映画『ファニーゲーム』のあらすじネタバレ解説|殺人の動機は何だったのか?
世の中には、救いようのない展開でたちまち話題を呼ぶ作品が無数に存在しています。
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』、『ムカデ人間』……。これらと同等のレベルに値する有名映画の一つに『ファニーゲーム』があります。
いつまでも心に残る“鬱”ストーリーと一度観たら忘れられないショッキングさ。そこらのB級ホラー映画よりも恐ろしいのが最大の特徴と言えるでしょう。
様々な評判を耳にして、なかなか鑑賞へ踏み切れないという声の多い『ファニーゲーム』。
果たしてどんな内容なのか?グロテスクなシーンはあるのか?スリラー映画がニガテでも観られるのか?みなさんの気になる点を交えながら、ネタバレ有りで作品の解説を行っていきますね。
目次
映画『ファニーゲーム』について
出典:Amazon.com
1997年にオーストリアで公開された『ファニーゲーム』。日本上陸は2001年と、公開から長い月日を経てスクリーンへ降り立ちました。
あまりのショッキングかつ救いようのない物語には観客もビックリ。カンヌ国際映画祭で出品された際には席を立つ人が多かったと言われています……!
ロシアではビデオの発売禁止騒動まで起こり、ひときわ世間を騒がせた作品として知名度を上げました。
そのおかげか現在でもカルト的人気を誇り、公開より20年以上の時が経っても巷で愛される(?)スリラー映画の一つとなっています。
監督を務めるのはミヒャエル・ハネケ。1989年に長編映画を手掛けて以来、数々の賞レースで成績を残した人物です。
ジャンルを問わない作品づくりをするため、本作を発表した際には物議を醸してしまったとか。カルト映画だけに括らず手広く制作していたことから、世間も戸惑いを隠せなかったのでしょうね。
10秒で分かる!映画『ファニーゲーム』の簡単なあらすじ
出典:IMDb
それはとある夏の日のこと。ショーバー一家は休暇を利用して別荘へと向かっていました。
ご近所さんに軽く挨拶を交わすと、何やらいつもとは違う様子に妻のアンナ(スザンヌ・ロタール)は違和感を覚えます。見知らぬ青年2人も見かけましたが、その時点ではあまり深くは気に留めないのでした。
別荘へ到着し、アンナは夕食づくり。夫のゲオルク(ウルリッヒ・ミューエ)と息子のショルシ(ステファン・クラプチンスキー)は2人で作業。
すると家には先ほど見かけた青年のうちの1人が訪問してきます。「隣人一家に頼まれて来た。卵を分けてくれないか?」と言われ、快く卵を渡すアンナ。
しかし青年の様子はおかしく、徐々に彼女は苛立ちを隠せなくなってしまいます。飼い犬は吠え続け、なんだか不穏な空気に。そして家族が揃う頃、怪しげな青年らの態度が急変していくのでした……。
映画『ファニーゲーム』のネタバレあらすじ
【あらすじ①】隣人の違和感
出典:IMDb
三人家族のショーバー一家は休暇を利用して別荘へ向かっていた。仲良し夫婦のアンナ(スザンヌ・ロタール)とゲオルク(ウルリッヒ・ミューエ)、そして息子のショルシ(ステファン・クラプチンスキー)。車にヨットを積みながら談笑しつつ、いざ目的地へと到着する。
途中で隣人のベリンガー一家を見かけ、声を掛けるアンナ。「ボートを降ろすのをあとで手伝ってもらえるかしら」とお願いをするが、一家からあまり良い反応は返ってこない。
そしてベリンガーらの元に、見覚えのない白い服を着た青年が2人。アンナは青年らを気に留めてはいなかったが、一家の態度が引っかかっていた。いつもに比べると、相手夫婦のリアクションがとても悪かったのである。
その後ベリンガー家のフレッド(クリストフ・バンツザー)がゲオルクの元を尋ね、先ほどの青年・パウル(アルノ・フリッシュ)を紹介する。
フレッドの態度は相変わらずだったが、深く突っ込んでも仕方がない。アンナはそのまま夕食作りへ、ゲオルクとショルシはヨットの準備に取り掛かった。
【あらすじ②】欲しい物は「卵を4つ」?
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料理をするアンナの元へ白い服のふくよかな青年、ペーター(フランク・ギーリング)が訪ねてくる。彼はベリンガー夫人より頼まれて、卵を4つもらってきてくれと言われたそうなのだ。
快く返事をしたアンナは卵を手渡すが、ペーターは玄関先で早速割ってしまう。挙句の果てには割った卵を彼女に掃除させ、更に追加で4つを要求した。
口調は丁寧だが図々しく、絶対に引き下がらない態度にアンナは内心イライラ。今度は落とさぬよう新聞にくるんで渡すが、ペーターは彼女の携帯を水没させてしまった。
さすがにカチンときたので、勢いでペーターを追い返すことに。だが玄関先にはパウルも揃って現れ、ゲオルクの所持するゴルフクラブを試したいと言う。
ショーバー家の飼い犬は一向に吠えることをやめず、なんだか嫌な空気に。迷惑に感じるアンナだがパウルにクラブを貸してしまった。
そしてヨット付近にいる2人は、犬の声が聞こえなくなったことに違和感を覚える。そして別荘へ戻ると、青年2人とアンナによる微妙な空間が繰り広げられており……。
【あらすじ③】豹変する若者
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青年の態度や要求を迷惑に思ったアンナは「帰ってほしい」ことを正直に告げる。だが引き下がらないパウルとペーター。ペーターは尚「卵をもらっていない」ことを主張し、より気持ちを逆撫でする発言を繰り返した。
あまりに青年らの態度がなっておらず、勢い余ってゲオルクはパウルを平手打ちしてしまった。すると2人の態度は一変、ゴルフクラブで彼の脚を攻撃した。
骨が折れ、暴れるショルシは取り押さえられてしまう。携帯は水没により通報もできず、豹変した青年と一家の地獄の時間が幕を開ける……。
「ゲームをしよう」と言うパウル、言いなりになるしかないアンナは犬の居場所を探すこととなった。そして父と息子はペーターに見張られ、身動きができない。
平然として隣人らのBBQに乗り込み、パウルはアンナへは口止めをする。助けを呼ぶことさえできぬまま夜を迎えてしまった。
ゲオルグが「お前らの目的はなんだ」と尋ねても答えはない。2人の行動や発言には筋が通っておらず、計画性も何も立ててはいない――。ただただ“ゲーム”をしているだけなのだ。
【あらすじ④】閉ざされた光
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「今から12時間後にお前らは死ぬ」と一家へ現実を突き付ける2人。この2人は娯楽目的で殺人を行っているため、この長い時間で家族をいたぶるつもりなのだ。
ショルシの顔にカバーを被せて息苦しくなる状態にまで追い詰める。アンナへは服を脱ぐように命令するなど、若者はやりたい放題だった。
隙をついた彼は逃亡。隣人へ助けを呼ぶがベリンガー一家はすでにパウルとペーターの手により殺されていたのである。
頼みの綱がなくなってしまったショルシ。案の定彼は捕まってしまい、地獄の家へと連れ戻される羽目に……。
いよいよゲームは大詰めに向かっており、猟銃で家族を追い詰める方向へ。まず手始めに逃亡したショルシを殺害し、弾は残り一発。夫婦は最愛の息子が殺されるのをただ見ていることしかできなかった。
【あらすじ⑤】一家の運命は……
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思いの外時間が経過していないことに気づいた2人。12時間までは程遠く、1人は死亡、ゲオルクは弱り切っているなどこれ以上楽しみが生まれないことを察する。
部屋から出ていった隙を見てアンナとゲオルクは窓の外からの逃亡を計画。水没した携帯は完全に壊れておらず、水が溜まっていただけのため、乾かせば何とか使用できる状態だ。
ゲオルクはドライヤーで携帯を乾かし、アナは助けを求めて車を探す。そして呼び止めた車にSOSを出すが、その運転手はパウルとペーターだったのだ……。
結局事態は逆戻りとなってしまい、拷問と揉み合いの末にゲオルクは死亡する。
生き残ったアンナは翌朝、死んだ目のままヨットに乗せられていた。12時間を経過していたため、手足を縛られたままヨットから突き落とされて溺死。一家全員は帰らぬ人となった。
そして若者2人は別の隣人の別荘へ。再び「卵を分けてくれませんか」と同じ決まり文句で家へと侵入するのだった……。
映画『ファニーゲーム』のキャスト・登場人物
アンナ/スザンヌ・ロタール
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楽しい休暇を満喫しようと思っていたアンナ。青年2人組の被害に遭う最初のキャラクターであり、ペーターに翻弄されるシーンは観ているこちらまでイライラさせられましたよね。
最後まで生き延びるために諦めなかったアンナですが、結果は悲惨なものに。帰らぬ人となってしまいます。
アンナを演じるのはスザンヌ・ロタール。『オリエント急行の殺人』などに出演していましたが、51歳の時に死去。彼女の女優人生が早期に終わってしまったことが悔やまれます。
ゲオルク/ウルリッヒ・ミューエ
出典:IMDb
一家の大黒柱であるゲオルグ。夫婦仲、そして子供との関係も良好であったため、家族が傷めつけられるシーンは心の奥がズキズキとしてしまったはず。
脚の骨が折れ、拷問をされ、最も悲惨な最期を迎えました。
ゲオルグを演じるのはウルリッヒ・ミューエ。実はアンナ役のスザンヌ・ロタールはホンモノの夫婦だったんです!『善き人のためのソナタ』などに出演しましたが、彼も54歳と若くして病死。2007年の共演作品『Nemesis』が遺作となりました。
ショルシ/ステファン・クラプチンスキー
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衝撃的な出来事を前の前にしたショルシ。まだ少年の彼にはこの事件がショッキングすぎたことでしょう……。
幼いながらも助けを呼びに行く、青年2人に抵抗するなど勇敢な姿を見せます。しかしあっさりと射殺され、儚い命を落としてしまうのでした。
ショルシを演じるのはステファン・クラプチンスキー。子役として活躍していたようですが、現在は活動されていないようです。
パウル/アルノ・フリッシュ
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まさに“あたおか”という言葉がぴったりなパウル。主に主導権を握っており、ペーターよりも更なる頭の良さや鋭い一面を見せます。
パッと見た感じだと至って普通の好青年なため、疑う余地がありません。まさに裏の顔の恐ろしさを嫌というほど分からせてくれる、そんなキャラクターではないでしょうか。
パウルを演じるのはアルノ・フリッシュ。1992年から活動をスタートさせ、『善き人のためのソナタ』ではスザンヌ&ウルリッヒ夫婦と再共演を果たしているそうですよ。
ペーター/フランク・ギーリング
出典:IMDb
太っていてなんだか顔つきも怪しげ。パウルよりいかにも“ヤバそうな雰囲気”があるペーター。
冒頭の卵を落とす、図々しい発言の連発は色々な意味で名シーン(笑)主導権を握るパウルと共に次々と悲惨な行為を繰り返すのでした。
ペーターを演じるのはフランク・ギーリング。ドイツで活躍する俳優でしたが、2010年に死去。38歳と若くしてその生涯を閉じたのです。
『ファニーゲーム』にまつわるギモンを解決
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本作を鑑賞後、ちょっとしたハテナが浮かんだ人もいるでしょう。そして未鑑賞の方は「興味はあるけどグロ耐性がない」と、描写にまつわる疑問を抱いているかもしれませんね。
この章では鑑賞済み&未鑑賞の方へ向けて気になる部分を解説していきますよ。
ギモンその①パウルとペーターの目的は?
突如現れた2人組、パウルとペーター。誰1人として面識がなく、本当に「突然現れて突然暴虐の限りを尽くした」謎の存在であることに間違いはありません。
たいていスリラー映画には犯人の目的や動機が描かれているケースも多いのですが……。『ファニーゲーム』に至ってはその描写が一切ナシ。なぜ彼らがこんな悪しき行為をはたらいたのか、ハッキリと明かされていないのです。
ただ作中で「ゲーム」という言葉が度々出てくるように、2人にとっては“ただの遊び”なんですね。
殺す気は恐らくマンマンでしたが、ただ殺害するだけでは“ファニー”さもない――。それだけではつまらないと思い、あのような形に至ったのでしょう。復讐など、とくにこれといった目的はないのが本作の恐ろしいポイントと言えますね。
ギモンその②お隣のベリンガー一家はグル?
冒頭部分から不穏な空気が立ち込めていた、お隣のベリンガー一家。まるでグルのように思えてしまいますが、彼らも立派な被害者。ショーバー一家が到着する前から、すでに青年らの毒牙にかけられていたのですね。
だからこそアンナやゲオルグに対し、何とも言えぬ態度を取っていたのでしょう。
もしかすると「“遊び”に協力してくれればお前らは殺さない」などとウラで言われていたかもしれませんが、結局ベリンガー一家も全滅していますから……。この結果からグルではなかったことが分かります。
ギモンその③グロシーンはあるのか?
『ファニーゲーム』未鑑賞の方からすれば、最も気になる部分はやはり残虐表現。ストーリーだけを読むとつい痛々しいシーンを想像してしまい、なかなか手が出ないといった人も多いことでしょう。
けれども意外や意外?本作そのものはキッツいストーリーでありながら、そこまでのグロテスクな描写はないんですね!
終盤にやや痛々しい要素が一部ありますが、本当にそこだけ。基本的には「肝心の部分を映さない」ため、グロ耐性がなくても鑑賞はできるかと思います。
それよりも胸糞悪くなるセリフ、展開のオンパレードなので、そちらに耐えられるか?という方を重視してください(笑)
『ファニーゲーム』がカルト的人気を誇る理由とは
出典:IMDb
公開から数十年の時を経ても、今なお話題に昇る作品『ファニーゲーム』。多くの人々からカルト的人気を誇る理由は何なのか?その魅力について迫ります。
徹底的すぎる救いのなさが斬新
「大抵酷い目に遭う人の背景には、何か罪が隠されている」。この設定はもはやお約束であり、近頃のスリラー映画の定番となっていることでしょう。
『SAW』を皮切りに一気に広がった「正義や善悪とは何か?」を鑑賞者へ投げかけるその姿勢。まさにスリラーを通じて考えさせられる作品が今はとても多いのです。
ですが『ファニーゲーム』に至ってはこの教訓がまるでなく、被害者は全員無実!「ただ別荘へきただけなのに……」と有り得ないレベルの理不尽さが、我々の心をとにかく苦しめます。
ゲオルグが平手打ちをしたくなる気持ちも分かりますし、あんなに卵を割られたら誰だって腹が立つもの(笑)救いのある展開はゼロで、最初から最後まで地獄の底を這わせるような徹底ぶりはさすがとしかいいようがありません。
また“子供が殺される”という斬新さも、ある意味カルト的人気を誇る理由かも……。
子供や動物を殺すのはモラルとしてタブーとされていますから、そこをあっさりと突破してしまうのも『ファニーゲーム』にしか出せない独特さだと思いますね。
2人組は何もかもが謎、そのミステリアスさが恐ろしい
パウルとペーターの素性は一切明かされず、動機も何もかもがナゾ。
一体どこから来たのか、なぜあの場所や一家に目を付けたのか、なぜ白い服と手袋をつけているのか。そして明らかに都会からは遠方であろう土地、どうやって来たのかさえ分からないんですよね。
発言には一貫性がありませんし「医学部だ」というのも恐らくは嘘。とは言えそこそこ難しい発言をするので、決して学がなさそうな雰囲気はしない……。このミステリアスさが作品の恐ろしさを増長させるのです。
いくら“遊び”と言えど、やっていることは猟奇的。人を殺すことに全くためらいがなく、動じないのも彼らから人間味を感じられない点でしょう。
グロテスクなシーンがなくても、どこかおぞましい空気感が終始流れるのは2人の存在感にあるのではないでしょうか。画だけで見せず、雰囲気だけで禍々しさを表現する点にはもはや脱帽です!
あえてホラー路線に振らない姿勢
正直な感想を言うとすれば、もっとBGMやカメラアングルなど演出にこだわればホラー感のある恐怖を増長できたはずです。
ショルシが逃亡し後ろから追いかけられるシーンや、暴力描写などを激しくすれば
もっと怖さはアップしたことでしょう。『シャイニング』のような室内鬼ごっこ、『SAW』のような痛々しいゲームがあれば、かなり派手な作品になっていたのでは?
しかしあえてそれを行わず、“あくまで青年2人組は人間”というリアルさを重視した部分が逆にイイんですよね。彼らをモンスターのように描いておらず、「ちょっぴり頭のおかしい若者のお遊び」程度にとどめているのも◎
もしかしたらパウルとペーターのような人間が我々の前にも現れるかもしれない、そう思わせる生々しさには拍手喝采モノ。「現実っぽい」理不尽さが何ともたまりません。
リメイク作品『ファニーゲームU.S.A』について
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2008年に公開された『ファニーゲームU.S.A』はミヒャエル・ハネケが手掛けたセルフリメイク作品であり、舞台をオーストリアからアメリカへ変更しています。
キャストを一新し、アンナ役にはナオミ・ワッツ。他にもティム・ロスやマイケルピットなど名だたる俳優陣が出演していますよ。ナオミ・ワッツは本作で制作総指揮官も兼ねて作品作りに励みました。
舞台は変われどストーリーは全く同じで、『ファニーゲーム』の世界観を崩していないのも良いですね。
とはいえ約10年の時を経て復活したため、暴力描写は従来のものよりもややレベルアップ(笑)公開されたあちこちの国では12歳~18歳未満禁止など年齢にまつわるレイティングが設けられたのだとか。
日本でもPG12扱いとなっているため、少々エグさに磨きがかかっています。時も進み、映像も綺麗になっているから余計にそう感じますね……。
吹き替え時の声優陣も非常に豪華なため、気になる方はこちらもチェックしてみるといいでしょう!
まとめ
胸糞映画の金字塔とも呼べる作品、『ファニーゲーム』。観ているこっちは全く“ファニー”とは感じませんが(苦笑)ここまで不条理&理不尽さに振り切った作品もそうそう見当たりません。一度怖いもの見たさでチャレンジしてみるのもアリでしょう。
あえて教訓じみたメッセージ性を込めていないのも、ある意味見どころの一つ。ミヒャエル・ハネケの編み出した独特過ぎる世界観をお楽しみください。
もしかすると、これを機にあなたもカルト映画の魅力にハマってしまうかもしれませんよ……!