犯罪映画の金字塔! 基礎から学べる名作フィルムノワール映画10選
フィルムノワールというジャンルを聞いたことがない人も、すでに知っている人もこの記事を読めばきっとフィルムノワール通!!
犯罪映画の金字塔ともいうべきこのジャンルは総じて退廃的で悲壮的でありながらも、それでいて何と言ってもセクシーでハードボイルドです。今尚色褪せることなく輝き続けるフィルムノワールという奥深き白黒映像の波に酔いしれてみてはいかがでしょうか。
目次
フィルムノワールとは?
1946年フランスの映画雑誌「レクラン・フランセ」にてニーノ・フランクが初めてフィルムノワールという言葉を使ったことから端を発します。フィルムノワールとは “film noir”直訳するとそのまま「黒い映画」となります。
フィルムノワールに対して様々な映画批評家や映画史家が定義を試みてきましたが未だに明確な定義はなく、しかしその重要な要素として、男を堕落させる危険な女「ファム・ファタール(運命の女)」の存在と主人公をはじめとする登場人物の人格的、倫理的破綻と堕落という二つが存在すると言えるでしょう。
そして欲望に支配される退廃的で悲壮的な世界観の中でやがて登場人物が破滅し、観賞後には観客になんとも言いがたい寂寥感の余韻が残るところまでがフィルムノワールに共通するプロットであり、まさにノワール作品の醍醐味と言えるでしょう。
おすすめフィルムノワール映画
今回紹介するのはフィルムノワールを語る上では欠かすことのできない映画ばかりです。フィルムノワールの世界観の基礎を作り上げた『マルタの鷹』から巨匠ハワードホークスの『三つ数えろ』、さらには当時駆け出しだったスタンリーキューブリック監督の『現金に体を張れ』まで様々な監督が様々な表現方法で描き出す名作が揃っています。
戦前から戦後にかけての陰鬱とした先の見えない不安感と緊張感のある世相と、映画の娯楽性という相反する二つの要素が絶妙に絡み合っては反発し、融合するその妙を感じて頂ければと思います。
1. マルタの鷹
フィルムノワールのまさに原点!ハンフリー・ボガード演じる私立探偵サム・スペードが謎を解く!
あらすじ
サンフランシスコの私立探偵であるスペード(ハンフリー・ボガート)は、ある日駆け落ちした妹を探し出してほしいという貴夫人の依頼を受け、相棒のアーチャー(グラディス・ジョージ)に妹の婚約者であるフロイド・サーズビーの尾行をさせる。
しかしその晩アーチャーとサーズビー二人の死体が発見され、スペードは逆に殺人の疑いをかけられてしまう。この事件に関してスペードが何か重要な事実を握っていると確信し接触を図ってくる謎の男カイロ(ピーター・ローレ)が現れ、依頼人であるオショーネシー(メアリー・アスター)が実は以前にカイロと因縁を持っていたことが判明する。
さらに「G」と呼ばれる謎の富豪ガットマン(シドニー・グリンストーリー)も絡めて複雑に物語は展開していく。
そして今回の事件が単なる殺人事件ではなく、マルタ騎士団に由来を持つ「マルタの鷹」という彫刻を巡る争いが根底に存在することをスペードは掴む。真相を突き止めるべく、相棒の死の復讐をするべく彼は渦中に身を投じていく。
知って見ればなお面白い、一歩踏み込んだノワール映画の見所ポイント!
往年の大俳優ハンフリーボガードの出世作でもある今作では、ボガード扮する探偵スペードのハードボイルドで深みのあるかっこよさと立ち振る舞いに痺れます。
そしてファムファタール(運命の女)を演じるメアリー・アスターとの絶妙な駆け引き、騙し合いに大人な色気を感じさせられ、「マルタの鷹」を巡るめくるめく騙し合いにフィルムノワール映画の原点にして真骨頂を見ることができます。
『マルタの鷹』
莫大な価値を持つとされる彫像を巡る争奪戦を描く古典ノワールの傑作。有名なハードボイルド小説を映画化し、J・ヒューストンの初期作。展開が早く映画に引き込まれていく物語と台詞一つ一つが渋く、H・ボガート扮するS・スペードが存在感を魅せる。#1日1本オススメ映画 pic.twitter.com/JZz1kRYNPj— 三次元からきたブロンディ (@kotaeastwood) July 4, 2017
このフィルムノワール映画はこんな人におすすめ
- 義理を通すかっこよくてハードボイルドな大人な男性に憧れる方
- フィルムノワールの原点となった作品を楽しみたい方
このフィルムノワール映画はこんな人には向かないかも
-
- 殺人や拳銃、暴力などのアンダーグラウンドな世界観に耐性がない方
- 純粋な恋愛感情だけではない、男女の打算的な関係性に違和感を覚える方
2. 郵便配達は二度ベルを鳴らす(1946版)
その女に出会った時、男の運命は狂い始めた
出典:Amazon.com
あらすじ
主人公フランク(ジョン・ガーフィールド)は各地をあてもなく旅していたが、ダイナーを経営するニック(セシル・ケラウェイ)の妻コーラ(ラナ・ターナー)に一目惚れしてしまいそこで働くことを決心する。初めはフランクを拒むコーラであったが次第に心を許すようになり、ついには不倫関係となる。
関係を続けるうちに二人で駆け落ちを図るまで至るが、今の裕福な暮らしを捨てきれないコーラは途中一人引き返してしまう。しかしやはりニックとの暮らしに耐えられないコーラはなんとかフランクを説得し、ニックの殺害計画をけしかけるがこれもあと少しのところで失敗に終わってしまう。
この事件をきっかけに警察に目をつけられるようになったフランクは店を去るが、どうしてもコーラを忘れらない彼は再び店に戻り、以前果たせなかったニックの殺害計画をもう一度実行しようとする。
知って見ればなお面白い、一歩踏み込んだノワール映画の見所ポイント!
今タイトルはジェームズ・M・ケインの有名小説を映画化したもので今までになんと4回も映画化されており、そのうちの1942年版はあの名匠ルキノ・ヴィスコンティの処女作というから驚きです。
ガーネット版はさらにダークな世界観が強く、よりフィルムノワールらしい、つまり倫理的破綻や堕落がテーマとして強く打ち出されています。何と言ってもラナ・ターナーの自由奔放な悪女っぷりは必見です。
このフィルムノワール映画はこんな人におすすめ
- ノワール作品に典型的なファムファタール(運命の女)像を味わいたい方
- 女に誘惑され破滅に向かうと知りながらも愛を止められない一途な男性に共感する方
このフィルムノワール映画はこんな人には向かないかも
- ラナ・ターナー演じるコーラの悪女っぷりに耐えられない方
- 不倫関係からの殺人という今でこそありふれた設定に納得できない方
3. 三つ数えろ
ボガート&バコール共演、ハードボイルド映画の傑作!
あらすじ
舞台はロサンゼルス。ある日私立探偵のマーロウ(ハンフリー・ボガート)はスターンウッド将軍に呼び出され、娘のカルメン(マーサ・ヴィッカーズ)が博打で負った借金の取り立てに関して、古書店主のガイガーが脅迫してくるので解決して欲しいと依頼される。
さらに将軍との会話のなかで、かつてマーロウとも親交があり将軍の用心棒でもあったリーガンが賭博師マース(ジョン・リッジリー)の妻と一緒に失踪していたことも知る。そして帰路でのカルメンの姉、ヴィヴィアン(ローレン・バコール)との会話から彼女自身もこの事件に一枚噛んでいるであろうことをマーロウは悟る。
翌日ガイガーを尾行するマーロウであったが、張っていた一軒家から銃声と悲鳴が聞こえ、すぐさま駆けつけるとそこには酩酊状態のカルメンと射殺されたガイーガーの死体があり、裏庭からは2台の車が去っていった。その後ヴィヴィアンに、昨日の事件現場を押さえた隠しカメラの写真フィルムを5,000ドルで買い取るよう新たな脅迫状が届く。新たな脅迫事件に関して再びカルメンと殺人現場検証するマーロウであったがそこで初めてその家の貸主である賭博師マースと出会い、お互いに探り合いを始め、一触即発状態となる。
新旧二つの脅迫事件と失踪した元用心棒リーガンを鍵に事件は複雑に交錯していく。
知って見ればなお面白い、一歩踏み込んだノワール映画の見所ポイント!
今作はプロットが非常に入り組んでいるので話を追っていくだけで大変ですが、個性際立つ女性キャラクターたちと主演のハンフリー・ボガードとの何気ない掛け合いにも伏線が隠されており、その余韻にまた心惹かれます。
至るところに貼られた伏線とタイトルが回収されるクライマックスのまさにお手本のような展開とアクションシーンには脱帽です。
スティーブマーティン『四つ数えろ』。三つ数えろのパロディ題。82年の白黒作品。なぜか?40年代ノワール映画をそのまま切り貼りし、ボガートやバーグマン、Bランカスター、ケイリーグラント、カークダグラス、ベティデイヴィス…らを共演者にするからだ。いつもの下らないギャグ連発。好きだな。 pic.twitter.com/wlSRuYl3nO
— マジシャン!西 亮一@ ILoveFRIENDS (@westsite24) March 29, 2017
このフィルムノワール映画はこんな人におすすめ
- 何気ないが実は後の伏線となる奥深い男女の掛け合いを楽しみたい方
- サスペンス映画特有のクライマックスに向けた高揚感と緊張感の高まりを味わいたい方
このフィルムノワール映画はこんな人には向かないかも
- 複雑に入り組んだプロットを追うのが億劫な方
- 真相に辿り着くためには手段を選ばず女性を手段としても扱うマーロウに共感できない方
4. 現金に体を張れ
キューブリックが放つ、犯罪スリラー映画の傑作!
出典:Amazon.com
あらすじ
前科持ちで出所したてのクレイ(スターリング・ヘイドン)はどん底の人生を挽回するために競馬場の売り上げ金強盗計画を立てる。
様々な問題を抱えた5人の仲間と共に計画はついに実行に移されるが、完璧に見えたその企みも仲間の一人であるジョージ(エリシャ・クック)の妻・シェリー(マリー・ウィンザー)が計画を盗み聞きしたことによってほころびはじめる。
知って見ればなお面白い、一歩踏み込んだノワール映画の見所ポイント!
今作は弱冠28歳のスタンリー・キューブリック監督、ハリウッドデビュー作であり、特筆すべきは時系列をいったん解体する独特のプロットです。
登場人物それぞれ一人ずつにフォーカスを当てて描くことによって、それぞれの視点で何度も計画実行までの時間軸が繰り返されるという斬新な手法が用いられ、最後にそのバラバラにされたストーリーが一つの結末に収束するそのスタイリッシュな構成は今尚色褪せません。
今日は数年積んでいたキューブリック監督の「現金に体を張れ」を観た。フィルム・ノワールという主人公が悪党で破滅型のスタイルの話だがスリル満点。強盗の計画を詰めていって着々と準備が進み実行の時が迫るにつれて、言い回しでなくリアルに心拍数上がったと思うw。とにかく面白い。
— m_036 (@m_036) January 10, 2016
このフィルムノワール映画はこんな人におすすめ
- 斬新で一癖ある構成のフィルムノワール映画を堪能したい方
- スタンリーキューブリック監督が好きな方
このフィルムノワール映画はこんな人には向かないかも
- 時系列が定まらない複雑な映画が得意でない方
- 時系列に沿った王道フィルムノワール映画を求める方
5. 黒い罠
最初から最後まで画期的な映像に目が離せない、オーソン・ウェルズ監督の傑作ノワール!
出典:Amazon.com
あらすじ
アメリカとメキシコの国境に位置する小さな町、ロス・ブレイス。新婚旅行中に偶然訪れていたメキシコ人の麻薬捜査官ヴァルガス(チャールトン・ヘストン)とその妻スーザン(ジャネット・リー)であったが、そこで地元の有権者リネカー(ジョアンナ・ムーア)氏の車が爆発する現場を目撃してしまう。すぐに捜査を開始するヴァルガスだったが、アメリカ側の捜査責任者で凄腕の刑事のクライラン(オーソン・ウェルズ)に敵意を向けられてしまう。
事件は進展し被害者の娘サーシャとその恋人サンチェスを疑い始めたクライランであったが、その証拠を捏造したとして再びヴァルガスと激しい口論となる。彼と同じようにヴァルガスをよく思わないギャングのグランディ(エイキム・タミロフ)はクライラインと共謀し彼を陥れよう画策する。
知って見ればなお面白い、一歩踏み込んだノワール映画の見所ポイント!
今作は今でこそカルト映画として地位を獲得していますが、当時はプロットの難解さやその俗悪さから批評家たちからは嫌煙されていました。しかし映画監督にこそ映画表現の責任を担うべきとするいわゆる「作家主義」を推進したゴダールやトリュフォーらヌーベルバーグのフランス人監督たちから絶賛され、今の地位を築くこととなります。
後の映画史において何度も模倣された冒頭の3分20秒もの長回しを代表とする撮影技術の高さや当時としては革新的だった音響演出においても今尚高く評価されています。
FBF②『黒い罠』
このO・ウェルズの傑作に限らず、アメリカ映画のノワール諸作は、お話が無駄に迂回したり辻褄が崩れてたりする事が多いです。でも、描写の上手さ強烈さで受け手を捩じ伏せてしまう。拙作も台本執筆時に矛盾にぶち当たる事がありましたが、その時に思い出していたのがこの映画です。 pic.twitter.com/xH3AIxNKwA— 映画『キュクロプス』5/3公開@テアトル新宿 (@cyclops0503) April 13, 2019
O.ウェルズ監督「黒い罠」を久々に鑑賞。冒頭一秒から爆発の恐怖を抱えた長廻しクレーンの衝撃と様々な陰影が織りなす白黒の艶と独創的撮影に只々見惚れる不遇の傑作ノワール。聖林を追われた監督の死後発掘されたメモを元に再編集と音響を行った名手W.マーチの目立たぬ貢献に映像編集の真髄を見る
— たかおん (@takaon) October 25, 2015
このフィルムノワール映画はこんな人におすすめ
- フィルムノワールのアングラ感を見事に表現した映像技術の高さを楽しみたい方
- 映画史に残る冒頭の長回しシーンを堪能したい方
このフィルムノワール映画はこんない人に向かないかも
- プロット重視で撮影技術などにあまり興味関心の持てない方
- ファムファタール(運命の女)要素をフィルムノワール映画に重視する方
- オーソンウェルズ演じるクライランの奇妙で不気味な演技を受け付けない方
6. ガス燈
イングリッド・バーグマン主演、アカデミー賞2部門の輝く、サスペンス映画の傑作!
出典:映画『ガス燈』公式サイト
あらすじ
舞台は霧が深く立ち込めるロンドン。人気歌手だった叔母が何者かに殺され、その遺産を相続したポーラ(イングリット・バーグマン)は入学先で出会ったグレゴリー(チャールズ。ボイヤー)と結婚する。
亡き叔母の家で結婚生活を営む二人であったが、次第にグレゴリーはポーラの物忘れや盗癖について指摘するようになり、ポーラは自分がおかしくなってしまったのだと不安感と自責の念に苛まれるようになる。しかしそれはグレゴリーが妻を精神的に追い込むための嘘であり、グレゴリーには真の目的があった。
知って見ればなお面白い、一歩踏み込んだノワール映画の見所ポイント!
何と言ってもアカデミー賞主演女優賞とゴールデングローブ賞主演女優賞の二冠を達成したイングリッドバーグマンの徐々に精神を病んでいく、喜びと不安の間で激しく揺れる名演技に注目です!
特にボワイエ演じるグレゴリーとの視線で語る演技は、派手なアクションはなくとも静かに忍び寄る狂気を呼び起こし、不安感を駆り立てるサスペンス映画の一つの極致を見ることができます。
このフィルムノワール映画はこんな人におすすめ
- イングリットバーグマンの七変化する演技に痺れたい方
- 派手さはないが徐々に忍び寄る狂気的なサスペンス映画が好きな方
このフィルムノワール映画はこんな人には向かないかも
- 派手な銃撃戦のようなアクションを見たい方
- 女性に対する心理的虐待とも言えるグレゴリーの手口に憤りを覚える方
7. 深夜の告白
金とセックスに目が眩んで破滅的な運命を歩む男と女の末路を描きたフィルム。ノワールの傑作!
あらすじ
ある日の深夜、ある男の罪の告白から物語は始まる。ロサンゼルスの保険外交員であったネフ(フレッド・マクマレイ)は顧客で実業家だったディートリクスン(トム・パワーズ)の妻フィリス(バーバラ・スタンウィック)と不倫関係に陥り、二人で共謀して保険金目的で彼を殺してしまう。
ディートリクスンの死は不慮の事故で解決され偽装工作は完璧だったように思われたが、ネフの同僚の調査員キーズ(エドワード・G・ロビンソン)の長年の勘によって支払いは差し止められてしまう。保険金も手に入らず袋小路に陥った二人の関係は徐々に悪化し、そしてついにフィリスの本性が露わになる。
知って見ればなお面白い、一歩踏み込んだノワール映画の見所ポイント!
フィリス演じるバーバラ・スタンウィックの悪女っぷりはまさに典型的なファムファタール(運命の女)です。そして誘惑に負けて破滅へと突き進む不道徳なネフを演じるフレッド・マクマレイと悪女としてのフィリスの取り合わせはわかりやすくフィルムノワールらしさを体現しています。
また男女の不埒な関係と対比するようにキーズとネフとの男同士の友情が浮き彫りにされるので正と負の間で揺れ動くマクマレイのその感情の機微にもぜひ注目です。
ビリーワイルダー監督「深夜の告白」(1944)鑑賞
フィルムノワールの古典と言われてるが、個人的にはファムファタールの古典でもあると感じる。
夫に多量の保険金を掛け殺害する、今じゃありふれたノワールだが、とにかく女性が怖い!ドキドキハラハラする展開は一級品!! pic.twitter.com/SYAvBqAmqc— Blog_Machinaka?@告知・宣伝垢 (@Blog_Machinaka) August 12, 2019
「深夜の告白」観賞。1944年アカデミー作品賞。70年前の作品だから古いのは当たり前だがさすがに後年多くの映画やテレビドラマに影響を与えたのも納得。ビリー・ワイルダー、レイモンド・チャンドラーが描くノワール感を充分に堪能。主演女優がちょっと好みではなかったが当時のLAの雰囲気も楽しめた。
— masayoshi ikeda (@ad9th) April 28, 2019
このフィルムノワール映画はこんな人におすすめ
- スタンウィックの悪女っぷりを存分に堪能したい方
- 正と負の感情で揺れる葛藤を抱えた男の生き様に共感する方
このフィルムノワール映画はこんな人には向かないかも
- 夫が死んでも笑みを浮かべるような不道徳が倫理的に許せない方
- 不倫を動機にした保険金殺人というありふれたテーマに嫌気がさしている方
8. 上海から来た女
殺人事件の犯人に仕立て上げられた男、鬼才オーソン・ウェルズが描くサスペンス!
あらすじ
ニューヨークのセントラルパークにて、ある日散歩をしていたマイク(オーソン・ウェルズ)は偶然出会ったエルザ(リタ・ヘイワース)に一目惚れするがその場は軽くあしらわれてしまう。しかし別れた直後、暴漢に襲われていたエルザを救ったマイクは彼女が資産家のバニスター(エヴィレット。スローン)の妻であることを知った。
翌日エルザとバニスターを乗せたサンフランシスコ行きの船旅に船乗りとしてマイクも同行するがそこでバニスターの顧問弁護士を名乗る男グリズビー(グレン・アンダース)に「私がグリズビーを殺しました」という書類に署名すれば5,000ドル与えるという誘いを受ける。エルザと駆け落ちするための資金が必要だったマイクは署名してしまうが、その後本当にグリズビーの死体が発見され、事態は急展開していく。
知って見ればなお面白い、一歩踏み込んだノワール映画の見所ポイント!
前述した『黒い罠』と同じオーソン・ウェルズ監督らしい非常にトリッキーで、今見ても斬新に思える映像技術の高さが今作の最大の特徴になっています。特に最終局面での遊園地での鏡のシーンは後に多くの映画(ブルース・リーの『燃えよドラゴン』やウディ・アレンの『マンハッタン殺人ミステリー』など)に引用される有名なシーンです。
考えるのではなくまさに体感すべき、鏡に映る無数の虚像によって夢と現実の境目がわからなくなる目も眩むような必見のクライマックスに注目です。
『上海から来た女』観た。ド直球のノワール……というか、もうここまでくるとレシピみたいなもの。出だしのナレーションからすばらしく「この女のためならすべてを捨てても良い」感は特筆。撮影はもちろん、今作ではモンタージュに凝ってて表現が豊か。いやぁ何から何まですごい。話自体もおもしろい。
— カトキチ (@katokiti) February 12, 2016
『上海から来た女』:オーソン・ウェルズというのは、なんと素晴らしい声の持ち主だったんだろう。そら「家出のドリッピー」のカセットを売り出しもするわ。ガキ大将がそのまま大人になったような無垢な瞳の輝きと対照的な、恐ろしく魅力的な大人の声。それがノワール語りですよ。たまらんわw
— はまりー (@travis02130213) May 21, 2015
このフィルムノワール映画はこんな人におすすめ
- オーソンウェルズの映像技術に酔いしれたい方
- フィルムノワールらしい騙し合いとその先にある虚無感と寂寥感を味わいたい方
このフィルムノワール映画はこんな人には向かないかも
- 映像よりプロットの整合性を重視する方
- 誰も救われない悲壮的な話を好まない方
9. 狩人の夜
LOVE&HATE!ロバート・ミッチャムが恐怖の伝道師を演じるカルト中のカルト映画!
あらすじ
大恐慌で荒れ果てたウェストバージニア州、オハイオ川沿に住むベン(ピーター・グレイブス)は家族のために強盗殺人を犯すが、奪った1万ドルのありかを息子のジョン(ビリー・チャピン)と娘のパール(サリー・ジェーン・ブルース)に残したまま捕まってしまう。
ちょうど同じ頃に盗難の罪で同じ房に収監されていた伝道師ハリー(ロバート・ミッチャム)は実は強盗殺人を繰り返す凶悪犯罪人であり、ベンの子供達が大金の隠し場所のカギを握っていることを察知する。釈放されたハリーはベンの家族に取り入り、ついに未亡人ウィラ(シェリー・ウィンターズ)と再婚するに至るがその結婚生活はすでに破綻し、ハリーは残された子供達から大金の隠し場所を聞き出そうと脅迫する。
耐えきれなくなって逃げだした子供達は老夫婦レイチェルに匿われるがそれでも執拗にハリーの追っ手が忍び寄る。
知って見ればなお面白い、一歩踏み込んだノワール映画の見所ポイント!
ファム・ファタール(運命の女)が登場しない点や、影や音響によるドラマティックでドイツ表現主義的なまるでおとぎ話の中に入ったかのような演出は、当時典型的であったのリアリスティックなフィルムノワール作品とは一線を画すものです。
しかし幻想的な映像と音楽の中で際立つロバート・ミッチャム演じるハリーのシリアルキラーとしての演技は映画史に残る怪演と称され、また今作は『it』などで知られるホラー小説家スティーブン・キングに強い影響を与えた作品でもあります。
『狩人の夜』を考えているんだけど、ノワールとしても異質だし、メルヘンとしても異様だし、しかし、なにが一番近いかといえば古典的なおとぎ話なんだよね。しかし、オープニングは本当にぎょっとする。星空に子供たちに昔話を語る老女、カメラは星空から降りて遊ぶ子供たちを映す。
— バスコ (@vasco_1970) December 6, 2018
“狩人の夜” 一切無駄のない洗練された美しい映像。トリュフォーやゴダール、S.キングが絶賛したチャールズ・ロートン唯一の監督作品。お伽話でありノワールでもあるこの映画は様々なジャンルが見事な融合を見せている。信じるべき存在の裏切りと子が父の罪により苦難に合うというストーリーも興味深い pic.twitter.com/Hmo5p4bQVA
— Moeka Kotaki (@moeluvxxx) June 1, 2018
このフィルムノワール映画はこんな人におすすめ
- 一味違ったフィルムノワール映画を堪能したい方
- 美しい映像と音楽とに対比されるシリアルキラーの恐怖を体感したい方
- 子供の主役に置いた繊細で素直な演技を楽しみたい方
このフィルムノワール映画はこんな人には向かないかも
- 子供が虐げられる映画を好まない方
- おとぎ話のようで現実味のない映画をノワール作品に求めていない方
10. キッスで殺せ
50年代を代表する究極カルト映画、ロバート・アルトリッチによる傑作フィルム・ノワール!
出典:Amazon.com
あらすじ
私立探偵のマイク(ライフ・ミーカー)は深夜の路上で素足にトレンチコートの女クリスチナ(クロリス・リーチマン)を車に乗せることとなるが、しかし直後三人の男に襲われ、眠らされていたマイクはクリスチナとともに車ごと川に落とされる。
病院で目が覚めるとそこには秘書で恋人のヴェルダと(マキシン・クーパー)友人のパッド警部の姿があり今回の事件には裏があって自分が疑われていることを悟る。真犯人を見つけるべく動き出したマイクであったがクリスチナと同居してしていたリリーはすでに失踪し、さらにこの件から手を引くよう脅迫の電話もかかってくる。調査を進めるうちに徐々に容疑者は絞られ、今回の一連の事件に関して亡きクリスチナが残したある鞄の存在が浮かび上がってくる。
知って見ればなお面白い、一歩踏み込んだノワール映画の見所ポイント!
話の流れとしては典型的なフィルムノワール映画のそれに近いですが、今作に特徴的なのはもう主人公マイクにロマンチシズムや正義感がなく、闇の世界の中でただ真実を求め暴力も厭わず任務を遂行する点です。さらに当時の世相を皮肉した終末SF的な要素も含まれています。
のちの傑作クエンティン・タランティーノ監督の『パルプフィクション』やデヴィット・リンチ監督の『ロストハイウェイ』に強い影響を与えた、サスペンスとミステリーそしてSFの入り混じった新しいフィルムノワール作品とも言えるでしょう。
ミッキー・スピレーン誕生日という事で映画化作品「キッスで殺せ」。おれたちの巨匠ロバート・アルドリッチがスピレーン的世界観を即物的なタッチで描いたら結果カルトになってしまったノワールの傑作。天然なのかわざとなのか後半の展開は異常としか思えないしラストは明らかに頭おかしいでしょう。 pic.twitter.com/rfZn6ovPqj
— 阿乱隅氏 (@yoiinago417) March 9, 2019
PFFアルドリッチ祭り「キッスで殺せ」-これは以前渋谷でレイトショーやったのを見た。登場人物全員悪人(とまでは言えないか)。靴は人を表わす。キスじゃなくて車で殺す。その他、ナイフに銃に爆弾もなんでもあり。そして最後は--まさにノワールにふさわしい。
— さわやか革命 (@katy_lied246) September 19, 2018
このフィルムノワール映画はこんな人におすすめ
- ただの犯罪映画ではなくSFやミステリーの要素も楽しみたい方
- 単純な犯罪映画ではない当時の世相を反映したメッセージ性の強い映画を好む方
このフィルムノワール映画はこんな人には向かないかも
- 登場人物が多く物語が煩雑になるので作品のわかりやすさを重視する方
- SFというフィルムノワール作品には本来あまりなじみのない要素を好まない方
まとめ
フィルムノワールというジャンルが、ほんのたった約20年間における犯罪映画の一つのムーブメントでありながら、いかに多様で傑作揃いかお分り頂けたでしょうか?
まだカラー映画登場以前の成熟期にあった映画芸術はフィルムノワールの名だたる名監督と名優たちによって花開き、現在の犯罪映画、もっと言えば映画そのものの基礎が築かれたと言っても過言ではありません。それは彼らの作品が、今の映画シーンにおける脚本的要素だけではなく撮影技術や音響技術、映画と監督のあり方に関してまで多大なる影響を与えていることからも分ります。
今回紹介しきれなかった作品も含めてぜひあなただけのお気に入りの傑作ノワール作品を見つけてみてはいかがでしょうか?
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