ユニークな作風が魅力的!周防正行監督のおすすめ映画7選!
『Shall we dance?』や『舞妓はレディ』など数々のヒット作を手がけている周防正行さんは、最新作を発表するたびにその題名のユニークさで話題を呼んでいます!とにかく笑えるハートフルな映画から少しお堅めな社会派の映画まで幅広いジャンルを制作し、日本を代表する監督の1人として名高い周防監督。彼の魅力をたっぷりと語っていきます!!
周防正行さんは1956年10月29日生まれで東京都出身。中学生の頃は野球に熱中していた周防少年は、怪我でその道を諦めてから映画を観るようになりました。立教大学在学中に、映画評論家である蓮實重彦氏の講義に感化され、監督業を目指すように。卒業後、どうしても映画業界で働きたかった周防さんは助監督として名だたる監督の元で働き、ついに1984年、『変態家族 兄貴の嫁さん』で監督デビューを果たします。
その後はコメディ映画の『シコ ふんじゃった。』(92)や『Shall we dance?』(96)で日本アカデミー賞を獲得しコメディ映画の先駆け監督となった周防監督は、2007年に『それでもボクはやってない』でこれまでのイメージを払拭。社会派作品も手がけるようになります。
この記事では、周防監督が監督を務めたオススメの映画を、人気作からマイナーな作品まで7本紹介します!ぜひ最後までお読みください。
1.変態家族 兄貴の嫁さん
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あらすじ
間宮一家には、父の周吉(大杉漣)やその子供達が住んでいる。そしてある日、長男・幸一(下元史朗)と結婚した百合子(風かおる)が間宮家の一員として一緒に暮らすことに。
だが、実は間宮家の長女の秋子(山地美貴)はソープ嬢で、次男の和夫(首藤啓)は万引きで捕まってしまうなど、問題だらけの一家だった…
それに追い打ちをかけるように、幸一がスナックのママに恋をして家出してしまい…
周防監督の映画愛がハンパない!『変態家族 兄貴の嫁さん』の撮影秘話
・全カットが、周防監督の敬愛する小津安二郎監督に向けたオマージュ作品
・なんと、試写会で今作を観た映画評論家の蓮實重彦氏が当時連載していた雑誌『話の特集』で大絶賛!(周防監督は立教大学在学中に蓮實氏の講義を受けたことで映画の道を志すようになった)
・小津監督が好きすぎて、映画製作中も「楽しくて仕方なかった」
ココが一味違う!映画のおすすめポイント
その後の作品を観るとこの映画がデビュー作なんて信じられないくらいに衝撃的なデビュー作となった今作。彼が尊敬してやまない小津安二郎監督の作品『晩春』や『東京物語』等をオマージュしていて、セリフ回しやカメラワークを始め、とっても細かいところまでほぼ全てを小津監督の特徴を捉えるという、大胆な映画です。ほぼ全シーンに小津監督の映画からの引用セリフが入っているという徹底っぷりには驚きます…
ほぼ全てが性描写になっているピンク映画ではありますが、そういった分野から後の名優・名監督が輩出されるという有名な一説もある通り、周防作品のファンなら観ておきたい作品です。
2.シコふんじゃった。
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あらすじ
教立大学4年生の山本秋平(本木雅弘)は就職も決まり、残りの学生生活を楽しもうと意気込んでいた。そんな時、卒論指導教授の穴山冬吉(柄本明)に呼び出され、このままだと単位をあげられないと言われる。秋平は穴山の授業に一度も出席したことがなかったのだ。単位を懇願された穴山は、交換条件として相撲部の試合に出るように要求する。ところが、教立大学の相撲部の部員は8年生の青木富夫(竹中直人)だけ。
やがて秋平の他にも、クリスチャンの田中豊作(田口浩正)や秋平の弟・春雄(宝井誠明)、さらには春雄に憧れて間宮正子(梅本律子)が入部し、団体戦に出場するのだが…
周防監督の映画愛がハンパない!『シコふんじゃった。』の撮影秘話
・まだ撮影監督に慣れず、カット割りを毎日きっちり決めていた
・前作『ファンシイダンス』で坊主姿を披露した主演の本木さんは、今作ではまわし姿を披露したことで役者根性が高く評価された
・教立大学のモデルは、周防監督の母校である立教大学
・公開から26年後の2018年、立教大学相撲部の名誉監督に任命された
・今作を作るにあたって、あるらゆる大学の相撲部を見学した
ココが一味違う!映画のおすすめポイント
一見すると一般的なコメディ映画だと思われがちですが、実は細かい設定にしっかりとこだわりながら感動までできちゃう、とっても奥の深い作品なんです!
一番印象に残るシーンは、マネージャーの正子が土俵に上がる場面。ここ、本当にすごいです。今でこそ女性力士は存在しますが、今作では正子演じる梅本さんが胸をさらし一枚で隠して登場します。当時の役者同士の雰囲気は、本当に相撲部に入部したかのように全力で稽古に挑んでいたそう。梅本さんの役者根性も凄まじいですが、周りの相撲部員があんなにもいい表情で応援していた背景には日常的な雰囲気も反映されているのでしょう。
また、一際目立っていたのはカメラの演出。足元だけを映し出している描写があるのですが、その撮り方が相撲の迫力を3Dで伝えているかのように、迫力満点なんです!滴る汗や足の筋など、いかに集中して相撲に取り組んでいるかが伝わってくるおすすめシーンです。
3.Shall we ダンス?
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あらすじ
優しい妻と可愛い一人娘に恵まれ、会社では昇進を重ねている杉山正平(役所広司)は何一つ不自由なく平凡な毎日を送っている一方で、毎日がルーティーン化していることにどこか物足りなさを感じていた。そんなある日、電車の中から見えるダンス教室の窓から佇む女性・岸川舞(草刈民代)の美しさに目を奪われ、数日後からそのダンス教室で社交ダンスを習い始めることにする。家族や会社に内緒で通い始めた正平は、同じ会社で働く青木富夫(竹中直人)や夫を亡くしたおばさんダンサーの高橋豊子(渡辺えり子)といった個性豊かな仲間と出会い、社交ダンスにハマっていく。
一方で、急に帰りが遅くなった夫に不審を抱いた妻・昌子(原日出子)は探偵を雇うことに…
周防監督の映画愛がハンパない!『Shall we ダンス?』の撮影秘話
・「とにかくダンス教室って不思議だよな」と思ったのが、この映画を作ることになったきっかけ
・周防監督が草刈民代さん初めて会った時、「半径5m以内に入れない」と思ったほど近寄りづらかった(その後、お二人は結婚されています)
・竹中直人さん演じる青木富夫は、『シコふんじゃった。』で登場した役と同じ設定
・あのビリー・ワイルダーも大絶賛
ココが一味違う!映画のおすすめポイント
日本アカデミー賞を独占したり、かつては「時代遅れ」と思われがちだった社交ダンスを流行らせるなどの社会現象を巻き起こし、しまいには22時までにダンス教室が閉まらなければいけないという風営法まで変えてしまう、という凄まじい影響を残した今作。一般的には非常にマイナーだった社交ダンスに目をつけるとは、さすがアイデアマンの周防監督。ありきたりな男性が男としてたくましく成長するプロセスが非常に美しく、いい意味で日本的ではないところが世界的にヒットした理由なのかもしれません。
今作は中年男女の淡い恋愛物語でもあり、「夢を持つことに年齢なんて関係ない!」と思わせてくれる、希望に満ち溢れた作品です。主人公がダンスにのめり込む過程が特に丁寧に描かれています。脚本も周防監督が一から手がけているので、ファンにとっては絶対に観ておきたい作品です。ヒロインを演じた元バレリーナ・草刈民代さんのダンスが特に美しいので、見逃せないポイントです!
4.それでも僕はやってない
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あらすじ
フリーターの金子徹平(加瀬亮)は、朝の通勤ラッシュで混雑する電車で女子高校生に痴漢と間違えられ、あっという間に駅員室に連行され、そのまま逮捕されてしまう。無実の罪を被って示談することもできたがそれを拒否した徹平は、刑事告訴される。
被害者の高校生に事実確認することせず、警察から横暴な取り締まりをされる徹平は心が折れかけていたが、家族や元恋人、担当弁護士の荒川(役所広司)などの励ましを受け、裁判で戦うために奮闘する。
周防監督の映画愛がハンパない!『それでも僕はやってない』の撮影裏話
・作品を面白くするための”映画的嘘”を全く使わないで制作
・刑事裁判のシーンがリアルすぎて、弁護士や検事からは「過去の裁判を思い出すから観ていて辛い」という声まであがった
・脚本を書き始めるまでのリサーチに2年以上かかった
・実際に色々な裁判の傍聴をした
・撮影現場に現役の弁護士や元裁判官を呼び、よりリアルさを追求
ココが一味違う!映画のおすすめポイント
周防監督が何年もの月日をかけて制作した、今までの邦画でも珍しいくらいに社会派である今作は、細部までこだわっているのが伝わってくるので映画というよりもドキュメンタリーを見ているような気分になります。”とにかく嘘をついちゃいけない”と常に考えながら脚本を書いたという周防監督。特に、主人公やその周りの精神的な苦しみがリアルすぎるので、感情移入せずにはいられません。
周防監督が特にこだわったのは、モヤモヤした後味の残る終わり方。これには賛否両論があるそうですが、周防監督は観客にすっきりした気分で映画館を出て欲しくないというこだわりがあったそうです。映画の中で完結せずに、現在の日本の裁判制度に対して考え、現実の生活に引きずってほしいという思いがあるのですね。周防監督がどれだけこの映画に対してこだわっているのか伝わってくるポイントです。
5.ダンシング・チャップリン
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あらすじ
振付師の巨匠、ローラン・プティがチャップリンの名作たちをバレエで表現した作品であり、世界で唯一チャップリンの作品を踊ることのできるルイジ・ボニーノと2009年にバレリーナを引退した草刈民代の集大成とも言える作品である。
第一幕「アプローチ」と第二幕「バレエ」の二部で構成されており、第一幕は、本作の撮影を開始するまでの60日間。第二幕は『ダンシング・チャップリン』の13演目が演じられている。
周防監督の映画愛がハンパない!『ダンシング・チャップリン』の撮影裏話
・周防監督は学生時代に視聴覚教室で観たチャップリンの「モダン・タイムス」に非常に大きな衝撃を受けた
・周防監督にとってのチャップリンは、「好きな映画監督を聞かれた時にあえて名前を出さないが、巨匠として無視できない存在」
・第二幕では、草刈さん1人で7役も演じている
ココが一味違う!映画のおすすめポイント
今作は映画から生まれたバレエをまた映画にするという今までにないような作品で、知らない人はいないくらい有名な映画界のレジェンド、チャールズ・チャップリンとフランスの巨匠振付家ローラン・プティがコラボし、それを周防監督が映画化するという豪華すぎる一作。
1幕目は、普通だと知ることのできないバレエの稽古や舞台裏、アクシデントがドキュメンタリーとして描かれています。また、本作の映画化に向けて周防監督がイタリアやスイスを巡りながらプティと話し合う姿まで描かれていたり、世界中から集まった名だたるバレリーナたちの稽古風景まで見ることが出来ます。バレエの舞台という本編の前にメイキングを見せちゃう!という斬新さが周防監督ならではですね。
第1幕と第2幕の間に休憩時間があるのも新鮮なポイント。本物のバレエの舞台が始まるような躍動感を味わうためにはもってこいの構成です。
その後の第2幕ではチャップリンの作品13演目が演じられているのですが、それぞれで雰囲気がガラッと変わる草刈民代さんがとっても美しいので1演目が終わる度に拍手したくなってしまいます。
6.終の信託
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あらすじ
有能な呼吸器内科の女医である折井彩乃(草刈民代)はベテラン医師として、同僚だけでなく患者からも信頼されていた。仕事一筋で結婚していないが、院内の医師と不倫をしている。
だがある日、折井は海外出張に行く彼をこっそり見送りに行ったところ、妻ではない女性と一緒に旅立つところを目撃してしまう。帰国後に問い詰めると折井とは結婚する気がないと捨てられてしまうのだった。
ショックのあまり勤務中の休憩室で自殺を図ろうとしたところ、看護師に見つかり、その噂は職員だけでなく患者にも広まってしまう。そんな中態度を変えずに彼女と接してくれたのは、重度の喘息患者である江木(役所広司)だった。次第に距離が縮まっていく中、江木は折井に安楽死させて欲しいと頼む…
周防監督の映画愛がハンパない!『終の信託』の撮影裏話
・実際のセットやロケ地の雰囲気を大事にしたい周防監督は普段リハーサルをしないが、今作では俳優陣のセリフの量が非常に多かったため、ディスカッションをしながら進めた
・草刈民代さんの夫として、「彼女がバレリーナを辞めた女優としての1本目の映画は自分が監督しなければ」という意気込みで制作した
・草刈さんは自宅で周防監督を練習相手に、セリフを覚えた
ココが一味違う!映画のおすすめポイント
『それでも僕はやってない』と同様に、現在の日本社会に潜む社会問題をテーマにした今作は、”尊厳死”について非常に考えさせられます。
この映画の1つ目の伏線はまず、主人公の折井が自殺未遂をし、「苦しい。終わりにして。」と呟くシーン。2つ目の伏線は、折井の患者の妹が幼少期に銃撃され、それを目撃した患者が「痛くないように願った」というシーンです。この2つの伏線は「苦しい思いをしながら死なせたくない」という共通点があり、これこそが映画の本作のキャッチコピーである「医療か?殺人か?」につながっています。
また、映画の展開とともに変化する緩急の使い方にも注目です!江木の死までは緩やかな演出で物語が進んでいきますが、検察官との尋問という密室シーンからは、急にスピーディーな展開になっていきます。また、カモフラージュせずに江木の最期のシーンを描くことで観客に衝撃を与え、考える隙を無くしている編集も見事です。
7.舞妓はレディ
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あらすじ
京都花街の2月3日は、舞妓たちが仮装して客を楽しませるという”おばけの日”である。物語の舞台は、小さいが歴史情緒あふれる下八軒。この日も芸妓の百春(田畑智子)や里春(草刈民代)が常連客たちを接客していた。実は下八軒の舞妓は後継者不足に悩まされている。
そんな時、下八軒のある通りでさまよっているのは大きなカバンを持っている少女。彼女の名前は西郷春子(上白石萌音)で、舞妓の世界に憧れて秋田から単身でやってきたのだった。彼女は老舗のお茶屋・万寿楽に向かい弟子入りを志願するが、きつい鹿児島弁と津軽弁を話す彼女は門前払いされてしまう。
だが、そんな様子を見ていた万寿楽おなじみの旦那・京野(長谷川博己)は言語研究者という立場から彼女に強い興味を持ち、春子を舞妓に育て上げることを決意する。
周防監督の映画愛がハンパない!『舞妓はレディ』の撮影裏話
・周防監督は『シコふんじゃった。』(92)の撮影時から本作を構想していた(なんと20年越し!)
・ヒロイン役のオーディションでなかなか適任が見つからずに諦めかけていたが、上白石さん現れたときにはビビッときた
・上白石さんに本物の舞妓を演じてもらうべく、実際に舞妓を体験させた
ココが一味違う!映画のおすすめポイント
社会派映画の印象が強くなっていた周防監督ですが、今作は笑って泣けるエンターテイメントです!まだ歴史の浅い日本のミュージカル映画の代表作と言える映画でしょう。
最初は芋臭さ全開の春子がどんどん美しくなっていく姿の映し方が素晴らしく、最後には京言葉と舞妓の所作を身につけた春子は見違えるほど素晴らしい女性に成長するのが一番の見所。また、”舞妓”という文化について深く知れるのもポイントです。「舞妓になることが必ずしも素晴らしいことではない」という近年物議を醸しているネガティブなイメージについてもきちんと言及しているのが、社会派映画も手がける周防監督ならではですね。
そして何と言っても、”舞妓とミュージカル”という一件異質な組み合わせを絶妙にマッチさせるのが、周防監督!映画内で『Shall we ダンス?』の雰囲気が再来するのも、周防作品のファンにとって心が踊ります!
まとめ
社会派映画からミュージカル映画まで幅広く、圧倒的なリサーチ量で細部までこだわりのある映画を手がける周防正行監督。作品数は多くないですが、1作1作に対する思いが非常に強く、見応えのある映画で日本映画界を引っ張っています!
以上、周防正行監督の映画7作でした。