映画『舟を編む』の名言集!辞書という舟で言葉の大海を渡れ !
2012年の本屋大賞1位に輝いた三浦しをんのベストセラー小説『舟を編む』。
石井裕也監督によって実写映画化された本作は、第37回日本アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞など6冠を獲得しました。その後フジテレビ系列の「ノイタミナ枠」でアニメ化され、さらに多くの人の目に触れることとなりました。
辞書作りに情熱を注ぐ人々のひたむきな姿と人間模様を描いた『舟を編む』には、味わい深い台詞や名言がたくさん登場します。その中でも特に印象的な名言をご紹介します!
目次
- あらすじ
- 辞書を片手に、生きた言葉を味わおう。『舟を編む』の奥深い名言・名台詞
- 【名言①】「右という言葉を説明できるかい」
- 【名言②】「誰かとつながりたくて、広大な海を渡ろうとする人たちに捧げる辞書。それが大渡海です。」
- 【名言③】「自分の指先が言葉に触れる。世界に触れる喜びっていうのかな。辞書編集者の醍醐味だ」
- 【名言④】「辞書作りっていうのは言葉を使う仕事だろ?だったらその言葉を使わなきゃ。頑張って喋らなきゃ」
- 【名言⑤】「“恋”の語釈は馬締さんに書いてもらいましょう。きっと生きた語釈ができます」
- 【名言⑥】「手紙じゃなくて、言葉で聞きたい。みっちゃんの口から聞きたい、今」
- 【名言⑦】「恋。ある人を好きになってしまい、寝ても覚めてもその人が頭から離れず、他のことが手につかなくなり、身悶えしたくなるような心の状態。成就すれば、天にものぼる気持ちになる」
- 【名言⑧】「頭でっかちなだけじゃ、生きている辞書は作れない。僕にそう教えてくれたのは西岡さんです」
- 【名言⑨】「感謝という言葉以上の言葉がないか、あの世があるなら、向こうで用例採集するつもりです」
- 【名言⑩】「明日から改定作業に入らなければいけません」
- まとめ
あらすじ
1995年、玄武書房では「大渡海(だいとかい)」という新しい辞書作りが始まろうとしていた。
38年辞書一筋のベテラン編集者・荒木(小林薫)は、自身の定年退職に伴い、後継者探しに奔走。大学院で言語学を専攻しており、コミュニケーション能力に欠け、営業部で浮いた存在であるという馬締光也(松田龍平)の噂を聞きつけ、接触する。そして馬締の言葉のセンスと感性、言葉への姿勢が荒木の目に留まり、辞書編集部に抜擢する。
辞書編集部の個性豊かなメンバーに囲まれ、戸惑いながらも、馬締は辞書編集という仕事に没頭していく。
ある日、馬締は下宿先の大家の孫、林香具矢(宮﨑あおい)と出会い、恋に落ちる――。
辞書を片手に、生きた言葉を味わおう。『舟を編む』の奥深い名言・名台詞
『舟を編む』には、言葉のプロたちが発する奥深い台詞や、真面目で不器用な馬締が語る思い、そして彼を励ます周囲の人々の言葉など、たくさんの名言が登場します。どれも「言葉は人とつながるもの」ということを実感させてくれるものばかりです。
【名言①】「右という言葉を説明できるかい」
荒木が自身の後継者を探す中で、馬締に問いかけた内容です。
この問いはこれまでに2度登場しますが、真剣に回答した人はいませんでした。
しかし馬締はしばし考え、右手で箸を使う動作を見せるも、いや左利きの人はどうするのかと考えあぐね、「西…を向いた時、北…にあたる方が右」と答えます。そのあとも「保守的思想を右と言う…」と呟きながら足早に自分の席に戻り、辞書を引き始めたのです。
荒木の後輩、西岡(オダギリジョー)は「あれはダメでしょう、コミュニケーション能力ゼロですよ」と呆れますが、荒木は驚きと感心が入り混じった表情を見せます。言葉の意味は一つではないことを理解し、言葉に真剣に向き合う持つ姿勢は、荒木のお眼鏡にかない、馬締は辞書編集部に引き抜かれることになるのです。
馬締と辞書作りの仕事をつなげた、貴重な問いかけです。
私たちが普段何気なく使っている言葉は驚くほどたくさんの意味があります。言葉の深さを気づかせてくれるやり取りでもありますね。
【名言②】「誰かとつながりたくて、広大な海を渡ろうとする人たちに捧げる辞書。それが大渡海です。」
辞書監修者の松本(加藤剛)の台詞です。
酒の席で語られたこの言葉は、どうやらほかの編集部員は聞き飽きていたようですが、馬締は強く心を動かされ、辞書作りへの情熱を燃やすきっかけとなります。
この酒の席の前、松本は編集会議で、「大渡海」は「今を生きる辞書」にしたいのだ、と語っていました。松本の考えは、言葉は時代とともに変化するものだから、「大渡海」には、正しい言葉だけではなく、現代語や誤用など、世の中に浸透しているものは全て載せたい。そして言葉の意味を知ることは、誰かの考えや気持ちを正確に知りたいということ、すなわち人とつながりたいという願望であって、辞書は今を生きる人に向けて作られるべきだ、というものでした。
この松本の考えは一貫しており、これは馬締の生き方をも変えていくことになります。
【名言③】「自分の指先が言葉に触れる。世界に触れる喜びっていうのかな。辞書編集者の醍醐味だ」
辞書に載せる「見出し語」の選定作業に明け暮れる馬締に、荒木がかけた台詞です。
膨大な量の用例採集カード(言葉の意味を記したもの)の単語を、「大辞林」と「広辞苑」それぞれに掲載されているかを確認していくという、単純かつ気の遠くなるような作業ですが、荒木はこの作業にも辞書編集者としての面白みを感じていることが分かります。
紙の上の言葉を通じて世界が広がっていくさまは、とても壮大で、なんだかロマンチックですよね。そして、自分の仕事のやりがいをこんなふうに語ることができる荒木の姿は、羨ましいものです。
【名言④】「辞書作りっていうのは言葉を使う仕事だろ?だったらその言葉を使わなきゃ。頑張って喋らなきゃ」
悩む馬締に、下宿先の大家のタケおばあさん(渡辺美佐子)がかけた台詞です。
馬締は、辞書作りは自分が一生を捧げる仕事だと確信したものの、本とにらめっこして1人でできるような仕事ではないことも理解し、人とのコミュニケーションが苦手であることに悩み、辞書作りへの怖さも感じていました。
相手の気持ちが分からないと漏らす馬締に対して、タケは「他の人の気持ちが分からないなんて当たり前じゃないか。分からないからその人に興味を持つんだろ?分からないから話をするんだろ?」と明るく笑い飛ばします。
そして、職場の人と仲良くしなきゃ、言葉を使って話しかけなさい、とアドバイスをするのです。
翌日、馬締は思い切って西岡に話しかけます。ちょっぴりとんちんかんな発言が空回りしつつも、2人の距離は少しずつ縮まり、親交が深まるきっかけとなっていきます。
言葉は人とつながるものだという松本の考えが、ここでも生きていますね。
【名言⑤】「“恋”の語釈は馬締さんに書いてもらいましょう。きっと生きた語釈ができます」
馬締は、下宿先の大家の孫、香具矢に出会い、仕事が手につかなくなるほどの恋に落ちてしまいます。
そんな馬締の様子を見た松本は、馬締に「恋」の語釈(見出し語の解説)を書くことを提案し、この言葉をかけます。そしてそのためにも恋を進展させましょう、と奮起させるのです。言葉に命を吹き込もうとする熱意はもちろんですが、不器用な馬締を応援する気持ちがよく分かる、あたたかい台詞です。
編集部のメンバーは、馬締をからかいつつも彼の恋を応援すべく、根回しを始めます。
【名言⑥】「手紙じゃなくて、言葉で聞きたい。みっちゃんの口から聞きたい、今」
香具矢への思いを手紙にしたためた馬締ですが、なんとそれは筆で書かれた達筆なもの。
読めなかった香具矢は、勤めている小料理屋の大将に頼んで読んでもらったと明かし、ラブレターは自分だけが知りたいもののはずなのにとても恥ずかしかった、と怒ります。
申し訳なさにうなだれる馬締ですが、すでに内容を知っているはずの香具矢は、「言葉で聞きたい。はっきり言って」と促します。
そして馬締は「好きです」と、自分の口から気持ちを伝えることができるのです。
思いを伝える手段はたくさんありますが、面と向かって言葉で伝えるのはとても大切なことなのだと痛感させられますね。
【名言⑦】「恋。ある人を好きになってしまい、寝ても覚めてもその人が頭から離れず、他のことが手につかなくなり、身悶えしたくなるような心の状態。成就すれば、天にものぼる気持ちになる」
香具矢への恋が成就した馬締がようやく完成させた、「恋」の語釈です。
馬締が香具矢に抱いていた恋心と、互いに好きと知った時にどれほど嬉しかったのかが手に取るように伝わりますね!口数が少なくポーカーフェイスの馬締が、心の奥底に秘めていた純粋で強い思いに、こちらが身悶えしそうなほどキュンとしてしまいます。この恋の成就に、心から拍手を贈りたくなります。
【名言⑧】「頭でっかちなだけじゃ、生きている辞書は作れない。僕にそう教えてくれたのは西岡さんです」
中止になりかけた大渡海の制作を続行すべく、西岡と馬締は派手に動き、上層部に掛け合います。そして人件費削減のために西岡か馬締のどちらかが辞書編集部から抜けることを条件に出され、西岡は自らが下りることを選択し、決着を着けます。
こうして辞書編集部から宣伝部に異動することになった西岡に、馬締がかけた台詞です。
本ばかりに囲まれ、人とのコミュニケーションがうまく取れず、言葉に詰まってばかりいた馬締でしたが、辞書作りを通して確実に変化していました。そしてこの頃は西岡との信頼関係も芽生え、馬締は西岡を慕い、深い感謝を感じており、この言葉をかけたのです。
【名言⑨】「感謝という言葉以上の言葉がないか、あの世があるなら、向こうで用例採集するつもりです」
松本が、荒木にあてた手紙に書かれていた言葉です。
15年もの年月をかけて大渡海は完成し、出版に至りますが、制作半ばで松本は病に倒れ、完成目前にして出版を目にすることなくこの世を去ります。大渡海の完成記念パーティーの場には、松本の遺影と花が飾られていました。
自身の力不足を悔やみ、表情を曇らせてばかりの馬締に、荒木は松本からの手紙を見せます。そこには、荒木や馬締とともに辞書作りができたことの喜びと感謝が綴られていました。
これは、言葉を大切にする松本の、最上級の感謝の表現ではないでしょうか。
【名言⑩】「明日から改定作業に入らなければいけません」
大渡海の完成パーティーのさなかで、馬締が荒木に発した台詞です。
馬締は「最近忙しくて随分ため込んでしまいました」と、用例採集カードの束を荒木に見せます。すると荒木も、馬締と同じくらいの厚さの束を取り出します。2人とも辞書作りが体にしみ込んでおり、新しい言葉に出会うと用例採集せずにはいられない性分になっていたようです。
ようやく辞書が完成したところで改訂作業の話をするのは驚きですが、「今を生きる辞書」を作る作業には、終わりはないようです。監修者・松本の言葉へのあくなき探究心は、馬締にもしっかりと受け継がれていたのですね。そして、言葉は日々生まれ、死に、変化していくことがよく分かる台詞です。
まとめ
『舟を編む』の中でも特に印象に残った台詞、名言をご紹介しました。言葉はまるで生き物で、常に変化する面白いものであることがよく分かりますね。
まるで「見出し語選定」をするかのように10個の名言を選びましたが、この映画には、胸を打つ言葉がほかにもたくさん詰まっています。ぜひ映画を見て、すべての台詞や言葉を味わってみてください!