映画『THE GUILTY/ギルティ』のネタバレあらすじ解説|通話のみで進む斬新なストーリー!
北欧の国デンマークからインパクトのある映画が世界に向けて発表されました。シンプルながら型に囚われていない表現と、1時間30分にも満たない比較的短い尺にありながら1人の男が織りなす濃いドラマも盛り込まれています。
映画『THE GUILTY ギルティ』は、従来のサスペンス、スリラーとは異なり、室内から外部へ向けた通話のみでストーリーが進んでいきます。市民の緊急事態の連絡を受ける職場に勤務する主人公が、通話を通して相手の置かれた状況に対処し、通報内容のウソや連絡相手の心の闇と向き合う物語。
主人公自身も過去に闇を抱えており、犯してしまった罪への罪悪感を絡ませながら問題を抱えた通話相手と向き合うという、非常に繊細な人間同士のやりとりが描かれている事も本作の特徴と言えますね。それらの展開がほぼ全て通話を通した音声のみというのも注目点です。
そんなデンマーク発の映画『THE GUILTY ギルティ』について本記事では掘り下げて解説してみたいと思います。ハリウッドにてリメイクもされている本作ですが、原点であるオリジナル版を視聴し、その世界観と雰囲気を感じてみませんか?
貴方の中のスリラーやサスペンスの概念が変わると思いますよ!
目次
映画『THE GUILTY/ギルティ』について
出典:Amazon
映画『THE GUILTY ギルティ』は2018にデンマークで発表されたスリラー映画です。緊急通報指令室に勤務する主人公が様々な通報を受け、通報相手の身の危険やウソなどに向き合いながら自分自身の心の闇とも向き合う物語です。スリラーにジャンル分けしながらもヒューマンドラマを打ち出しているのも特徴ですね。
そんな独自性の強い本作は、アメリカの映画評論サイト「ロッテン・トマト」では98%の評論家から高評価を獲得し、第91回アカデミー賞外国語映画賞では最終選考まで残りました。また、その演出が評判となり、ネットフリックス配給の映画として2021年にハリウッドでリメイクもされています。
新進気鋭の監督・グスタフ・モーラーはコメントで「映画の中でもっとも印象に残る画は目に見えないものだと私は信じている」と語っており、映るのは緊急通報指令室だけ、登場人物は職員のみ、物語に関わる相手は声のみという、何もかもが映画の常識を取り払って制作されたという事がわかりますね。脚本も監督自らが執筆しています。
10秒で分かる!映画『THE GUILTY/ギルティ』の簡単なあらすじ
出典:Happinet phantom公式YouTubeチャンネル
緊急通報指令室のオペレーターとして働くアスガーはある日、誘拐事件に巻き込まれているという女性から通報を受けました。アスガーは周囲から聞こえる音と通報者との会話を通して事件解決を目指し動き出しますが、一向に誘拐された被害者の女性・イーベンと会話が噛み合いません。
何かがおかしいと感じながらも事件解決に向け四苦八苦するアスガーでしたが、やがて解決したい気持ちが強くなりすぎ、物に当たるなど苛立った態度を露にします。6歳の娘の存在、イーベンをさらった人物、そして殺人ーー物語が混沌としてくる中、アスガーは自分自身の過去とも向き合う事となるのでした。
音声のみのやりとりでありながらスリリングでかつドラマ性のある本作は、新しい表現が観たい人だけのみならず、つい引き込まれてしまう演出は映画をあまり観ない人にもおすすめできますね!
映画『THE GUILTY/ギルティ』のネタバレあらすじ
ここからは映画『THE GUILTY ギルティ』のストーリーをネタバレ込みで解説したいと思います。通報を受け、事件に関わっていくオペレーターの主人公が辿り着いた結末はどういったものなのでしょうか?
【あらすじ①】一本の通報
出典:IMDb
ある事件がきっかけで警察官を辞め、緊急通信指令室のオペレーターの業務に就いたアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)。粛々と業務をこなしているある日、誘拐されたと訴える女性本人からの通報を受ける。発信者の情報が探知されると、通報者はイーベン(イェシカ・ディナウエ)という女性だという事が分った。
怯えている女性と会話を進めるアスガーだったが、イエスかノーで答える質問形式で問いかけ続けた。その結果、子供を自宅に置いたまま男によって白いバンで連れ去られたという事が判明する。しかし、状況がつかめたその時、通話が切れてしまう。
事態を受けてアスガーは通信指令室とコンタクトを取り、近くにいるパトカーを現場へ向かわせた。パトカーにも直接電話を繋ぎ、細かく指示を出すアスガーだったが、悪天候の影響で白いバンを見失ってしまう。
アスガーは独断でイーベンの自宅へ電話を掛けた。するとマチルド(カティンカ・エヴァース=ヤーンセン)という幼い女の子が電話に出て、パパがママの髪を掴んでナイフを持ち出て行ったと証言。さらに、弟・オリバーの部屋には入ってはいけないと言いつけられたとの事。
アスガーはマチルドにママは必ず助けるからオリバーと待つよう伝え、電話を切るのだった。
【あらすじ②】悲劇の連鎖
出典:IMDb
子供2人の状態が心配になったアスガーは通信指令室へ連絡を入れ、イーベンの自宅に警察を向かわせるよう伝えた。しかし、通信指令室のオペレーターからは「それは仕事の範疇ではない」と諭されてしまう。何かに苛立つアスガーは乱暴に通信を切るのだった。
隣に座るベテランの同僚に機器の応用法を聞き、別の個室へと移動しイーベンからの返答を待つ事にしたアスガー。すでに勤務の交代の時間は来ているものの、独断で誘拐事件の解決に向けて行動し出した。
そこへ、イーベンの自宅に到着した警察から連絡が入る。マチルドは無事保護したが、弟のオリバーは部屋で死亡していた。しっかり確認したかを問いかけるアスガーだったが、残酷にもオリバーはナイフで腹部を切り裂かれて明かに絶命している状態であり、その事を警察から聞かされたアスガーは怒りが抑えきれなくなる。
デスク上の物にあたり散らしながら、ついにイーベンを誘拐した夫のミケル(ヨハン・オルセン)に電話をかけたアスガー。感情を爆発させ「お前は加害者だ!罰を受けろ!」とミケルに向かって怒鳴るアスガーだったが、「マチルダには絶対にあの部屋には入るなと言っておいたのに」とミケルが呟き通信が途切れた。
【あらすじ③】恐ろしい事実
出典:IMDb
今度は誘拐されたイーベンに連絡を入れるアスガー。搭乗者2人がシートベルトをしていない事を確認すると、「サイドブレーキを引くんだ。勇気を出してやるんだ」とアドバイスをした。すると、電話の向こうで大きな音がし、通信が途切れてしまう。
苛立ちながら電話を待っていると、イーベンから折り返しの電話が入る。暴れたせいでトランクに押し込められたようだった。その後、周りに身を守る武器が無いかというやり取りをしていると、イーベンは衝撃的な内容を話し出した。
「子供達に会いたい。オリバーも泣き止んだはず。お腹の蛇が痛くて泣いてたけど、取り除いたから」
アスガーは凍り付いた。イーベンはオリバーにまとわりついて苦しめる蛇を退治するため、ナイフで腹を切ったという。オリバーを殺害したのはミケルではなくイーベンだった。言葉を失うアスガーだったが、電話の向こうからトランクを開ける音がし、ミケルがブロックで殴られる音がした所で通信が途切れてしまう。
【あらすじ④】事件の全容
出典:IMDb
アスガーが呆然としていると、刑事のラシッド(オマール・シャガウィー)から連絡が来た。自宅を調べていた所、ミケルとイーベンは離婚していた事がわかった。実はイーベンは以前から精神を病んでおり、症状が悪化したため、元夫・ミゲルが精神病院へ連れて行こうとしていたのだ。
アスガーがミケルに電話を掛けると無事だったようで、気絶している間にイーベンはどこかへ行ってしまったとの事。その後、ラシッドから再び連絡が入った。「まだ何かできるか?」と聞くラシッドに、「明日の裁判ではウソをつかなくていい」と告げ、通信を切った。
そしてアスガーにイーベンから指名で連絡が入った。逃亡中に我に返ったイーベンは、オリバーを殺害した事を自覚し自殺しようと橋の上にいるとの事。アスガーは自身の過去を告白しながらイーベンを説得した。
「僕も人殺しだ。わざと殺した僕と君は違う。これは事故だ」と、警察官時代に若者を正当防衛に見せかけて殺した過ちを伝えた。そして「あなたはいい人ね」という言葉と共にイーベンに電話を切られてしまう。
自殺を止められなかったという無念で押しつぶされかけていたアスガーだったが、通信指令室から連絡が入った。イーベンは無事保護したとの事。アスガーは安堵の表情を浮かべ、何かが吹っ切れたように席を立ち、部屋を出るのだったーー。
映画『THE GUILTY/ギルティ』のキャスト|北欧の演技派
アスガー・ホルム/ヤコブ・セーダーグレン
本作の主人公で緊急通報指令室のオペレーターをしている男性。いつものように勤務していると、1本の誘拐事件の通報が入り、そこから思いもよらぬ事件へと発展して行きました。
アスガーを演じているのはスウェーデン生まれでデンマークで育った俳優、ヤコブ・セーダーグレンです。主にデンマーク国内で俳優活動を行っていて、映画、TVなどに出演する中堅俳優ですね。
イーベン・オスタゴー/イェシカ・ディナウエ
誘拐されたと通報してきた女性です。自宅から男に白いバンに乗せられたと主張しており、子供を自宅に残してきたとアスガーに伝えました。
イーベンの声を演じるのはデンマーク出身の若手女優・イェシカ・ディナウエです。20代でまだキャリアが浅く、ドラマ作品や映画でのこれからの活躍に期待できる女優ですね。
ミケル・ベルグ/ヨハン・オルセン
イーベンを自宅から連れ出した人物。アスガーは彼を犯人だと疑っていました。イーベンの元夫であり、離婚後は子供達の親権をイーベンに渡して別々に暮らしています。
ミケルの声を演じているのはデンマーク出身の俳優・ヨハン・オルセン。役者業の傍らロックバンドのボーカルを務めたり、なんと大学で生物学者としても活動している多才な俳優です。
緊急通報指令室とは?
出典:IMDb
日本で言われる110番通報の事(デンマークは112番)です。通報を受けたオペレーターは状況に応じてパトカーや救急車の手配などを行い、事故や事件の早期解決を目指し初動の裏方として立ち回ったり、怪我人の救助活動を行う組織ですね。
劇中でアスガーが行っていたように、インカムを付け通報者と会話しながらPCモニターで情報を調べます。緊急を要した通報者がパニックになっている場合も多いため、落ち着いた態度と冷静な判断力が必須で、通報者をリードし指示を出す安全誘導のプロフェッショナルとも言えますね。
映画『THE GUILTY/ギルティ』の3つのみどころ
この項目では映画『THE GUILTY ギルティ』を観るにあたって、より深く物語と世界に入り込める注目ポイントを解説してみたいと思います。シンプルな構図で描かれているものの、その裏にある脚本や登場キャラクターの心理はよく練られていますよ!
①会話と音だけで進行するストーリー【スリラーの新機軸】
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本作で最初に挙がるみどころと言えば、通信による会話のみで進むストーリー。緊急通報指令室のオペレーターの主人公・アスガーが、インカム越しの相手の話と周囲から入る音のみで誘拐事件を解決に導こうとする奇抜な展開です。
基本、ストーリーを動かすのは音声なので、アスガーの表情や立ち振る舞い、電話越しの相手の声のトーンなどで緊迫感や置かれた状況を視聴者に伝える必要があります。役者陣の演技力が特に問われる設定ですね。
部屋から出ないという点では、映画『SAW』シリーズをはじめとしたシチュエーションスリラーにも似ていますが、主人公が遠隔で指示を出すだけというアイデアは、これまでにあまり無いタイプのスリラーとして一石を投じたのではないでしょうか。
派手な演出やCG、登場人物の多さが無くとも、これだけ質の高い映画作品が制作できるという証明は、技術の進歩と共に行き詰まりを見せている映画業界に新たな風を吹かせるきっかけを作ったと言えるかもしれません。
②登場人物が抱く問題【傷ついた心】
出典:IMDb
本作の登場人物達はそれぞれが問題を抱え、その事がきっかけとなり行動を起こしており、誘拐事件もアスガーの独走もそういった背景が引き金となっているのは他の映画作品と違いはありません。
イーベンは精神の病を患っており、以前から入院や通院を繰り返している女性でした。その事が原因かは定かではありませんが、元夫のミゲルとは離婚しています。ミゲルも過去の暴力行為が理由で子供達への接近禁止命令が出ていました。
主人公のアスガーも過去に人を殺した経験があり、その事が原因となり警官を辞め、緊急通報指令室のオペレーターとして再出発しています。過去の過ちへの強い後悔の念が今回の誘拐事件を解決したいという原動力になっており、感情をあらわにしながら事件と向き合って行きました。
出典:IMDb
今回の事件において、この人が原因であるといったはっきりとした犯人はおらず、それぞれの登場人物が流れに身をゆだねたまま行動した結果、事件へと発展してしまっています。もちろん、殺人を犯し、虚偽の通報をしたイーベンが発端で罪の所在も彼女にありますが、彼女自身も病と戦う1人の人間という面もあります。
アスガーはそんな彼女の犯した間違いを「事故である」と言い、罪の意識に襲われ、死を考えたイーベンを助けようとしました。アスガー自身が過去に犯した殺人とイーベンの殺人を重ね合わせ、わかっていて殺人に手を染めた自分とは違うという事を過去を懺悔するような形でイーベンを諭しています。
殺人や誘拐の描写が一切無いにも関わらず、通話相手の表情や気持ちまで伝わってくるドラマ性の高さは、練られた脚本と役者陣の高い演技力によるものであると言う事は間違いありませんね。
③アスガーの贖罪、告白【結末の先は?】
出典:IMDb
主人公・アスガーは警察官時代に19歳の青年を正当防衛に見せかけて殺害した過去があり、現在でもその事について裁判で争っています。
元同僚で刑事のラシッドは出廷し、正当防衛だと主張しようと口裏を合わせようとしていますが、罪の意識を持つアスガーは本当の事を法廷で証言したい旨をラシッドに伝えました。
すでに正当防衛である事を証言していたラシッドは憤り、友人でもあるアスガーに正当防衛で押し切ろうと強く念を押しました。何も言い返さず通信を切ったアスガーですが、その後、イーベンが橋から飛び降りて自殺を図ろうとした際、その罪を彼女に告白するかのように諭します。
イーベンにそれが伝わり救われたのかは分りませんが、アスガー自身は胸につかえていた罪を懺悔し、イーベンの犯した「事故としての殺人」と比較する事で、自らの罪を本当の意味で認めた瞬間だっただったのではないでしょうか。
その後、イーベンが無事保護され、胸をなでおろしたアスガーでしたが、そのまま何も言わず緊急通報指令室の部屋を出ていきます。彼はその後、どうなったのでしょうか?法廷では主張を改め、正当防衛を取り下げたのでしょうか?
物語はそこで終わっていますが、アスガーの中にあった殺人ははっきりと罪に変わり、誘拐事件の解決と告白という贖罪によって自分自身の過去ともひとつの決着を付けた事は間違いなさそうですね。
リメイク版!NETFLIXオリジナルの映画『THE GUILTY/ギルティ』について
出典:Netflix Japan公式YouTubeチャンネル
デンマークで制作された映画『THE GUILTY ギルティ』の評判と話題性の高さを受け、2021年にはアメリカ・ハリウッドでリメイクされました。配給はネットフリックスが行い、監督は映画『トレーニングデイ』や『イコライザー』シリーズで知られるアントワーン・フークワが務め、役者はジェイク・ギレンホール、イーサン・ホークという豪華なキャスティングで制作されています。
原作のデンマーク版の雰囲気を踏襲し、ストーリーをほぼ同じ流れて進め、山火事など少しだけアメリカのテイストを緊急オペレーションセンターのやりとりに取り入れるアレンジが加えられています。
こちらの作品はネットフリックスで配信されていますので、興味があればオリジナル版との比較も含めて視聴してみてはどうでしょうか。
まとめ
映像ではなく、音のやり取りだけでストーリーが展開していくという、スリラーやサスペンスの新たな表現を生み出した映画『THE GUILTY ギルティ』。
まるで落語や一人芝居を観ているかのような、観た事のない体験をさせてくれる、アナログでありながら最先端を行く映画なのかもしれません。
今後もこういった脚本とアイデアで楽しめる作品が増えてくれたらうれしいですね!