。
彼の身体を張った演技はたびたび話題にのぼっていましたが、ついに死体役にまで手を出したようです。本作では下ネタ全開!なラドクリフが見れて、ある意味新鮮でした。
ダニエル・ラドグリフ出演のおすすめ映画10選|ハリポタシリーズだけじゃない!サラ/メアリー・エリザベス・ウィンズテッド
出典:『Mary Elizabeth Winstead』公式Facebook
ハンクが偶然バスで出会い、一目ぼれした女性。しかし面識はなく、夫と娘がいます。
サラ役を演じたのは『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』『スカイ・ハイ』などへの出演で知られるメアリー・エリザベス・ウィンズテッド。
本作では終盤のみ登場と活躍の場が少なかったですが、実はアクションにも定評のある女優さん。愛らしい表情を一変させ、過激なアクションシーンをくり広げる姿は最高にかっこいいですよ。
映画『スイスアーミーマン』の考察
メニーの正体は何だったのか
偶然見つけた死体が、まるでドラえもんのように欲しい機能を備えている……なんて「んなわけあるか!」な設定ですよね(笑)。
当然視聴者が考えるありがちな選択肢は「すべてハンクの妄想で、死体は存在しない」「ハンクは精神病で、ただの死体が動いたり話したりしているように見えていた」の2択。
しかし終盤、サラの自宅で娘さんとメニーが会話していたシーンを見る限り、どうやらメニーが話したり動いたりしていたのは真実のようです。
なぜ彼が動いていたのかは次の項目で考察していくとして、一体この不思議な死体・メニーは何者だったのでしょうか。
その答えはハンク自身、正確にいうとハンクの心を投影した存在だったのではないでしょうか。そう思った第一の理由は、メニーが知るはずのないサラのフルネームを知っていたこと。
彼女に話しかけたことがないはずのハンクがフルネームを知っている理由はさておき、そもそも会ったことすらないメニーが彼女の名前を言い当てるのはおかしいですが、メニーがハンクの心の投影だったからだと考えれば説明がつきます。
自信がなく、孤独で、今にも自殺しようとしていたハンク。その投影としてメニーも最初は、海辺に転がるただの死体でした。
しかし彼とゆっくり対話することで、自分が抱いていた疑問・恐怖などに向き合うようになり活力を取り戻していったのだと思います。
下ネタ連発のメニーに対して「思ったことをそのまま口に出すな!」とハンクが嗜めるシーンがありましたが、心そのものだから思ったことを直接口に出してしまうのは仕方のないことだったのかもしれませんね。
ハンクはネクロマンサー?
ただの死体だったはずが、いつの間にか物を考え、言葉を話し、ときには銃になったり真水を提供したりとありえない機能を備えていたメニー。
そう考えると何やらメニーが得体の知れない化物のように思えてきますが「ハンクが死体を便利に利用してキャンプしていた」と視点を変えると少し違った印象を抱きませんか?
もちろん、メニーが得体の知れない化物だった可能性も無きにしも非ずですが、個人的にはハンクの家系がネクロマンサーだった説がいちばん納得のいく理由だなと思いました。
例えば父親の口癖だった「能無し」という言葉。
これはハンクがネクロマンサーの落ちこぼれだったために、毎日言われ続けていたのではないでしょうか。
そう解釈すると、ラストでメニーが実際に海を渡っていった際、父親だけが嬉しそうに笑っていた意味が分かる気がします。今回ハンクは、思いがけず無人島に漂流してしまったことで極限状態に陥り、才能が開花したのかもしれません。
そう考えるとメニーというのも多機能の「Many」から取った名前で、彼の本当の名前はまた別に存在する……なんて可能性もありそうですね!
ハンクは本当に遭難していたのか
冒頭シーンで「助けて」「船出したら遭難した」などのSOSが書かれたものが海に漂流していたことから、観客たちはハンクが無人島に遭難したらしいと解釈したはず。
その後ハンクはメニーに乗って島を脱出し、流れ着いた別の島で遭難。
しかし物語終盤でいざ森を脱出してみると、偶然にも片思いのサラの自宅側の森にいたことが判明します。もし本当にハンクが無人島で遭難していたのであれば、ちょっと偶然すぎる展開で違和感ですよね。
個人的には、最初からハンクは同じ森にいたんじゃないか……と考えています。
というのも、そもそもハンクはサラと話したことすらないはずなのにSNSを知っていました。彼は以前から、ちょっとストーカー気質な性格だったのかもしれません。
彼女のことがもっと知りたくて家までストーキングした末に家族がいることを知ってしまい、傷心からすぐそばの森へ。父親とも疎遠・友人も特におらず・失恋の傷まで負い、帰りたくないと思ったハンクは「ここは無人島で帰る手段を失った」と思い込むことで現実から逃げていたのではないでしょうか。
脱出したいと望んでいたのも言葉通りの意味ではなく、脱出=今いる場所から逃げ出したいという意味だったと考えると妙に納得がいきます。
そもそも本当に人里離れた無人島にいたのであれば、メニーから手を放して溺れたのに生きて砂浜につくのも都合良すぎですし、ましてやたどり着いたのがサラの自宅の側っていうのも正直どうなのかと。
だからこそ最初から森にいて、メニーから手を放して砂浜に流れ着いたのも同じ森に推し戻されただけ。だからそこまで距離もなく、生きて戻れたと解釈しています。
物語が描いていたのは壮大なアドベンチャーのようで、実はひとりの男が人生を見つめなおす自分探しの物語だったのかもしれません。
映画『スイスアーミーマン』の知られざる裏話
最後にちょっとした小ネタをひとつ。
メニーがジュラシックパークの歌を口ずさみ、それを聞いたハンクが記憶が甦ってきたのではと喜ぶシーンがありましたよね。
結局メニーは「ジュラシックパークなんて映画知らない」の一点張りでしたが、その後女装したハンクを見て言ったのはローラ・ダーンという名前。一見、意味のないやり取りのように見えますがローラ・ダーンの代表作のひとつは『ジュラシック・パーク』。旧部作と呼ばれる1、3作目に登場しています。
要するに「知らないって言ってたけど、やっぱ見てたんじゃん!」というツッコミポイントだったわけです。気づいたら思わずニヤッとしてしまいそうな小ネタですね(笑)。
まとめ
死体を便利ツールのように使うという、あまりにも不謹慎な設定で世間を騒がせた本作。
一体何回するの?と聞きたくなるくらいおならを連発したり死体を水筒代わりにしたり、ときには口に物を詰めて銃として扱ったり、「いや不謹慎すぎるわ……」と思いつつも笑わずにはいられません。
最初は、ただのお下品ネタでしかなかった「おなら」が最終的に「人生とは……」という哲学と絡み合い、涙を誘う不思議な感覚を味わってみてくださいね。
まさかの死体役という、ダニエル・ラドクリフの身体張りすぎな演技にも注目ですよ!