映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』のあらすじネタバレ|タイトルの意味を解説
2001年9月11日の朝、多くの尊い命が奪われたアメリカ同時多発テロ事件。映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』は、実話である9.11テロ事件で最愛の父親を亡くした少年が、父の死を受け入れていくまでを描いた作品です。
「突然大事な人を失った人々が、どのように癒されていったのか、いまだ癒されることなく苦しみを抱えているのかを理解したかった」と語るスティーブン・ダルドリー監督。理不尽な別れを経験した家族が、どのように現実と向き合い立ち直っていったのか、家族のかけがえのない愛が描かれています。
本記事はネタバレを含みますので未鑑賞の方は、鑑賞後にご覧いただくことをおすすめします!タイトルの意味についても考察していますので、ぜひご覧ください。
目次
映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』について
出典:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』公式Facebook
2011年に公開された映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』は、実話である9.11テロ事件を題材にした、父を失った少年の喪失と再生を描いたヒューマンドラマです。
9.11文学の金字塔と評される作家ジョナサン・サフラン・フォアのベストセラー小説を脚本家のエリック・ロスが脚色し、映画化された作品。
そのため、原作にあって映画にはないシーン、映画にあって原作にはないシーンが存在します。
監督は、スティーブン・ダルドリー。これまで演出家と映画監督の両方で受賞経験を持ち、成功を収めている人物です。
新人発掘眼に定評のある監督は、本作においても演技経験のない子役トーマス・ホーンを起用しています。
原作を読んで主人公の主観的視点に衝撃を受けた監督は、オスカー少年のキャスティングからスタートさせました。
並外れた知能と洞察力、それでいて純粋さをあわせもつ子役を探し出すことは難航しましたが、人気クイズ番組に出場していたトーマス・ホーンの姿が映画プロデューサーの目に留まったそう。4か国語を話すだけでなく、ユーモアをあわせもつトーマス・ホーンの姿は、オスカー少年そのものだったようです。
10秒で分かる!映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』の簡単なあらすじ
アスペルガー症候群の傾向がある10歳の少年・オスカーは、9.11テロ事件で父親を亡くします。唯一の理解者だと思っていた父親の死を受け入れられず、悲しみに暮れるオスカー。
ある日、父親のクローゼットから“鍵”を見つけます。その鍵を手がかりに父が遺したメッセージを探し出すため、オスカーは探検の旅に出ることに。
鍵の入っていた封筒に書かれてあった文字を頼りに、ニューヨーク中の“ブラック氏”を訪ね歩きます。
しかしオスカーには苦手なことがいくつかあり、鍵穴を見つけ出すのは簡単なことではありませんでした。
やがて謎の老人が一緒に鍵を探してくれることになり、オスカーは少しずつ苦手なことを克服していきます。
オスカーが発見する鍵の真実とは……?
映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』のネタバレあらすじ
【あらすじ①】オスカーと父・トーマスの“調査探検”
出典:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』公式Facebook
宝石店を営む父のトーマス(トム・ハンクス)は、人と話すことが苦手な息子・オスカー(トーマス・ホーン)と第6区“調査探検”ごっこをしながら、彼の苦手を克服する機会を探っていた。
ある日、オスカーはホームレスが拾い集めた物を譲り受け、調査探検の方向性をトーマスに確認する。するとトーマスは、肩をすくめて“さあね?”という仕草をするが、「探すの“が”やめない」という誤植のある部分に赤丸をした新聞を置いていくのだった。
その晩、トーマスはオスカーに「公園のブランコの裏側で1枚のメモが発見され、それが書かれたのは第6区だったらしい」と伝える。この会話がオスカーとトーマスの最後の会話になってしまう。
翌日、同時多発テロに巻き込まれたトーマスは帰らぬ人となり、最愛の父を亡くしたオスカーにとって“最悪の日”になってしまった。
【あらすじ②】父の遺した“何か”を探すオスカー
出典:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』公式Facebook
父を亡くして1年が経ったある日、父との時間が失われていく気がしたオスカーは、父のクローゼットを物色し始める。棚の上にあった父のカメラを見つけ、それを取ろうとしたとき、隣に置いてあった青い花瓶を落として割ってしまう。すると花瓶の中から鍵の入った小さな封筒を見つけた。
その鍵で開く何かを父は自分に遺したと思ったオスカーは、鍵屋に鍵を見せに行き、封筒に“ブラック”と書かれてあると教えてもらう。ブラックという名の人物が、鍵の秘密を知っていると考えたオスカーは、ドアマンからニューヨーク市の電話帳を借りた。
調べてみると“ブラック”という名字の人は472人いることがわかり、母リンダ(サンドラ・ブロック)には内緒でオスカーは新たな“調査探検”を始める。
【あらすじ③】間借り人との出会い
出典:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』公式Facebook
父の遺した物を見つけたら生きていけると思っていたオスカーだったが、苦手なものがいくつかあった。例えば公共交通機関やエレベーターなど。外出先でパニックになりそうなときには、タンバリンの音を聞いて心を落ち着かせた。
鍵穴探しは思うように進まず、行き詰ったオスカーは母と口論になる。その後、祖母(ゾーイ・コールドウェル)の家へ行くと、そこで暮らす間借り人(マックス・フォン・シドー)と出会う。間借り人は話すことができず、メモに言葉を書いてオスカーと会話を始めた。
突如、これまでの苦しみや悲しみを全てぶちまけてしまうオスカー。彼の話を聞いた間借り人は、「良かったら一緒に探す?」と書かれたメモを渡す。
この日を境に、オスカーと間借り人の秘密の鍵穴探しが始まった。間借り人のお陰で、オスカーは苦手だった電車にも乗れるようになる。
【あらすじ④】鍵の真実
出典:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』公式Facebook
「探すの“が”やめない」に赤丸がされた新聞記事を見ていたオスカーは、裏面にも“遺品セール”の掲載欄の電話番号が赤丸で囲まれていることに気づく。
その番号にかけてみると、電話の主は一番初めに会った、アビー・ブラック(ヴィオラ・デイヴィス)だった。
遺品セールを開いたのはアビーの夫・ウィリアム(ジェフリー・ライト)だとわかり、ウィリアムに会いに行くオスカー。
そこで明かされたのは、ウィリアムの疎遠だった父が遺した貸金庫の鍵だったということ。
ウィリアムは青い花瓶に鍵が入っていることを知らずに、遺品セールでトーマスに譲ってしまったのだ。ウィリアムの父が遺した手紙でそのことを知り、ずっと探していた。
自分の探し求めていた物ではなかったことに落胆したオスカーは、走ってその場から立ち去る。
【あらすじ⑤】母・リンダの愛
出典:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』公式Facebook
家に帰ったオスカーは自暴自棄になり、調査のために作った資料を破りながら泣き叫んだ。すると母は優しくオスカーをなだめると、これまで秘密にしていたことを話す。
オスカーの計画を知った母は、オスカーがすでに訪問した家には電話をし、これから訪問する家には先回りして事情を説明して回っていた。
その事実を知ったオスカーは、そこで初めて母に父が恋しいことを打ち明けるのだった。
調査探検を終え落ち着きを取り戻したオスカーは、以前に父と一緒に行ったセントラルパークのブランコの裏側にメモが隠されていることを発見する。
そこには、父の字で「おめでとうオスカー。君は第6行政区の存在と君自身の素晴らしさを証明した」と書かれてあった。
オスカーはブランコをゆっくりと漕ぎ始める。
映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』のキャスト
オスカー・シェル/トーマス・ホーン
出典:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』公式Facebook
父が遺したメッセージがあると信じ、調査探検に明け暮れるオスカー。最愛の父を亡くし、失意の底から困難を乗り越え成長していきます。
オスカー・シェルを演じるのは、トーマス・ホーン。演技経験のない当時13歳の少年だったトーマス。トーマスは2か月間のリハーサルに挑み、演技指導を受けたそう。
その才能に満ち溢れた演技力に、父親役のトムや母親役のサンドラも絶賛だったようです。
トーマス・シェル/トム・ハンクス
出典:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』公式Facebook
オスカーの一番の理解者だった父・トーマス。9.11テロ事件に巻き込まれ命を落とします。
最期まで息子のオスカーと妻のリンダのことを想い続けていました。亡くなった後もなお、オスカーを励まし続けるトーマスの遺したメッセージに涙した人も多いはず。
トーマス・シェルを演じるのは、トム・ハンクス。言わずと知れた名優で、数々の賞にノミネートされ受賞歴があります。
『フィラデルフィア』『フォレスト・ガンプ/一期一会』で、アカデミー賞主演男優賞を受賞しています。
リンダ・シェル/サンドラ・ブロック
出典:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』公式Facebook
オスカーが一人で調査探検をやり遂げられるよう、陰ながら手伝っていた母・リンダ。リンダがオスカーをフォローしていたとわかったときは、母の愛を感じましたよね。トーマスに最期、「君のおかげでいい人生になった。メチャクチャ愛してる」と言わせたほどの女性です。
リンダ・シェルを演じるのは、サンドラ・ブロック。映画『しあわせの隠れ場所』でアカデミー賞主演女優賞やゴールデングローブ賞主演女優賞など、数多くの映画賞を受賞しました。1994年公開のアクション映画『スピード』に出演してから、一躍有名になった女優さんです。
間借り人/マックス・フォン・シドー
出典:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』公式Facebook
祖母の家で間借りしていた謎めいた老人。言葉を発しない人物で、メモを介して会話をします。途中からオスカーの鍵穴探しを手伝い、側でオスカーを見守っていました。肩のすくめ方や歩き方が父に似ていることなどから、オスカーは自分の祖父だと確信します。
祖母と言い争いになり一度祖母の家を出て行きますが、オスカーからの手紙がきっかけで再び暮らし始めました。
間借り人を演じるのは、マックス・フォン・シドー。90歳で逝去されるまで、数々の作品に出演し注目を浴びた俳優です。
本作においても第84回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされました。
映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』のタイトルの意味とは⁈
長いタイトルが目を引く本作のタイトルの意味について、「大切な人ほど当たり前に感じ、その存在の大きさに気づけない」といった解釈など、これまでもさまざまな考察がされています。また原題と邦題に大きな違いはなく、ほとんど直訳に近いタイトルがつけられているといっていいでしょう。
それらを踏まえ、別の視点から考察してみます。
タイトルの意味①調査探検ノートのタイトル
出典:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』公式Facebook
オスカーが作っていた調査探検ノートの表紙に、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』というタイトルがつけられていたことにお気づきでしょうか。そのノートにはオスカーがこれまで脅威と感じてきたものが記されているのです。
オスカーを特にパ二クらせる橋や、最も恐れていた“最悪の日”のワールドトレードセンターが最後のページを飾っていました。
橋や高いビル、叫び声、泣き声、出られなくなる場所、うるさい音、親といない子どもなど、オスカーには苦手なものがいくつもあります。
9.11から苦手なものが増えたと語るオスカー。精神的に不安になるような人や物、先を見通せない物事が苦手だということがわかります。
まさに予想もしなかった「テロ」という恐ろしい暴力を連想させることですよね。
鍵穴を探す探検で、オスカーは今まで苦手としてきた電車に乗ったり、自分の脅威になり得る存在とも会ったりする必要がありました。それらはオスカーにとって、“ものすごくうるさくて、ありえないほど近い”存在だったと解釈できるでしょう。
タイトルの意味②オスカーの特性によるもの
出典:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』公式Facebook
オスカーはアスペルガー症候群のグレーゾーンとして描かれています。2013年にアスペルガー症候群という分類はなくなり、現在では自閉症スペクトラム障害(DSM-5)に含まれる障害として分類されるようになりました。
特徴は、予想していないことが起こるとパニックを起こしたり、自分なりのやり方やルールにこだわったり、感覚の過敏さがあるとも言われています。言葉や知的発達の遅れはないのですが、自分の話ばかりしてしまったり、相手が傷つく言葉を悪気なく伝えてしまったりという場合もあるそう。
オスカーの言動には、たしかに当てはまるところがありますよね。ただし、オスカーは検査を受けましたが、診断は不確定。断定はできませんが、例えば飛行機の音一つにしてもオスカーには“ものすごくうるさくて、ありえないほど近く”に聞こえていたとも言えるでしょう。
感覚が敏感だからこそ、わかりすぎることや不快感を感じやすいところがあるはず。“ものすごくうるさくて、ありえないほど近い”という言葉は、特性を持ったオスカーだからこそ表現できる言葉だったとも解釈できます。
映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』の見どころ
本作は、性別や年代、立場によって受け取り方の違いがあるとも言われています。しかしながらどの人物に感情移入しても、深い感動を味わえるはず。お互いを思いやる家族の想いに触れることのできる作品です。
オスカーの心の成長
出典:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』公式Facebook
本作で心を打たれるのは、主人公オスカーの心の成長とも言えるでしょう。父に勧められても「危ないから」と言って乗らなかったブランコを漕ぐシーンで、ラストを迎えます。
ときに恐怖に立ち向かうことも必要だと知ったオスカーは、挑戦することで「物事の見方が変わる」と言っていた父の言葉を噛みしめているかのようでした。
オスカーの調査探検ノートのページには、ワールドトレードセンターから落ちていく人がビルに戻っていく仕掛けが施されています。なぜビルに戻っていく仕掛けだったのでしょうか。
それはビルにいた人は、そこにたしかに実在していたということを表したかったのではないかと考えられます。オスカーは度々ビルから人が落ちてくるシーンを悪夢のように思い浮かべていました。
それが、大好きな父だったかもしれないと。
だからこそ、そこに父がたしかにいたことを証明したかったのではないでしょうか。
「どんなに願ってもパパは戻ってこない。けれど、たしかに実在していた」と思うことが、救いになることもあります。「何もないより失望した方がずっといい」とニューヨーク市に住む“ブラック氏”たちへの手紙にオスカーは記していましたよね。
それは亡き父がブランコの底に隠していたメッセージに書かれてあった、「君が証明した第6行政区の人々はどこかで君を称えているよ」という言葉にも通じるものがあります。
探検を続けているうちは父との時間が永遠に続くような気がしていたオスカー。調査探検ノートの完成は、オスカーが父の死を受け入れ乗り越えた証だったと理解できるでしょう。
理不尽に奪われた命と残された家族の絆
出典:映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』公式Facebook
亡くなったトーマスはオスカーの父であり、リンダの夫でした。そしてオスカーの祖父母からすれば最愛の子どもだったのです。一人の尊い命は、ある日突然奪われてしまいました。
調査探検で、大勢の人が大切な何かを失っていたことに気づくオスカー。自分たちと同じように家族の死を悲しみ、それでも前を向いて生きている人たちの姿を目にしたのです。
これまで母は自分を理解し慰めてくれる存在ではなく、オスカーが苦手とする存在に近いものでした。
浴室で母がオスカーに声をかけるシーンがありますが、オスカーは耳を塞いでいました。リンダは心配であるがゆえ、オスカーに「どこに行っていたのか?」と問いただしますが、オスカーにとってはうるさい音となんら変わりなかったのです。
他にもオスカーが母に対してどのように思っていたかがわかるシーンがいくつかあります。
父の遺体が入っていない棺を埋めたことについて、「理解できない。ママなんか、ワケわかんない!」と叫んでいましたよね。
「鍵穴探しをしていたことをママが見抜けたなんて、意外だ」と口にするシーンもありました。
オスカーにとって母の存在は、“よくわからない存在”として描かれていたのです。オスカーから「いつも眠っているか起きていてもぼんやりしている」と言われていたリンダ。それはリンダも同じように夫の死を受け入れるまでに時間を要したからです。
実は鍵穴探しを手伝ってくれていたと知り、そこで初めて母の愛に気づくオスカー。同時に母も愛すべき夫を失い、悲しみに暮れていたことを理解します。
「“愛してる”というあの声が恋しい」と、父が亡くなった悲しみを初めて母と共有するのです。自分と同様に大切な人を亡くした母の気持ちに、想いを馳せられるようになった証拠ですよね。
お互いの気持ちを分かち合うことができたオスカーとリンダは、親子の絆を取り戻していきました。
まとめ
鍵穴を探す行為は、オスカーの心の穴を埋める行為だったともいえます。同時に、それを手伝い見守っていた母リンダや間借り人、祖母にとっても家族の愛を確かめる旅路だったことでしょう。鑑賞後は大切な人の存在を思い出し、優しさの温もりに包まれるはず。あなたも少年の成長と家族の絆を見届けてみませんか?